白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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在処のはじまり

48 宝箱

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 チャーリーが案内された先には、台座に乗った気難しい顔をした裸の男性像が三体並んでいた。皆、筋肉隆々でそれぞれが武器を掲げ、勝利の雄叫びを上げたままのポーズだ。今にも動き出しそうなほど迫力があり、緻密に作られている。それぞれグラディウス、とげの付いた鉄球が付いた棒、円盤の刀を手にしている。

「悪くないわね」

 アインスがほれぼれと裸体像を眺めていて、ツヴァイは顔を隠して指の隙間からチラチラと覗いている。その様子をルードヴィクが不機嫌そうに唇を歪めてツヴァイの耳元で「僕より彼らの方がステキかい?」と尋ねたものだから、ツヴァイは湯気が出そうなほど顔を赤くしている。そして言葉になっていない声を上げて、首を一生懸命振るのだった。その様子に性悪悪く、ルードヴィクの口元は満足そうに弧を描いたのだった。

「この銅像は何?」

「この銅像はロクストシティリ神が気に入った奴隷を銅像に変えたもんや」

 チャーリーの言葉にリースは顔を顰める。

「つまり、この銅像は生きていた人間ってころ?」

「せや。精巧に作られてるんちゃうくて、もとが人間やさかい精巧な銅像なんや」

 リースは金の像にされていたフィーアのことを思い出し、チャーリーに尋ねる。

「この人たちも呪いを解いたら人間に戻るのかしら?」

「そらない。ロクストシティリ神はそこまでこいつらを愛してへんかったさかいな。とっくの昔にこいつらは死んでる」

 マーカスが大胆にも木の棒でグラディウスを天に掲げている銅像の男性をつっついているが、像が動くことはやはりなかった。

「それでどこに宝箱があるのですか?」

 ルルリアナがチャーリーに問いかける。

「偉大なるロクストシティリ神は、大会で勝った奴隷たちに褒賞として宝箱を授けた。せやけど、ロクストシティリ神は意地の悪い神でもあり、褒美を喜ぶ彼らを直ぐに銅像にしてもうた。ちゅうことは…」

「ここに宝箱があるということですね」

 ルルリアナが銅像を示し、チャーリーはルルリアナが正解したことに満足そうに頷く。

「さすがロクストシティリ神が最も愛してる女性や。あんたも銅像にされへんように気ぃ付けてな」

 チャーリーが不吉なことを言うから、リースが顔を顰める。

「そんな不吉なことを言わないで」

「なんでや?ロクストシティリ神に気ぃ付けた方がええのはほんまのことやで。まぁ、話は一旦置いといて、とっとと宝箱を見つけなはれ」

「どうやって見つければいいの?」

 チャーリーはまるでピエロのようにひょうきんに肩をすくめる。

 肝心なところで役にたたないんだから。

「私が壊してあげようか?」

 アインスが手を広げ魔法陣を展開させようと魔力を込める。

「あなたが魔法を使ったらここが木っ端みじんになって、宝箱も手に入らないでしょうが!」

「あら、そう」

 アインスは気分を害したのかツンと顎を上げて、腕を組み壁に寄りかかり静観する姿勢になってしまった。

 ゲームでは宝箱を開けるとき、こんな銅像はなかった。やはり、リースが知っている「アイス・エンド・ワールド」の世界とこの世界とでは微妙に差異があるらしい。今のところ、大きな違いがないのが。

 リースはチャーリーに促されて銅像を観察する。さすがにもとは人間だったという銅像に触れるのは怖かったので、リースは台座の方を集中して宝箱の在処を探す。銅像は叩いても、文字をなぞっても何も変わったことはなかった。文字も銅像の人物の名前が描かれているだけだ。

 こういう時って、銅像に意味がない時は部屋に意味があるのよね。

 リースは一旦、銅像を放置し、銅像が置かれている部屋を観察する。

 銅像が置かれた部屋は銅像が置かれているだけだ。銅像の置かれた壁は半円級のドーム状にくり抜かれていた。そして、壁にはいくつかのアンティークの武器が飾られているだけだった。

