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一成の思い
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流石に大衆の面前で男を寝かせておくにも気が引けたので、俺達はブルを担ぎ上げ、職安の中の休憩室を借りてそこで話の続きをする。どうやら職員の仮眠室のようだ。
ベッドがいくつか置いてあり、机には飲みかけのコーヒーが置いてある。
さすがに今は昼間なので誰も使っていなかった。
「ベッドで寝るなんて久々だ……」
「寝るなよ。ていうか宿とか取らないのか?」
「さっきも言いましたが、冒険者には元山賊や元盗賊の人間が多いんです。そういう理由から冒険者と言うだけで入店を断る宿は少なくないんですよ。仕事柄多少お金も持っていたりするので値段も吹っかけられたりしますし。」
元々商売をやっていた身からすれば分からなくは無い。
明らかに墨が入ってる人間や酒に酔った人間なんかは本来店には入れたくは無い客だった。
勿論金さえ払ってくれて面倒事を起こさなければただの客ではあるのだが、何より他の客への印象が悪いからな。
「つまりお前ら、厄介者って事か。」
「バッサリ言いますね。まぁ、下手に濁されるよりはマシですけど。」
ランスが苦笑いを浮かべ、頭を搔く。
俺の言葉に我慢ならなかったのは魔法使いの女だった。
「アタシたちだって好きでこんなことしてる訳じゃない!!故郷の村が魔物に襲われて仕方なく、」
「それがどうした。そんなもん言い訳でしかねぇだろ。」
俺の冷たい言葉で冒険者4人がこちらを睨む。
改めて見ると深く暗い、光の無い目をしている。
彼らは彼らなりにそういう世界で生きぬかなければ行けなかったのだろう。
「俺も故郷には二度と帰れない境遇だ。だが帰りたいとも思ってない。思い出は故郷を出た時捨ててきた。」
向こうの世界に良い思い出なんてほとんどない。
そんな苦い記憶を燃やすように俺はタバコに火をつけた。
レインがそれに気付き、気を利かせて窓を開け、灰皿では無いが小さな器をその場で復元して俺に手渡してくれる。
感謝の言葉を伝えると、何も言わずそっと微笑んでさっきまで座っていた椅子に腰掛けた。
「そして俺はお前らよりも余程この世界の厄介者な筈だ。」
「一成さん、それは、」
ルシウスが言いかけたのをそっと手を上げて制止する。
言ってはいけない事くらい分かってるよ。
「お前らが現状に納得出来ないというのであれば、変えられるのはお前らしかいない。少なくとも俺はそうした。」
あくまでもこちらの世界に来てからだがな。
向こうの世界ではどれだけ辛くても今の現状が最善、体を崩すまではここから逃げ出せば悪くなる事しかないと思っていた。
現にそうして仕事を辞めて実家に帰って来たあと俺を待っていたのは、まともに仕事を続けることが出来ない奴というレッテルと、1年の療養という名の辱めだった。
見舞いに来る友人、親族達から聞こえてくる話の殆どは○○は大企業で出世しているだの○○は結婚しただのの話だった。
その頃の俺は結局他人を羨む事しか出来ず、ただ悪戯に20代前半の貴重な時間を消費し、自分をこんな目に合わせた社会全体が悪い、俺は何も悪くないと無理矢理に自分を擁護し続けていた。
こちらの世界に来て、俺はレインと出会った。
初めて会った時の彼女は半ば人生を諦めたような表情をしていた。
それでも俺が倒れていれば手を差し伸べ、他人を慈しむ心を失わず、優しい笑顔を周りに振りまく。
自分が悪いはずがない、生まれながら目が見えないという現状を誰のせいにする訳でもなく、全てを受け入れた上で彼女は優しかった。
目の見えない彼女がどんな人生を歩んできたのか俺には分からない
が、その優しさが俺の心を変えるきっかけになったのは間違いない。
図らずもそんな自らの現状を変えようとする彼女に、昔の俺とは違う何かを感じたからこそ俺は彼女の旅に同行し、自分もまた何かを変えようと思ったのだ。
「貴方は強いからそんなことが言えるんです。」
聖職者の少年が呟く。
「確かにそうかもな。だが俺はたとえ強くなくてもそうして自分の現状を変えようとした人間を知ってる。俺はその人のお陰で強くなれたんだよ。」
レインは誰の話か分からずキョトンとしているが、ルシウスとソールは気付いているようだ。
そこまで聞いていたランスが神妙な面持ちで俺に訪ねる。
「でも俺たちはどうすれば……」
「んー、そうだな……」
俺は当初から考えていた事がある。
コイツら強いんだろ?
