25 / 47
25 一つ、提案が
しおりを挟む
顔を伏せたまま一言も発さないユージィンがだんだんと心配になってくる。
怒っているんだろうか。
そりゃあ怒るよな。
俺もリントも、揃いも揃って馬鹿やらかしたもんな。
「あの、ユージィン……ごめん、なさい」
じぃっと見つめながら謝罪するもユージィンからの反応はほとんどなくて、近付いたら避けられるかなとか、触ったら益々怒られるかなぁとか、とにかくリアクションが欲しくて悩んでいたら、もう限界だと言わんばかりの長い溜息が聞こえてきた。
「……その謝罪は何に対しての謝罪なんだ」
低い問い掛けを胸中に繰り返して、俺は考える。
「何って言われると難しいけど、……まずはきちんと説明していなかったせいで二十五階層で迷惑掛けた事」
「後は」
「色々と巻き込んで、居た堪れない気持ちにさせた事」
「……次」
「……好きすぎてごめん……?」
「……はあぁぁっ」
また溜息を吐かれた。
「……開き直ったつもりか?」
「いや、本気で」
「本気なら尚の事……いや、いまはそうじゃなく……これは、この世界が魔の一族に滅ぼされるか否かの瀬戸際の話だったんじゃないのか……?」
「まさに瀬戸際の話だな」
「それがどうして私を……好きだ、とか、そういう話になるんだ」
「ああ、それはまた別の話だよ」
「別?」
「そもそもは、ミリィ嬢がちゃんと神子の役目を果たしてくれていれば万事解決。何の問題もなく、俺が神様に此処に喚ばれる事もなかったんだから」
「……君は来なかった……?」
「ん。ずっと遠い世界でユージィン達を見守るだけで終わっていたと思うよ。そうなったら俺は夢の世界のユージィンに永遠に片想いだっただろうから、その点に関してだけはミリィ嬢に感謝してもいいと思ってる……って、ごめんっ、世界の危機を歓迎するつもりはないけどな……!」
思わず本音が漏れてしまい、俺は焦って弁明するが、ユージィンはどこか違うところに視線を固定したまま何か考え込んでいる。
「……ミリィ嬢が神子の務めを果たしていたら、どうなっていた……?」
「どう、って……あぁそうか。ミリィ嬢がちゃんと努力していたら、それはそれで王太子殿下と恋仲になってルークレアは婚約解消されていたかもしれないし……気軽に問題ないなんて言って良い話じゃなかったな。ごめん」
「そうじゃ……っ……なく……」
さっきから謝ってばかりの俺に、ユージィンは焦れたように声を上げる。
どうしよう、何の仮定の話を求められているのかが判らない……!
「えっと……そうだ、な。あくまでも可能性の話だし、ミリィ嬢が頑張ってくれても、くれなくても、その時はユージィン達自身の選択次第でいくらでも世界は変わっていたと思う!」
「選択……」
「そうそう、リントだって此処まで壊れる事もなかっ……たかどうかは判らない、けど。ん? そう考えたらリントとユージィンがって事も……」
俺の中に在るのは、数年間も抱え続けながら本人には伝えられなかった想いと、ユージィンを欲しながらも押し隠し、それでも焦がれて止まなかった事実。
こんなにも強くて深い想いが解放される事があったなら、その行く末は確実に——。
「……それは、イヤだなぁ……」
「……は?」
「相手が女の子なら仕方ないって……思いたくないけど、諦め……つくかも……いや、やっぱり悔しいな……」
俺、ほんとアホだな。
情けないと自分でも思う。
だけど、それでも。
「ユージィンが俺以外の誰かとどうこうなるのは、イヤだなぁ……って、ごめん……」
「——」
また謝る俺に、ユージィンは呆れたんだと思う。
真ん丸にした目で俺を凝視した後で、……えっ。
いきなり笑い出した??
