姫のまにまに

ゲス

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第1章

秋の国

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一年中続く秋が春へと変わった、あの日を忘れない。

「この国はさみしいなぁ。」
俺はため息混じりにそう呟いた。
「そんなこと言ってくれるな。芸術に恵まれた素晴らしい国さ」
俺の言葉はこうしていつもかき消されるのだ。
「芸術?笑わせてくれる。芸術なんてただの猿芝居と一年中腐りかけの葉が舞ってることがメインの国さ。おまけに名物ときたら俺の大嫌いなキノコ料理ときた」
俺の発言に毎度しわを寄せることなく会話をしてくれるもち助は俺の昔からの友達だ。
「猿芝居もいくとこまでいけば神技さ。」
そういったもち助は目にもとまらぬ速さで5メートルの木を悠々に登り詰め、頂上で俺を見下ろす。
「それに、なんてったって一年中この景色をみられるぜ。お前からしたらただの腐りかけの葉っぱだろうが、俺からしたらこの国は一つの芸術なんだ。」
そう言ったもち助は俺に目をやりここまで来いよと合図を送った。
お前の言いたいことはいつだって分かっているつもりだ。
俺はもち助の隣へいき、いつも通りの平和な景色を見渡していた。
「そういえば今日は、はるばる遠い国からお姫さんがやってくるらしいぜ」
もち助は少しワクワクした様子でそう言ってきた。
「へえ。そいつは珍しいねぇ。殿様ではなくお姫様かい。」
「あぁ、それもその姫が国を治めてんだとよ」
普通は殿方が国を治めるのが一般的だ。それを姫がおさめているとは珍しい国だ。
俺は少し興味が湧いてもち助に話しかけた。
「それはどこの国の姫さんなんだい?」
そう言うと、もち助はもっとワクワクした顔で、そしてなにか試すような表情で答えたのだ。
「くくっ。それはなぁ、この国とは真逆の国さ。春の国だ」
「ほー。その国はどの草木も一年中咲き誇ってる国なのか?」
「あぁ、そうさ。一年中紅葉のこの国と違って、どの花もまるで枯れると言うことを忘れたように咲き狂っているらしいんだ」
俺はぜひその国に行ってみたいと興味を惹かれた。
とその前に、
「それじゃあその姫さん見にいこーぜ」
俺はトップの姿を見ようともち助にそう持ちかけた。


姫が来ると言われる都にたどり着くと、やはり人で賑わっていた。
たくさんの人に推しつぶされそうになりながらも必死でもがいていた。
「おい柿助。こりゃ厳しーぞ」
「久しぶりに呼んでくれたなその名前。こっちに来い。屋根から見下ろそう。」
俺たちはこっそり誰よと見知らぬ民家の屋根の上に登ると、左から既に向かってきている列の集団を眺め始めた。
「あの大名駕籠(だいみょうかご)の中にいるのかい?」
俺は前方で担がれている花模様の綺麗な装飾を施された大名駕籠に目をやった。
「あぁ、その中に姫さんが乗ってると思う。」
「へぇー。」
ガラガラッ
「危ない!」
俺は足を崩し屋根から落ちかけたが、もち助が掴んだことによってなんとか落下せずにすんだ。上半身が屋根から飛び出しており本当に危険な状態だった。
「気をつけろよ?猿も木から落ちるってやつか。」
ほっと一息ついたもち助は柿助をこっちに持ってこようと引っ張ったがびくともしない。
「重いな!お前も固まってねぇで動け柿助!」
だが、柿助は一切動こうとしない。
一言、
「惚れた」
と柿助は言った。
その瞬間、「は?」と言いながらもち助は青ざめた。
「何を考えてるんだ柿助!」
ばっと華麗にその身を起き上がらせる柿助は、もち助に覆いかぶさった。
「一体どうなっちまったんだ柿助!」
「惚れちまったんだよ!一目惚れってやつだ!」
「俺とお前は毎日会ってるだろ!よせ!どいてくれ!」
そうやってもち助は必死の抵抗を試みるが、両腕を掴まれ顔面に柿助が顔を近づけてきた。
「どうやったら姫にお近づきになれるだろうか」
こう言ったのだ。
「それじゃあおいらには興味ないのかい?」
もち助の反応に驚いた柿助は青ざめていた。
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