上 下
9 / 12
第一部

イアンと誕生日 2

しおりを挟む
「エエエエッッ!!?い、いせ、いせか………」

「あわわわっっっ!!!!イアン!!声大きいっ!!」





二人でレストランに入ってから30分ぐらいがたった。





はじめはイアン自身のことについて、色々教えてもらった。



イアンは、国の中心部にある魔法で作る薬について学ぶ学校に行っていて、今は長期休暇で実家のとなり町まで帰って来ているらしい。


将来は薬剤師になるんだとはっきりと言っていて、チャラそう。なんてちょっと思ったことを申し訳なく感じた。




それもあって、俺は今、本当のことをイアンに告白している。

理由はそれだけじゃない。

シアラさんの孫で、リオンさんの親友なんだから、信頼できる。


何より、少しの間でも話してみて、もっと仲良くなりたくなった。


そのためには、ちゃんと俺のこともちゃんと言う必要があると思った。




この世界に来るまで、来てからのことを掻い摘まんで話したら、イアンはとても驚いていて、口が開きっぱなしになっていたので、ミニトマトを放り込んでみた。ちょっと面白かった。




しばらくして、イアンは落ち着きを取り戻してきて、お喋りを再開すると、ふと聞きたかったことを思い出した。



「ねぇ。イアン、質問なんだけど、リオンさんが貰ったら嬉しいものってどんなものだと思う?
好きなものとか、欲しいものとか。」

「え、なに?プレゼントでもするの?」

「うん。お世話になりはじめてから、もう1ヶ月だから、なにかお礼したいと思って。」


幼馴染みのイアンなら、色んなことを知ってそうだ。


「そっかぁ。」

イアンはしばらく考えている様子で唸っていたが、パッと顔をあげる。



「リオンの誕生日!!!!

リオンの誕生日がもうすぐだよ。……たしか、ちょうど2週間後!!
日頃のお礼も兼ねて、お祝いしてあげたらどう?」



「……………誕生日。いいね!!!ありがとう、イアン!!
……イアンも協力してくれる?」


「もちろんっ!!暇だし、なんでも協力するよ!!!!

題して、[リオンの最高の誕生日大作戦!!!!]

先ずは、リオンの好きなものからリストアップしてみよう!!」




こうして、リオンさんのお誕生日計画はスタートした。




お誕生日計画は、リオンさんには、秘密で進めることにした。


パン屋さんの仕事があるので、夜ご飯をリオンさんの好物ばかりにして、

あとは、ケーキと、プレゼントを用意する。

プレゼントは、今度色んなお店に行って探してみよう。


こんなことを計画したことないので、ちょっとワクワクしている。



イアンとも一緒にお祝いした方がリオンさんも嬉しいのでは。と提案したが、

ピカピカの満面の笑みで「二人の方がいいに決まってるよー!」と断られてしまった。


さらに、リオンさんの大事な日を俺が独占するのは、なんだか申し訳ない。と言ったら、イアンは、「むしろ、タケルじゃなきゃダメだよー!!」と言い出す始末。





…たぶんだけどさ。


………イアン、まだリオンさんとのこと、勘違いしたままだよね。


やけに、ニヤニヤしながらこっちを見てくるし。




「ねぇ。イアン、俺とリオンさんは恋人でもなんでもないからね?」



「えー?うん、知ってるよ。一応。

………でもさ、タケルはぶっちゃけ、リオンのこと好きでしょ。


恋愛的な意味で。」



…………え?





初めは言葉の意味が分からず、イアンは冗談で言っているのかと思ったけれど、さっきまでのニヤニヤした顔じゃなくて、いつになく真剣な顔だったので、そうじゃないと悟る。


「いや、ほんとによくしてもらってるし、いい人だから、そういう意味では好きだけど、恋とかそんなんじゃ…………」


「嘘だね。リオンに頭撫でられたときのタケルの顔、誰がどう見ても「恋してまーーす」って顔をしてるよ。

それに、俺と話してるときだって、リオンの話になれば、めっちゃ嬉しそうに話すからね?…………自分でも分かってるんじゃないの?」






そんなことない。俺が、リオンさんに恋してるとか、

好きだとか、そんなことはない。







………そんなこと、ない。



……………ほんとに?






そんなことない、




………………………………………訳が、ない。


だって、

今まで、こんなにも人に優しくしてもらったことなんてなかった。


あんなに温かい瞳で、笑顔を見せてくれる人なんて他に知らない。


違う違うと、自分に言い聞かせていたけど、

出会った次の日、初めてドキドキしたときから、きっと。

歯車は回り始めていた。


俺は、リオンさんが、好き、だ。


ああ。イアンのせいだ。

ついに、自分で認めてしまった。





でも、俺は同性愛者で、だから、リオンさんも、男の人。


この1ヶ月が俺にとって、最高に甘い日々だったとしても、リオンさんにとってはそうじゃない。



………そこを忘れたらいけない。




ドキドキして、口がカラカラに乾いてる中で、なにか言わなければと、何とか言葉を絞り出す。


「いや、でも俺もリオンさんも男だし………。」


「えっ??…………もしかして、タケルのいた世界は、
男女の恋愛以外が認められてない感じなの?」



……え?逆にこの世界は、そうじゃない感じなの?








