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第9章 未来のために
閑話:里帰り(4)
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side:エニス
ウーガ、ドーガと並んで久々のヴィユェッテの町を歩く。
「あの店まだあるじゃん!」
「それ言うならあっちの店だろ。よく続いてんなぁ……」
この町は昔からいる住民のほとんどが農夫で、親から畑を相続されなかった子どもや、長閑な土地を気に入って住み着くことにした旅人が店を開く場合がほとんどだが、銀級ダンジョン「サンコティオン」に一番近い町として冒険者・商業・農業の各種ギルド支部があるおかげで国の「目」もある程度行き渡っていることもあり、それなりに住み良い場所だと思う。
個人的には実家というよりも仲間を失ったダンジョンに一番近い町で、今日まで足が遠のいていたわけだが。
「向こうの門の外も相変わらずテントだらけだったりするのかな」
「あー、かもな」
そう言って兄弟が目を向けるのは、そのダンジョンに行くために設けられた門の向こう側。
銀級ダンジョンに挑むのはほとんどが銀級冒険者だが、組織人口が最も多い銀級の稼ぎは単身ならぎりぎり食っていける程度だ。
自分は此処までと諦めて銅級以下のダンジョンを往復し、採取や護衛依頼で稼ぎながらの生活に満足出来れば、それは幸せな人生だと思う。
だが銀級以下のダンジョンでも極稀に魔法武器が手に入る。
それを売れば一攫千金。
もしも自分の得意武器だったなら戦力が跳ね上がり、運が良ければ名高い有名パーティから誘いを受けることもある。
叶いそうで、叶わない、でももしかしたら叶うかもしれないワンランク上の生活――。そんなものを夢見ながら宿代を切り詰めてダンジョン踏破を目指す連中が街の外で野宿しているのは、たぶん銀級ダンジョンに近い町ならどこも同じだろう。
「……俺らが進んだのは結局30階層までだったな」
「だねぇ」
ウーガが苦笑交じりに頷く。
本当ならそこだって踏破しないと金級はもちろんその上になど行けるはずがない。だが特例で金級になった自分たちは、今後銀級ダンジョンに入る必要がないのだと改めて気付いたら、だんだん可笑しくなって来た。
銀級ダンジョンを一つ、しかも他所の大陸でしか攻略していない金級パーティなんて有り得なさすぎる。
「いつか「サンコティオン」も攻略しに行くか」
「え」
ドーガが思わずといった様子で声を出した後、固まった。
ウーガはただ目を丸くしている。
「今からでも良いけどな。レンがいない方が好都合だし」
レイナルド特例で俺たちを金級にしたのはレンを銀級ダンジョンに入れないためだ。
常に人が多く、かつマナーのなってない連中が大半だ。
そんな場所にあの見た目、あのテントを持った主神様の伴侶を連れて行くなんて世界を滅ぼしたいと思われても仕方がない。
「……行くの?」
ウーガの声が震えている。
……まぁ、当然か。
「おまえたちが行く気になったらな」
「あ……そっか。うん」
俺の独断で行くことはないと判り安心したんだろう。
血の気の引いていた顔にゆっくりと赤味が戻っていくウーガを見ていると、まだ当分は無理そうなのが判ったと同時、久々に家族に会う前に振る話題ではなかったと気付く。
「おまえたちが嫌がることはしないよ」
「……うん」
昔と同じように頭を撫でたら、その手にウーガが手を重ねて来た。
此処で暮らしていた頃なら両手で俺の手を掴んで「もっと撫でて」とねだって来た子どもの手はすっかり一端の冒険者の手になっている。
「……エニスも早く番見つけたら」
「なんだ急に」
「だってバルドルはもう絶対にクルトから離れないじゃん。長生きするって、安心する。エニスもそうして欲しいなって……急に心配になって来た」
十中八九「サンコティオン」の攻略に行くか、なんて言ったせいだろう。
本当に悪いことを言ってしまったと罪悪感が湧いてくる。
「けどこれ以上メンバー増やすの難しいし、エニスに番が見つかったらパーティ辞めるかもよ」
「それはヤダなぁ」
ドーガに指摘されて、ウーガが唸る。
「他に独り身のメンバーいないしなぁ。いっそヒユナちゃん争奪戦とか」
「やめれ!」
「じゃあゲンジャル師匠の娘ちゃんたち? さすがに年齢離れ過ぎな気が」
「待て待て待て!」
本人が目の前にいるのに勝手に話が進んでいく。
しかも。
「そもそも独り身っつーなら兄貴もだろ! 二人でくっつけばいいじゃん、現状維持で丸ッと解決だよ」
「えー、それはナシだろー、ないない」
あははと笑うウーガにイラッとする。
なにがナシだ。
いや、別に構わないんだが。イヌ科の愛し方は俺にはキレイ過ぎる。
「人のことより自分のことをどうにかするんだな」
ウーガの頭から引いた手でドーガの背中を叩いたら責めるような目で見られた。
こいつも……自分のことで手一杯だろうに世話焼きと言うか……。
「ほら、バルドルの家に着くぞ」
番の話題から気を逸らすために見えて来た懐かしい友人宅を指差す。しかも庭に見える人影は、昔と変わらないなら畑で作業をしているのかもしれない。
息子が番を連れていきなり帰って来なかったのはたぶん正解だろう。
「あ! おばちゃーん!」
同じく庭の彼女に気付いたウーガが大きく手を振る。
