285 / 335
第9章 未来のために
258.結婚のお祝いに悩んでいたら
しおりを挟む
神具『住居兼用移動車両』Ex.に帰って扉を閉めると、途端に奥から強い神力を感じる。
リーデン様が帰っているんだ。
「ただいまです!」
靴を脱ぎ捨てるようにして居間に駆け込み、抱き着く。
そのつもりで広げていたのだろう腕は少し驚いたようだったがすぐに俺を抱き締めてくれて、すごく近い場所で「おかえり」の声が聞こえて来た。
「どうした、随分と機嫌が良いようだが」
「クルトさんが! クルトさんとバルドルさんが結婚するんですって!」
「おまえの友人たちか、それは嬉しいな」
「はい!」
嬉しくて、本当に嬉しくてますますリーデンさまにしがみつくように抱き着いた。
去年の年末にちょっとズルしてクルトさんに雌雄別の儀を受けてもらった後、バルドルさんとはいつ結婚してもおかしくなかった。だけどクルトさんには三年前の、トゥルヌソルに獄鬼を招き入れた結果、住宅街の一角を木っ端みじんに吹っ飛ばし多数の人々の生活を脅かしてしまったという失態から抱えることになった借金があった。
婚姻の儀を受けると、その借金はバルドルさんにも返済義務が生じてしまう。
だから完済するまで待って欲しいというのがクルトさんの希望で、バルドルさんは辛抱強くその日を待っていたという経緯がある。
「借金額は相当だったと記憶しているが……」
「はい。でも今回の、オセアン大陸からマーヘ大陸までのあれこれで、ダンジョンの素材だけじゃなく特別手当も出たので、完済出来たんですって!」
「そうか」
「クルトさん頑張ったんです。本当に、……っ」
思い出すだけで鼻の奥がツンとした。
本当なら元のパーティメンバー全員で完済すべき借金だったのに、4人は二組の恋人同士で、婚姻の儀を目前に控えていた。せっかく貯めた結婚資金を借金返済に充てたら将来がめちゃくちゃになるからって、全部クルトさんに押し付けてパーティは解散。気付いたらトゥルヌソルから全員いなくなっていた。
何がどうしてそうなるのさ!
俺は今でも大して知らないその人たちに怒ってる。
たとえ最終的に承知したのがクルトさんだったとしても、全部をたった一人に押し付けて逃げた彼らを、俺は絶対に許さない。
だけどそんなことがあったから、俺は初めて「友だちとのケンカ」という経験が出来た。
「仲直り」も覚えたし。
腸が煮えくり返るような怒りという感情も。
他人の恋路を見守る楽しさも。
そう。
あれがあってこそバルドルさんとの縁も繋がったんだって思えるから、怒っているけど、恨みはしない。
下手したら本当に呪いが発動するぞ、とはリーデン様の言だしね。
「何かお祝いしたいんですけど、何が良いと思いますか。こっちのお祝いってどんなのを贈るんでしょうか」
「さて……。あまり物を贈る習慣はないからな。誕生日も言葉で祝うのが主だったろう?」
「そういえば……」
「おまえの故郷では、どんなものを贈るんだ?」
「いろいろありますよ。夫婦でお揃いの食器類とか、新しいおうちで使って欲しいインテリア家具……あ、カタログから欲しいものを選んでねっていうのも多かったはず」
「カタログ?」
「3,000円とか、5,000円っていうふうに決まった金額を送り主が先に支払い済みなので、贈られた人は手元に届いた本の中に乗っている商品ならどれでも注文出来るんです」
「ほう。それは良さそうだな」
「でしょ? さすがにこっちでそんなのは見たことないから無理ですけど……」
「確かに難しいだろうな。揃いの食器ならこちらでも見つけられそうだが」
少し落ち着いてきたところでリーデン様に促されてソファに移動する。
「食器……でもダンジョンで使うものをお揃いにすると皆の目が生暖かくなる気がします」
しかも本人たちには「恥ずかしいけど使わないとレンくんに悪い」って気を遣わせてしまう。それではお祝いにならない。
そうなると二人きりの場所で使うもの?
二人きり……寝室、寝具、……ラブグッズ?