「ふっ……ふはっ、は、ははははっ」
「えっ。なっ」
「君っ……ははっ、君、君……っ、あははは!」
「えええっ?」
何がそこまでユージィンを笑わせるのかがさっぱり判らないが、目尻に涙を溜めるほど笑うんだからよほど面白かったんだろう。
腑には落ちないけどユージィンが楽しそうなのは良かった。
笑ってくれるのは嬉しい。
可愛い。
笑いが落ち着いたユージィンは、すごく綺麗な表情で俺を呼んだ。
「リント。……私は、以前のリント・バーディガルは侯爵家の嫡男というくらいの認識しかなかった」
「ぅ、うん?」
「いまの君に関しても、それよりは多少の為人を知っている程度に過ぎない」
「うん」
「それでも、いまの君に絆されている事は認める」
「……それって、好きとは違う?」
「違う、……いや、他人に対する好意の種類がよく判っていないというのが正直なところだな。……ルークレアや両親に情があるのは確かだが……兄上が亡くなられてから、自身の婚姻は政略以外無く、兄上が認めてくれる後継者になる事しか考えて来なかった。——兄の事は……」
「ん、知ってる」
「そうか。……つまり、……」
そこで言葉を切ったユージィンは言い難そうに視線を泳がせていたが、俺がすっごい期待して待っているのを感じ取っているらしくて、頑張って伝えようとしてくれている。
聞きたい。
是が非でもユージィンの口からはっきりと聞きたい。
この流れで期待しないなんて無理だ。
「つまり……?」
俺はベッドを降りてユージィンの側に膝をついた。
その手に触れると少し震える。
顔を覗き込むようにして見上げたら、耳まで赤くなっている。
可愛過ぎる。
好き過ぎる。
ほんと、絶対に誰にも渡したくない。
「……ユージィン、一つ、提案が」
「提案……?」
「ここ」
「っ」
唇に指で触れた。
緊張のせいか少し乾いているけれど柔らかくて、親指でふにふにすると呼吸が止まる。
「ユージィン、呼吸しよ」
「なら……手、を」
「好きな相手とはキス出来るんだって。俺とキス出来そう?」
「……っ」
「……試していい?」
拒否は、ない。
若干眉間に皺が寄っていて、羞恥か困惑のせいか蒼い瞳が潤んでいるけれど、……逃げないでいてくれる。
「ユージィン、……好きだよ」
「っ……」
赤くなった耳に触れて、緊張の強張った唇に、触れるだけのキスをした。
怒っているんだろうか。
そりゃあ怒るよな。
俺もリントも、揃いも揃って馬鹿やらかしたもんな。
「あの、ユージィン……ごめん、なさい」
じぃっと見つめながら謝罪するもユージィンからの反応はほとんどなくて、近付いたら避けられるかなとか、触ったら益々怒られるかなぁとか、とにかくリアクションが欲しくて悩んでいたら、もう限界だと言わんばかりの長い溜息が聞こえてきた。
「……その謝罪は何に対しての謝罪なんだ」
低い問い掛けを胸中に繰り返して、俺は考える。
「何って言われると難しいけど、……まずはきちんと説明していなかったせいで二十五階層で迷惑掛けた事」
「後は」
「色々と巻き込んで、居た堪れない気持ちにさせた事」
「……次」
「……好きすぎてごめん……?」
「……はあぁぁっ」
また溜息を吐かれた。
「……開き直ったつもりか?」
「いや、本気で」
「本気なら尚の事……いや、いまはそうじゃなく……これは、この世界が魔の一族に滅ぼされるか否かの瀬戸際の話だったんじゃないのか……?」
「まさに瀬戸際の話だな」
「それがどうして私を……好きだ、とか、そういう話になるんだ」
「ああ、それはまた別の話だよ」
「別?」
「そもそもは、ミリィ嬢がちゃんと神子の役目を果たしてくれていれば万事解決。何の問題もなく、俺が神様に此処に喚ばれる事もなかったんだから」
「……君は来なかった……?」
「ん。ずっと遠い世界でユージィン達を見守るだけで終わっていたと思うよ。そうなったら俺は夢の世界のユージィンに永遠に片想いだっただろうから、その点に関してだけはミリィ嬢に感謝してもいいと思ってる……って、ごめんっ、世界の危機を歓迎するつもりはないけどな……!」
思わず本音が漏れてしまい、俺は焦って弁明するが、ユージィンはどこか違うところに視線を固定したまま何か考え込んでいる。
「……ミリィ嬢が神子の務めを果たしていたら、どうなっていた……?」
「どう、って……あぁそうか。ミリィ嬢がちゃんと努力していたら、それはそれで王太子殿下と恋仲になってルークレアは婚約解消されていたかもしれないし……気軽に問題ないなんて言って良い話じゃなかったな。ごめん」
「そうじゃ……っ……なく……」
さっきから謝ってばかりの俺に、ユージィンは焦れたように声を上げる。
どうしよう、何の仮定の話を求められているのかが判らない……!
「えっと……そうだ、な。あくまでも可能性の話だし、ミリィ嬢が頑張ってくれても、くれなくても、その時はユージィン達自身の選択次第でいくらでも世界は変わっていたと思う!」
「選択……」
「そうそう、リントだって此処まで壊れる事もなかっ……たかどうかは判らない、けど。ん? そう考えたらリントとユージィンがって事も……」
俺の中に在るのは、数年間も抱え続けながら本人には伝えられなかった想いと、ユージィンを欲しながらも押し隠し、それでも焦がれて止まなかった事実。
こんなにも強くて深い想いが解放される事があったなら、その行く末は確実に——。
「……それは、イヤだなぁ……」
「……は?」
「相手が女の子なら仕方ないって……思いたくないけど、諦め……つくかも……いや、やっぱり悔しいな……」
俺、ほんとアホだな。
情けないと自分でも思う。
だけど、それでも。
「ユージィンが俺以外の誰かとどうこうなるのは、イヤだなぁ……って、ごめん……」
「——」
また謝る俺に、ユージィンは呆れたんだと思う。
真ん丸にした目で俺を凝視した後で、……えっ。
いきなり笑い出した??
「ふっ……ふはっ、は、ははははっ」
「えっ。なっ」
「君っ……ははっ、君、君……っ、あははは!」
「えええっ?」
何がそこまでユージィンを笑わせるのかがさっぱり判らないが、目尻に涙を溜めるほど笑うんだからよほど面白かったんだろう。
腑には落ちないけどユージィンが楽しそうなのは良かった。
笑ってくれるのは嬉しい。
可愛い。
笑いが落ち着いたユージィンは、すごく綺麗な表情で俺を呼んだ。
「リント。……私は、以前のリント・バーディガルは侯爵家の嫡男というくらいの認識しかなかった」
「ぅ、うん?」
「いまの君に関しても、それよりは多少の為人を知っている程度に過ぎない」
「うん」
「それでも、いまの君に絆されている事は認める」
「……それって、好きとは違う?」
「違う、……いや、他人に対する好意の種類がよく判っていないというのが正直なところだな。……ルークレアや両親に情があるのは確かだが……兄上が亡くなられてから、自身の婚姻は政略以外無く、兄上が認めてくれる後継者になる事しか考えて来なかった。——兄の事は……」
「ん、知ってる」
「そうか。……つまり、……」
そこで言葉を切ったユージィンは言い難そうに視線を泳がせていたが、俺がすっごい期待して待っているのを感じ取っているらしくて、頑張って伝えようとしてくれている。
聞きたい。
是が非でもユージィンの口からはっきりと聞きたい。
この流れで期待しないなんて無理だ。
「つまり……?」
俺はベッドを降りてユージィンの側に膝をついた。
その手に触れると少し震える。
顔を覗き込むようにして見上げたら、耳まで赤くなっている。
可愛過ぎる。
好き過ぎる。
ほんと、絶対に誰にも渡したくない。
「……ユージィン、一つ、提案が」
「提案……?」
「ここ」
「っ」
唇に指で触れた。
緊張のせいか少し乾いているけれど柔らかくて、親指でふにふにすると呼吸が止まる。
「ユージィン、呼吸しよ」
「なら……手、を」
「好きな相手とはキス出来るんだって。俺とキス出来そう?」
「……っ」
「……試していい?」
拒否は、ない。
若干眉間に皺が寄っていて、羞恥か困惑のせいか蒼い瞳が潤んでいるけれど、……逃げないでいてくれる。
「ユージィン、……好きだよ」
「っ……」
赤くなった耳に触れて、緊張の強張った唇に、触れるだけのキスをした。
74
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる