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お掃除ロボの帰還
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人類最後の男が今死んだ。
彼の魂はさ迷っていた。もはや転生する先がないからである。彼は最後まで人間だった。そんな彼が人間以外の動物に生まれ変わることはプライドが許さなかった。
彼が死んだ場所から遠く離れた異国の地で、彼は今まさに生まれようとする人間の姿を見た。
二本の足、二本の腕、ピンと背筋の伸びた姿勢。彼が覚えている人間の形に、彼の魂は憑依した。彼は新しく生まれ変わったのである。
彼が意識を取り戻すと周りは知らない景色だった。
彼は生まれて初めての一歩を踏み出した。
棒のような脚が大地を踏みしめる。生れたばかりだというのに、体は自由に動いた。
彼はじっと自分の両手を見た。メカニカルな関節、僅かに響くモーター音。彼は自分が機械の体であることに気がついた。
彼が居る場所はロボットの工場である。人類が滅亡した後も、オートメーションでロボットの製造は続けられていた。彼の魂はそのうちの一体に憑依したのである。
彼が憑依したロボットは清掃用ロボットだった。オプションのホウキとチリトリを装着することでどんな場所へでも掃除をしに行けるように設計されている。太陽電池を備え、充電も自動的に行える自立型お掃除ロボである。
彼は他のお掃除ロボを見て回った。自分と同じようにお掃除ロボに憑依している人間が居るかもしれないからだ。しかし、箱詰めにされたロボット達はどれもピクリとも動かない。動いているロボットは彼一人だけである。
彼は工場を離れて近くの町へ行った。しかし、そこには人の姿は見られなかった。動いているものは動物だけ。
彼は孤独を感じていた。
絶望に沈み、公園のベンチで座っていると人影が近づいてきた。
生き残った人間かと思われた人影の正体は彼と同型のお掃除ロボだった。お掃除ロボは公園の小道を掃除しながら去って行った。
もはや人類は絶滅したのだ。彼は実感した。
他にすることもない彼は町を離れることにした。行先は彼が人間だったころに住んでいた場所――。
彼は歩き続けた。目的地は遥か彼方。何年掛かってもいい、時間はたくさんあるのだから。
野を越え、山を越え、砂漠を越え、彼は一所懸命に歩き続けた。
彼が歩き続けて何百の昼と夜を繰り返したであろう。彼は見覚えのある場所に辿り着いた。自分が住んでいた町だ。
彼は、自分が住んでいた家に行き、扉のドアを叩いた。
――当然、返事がない。
ドアの向こうには人間だった自分が倒れているはず。彼は恐る恐るドアを開けた。
彼が死んでからどのくらいの時間が経っているのであろう。ドアを開けた先には風化してボロボロになったミイラが倒れていた。
顔はもう識別できないほど崩れ、ガリガリとなった四肢。しかし、着ている服は彼のお気に入りの服で、彼が死ぬ日に着ていたものだ。
彼は、彼を見ていた。
目の前転がっているかつての自分は、もはや生物ではなく、ただのモノである。その点においては機械の体と化した今の彼と何ら変わるものではない。
風化したミイラから視線を外して部屋の中を眺めると懐かしさを感じた。かつて自分はここに住んでいたのだと。何を感じ、何を考えて暮らしていたのだろう。かつての自分に想いを馳せると当時の記憶が甦ってきた。
――部屋を掃除しようとしていたんだ――
部屋を片付けたいという思いが彼の魂をお掃除ロボへと導いたのだ。彼は、彼の存在意義を見つけ出した。あとは、掃除ロボの本能に従って行動するだけだった。
埃を払い、雑巾がけをする。
人に見られたら困るような物は、いくら大切にしていた物でも機械の心で無慈悲に捨てた。要るもの、要らないものが分別され、部屋が見る見る広くなる。
彼の部屋は見違えるほど綺麗になった。
彼はやり遂げたのである。
部屋を綺麗にしただけで、心も綺麗になった気がした。彼がお掃除ロボに生まれ変わってから初めて感じる人間の心である。
部屋を掃除したときに出たゴミが表に出されていた。ゴミ回収車が来ないのでいつまでも放置されている。燃えるゴミに分別されたミイラが寂しげな表情をしていた。
彼の魂はさ迷っていた。もはや転生する先がないからである。彼は最後まで人間だった。そんな彼が人間以外の動物に生まれ変わることはプライドが許さなかった。
彼が死んだ場所から遠く離れた異国の地で、彼は今まさに生まれようとする人間の姿を見た。
二本の足、二本の腕、ピンと背筋の伸びた姿勢。彼が覚えている人間の形に、彼の魂は憑依した。彼は新しく生まれ変わったのである。
彼が意識を取り戻すと周りは知らない景色だった。
彼は生まれて初めての一歩を踏み出した。
棒のような脚が大地を踏みしめる。生れたばかりだというのに、体は自由に動いた。
彼はじっと自分の両手を見た。メカニカルな関節、僅かに響くモーター音。彼は自分が機械の体であることに気がついた。
彼が居る場所はロボットの工場である。人類が滅亡した後も、オートメーションでロボットの製造は続けられていた。彼の魂はそのうちの一体に憑依したのである。
彼が憑依したロボットは清掃用ロボットだった。オプションのホウキとチリトリを装着することでどんな場所へでも掃除をしに行けるように設計されている。太陽電池を備え、充電も自動的に行える自立型お掃除ロボである。
彼は他のお掃除ロボを見て回った。自分と同じようにお掃除ロボに憑依している人間が居るかもしれないからだ。しかし、箱詰めにされたロボット達はどれもピクリとも動かない。動いているロボットは彼一人だけである。
彼は工場を離れて近くの町へ行った。しかし、そこには人の姿は見られなかった。動いているものは動物だけ。
彼は孤独を感じていた。
絶望に沈み、公園のベンチで座っていると人影が近づいてきた。
生き残った人間かと思われた人影の正体は彼と同型のお掃除ロボだった。お掃除ロボは公園の小道を掃除しながら去って行った。
もはや人類は絶滅したのだ。彼は実感した。
他にすることもない彼は町を離れることにした。行先は彼が人間だったころに住んでいた場所――。
彼は歩き続けた。目的地は遥か彼方。何年掛かってもいい、時間はたくさんあるのだから。
野を越え、山を越え、砂漠を越え、彼は一所懸命に歩き続けた。
彼が歩き続けて何百の昼と夜を繰り返したであろう。彼は見覚えのある場所に辿り着いた。自分が住んでいた町だ。
彼は、自分が住んでいた家に行き、扉のドアを叩いた。
――当然、返事がない。
ドアの向こうには人間だった自分が倒れているはず。彼は恐る恐るドアを開けた。
彼が死んでからどのくらいの時間が経っているのであろう。ドアを開けた先には風化してボロボロになったミイラが倒れていた。
顔はもう識別できないほど崩れ、ガリガリとなった四肢。しかし、着ている服は彼のお気に入りの服で、彼が死ぬ日に着ていたものだ。
彼は、彼を見ていた。
目の前転がっているかつての自分は、もはや生物ではなく、ただのモノである。その点においては機械の体と化した今の彼と何ら変わるものではない。
風化したミイラから視線を外して部屋の中を眺めると懐かしさを感じた。かつて自分はここに住んでいたのだと。何を感じ、何を考えて暮らしていたのだろう。かつての自分に想いを馳せると当時の記憶が甦ってきた。
――部屋を掃除しようとしていたんだ――
部屋を片付けたいという思いが彼の魂をお掃除ロボへと導いたのだ。彼は、彼の存在意義を見つけ出した。あとは、掃除ロボの本能に従って行動するだけだった。
埃を払い、雑巾がけをする。
人に見られたら困るような物は、いくら大切にしていた物でも機械の心で無慈悲に捨てた。要るもの、要らないものが分別され、部屋が見る見る広くなる。
彼の部屋は見違えるほど綺麗になった。
彼はやり遂げたのである。
部屋を綺麗にしただけで、心も綺麗になった気がした。彼がお掃除ロボに生まれ変わってから初めて感じる人間の心である。
部屋を掃除したときに出たゴミが表に出されていた。ゴミ回収車が来ないのでいつまでも放置されている。燃えるゴミに分別されたミイラが寂しげな表情をしていた。
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