いやいやいや。
「どうした?」
「ちょっと頭の中がピンク色になっただけです」
「ふっ。おまえはたまにおかしなことを言う」
「あはは……」
リーデン様が頭の中を覗くような神様でなくて良かったと心の底から思った。
ともあれ贈り物についてはまだ時間もあるからゆっくり考えるとして、自分たちの夕飯だ。
「今日は船の料理長さんが教えてくれたスープとパンなんです。一緒に食べますか?」
「ああ。私の分もあるならぜひ」
「もちろんありますよ」
俺が立ち上がるとリーデン様も一緒にキッチンに立って、支度を手伝ってくれる。
「パンはレンが焼いたものか」
「そうです。かなり前のものだけど、そこのパントリーに入れてあったので焼き立て同然ですよ」
「活用しているようで何よりだ」
食卓を拭いて、スープとパン、カラトリー、それからシトロンの果実水。
二人で手を合わせて「いただきます」。
「トゥルヌソルに戻ったということは、しばらくは休みか?」
「3日後に師匠に会って、バルドルパーティで今後の計画を話し合う予定があるだけで他は休み同然ですね。朝と夜は皆の分の食事を用意するつもりですけど。決まっているのは9の月の頭から未踏破の金級ダンジョン「セーズ」の攻略を開始するってことですね」
「ほう。いよいよあのダンジョンにおまえが挑むのか」
意味深に微笑むリーデン様。
あれ、何か嫌な予感がしますよ?
「セーズには何かあるんですか?」
「そういうわけではないが、あのダンジョンは19ある金級ダンジョンの中の最難関だから、私の伴侶と言えど苦労するだろうと思ってな」
「最難か……え?」
「あのイヌ科の男が率いるのなら大丈夫だ。楽しんでおいで」
「えええ」
衝撃の事実に変な声が出た俺を、リーデン様は優しい目で見つめていた。
リーデン様が帰っているんだ。
「ただいまです!」
靴を脱ぎ捨てるようにして居間に駆け込み、抱き着く。
そのつもりで広げていたのだろう腕は少し驚いたようだったがすぐに俺を抱き締めてくれて、すごく近い場所で「おかえり」の声が聞こえて来た。
「どうした、随分と機嫌が良いようだが」
「クルトさんが! クルトさんとバルドルさんが結婚するんですって!」
「おまえの友人たちか、それは嬉しいな」
「はい!」
嬉しくて、本当に嬉しくてますますリーデンさまにしがみつくように抱き着いた。
去年の年末にちょっとズルしてクルトさんに雌雄別の儀を受けてもらった後、バルドルさんとはいつ結婚してもおかしくなかった。だけどクルトさんには三年前の、トゥルヌソルに獄鬼を招き入れた結果、住宅街の一角を木っ端みじんに吹っ飛ばし多数の人々の生活を脅かしてしまったという失態から抱えることになった借金があった。
婚姻の儀を受けると、その借金はバルドルさんにも返済義務が生じてしまう。
だから完済するまで待って欲しいというのがクルトさんの希望で、バルドルさんは辛抱強くその日を待っていたという経緯がある。
「借金額は相当だったと記憶しているが……」
「はい。でも今回の、オセアン大陸からマーヘ大陸までのあれこれで、ダンジョンの素材だけじゃなく特別手当も出たので、完済出来たんですって!」
「そうか」
「クルトさん頑張ったんです。本当に、……っ」
思い出すだけで鼻の奥がツンとした。
本当なら元のパーティメンバー全員で完済すべき借金だったのに、4人は二組の恋人同士で、婚姻の儀を目前に控えていた。せっかく貯めた結婚資金を借金返済に充てたら将来がめちゃくちゃになるからって、全部クルトさんに押し付けてパーティは解散。気付いたらトゥルヌソルから全員いなくなっていた。
何がどうしてそうなるのさ!