 きっとこの武器がポイントなんだ。だって、この空間にこの武器の飾りは合わない。それに、ロクストシティリ神がただの武器を収集する趣味があるとは思えなかったからだ。きっと武器を飾るとしたら、その武器で戦った奴隷もセットにするはずなのだから。

 リースを手伝おうと同じく銅像の台座を探っていたルルリアナが、台座の尖った飾りで指を切ってしまう。台座の飾りの溝をルルリアナ血が伝っていく。すると台座の溝に文字が浮かび上がったのだった。

「我の宝が欲しくば、武器持ちて立ち上がれ」

「さすが、ロクストシティリ神が愛する女性の血や。めっちゃ美味しそうな匂いがする」

 ルルリアナの手を取り、チャーリーはルルリアナの血を舐めようとした。しかし、なまめかしく出された舌はフィーアが壁から取ったくぎ抜きのようなものに挟まれ、悲鳴をあげる。

「ぎゃあああああああ!何するねん!ほんまに舌が抜けてまうやろうが」

「あなたがルルリアナを汚そうとしたからでしょ」

「わしゃばい菌か!」

 可愛らしく頬を膨らませるチャーリーを無視し、台座から浮き出た文章について考える。

 我の宝が欲しくば、武器を持って立ち上がれ…か。どういった意味だろうか?文章の通りに考えるとしたらトーナメントに勝ち上がれってことなんだと思うけど、そんな文章を隠す必要があるだろうか。

 リースは何かを思いついたかのように銅像と壁に掛けられた武器たちを見つめる。

「そうか!きっとそういうことなんだ!」

 壁に掛けられたグラディウスを手に取り、グラディウスを手にしている銅像の台座を壊しにかかる。しかし、台座は擦り傷が入るだけで壊れる様子がない。

「違うのかな?」

 リースの目に、マーカスによって手当を受けているルルリアナが映る。

「そうか、血だ!」

「正解や」

「知ってるなら最初から教えてくれればいいでしょ!」

「そんなんしたらおもろないやん。人生は常に楽しまな」

「常に楽しめる人生なんてなんか嘘くさ」

「嘘?」

「えぇ、私は愛する男性と結婚して子や孫に囲まれて幸せに暮らしてた」

「孫や子って、あんた何歳なんや?」

「女性に年を尋ねるのは失礼でしょ?いいから話を聞いて。幸せな人生だったけど、時には喧嘩したしつらい時期もあった。常に幸せだなんて物語の中だけだし。つらい時期もあったから幸せが実験できた。常に楽しいなんて、現実から目を背けているだけじゃない」

 
チャーリーはふむふむとリースの言ったことを吟味する。

「やけど、それが物語やで。醜い事実から目ぇ反らし、楽しい部分だけを見る。それが喜劇であり、俺の物語や。それが俺の運命や」

「楽しいだけが人生っていうけど、恐竜の胃の中で三日過ごすのが楽しいとは思えないけど?」

「確かにそれ言われたら耳が痛いな。…そうやな、君の言うとおりだ。しんどい時期があるさかいこそ、今が輝く。やけど、俺の人生には楽しいこと以外全く必要あらへん」

「楽しい人生を過ごせたらいいね。でも、私たちに迷惑をかけないでくれたらあんたがどんな運命で人生を辿ろとどうでもいいや」

 リースは再び宝箱へと集中したため、チャーリーが三人の魔女たちを見て消えるように囁いた言葉を聞き逃していたのだった。

「そのためには、過去の遺物は必要あらへん」

 リースがグラディウスの刃先で自分の指を少しきり、刃に血を伝わせる。たっぷり血がしみ込んだのを確認し、台座に向かって突き刺したのだった。

 台座は先ほどと打って変わって、まるで皮のようにグラディウスによって切り裂かれていく。

 ザクザクと真四角に切り裂かれた台座は中が空洞になっており、そこには青い木材でできた宝箱が一つ隠されていたのだった。

 リースは残りの台座も同じように武器に血を吸わせて台座を切り裂いていく。

 リースの目の前には赤、青、黄色に塗られた木材の宝箱が現れたのだった。
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