久々に会う友人の母親はこちらを見るなり大きく目を見開いた。
ウーガ、ドーガと並んで久々のヴィユェッテの町を歩く。
「あの店まだあるじゃん!」
「それ言うならあっちの店だろ。よく続いてんなぁ……」
この町は昔からいる住民のほとんどが農夫で、親から畑を相続されなかった子どもや、長閑な土地を気に入って住み着くことにした旅人が店を開く場合がほとんどだが、銀級ダンジョン「サンコティオン」に一番近い町として冒険者・商業・農業の各種ギルド支部があるおかげで国の「目」もある程度行き渡っていることもあり、それなりに住み良い場所だと思う。
個人的には実家というよりも仲間を失ったダンジョンに一番近い町で、今日まで足が遠のいていたわけだが。
「向こうの門の外も相変わらずテントだらけだったりするのかな」
「あー、かもな」
そう言って兄弟が目を向けるのは、そのダンジョンに行くために設けられた門の向こう側。
銀級ダンジョンに挑むのはほとんどが銀級冒険者だが、組織人口が最も多い銀級の稼ぎは単身ならぎりぎり食っていける程度だ。
自分は此処までと諦めて銅級以下のダンジョンを往復し、採取や護衛依頼で稼ぎながらの生活に満足出来れば、それは幸せな人生だと思う。
だが銀級以下のダンジョンでも極稀に魔法武器が手に入る。
それを売れば一攫千金。
もしも自分の得意武器だったなら戦力が跳ね上がり、運が良ければ名高い有名パーティから誘いを受けることもある。
叶いそうで、叶わない、でももしかしたら叶うかもしれないワンランク上の生活――。そんなものを夢見ながら宿代を切り詰めてダンジョン踏破を目指す連中が街の外で野宿しているのは、たぶん銀級ダンジョンに近い町ならどこも同じだろう。
「……俺らが進んだのは結局30階層までだったな」
「だねぇ」
ウーガが苦笑交じりに頷く。
本当ならそこだって踏破しないと金級はもちろんその上になど行けるはずがない。だが特例で金級になった自分たちは、今後銀級ダンジョンに入る必要がないのだと改めて気付いたら、だんだん可笑しくなって来た。
銀級ダンジョンを一つ、しかも他所の大陸でしか攻略していない金級パーティなんて有り得なさすぎる。
「いつか「サンコティオン」も攻略しに行くか」
「え」
ドーガが思わずといった様子で声を出した後、固まった。
ウーガはただ目を丸くしている。
「今からでも良いけどな。レンがいない方が好都合だし」
レイナルド特例で俺たちを金級にしたのはレンを銀級ダンジョンに入れないためだ。
常に人が多く、かつマナーのなってない連中が大半だ。
そんな場所にあの見た目、あのテントを持った主神様の伴侶を連れて行くなんて世界を滅ぼしたいと思われても仕方がない。
「……行くの?」
ウーガの声が震えている。
……まぁ、当然か。
「おまえたちが行く気になったらな」
「あ……そっか。うん」
俺の独断で行くことはないと判り安心したんだろう。
血の気の引いていた顔にゆっくりと赤味が戻っていくウーガを見ていると、まだ当分は無理そうなのが判ったと同時、久々に家族に会う前に振る話題ではなかったと気付く。
「おまえたちが嫌がることはしないよ」
「……うん」
昔と同じように頭を撫でたら、その手にウーガが手を重ねて来た。
此処で暮らしていた頃なら両手で俺の手を掴んで「もっと撫でて」とねだって来た子どもの手はすっかり一端の冒険者の手になっている。
「……エニスも早く番見つけたら」
「なんだ急に」
「だってバルドルはもう絶対にクルトから離れないじゃん。長生きするって、安心する。エニスもそうして欲しいなって……急に心配になって来た」
十中八九「サンコティオン」の攻略に行くか、なんて言ったせいだろう。
本当に悪いことを言ってしまったと罪悪感が湧いてくる。
「けどこれ以上メンバー増やすの難しいし、エニスに番が見つかったらパーティ辞めるかもよ」
「それはヤダなぁ」
ドーガに指摘されて、ウーガが唸る。
「他に独り身のメンバーいないしなぁ。いっそヒユナちゃん争奪戦とか」
「やめれ!」
「じゃあゲンジャル師匠の娘ちゃんたち? さすがに年齢離れ過ぎな気が」
「待て待て待て!」
本人が目の前にいるのに勝手に話が進んでいく。
しかも。
「そもそも独り身っつーなら兄貴もだろ! 二人でくっつけばいいじゃん、現状維持で丸ッと解決だよ」
「えー、それはナシだろー、ないない」
あははと笑うウーガにイラッとする。
なにがナシだ。
いや、別に構わないんだが。イヌ科の愛し方は俺にはキレイ過ぎる。
「人のことより自分のことをどうにかするんだな」
ウーガの頭から引いた手でドーガの背中を叩いたら責めるような目で見られた。
こいつも……自分のことで手一杯だろうに世話焼きと言うか……。
「ほら、バルドルの家に着くぞ」
番の話題から気を逸らすために見えて来た懐かしい友人宅を指差す。しかも庭に見える人影は、昔と変わらないなら畑で作業をしているのかもしれない。
息子が番を連れていきなり帰って来なかったのはたぶん正解だろう。
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久々に会う友人の母親はこちらを見るなり大きく目を見開いた。
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