生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

文字の大きさ
310 / 335
第9章 未来のために

閑話:里帰り(4)

しおりを挟む
 side:エニス

 ウーガ、ドーガと並んで久々のヴィユェッテの町を歩く。

「あの店まだあるじゃん!」
「それ言うならあっちの店だろ。よく続いてんなぁ……」

 この町は昔からいる住民のほとんどが農夫で、親から畑を相続されなかった子どもや、長閑な土地を気に入って住み着くことにした旅人が店を開く場合がほとんどだが、銀級アルジョンダンジョン「サンコティオン」に一番近い町として冒険者・商業・農業の各種ギルド支部があるおかげで国の「目」もある程度行き渡っていることもあり、それなりに住み良い場所だと思う。
 個人的には実家というよりも仲間を失ったダンジョンに一番近い町で、今日まで足が遠のいていたわけだが。

「向こうの門の外も相変わらずテントだらけだったりするのかな」
「あー、かもな」

 そう言って兄弟が目を向けるのは、そのダンジョンに行くために設けられた門の向こう側。
 銀級アルジョンダンジョンに挑むのはほとんどが銀級アルジョン冒険者だが、組織人口が最も多い銀級アルジョンの稼ぎは単身ならぎりぎり食っていける程度だ。
 自分は此処までと諦めて銅級キュイヴルァ以下のダンジョンを往復し、採取や護衛依頼で稼ぎながらの生活に満足出来れば、それは幸せな人生だと思う。
 だが銀級アルジョン以下のダンジョンでも極稀に魔法武器が手に入る。
 それを売れば一攫千金。
 もしも自分の得意武器だったなら戦力が跳ね上がり、運が良ければ名高い有名パーティから誘いを受けることもある。
 叶いそうで、叶わない、でももしかしたら叶うかもしれないワンランク上の生活――。そんなものを夢見ながら宿代を切り詰めてダンジョン踏破を目指す連中が街の外で野宿しているのは、たぶん銀級アルジョンダンジョンに近い町ならどこも同じだろう。

「……俺らが進んだのは結局30階層までだったな」
「だねぇ」

 ウーガが苦笑交じりに頷く。
 本当ならそこだって踏破しないと金級オーァルはもちろんその上になど行けるはずがない。だが特例で金級オーァルになった自分たちは、今後銀級アルジョンダンジョンに入る必要がないのだと改めて気付いたら、だんだん可笑しくなって来た。
 銀級アルジョンダンジョンを一つ、しかも他所の大陸でしか攻略していない金級オーァルパーティなんて有り得なさすぎる。

「いつか「サンコティオン」も攻略しに行くか」
「え」

 ドーガが思わずといった様子で声を出した後、固まった。
 ウーガはただ目を丸くしている。

「今からでも良いけどな。レンがいない方が好都合だし」

 レイナルド特例で俺たちを金級オーァルにしたのはレンを銀級アルジョンダンジョンに入れないためだ。
 常に人が多く、かつマナーのなってない連中が大半だ。
 そんな場所にあの見た目、あのテントを持った主神様の伴侶を連れて行くなんて世界を滅ぼしたいと思われても仕方がない。

「……行くの?」

 ウーガの声が震えている。
 ……まぁ、当然か。

「おまえたちが行く気になったらな」
「あ……そっか。うん」

 俺の独断で行くことはないと判り安心したんだろう。
 血の気の引いていた顔にゆっくりと赤味が戻っていくウーガを見ていると、まだ当分は無理そうなのが判ったと同時、久々に家族に会う前に振る話題ではなかったと気付く。

「おまえたちが嫌がることはしないよ」
「……うん」

 昔と同じように頭を撫でたら、その手にウーガが手を重ねて来た。
 此処で暮らしていた頃なら両手で俺の手を掴んで「もっと撫でて」とねだって来た子どもの手はすっかり一端の冒険者の手になっている。

「……エニスも早く番見つけたら」
「なんだ急に」
「だってバルドルはもう絶対にクルトから離れないじゃん。長生きするって、安心する。エニスもそうして欲しいなって……急に心配になって来た」

 十中八九「サンコティオン」の攻略に行くか、なんて言ったせいだろう。
 本当に悪いことを言ってしまったと罪悪感が湧いてくる。

「けどこれ以上メンバー増やすの難しいし、エニスに番が見つかったらパーティ辞めるかもよ」
「それはヤダなぁ」

 ドーガに指摘されて、ウーガが唸る。

「他に独り身のメンバーいないしなぁ。いっそヒユナちゃん争奪戦とか」
「やめれ!」
「じゃあゲンジャル師匠の娘ちゃんたち? さすがに年齢離れ過ぎな気が」
「待て待て待て!」

 本人が目の前にいるのに勝手に話が進んでいく。
 しかも。

「そもそも独り身っつーなら兄貴もだろ! 二人でくっつけばいいじゃん、現状維持で丸ッと解決だよ」
「えー、それはナシだろー、ないない」

 あははと笑うウーガにイラッとする。
 なにがナシだ。
 いや、別に構わないんだが。イヌ科シアンの愛し方は俺にはキレイ過ぎる。

「人のことより自分のことをどうにかするんだな」

 ウーガの頭から引いた手でドーガの背中を叩いたら責めるような目で見られた。
 こいつも……自分のことで手一杯だろうに世話焼きと言うか……。

「ほら、バルドルの家に着くぞ」

 番の話題から気を逸らすために見えて来た懐かしい友人宅を指差す。しかも庭に見える人影は、昔と変わらないなら畑で作業をしているのかもしれない。
 息子が番を連れていきなり帰って来なかったのはたぶん正解だろう。

「あ! おばちゃーん!」

 同じく庭の彼女に気付いたウーガが大きく手を振る。
 久々に会う友人の母親はこちらを見るなり大きく目を見開いた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない

水凪しおん
BL
命を落とした温泉旅館の跡取り息子が転生したのは、人々から忌み嫌われる「呪いの沼」だった。 終わりなき孤独と絶望の中、彼に与えられたのは【万物浄化】と【源泉開発】のスキル。 自らを浄化し、極上の温泉を湧き出させた彼の前に現れたのは、呪いにより心と体を凍てつかせた冷血公爵クロード。 半信半疑で湯に浸かった公爵は、生まれて初めての「安らぎ」に衝撃を受ける。 「この温泉郷(ばしょ)ごと、君が欲しい」 孤独だった元・沼の青年アオイと、温もりを知らなかった冷血公爵クロード。 湯けむりの向こうで出会った二人が、最高の温泉郷を作り上げながら、互いの心の傷を癒やし、かけがえのない愛を見つけていく。 読む者の心まですべて解きほぐす、極上の癒やしと溺愛のファンタジーロマンス、ここに開湯。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...