俺は今でも大して知らないその人たちに怒ってる。
たとえ最終的に承知したのがクルトさんだったとしても、全部をたった一人に押し付けて逃げた彼らを、俺は絶対に許さない。
だけどそんなことがあったから、俺は初めて「友だちとのケンカ」という経験が出来た。
「仲直り」も覚えたし。
腸が煮えくり返るような怒りという感情も。
他人の恋路を見守る楽しさも。
そう。
あれがあってこそバルドルさんとの縁も繋がったんだって思えるから、怒っているけど、恨みはしない。
下手したら本当に呪いが発動するぞ、とはリーデン様の言だしね。
「何かお祝いしたいんですけど、何が良いと思いますか。こっちのお祝いってどんなのを贈るんでしょうか」
「さて……。あまり物を贈る習慣はないからな。誕生日も言葉で祝うのが主だったろう?」
「そういえば……」
「おまえの故郷では、どんなものを贈るんだ?」
「いろいろありますよ。夫婦でお揃いの食器類とか、新しいおうちで使って欲しいインテリア家具……あ、カタログから欲しいものを選んでねっていうのも多かったはず」
「カタログ?」
「3,000円とか、5,000円っていうふうに決まった金額を送り主が先に支払い済みなので、贈られた人は手元に届いた本の中に乗っている商品ならどれでも注文出来るんです」
「ほう。それは良さそうだな」
「でしょ? さすがにこっちでそんなのは見たことないから無理ですけど……」
「確かに難しいだろうな。揃いの食器ならこちらでも見つけられそうだが」
少し落ち着いてきたところでリーデン様に促されてソファに移動する。
「食器……でもダンジョンで使うものをお揃いにすると皆の目が生暖かくなる気がします」
しかも本人たちには「恥ずかしいけど使わないとレンくんに悪い」って気を遣わせてしまう。それではお祝いにならない。
そうなると二人きりの場所で使うもの?
二人きり……寝室、寝具、……ラブグッズ?
いやいやいや。
「どうした?」
「ちょっと頭の中がピンク色になっただけです」
「ふっ。おまえはたまにおかしなことを言う」
「あはは……」
リーデン様が頭の中を覗くような神様でなくて良かったと心の底から思った。
ともあれ贈り物についてはまだ時間もあるからゆっくり考えるとして、自分たちの夕飯だ。
「今日は船の料理長さんが教えてくれたスープとパンなんです。一緒に食べますか?」
「ああ。私の分もあるならぜひ」
「もちろんありますよ」
俺が立ち上がるとリーデン様も一緒にキッチンに立って、支度を手伝ってくれる。
「パンはレンが焼いたものか」
「そうです。かなり前のものだけど、そこのパントリーに入れてあったので焼き立て同然ですよ」
「活用しているようで何よりだ」
食卓を拭いて、スープとパン、カラトリー、それからシトロンの果実水。
二人で手を合わせて「いただきます」。
「トゥルヌソルに戻ったということは、しばらくは休みか?」
「3日後に師匠に会って、バルドルパーティで今後の計画を話し合う予定があるだけで他は休み同然ですね。朝と夜は皆の分の食事を用意するつもりですけど。決まっているのは9の月の頭から未踏破の金級ダンジョン「セーズ」の攻略を開始するってことですね」
「ほう。いよいよあのダンジョンにおまえが挑むのか」
意味深に微笑むリーデン様。
あれ、何か嫌な予感がしますよ?
「セーズには何かあるんですか?」
「そういうわけではないが、あのダンジョンは19ある金級ダンジョンの中の最難関だから、私の伴侶と言えど苦労するだろうと思ってな」
「最難か……え?」
「あのイヌ科の男が率いるのなら大丈夫だ。楽しんでおいで」
「えええ」
衝撃の事実に変な声が出た俺を、リーデン様は優しい目で見つめていた。
64
あなたにおすすめの小説
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない
水凪しおん
BL
命を落とした温泉旅館の跡取り息子が転生したのは、人々から忌み嫌われる「呪いの沼」だった。
終わりなき孤独と絶望の中、彼に与えられたのは【万物浄化】と【源泉開発】のスキル。
自らを浄化し、極上の温泉を湧き出させた彼の前に現れたのは、呪いにより心と体を凍てつかせた冷血公爵クロード。
半信半疑で湯に浸かった公爵は、生まれて初めての「安らぎ」に衝撃を受ける。
「この温泉郷(ばしょ)ごと、君が欲しい」
孤独だった元・沼の青年アオイと、温もりを知らなかった冷血公爵クロード。
湯けむりの向こうで出会った二人が、最高の温泉郷を作り上げながら、互いの心の傷を癒やし、かけがえのない愛を見つけていく。
読む者の心まですべて解きほぐす、極上の癒やしと溺愛のファンタジーロマンス、ここに開湯。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
時の情景
琉斗六
BL
◎あらすじ
中学教師・榎戸時臣は聖女召喚の巻き添えで異世界へ。政治の都合で追放、辺境で教える日々。そこへ元教え子の聖騎士テオ(超絶美青年)が再会&保護宣言。王子の黒い思惑も動き出す。
◎その他
この物語は、複数のサイトに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる