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子供
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「ちょっと良いかしら」
空がすっかり黒くなり、カラフルな電灯で色づいたころ、店のドアの鈴が鳴った。
「申し訳ございません、お客様。本日は閉店で…おばさん?」
「あら、きよし君~!久しぶり!元気してた?」
「…はぁ…その子は?」
黒いコートに控えめな茶髪、黒光りした革靴、全身をブランド物で固めている小綺麗な人間は、叔母に当たる人物だ。俺はこの人が苦手。香水の匂いがキツくてクラクラする。
しかし今日はそれよりも気になったことがある。
叔母の後ろに控えめに立っている子供は誰だろう。彼女には2人の子供が居るはずだが、こんなに小さかっただろうか。
「あー、この子の両親が亡くなったから引き取り先がなくて、半年ぐらい前から預かっているの。」
「そうなんですね。…で、今日はもう店閉める時間なんですけど…」
「そこを何とかお願い!!今日学校から連絡あって、髪が長いだのなんだの…めんどくさいのよ。ほらこれお金。帰りは一人で帰らせて大丈夫だから。じゃあ私今から用事あるからー」
「おいっ…」
カラン、店のドアが閉まった瞬間、嵐が過ぎ去ったような静けさに襲われる。
「…あの、すみません、でした…」
襟のよれたTシャツ、どこか汚れたズボン、そして、穴の空いた靴。そしてバサバサの長い髪。線は細いし、骨が浮き出ている。とてもじゃないけど、まともな生活を送っているとは思えない。
少年はズボンを握りしめて俯いてしまった。ただでさえ小さいのに、更に小さく見える。
「いや、君が悪いわけじゃ無いから。いいよ、カット、?で良いのかな?」
「…良いんですか…?」
「もちろん。お金も貰ったしね」
もちろん、1000円じゃ足りないし、もう疲れているから帰りたい。でも、こんなに年齢に似合わない申し訳ない顔をされてしまうと、ここで追い返すのは野暮だ。
「さ、座って座って」
蛇口の前のシャンプー台に案内する。一瞬たじろぎを見せたが、すぐにそこに座った。
髪はぎしぎしと軋んでいて、フケも溜まっている。
「あの、すみません。汚いですよね…」
「えっ、ううん!こんなものこんなもの!タオル掛けるねー」
目を伏せた少年。明らかにフォローの仕方を間違えた。気まずさをごまかすために、そそくさと白い布を顔に掛ける。
「じゃあシャンプーしていきますねー」
専門学校を卒業しておよそ半年。俺は美容師として社会人を迎えた。勤め先であるこのサロンはそこそこ値段が高く、比較的年齢層も高め。学生割というものはあるが、それでも来るのは高校生からだ。だから、どうコミュニケーションをとればいいのか、分からない。言い訳がましいだろうけれど。
(しかし…女の子みたいに伸びてるな…)
半年前くらいとあの女は言ったか。それまでに一回も髪を切っていなかったということだろうか。
(まあ、余計なことを考えても無駄か…)
温まったシャワーを出し、髪を濡らし始めた。
空がすっかり黒くなり、カラフルな電灯で色づいたころ、店のドアの鈴が鳴った。
「申し訳ございません、お客様。本日は閉店で…おばさん?」
「あら、きよし君~!久しぶり!元気してた?」
「…はぁ…その子は?」
黒いコートに控えめな茶髪、黒光りした革靴、全身をブランド物で固めている小綺麗な人間は、叔母に当たる人物だ。俺はこの人が苦手。香水の匂いがキツくてクラクラする。
しかし今日はそれよりも気になったことがある。
叔母の後ろに控えめに立っている子供は誰だろう。彼女には2人の子供が居るはずだが、こんなに小さかっただろうか。
「あー、この子の両親が亡くなったから引き取り先がなくて、半年ぐらい前から預かっているの。」
「そうなんですね。…で、今日はもう店閉める時間なんですけど…」
「そこを何とかお願い!!今日学校から連絡あって、髪が長いだのなんだの…めんどくさいのよ。ほらこれお金。帰りは一人で帰らせて大丈夫だから。じゃあ私今から用事あるからー」
「おいっ…」
カラン、店のドアが閉まった瞬間、嵐が過ぎ去ったような静けさに襲われる。
「…あの、すみません、でした…」
襟のよれたTシャツ、どこか汚れたズボン、そして、穴の空いた靴。そしてバサバサの長い髪。線は細いし、骨が浮き出ている。とてもじゃないけど、まともな生活を送っているとは思えない。
少年はズボンを握りしめて俯いてしまった。ただでさえ小さいのに、更に小さく見える。
「いや、君が悪いわけじゃ無いから。いいよ、カット、?で良いのかな?」
「…良いんですか…?」
「もちろん。お金も貰ったしね」
もちろん、1000円じゃ足りないし、もう疲れているから帰りたい。でも、こんなに年齢に似合わない申し訳ない顔をされてしまうと、ここで追い返すのは野暮だ。
「さ、座って座って」
蛇口の前のシャンプー台に案内する。一瞬たじろぎを見せたが、すぐにそこに座った。
髪はぎしぎしと軋んでいて、フケも溜まっている。
「あの、すみません。汚いですよね…」
「えっ、ううん!こんなものこんなもの!タオル掛けるねー」
目を伏せた少年。明らかにフォローの仕方を間違えた。気まずさをごまかすために、そそくさと白い布を顔に掛ける。
「じゃあシャンプーしていきますねー」
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(しかし…女の子みたいに伸びてるな…)
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(まあ、余計なことを考えても無駄か…)
温まったシャワーを出し、髪を濡らし始めた。
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