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第9章 未来のために
閑話:里帰り(10)
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side:クルト
エレナ女史は場の雰囲気が変わったことに気付いただろうに、そこには触れて来ないまま普通に依頼書の説明に取り掛かった。
一つは町から30分ほど歩いた先にある森に厄介な魔獣が巣を作っていて1カ月に2~3度、畑を荒らしに来るから何とかして欲しいというもの。これは単純に魔獣が強いので金級以上でないと任せられないものだった。
一つは森と反対方向、海岸沿いの崖に生じた洞の中の調査。
これはつい最近発見されたもので情報がまったくないから念のために金級以上へ、というもの。
「2件だけですか」
「ええ。最近は獄鬼の被害が全くなくなったし、気候は安定、収穫量も上々、魔獣も山野の恵みが充分なのか滅多に人里に来ないのよ」
「へぇ」
何と無しに聞いているが、たぶん俺たちが思い浮かべた顔は全員同じだ。
理屈は判らないけど十中八九レンくんの影響だと思う。
「あとはもし「サンコティオン」で申告日数を過ぎても戻らないパーティがあれば捜索隊に参加してもらいたいわね」
「30階層までの転移陣で移動できる範囲なら」
バルドルが静かに答える。
エレナ女史はこちらの事情を察しているから「よろしくお願いします」と淡々と応じていた。
提示された依頼2件はそのまま受けることに決めて応接室を後にした俺たちは、そのまま今後の予定を話し合うべく近くの食事処に立ち寄った。
昼は子どもも気軽に入れるが、夜は雰囲気が一転、給仕しているスタッフを誘って二階の宿で休むことも出来るようになる店だ。食事の値段は手頃、味もそれなりで稼げない冒険者にはありがたい場所だったりもする。そして、こういう場所では情報を集めやすいんだ。
「先に座ってろ」
エニスに言われて俺とバルドルの二人で5人が座れる席を確保している間に、3人が店内にいた人たちに声を掛けている。顔馴染みらしいのは雰囲気で見て取れる。
「ウーガたちが情報収集って、珍しい」
「いま限定だ。この町の中でなら昔の縁が使えるからな」
なるほどそういうことかと納得していると、バルドルが店のメニューを開く。
「ここは野菜が美味いぞ。ごろっとそのまま出て来るから都会の連中は田舎臭いって笑うが」
「そうなんだ。丸ごとだって美味しいのは変わらないのに」
レンくんが作る料理なんて特にだよ。
蒸したポムドテルにバターを乗せたのなんて最高だ。
「そう言うと思った」
バルドルはそう言って笑うと、飲み物の方も指差す。
「腹いっぱいにはしてくるなって言われているし、今日のメインはこっちか」
「だね。でも摘まむのは欲しい。みんなで食べれるようなやつ」
「それならこれか、これ……ああトマの季節か」
「町の特産?」
「ああ、うちの庭にもある。たぶん夜に出て来るんじゃないか」
「じゃあ別のにしよ」
あれこれ相談した末に近くを通った給仕の女性に注文していたら、最初に戻って来たのはドーガだった。
「俺はシトロンの果実水お願い」
席に着くなりまずは自分の注文を済ませたドーガは女性が去ったのを確認して話し出す。
「クルトの元パーティメンバー、此処にはテルアとマリーしかいないみたいだよ」
「もう判ったのか?」
「簡単簡単。あそこにいたの自警団の連中だもん」
さっきまで喋っていた相手を視線で示す。
自警団ということは妹のケイティさんの同僚でもあるわけだ。
「ずいぶん前にトゥルヌソルで付き合いのあった冒険者を昨日ギルドで見かけたんだけどって言ったら、すぐだったよ。二人だけのパーティだから薬師や錬金術師の素材採取に護衛として同行する専門なんだって。試しにイーサンたちのことも聞いてみたけど覚えがないってさ」
「そう、なんだ」
テルア、マリー、イーサン、ルディ、そしてジェイ。
5人は俺が出逢うずっと以前から長く一緒にいた仲間兼友人、ダンジョン内で命だって預けられるくらい信頼し合った関係だった。なのにテルアとマリーだけが此処にいて、しかも2人でダンジョン内の護衛専門? 理解が追い付かない。
と、ウーガとエニスが同時に席へ。
「こっちの話もそんな感じー。二人しかいないのは間違いないみたい」
「護衛の仕事しているとき以外はグスタフの畑を手伝ってて、住むところはグスタフのところの離れらしいよ」
「グスタフ、さん」
「ギルドから見て、うちとは正反対の方向にある畑の主だ」
バルドルがすぐに教えてくれる。
「ただまぁ俺がそうだったように二人がダンジョンから出てきたら遭遇する可能性はゼロじゃないからさ。四日の間にどうするか考えよう」
「ああ。四日後に此処を発つことにしてもいいように墓参りは明日の朝からでどうだ。さっきの依頼の洞窟が同じ方向だった」
「さんせー」
「うん、良いと思う」
エニスの提案に俺も賛成する。
ただ、どうしてもテルアたちのことが頭から離れなくて、他にも今後の予定が決まっていくのにきちんと覚えられない。後で情けなくて申し訳なかったけど、バルドルは「今回は仕方がない」と笑ってわざわざメモに書いて渡してくれたのだった。