俺を吹っ飛ばせるだけの力もある。
チラッとルシウスの方を見ると、ルシウスと目が合った。
俺が言いたいことが分かって段々とルシウスの顔が青ざめていく。
「……お前ら討伐隊入ったら?」
ベッドがいくつか置いてあり、机には飲みかけのコーヒーが置いてある。
さすがに今は昼間なので誰も使っていなかった。
「ベッドで寝るなんて久々だ……」
「寝るなよ。ていうか宿とか取らないのか?」
「さっきも言いましたが、冒険者には元山賊や元盗賊の人間が多いんです。そういう理由から冒険者と言うだけで入店を断る宿は少なくないんですよ。仕事柄多少お金も持っていたりするので値段も吹っかけられたりしますし。」
元々商売をやっていた身からすれば分からなくは無い。
明らかに墨が入ってる人間や酒に酔った人間なんかは本来店には入れたくは無い客だった。
勿論金さえ払ってくれて面倒事を起こさなければただの客ではあるのだが、何より他の客への印象が悪いからな。
「つまりお前ら、厄介者って事か。」
「バッサリ言いますね。まぁ、下手に濁されるよりはマシですけど。」
ランスが苦笑いを浮かべ、頭を搔く。
俺の言葉に我慢ならなかったのは魔法使いの女だった。
「アタシたちだって好きでこんなことしてる訳じゃない!!故郷の村が魔物に襲われて仕方なく、」
「それがどうした。そんなもん言い訳でしかねぇだろ。」
俺の冷たい言葉で冒険者4人がこちらを睨む。
改めて見ると深く暗い、光の無い目をしている。
彼らは彼らなりにそういう世界で生きぬかなければ行けなかったのだろう。
「俺も故郷には二度と帰れない境遇だ。だが帰りたいとも思ってない。思い出は故郷を出た時捨ててきた。」
向こうの世界に良い思い出なんてほとんどない。
そんな苦い記憶を燃やすように俺はタバコに火をつけた。
レインがそれに気付き、気を利かせて窓を開け、灰皿では無いが小さな器をその場で復元して俺に手渡してくれる。
感謝の言葉を伝えると、何も言わずそっと微笑んでさっきまで座っていた椅子に腰掛けた。
「そして俺はお前らよりも余程この世界の厄介者な筈だ。」
「一成さん、それは、」
ルシウスが言いかけたのをそっと手を上げて制止する。
言ってはいけない事くらい分かってるよ。
「お前らが現状に納得出来ないというのであれば、変えられるのはお前らしかいない。少なくとも俺はそうした。」
あくまでもこちらの世界に来てからだがな。
向こうの世界ではどれだけ辛くても今の現状が最善、体を崩すまではここから逃げ出せば悪くなる事しかないと思っていた。
現にそうして仕事を辞めて実家に帰って来たあと俺を待っていたのは、まともに仕事を続けることが出来ない奴というレッテルと、1年の療養という名の辱めだった。
見舞いに来る友人、親族達から聞こえてくる話の殆どは○○は大企業で出世しているだの○○は結婚しただのの話だった。
その頃の俺は結局他人を羨む事しか出来ず、ただ悪戯に20代前半の貴重な時間を消費し、自分をこんな目に合わせた社会全体が悪い、俺は何も悪くないと無理矢理に自分を擁護し続けていた。
こちらの世界に来て、俺はレインと出会った。
初めて会った時の彼女は半ば人生を諦めたような表情をしていた。
それでも俺が倒れていれば手を差し伸べ、他人を慈しむ心を失わず、優しい笑顔を周りに振りまく。
自分が悪いはずがない、生まれながら目が見えないという現状を誰のせいにする訳でもなく、全てを受け入れた上で彼女は優しかった。
目の見えない彼女がどんな人生を歩んできたのか俺には分からない
が、その優しさが俺の心を変えるきっかけになったのは間違いない。
図らずもそんな自らの現状を変えようとする彼女に、昔の俺とは違う何かを感じたからこそ俺は彼女の旅に同行し、自分もまた何かを変えようと思ったのだ。
「貴方は強いからそんなことが言えるんです。」
聖職者の少年が呟く。
「確かにそうかもな。だが俺はたとえ強くなくてもそうして自分の現状を変えようとした人間を知ってる。俺はその人のお陰で強くなれたんだよ。」
レインは誰の話か分からずキョトンとしているが、ルシウスとソールは気付いているようだ。
そこまで聞いていたランスが神妙な面持ちで俺に訪ねる。
「でも俺たちはどうすれば……」
「んー、そうだな……」
俺は当初から考えていた事がある。
コイツら強いんだろ?
俺を吹っ飛ばせるだけの力もある。
チラッとルシウスの方を見ると、ルシウスと目が合った。
俺が言いたいことが分かって段々とルシウスの顔が青ざめていく。
「……お前ら討伐隊入ったら?」
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