「同性のカップルも、いるけど。多くないし。大体のところは、結婚も認められてない。嫌悪感を持つ人もいるかな。」


ホモだなんだと人と違うことをおもしろおかしく騒ぎ立てていたクラスメイトたちをみて、絶対にバレてはいけないと怯えていた苦い思い出がよみがえってくる。


俺にはバラす勇気もなかったし、ずっと人に言えないことだと思って生きてきたけど、この世界では違うのかな。





俺の言葉に驚いていたイアンは、すぐに怒ったような顔をして、話し始める。



「えっ。なにそれ。嫌悪感とか意味分かんなくない?
誰だってこの先、誰を好きになるかなんて分かんないのにさ。

てか、リオンもばあちゃんもなんで教えてないんだよ。
タケル!今から俺が教えるからちゃんと聞いててね!」


イアンの気迫に若干押されて、思わずうなずく。


「まず、この世界の夫婦は半分が男女で、半分が同性です!
で、男女の間にしか子供はできないけど、兄弟は多い方がいいみたいな風習があって、皆兄弟はたくさんいるよ。子供の養育費とかは税金で賄われて、ほとんど無償だし。それで、人口はずーっといい感じに保たれてるんだよ。

因みに、リオン家は5人兄弟で、俺のとこは3人兄弟ね。」



ええっ。夫婦の内の半分も!

パン屋さんに来てた人の中にも、いっぱいいたのだろうか。

だから皆俺とリオンさんのことを恋人だと思ったのか。納得。



………じゃあ、俺がリオンさんを好きでも、普通なこと、なのかな。



イアンは俺の気持ちを見透かしたように頷いて、ニカッと笑った。


「今の話を踏まえて、もう一度聞くけど、タケルはリオンのことが好き?」



「うん、……………好き、だよ。」


「そっかそっか!!それが聞きたかっただけ!!
よし、計画を進めよう!」

イアンはそう言うと、ぶつぶつと呟きながら考え始める。

「………イアン。」

「ん?なに?」


「…ありがと。イアンのお陰で、自分の気持ち認めれたから。
……だから、ありがとう。」


イアンは、ニコッと笑って、「それは良かった。」と言うと、頭を撫でてきた。突然のことできょとんとしたけど、ヘラっと笑ってみる。すると、



(………………これはリオンの気持ちが分かるわぁ。)



イアンがボソッとなにかを呟いたようだったけど、うまく聞き取れなかった。


…………頭撫でるのは、イアンも癖なのかな?




「イアン。今日はどうもありがとう。あと、送ってくれて、助かった。
正直、まだ、ちゃんと道覚えれてないところもあるんだよね………。」

「いえいえ、それぐらいなんてことないよ!
こちらこそ!楽しかった!ありがとーー!」

もう気がつけば、6時前で、太陽が沈みかけている。
イアンに家まで送ってもらったところだ。

今日はイアンとリオンさんの誕生日の計画して、そのあとは町をブラブラとした。

イアンがケーキは手作りにするべきだとごり押ししたので、作ることにしたけど、作ったこともないのは不安なので、シアラさんの家のキッチンを借りて練習させてもらえるよう頼みにも行った。

「イアンがいてくれなきゃ、リオンさんの誕生日も知らないままだったし、自分の気持ちも認めないままだったから……………ほんとにありがとう!」

「どういたしましてー!……いつか、リオンに気持ち伝えられたらいいね。」

「ううーー、そんな怖いことできないよ。」

「ははっ。大丈夫だと思うけどなぁ………。あ。あと俺、しばらくは、ばあちゃんちに泊まることにしたから、リオンとケンカでもしたらウチに来てねー!」


イアンはそう言いながら、ずいっと顔を近づけて来て、

「………リオン、結構脈アリだと思うけどね。俺は、」と、呟いた。




………うそ、でしょ。こんな図体のでかい男の俺なんて、ありえない、し。




そう思いながらも、顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

イアンはそんな俺をみて、クスッと笑うと、俺の頭を撫でてきた。
俺の方が背が高いので、さっきと違って、イアンは背伸びをしている。
それがなんだか面白くて、フフっと笑ってしまった。


「じゃあね。頑張って、タケル!」

「うん、またね。」

イアンはパッと俺から離れると、「バイバーイ!」といいながら、走り去っていった。


……イアンと、仲良くなれて良かったな。


イアンの姿が見えなくなるまで見送って、家に入ろうと後ろを振りかえる。

すると、リオンさんがドアの前に立っていた。





…………え、いつからそこにいたの???


さっきの会話聞かれてたらどうしよう!!!!


パニックでアワアワしている俺のもとに、リオンさんがずんずんと近づいてくる。何故か無表情なのがめっちゃ怖い。


ええええ!どっち?聞かれてる?聞かれてない?



「あ、あの!!リオンさ…………………………………うぇ?」


リオンさんに頭をいつもより乱雑に撫でられる。


……………なんで?


リオンさんはしばらく俺の髪をワシャワシャして、「ふぅ。」とため息をつくと、「おかえり、タケル。」と言った。


……………だから、どっち???
しおりを挟む

処理中です...