エレナ女史は場の雰囲気が変わったことに気付いただろうに、そこには触れて来ないまま普通に依頼書の説明に取り掛かった。
一つは町から30分ほど歩いた先にある森に厄介な魔獣が巣を作っていて1カ月に2~3度、畑を荒らしに来るから何とかして欲しいというもの。これは単純に魔獣が強いので金級以上でないと任せられないものだった。
一つは森と反対方向、海岸沿いの崖に生じた洞の中の調査。
これはつい最近発見されたもので情報がまったくないから念のために金級以上へ、というもの。
「2件だけですか」
「ええ。最近は獄鬼の被害が全くなくなったし、気候は安定、収穫量も上々、魔獣も山野の恵みが充分なのか滅多に人里に来ないのよ」
「へぇ」
何と無しに聞いているが、たぶん俺たちが思い浮かべた顔は全員同じだ。
理屈は判らないけど十中八九レンくんの影響だと思う。
「あとはもし「サンコティオン」で申告日数を過ぎても戻らないパーティがあれば捜索隊に参加してもらいたいわね」
「30階層までの転移陣で移動できる範囲なら」
バルドルが静かに答える。
エレナ女史はこちらの事情を察しているから「よろしくお願いします」と淡々と応じていた。
提示された依頼2件はそのまま受けることに決めて応接室を後にした俺たちは、そのまま今後の予定を話し合うべく近くの食事処に立ち寄った。
昼は子どもも気軽に入れるが、夜は雰囲気が一転、給仕しているスタッフを誘って二階の宿で休むことも出来るようになる店だ。食事の値段は手頃、味もそれなりで稼げない冒険者にはありがたい場所だったりもする。そして、こういう場所では情報を集めやすいんだ。
「先に座ってろ」
エニスに言われて俺とバルドルの二人で5人が座れる席を確保している間に、3人が店内にいた人たちに声を掛けている。顔馴染みらしいのは雰囲気で見て取れる。
「ウーガたちが情報収集って、珍しい」
「いま限定だ。この町の中でなら昔の縁が使えるからな」
なるほどそういうことかと納得していると、バルドルが店のメニューを開く。
「ここは野菜が美味いぞ。ごろっとそのまま出て来るから都会の連中は田舎臭いって笑うが」
「そうなんだ。丸ごとだって美味しいのは変わらないのに」
レンくんが作る料理なんて特にだよ。
蒸したポムドテルにバターを乗せたのなんて最高だ。
「そう言うと思った」
バルドルはそう言って笑うと、飲み物の方も指差す。
「腹いっぱいにはしてくるなって言われているし、今日のメインはこっちか」
「だね。でも摘まむのは欲しい。みんなで食べれるようなやつ」
「それならこれか、これ……ああトマの季節か」
「町の特産?」
「ああ、うちの庭にもある。たぶん夜に出て来るんじゃないか」
「じゃあ別のにしよ」
あれこれ相談した末に近くを通った給仕の女性に注文していたら、最初に戻って来たのはドーガだった。
「俺はシトロンの果実水お願い」
席に着くなりまずは自分の注文を済ませたドーガは女性が去ったのを確認して話し出す。
「クルトの元パーティメンバー、此処にはテルアとマリーしかいないみたいだよ」
「もう判ったのか?」
「簡単簡単。あそこにいたの自警団の連中だもん」
さっきまで喋っていた相手を視線で示す。
自警団ということは妹のケイティさんの同僚でもあるわけだ。
「ずいぶん前にトゥルヌソルで付き合いのあった冒険者を昨日ギルドで見かけたんだけどって言ったら、すぐだったよ。二人だけのパーティだから薬師や錬金術師の素材採取に護衛として同行する専門なんだって。試しにイーサンたちのことも聞いてみたけど覚えがないってさ」
「そう、なんだ」
テルア、マリー、イーサン、ルディ、そしてジェイ。
5人は俺が出逢うずっと以前から長く一緒にいた仲間兼友人、ダンジョン内で命だって預けられるくらい信頼し合った関係だった。なのにテルアとマリーだけが此処にいて、しかも2人でダンジョン内の護衛専門? 理解が追い付かない。
と、ウーガとエニスが同時に席へ。
「こっちの話もそんな感じー。二人しかいないのは間違いないみたい」
「護衛の仕事しているとき以外はグスタフの畑を手伝ってて、住むところはグスタフのところの離れらしいよ」
「グスタフ、さん」
「ギルドから見て、うちとは正反対の方向にある畑の主だ」
バルドルがすぐに教えてくれる。
「ただまぁ俺がそうだったように二人がダンジョンから出てきたら遭遇する可能性はゼロじゃないからさ。四日の間にどうするか考えよう」
「ああ。四日後に此処を発つことにしてもいいように墓参りは明日の朝からでどうだ。さっきの依頼の洞窟が同じ方向だった」
「さんせー」
「うん、良いと思う」
エニスの提案に俺も賛成する。
ただ、どうしてもテルアたちのことが頭から離れなくて、他にも今後の予定が決まっていくのにきちんと覚えられない。後で情けなくて申し訳なかったけど、バルドルは「今回は仕方がない」と笑ってわざわざメモに書いて渡してくれたのだった。
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