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第15話 大人の事情は腹黒い
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するとそれまでじっと黙って何事かを考えていたカルロスが、おもむろに口を開いた。
「マティアス様、あかり様、ーーーーいや聖女という存在はご家庭を持つ事はできるのだろうか。いやその、つまり、私はあかり様を幸せにしてさしあげたい。呪いや悪しきものを払う聖女としてではなく、普通の女の子として扱ってさしあげたいのだ」
少し照れたように目の下を赤くしたカルロスは、それでも真っ直ぐにマティアスを見ながら淀む事なく自分の思いを口にする。
「聖女と言う存在は、その、処女なのだろう? 私が彼女の処女を奪えば……あかり様はこの世界に留まることにならないだろうか」
「マティアスそれはまことか!? それならば私だってあかり様を……!」
顔を赤くして興奮したように話す二人にマティアスは深い溜息を吐き、ナリッサはまるで気味の悪いモノを見てしまったように眉を顰めた。
「……そんな都合のいい方法がある訳ないでしょう。ただ方向性としては間違っていないとは思います」
「方向性とはなんだ!」
「あかり様の心を掴むことが出来れば、それだけ向こうの世界に戻りたいとは思わなくなるだろうという事です」
「なるほどそういう事か! ならば私が一番適任ではないか。この国の次期国王である私には、あかり様を守る権力も財力もある。それに以前はあんなに可愛がって下さったのだ、私の容姿もきっとお好みに違いない」
そう言って得意気に笑うアルベルトを、カルロスが鼻で笑った。
「ふっ、何をおっしゃいます。殿下が可愛がられていたのは、単に子供の頃の容姿が可愛かったからだけでしょう。大体どの口が『私は厄介者扱いをされていた』などとおっしゃるのか。殿下が厄介者扱いされていたのは、ご自身がとんでもない悪ガキだったからでしょうに」
「そうですわよ。それに生まれた時からの婚約者と気心がしれていたなどと、よくもまああんな嘘八百を。あの方とは小さい頃から顔を合わせると喧嘩する犬猿の仲、水と油だと散々言われていたではありませんか」
「ぐっ、お前等……」
「それに殿下、しがらみの多い王族に嫁いだところであかり様が余計な苦労をするだけです。その点私はあかり様と同じ庶民出身、しかも同い年だっただけあって昔から気心が知れている。それに今は昔とは違い純粋に力も身につけた。……あかり様をお守りするのは私です」
「ああら、殿下は30歳、カルロスに至っては38歳、二人共あかり様から見ればもうずいぶんなおっさんです。二人に比べたら私の方がずっと適任ですわ」
「ナリッサ、お前何を考えている? もしやお前女が……?」
「フッ、殿下、甘いですわよ? 我が息子のネイトは18歳、ルークは15歳、お若いあかり様にぴったりではありませんか」
「くっ……! ルートマイヤー家の若獅子か! こんなところに思わぬ強敵が……!」
「……3人とも、いい加減にしてください」
盛り上がる3人を、マティアスの地を這うような冷たい声が止めた。
「一番大事なのはあかり様本人のお気持ちです。いいですか、無理強いはいけません。そしてくれぐれもこんな馬鹿げた話をあかり様に気取られないように」
「ああわかった」
「もちろんだ」
「わかっております」
マティアスは神妙に返事をする3人をじろりと睨んだ。
「……それから殿下、先程伺ったところあかり様は一刻も早く神殿に帰りたいそうです。明日の午前中は殿下の予定を全て開けてください。よろしいですね?」
「それは元よりそのつもりだが……。神殿より城の方が快適だろう? 何故急ぐのだ?」
「あかり様ご本人が城が落ち着かないとおっしゃっております。……もしかしたら聖女であるあかり様には、城の空気が合わないのかもしれません。体調も万全ではないので今は無理をさせるべきではないでしょう」
「む……確かにそうだな。わかった明朝すぐに作業できるよう私の自室を準備させよう」
「殿下の自室……ですか?」
「フッ、私はやんごとなき身分だからな。みだりに人前で肌を晒す訳にはいかぬのだ。お前がそう言ったのであろう? ……今回の解呪には私とあかり様以外の人間が部屋に立ち入ることを禁ずる。いいな?」
「殿下それは……! 一体あかり様と二人きりで何をなさるおつもりか!」
「…………」
意地悪い勝ち誇ったような笑みを浮かべるアルベルトに、顔を赤くしたカルロスは怒りも露わに声を震わせる。しかしその横でマティアスは何事かを少し思案するそぶりを見せた。
「……いいでしょう。ですがあかり様に万が一の事があってはいけません。最低限の枷は付けさせていただきます。よろしいですね」
「マティアス様! しかしそれでは!」
「枷といってもせいぜいカルロスを外に見張りに立てるくらいだろう? 好きにすればいい」
「わかりました。……言質はとりましたからね。後悔なさらないように」
「うん? 何か言ったか?」
「いいえ、それでは私は明日の支度があるのでこれで失礼します」
そう言って軽く頭を下げたマティアスが足早に部屋を出て行こうとするところに、カルロスが後ろから声をかけた。
「マティアス様、……貴方のお気持ちはどうなのです」
「私の気持ち……?」
「ええ、このカーディナル全体に『聖女に感謝を奉げる日』を認知させたマティアス様が、どれだけあかり様を大切に思っていらっしゃるかは周知の事実。そのマティアス様は一体どうするおつもりか」
マティアスは立ち止まると長い銀の髪を揺らしゆっくりと振り返った。
「そんな事は口にするまでもない。……だが私は気が長い方です。ゆっくり待ちますよ。あかり様はどこへ行こうと、いずれは私の元へと帰ってくるのですから」
そして口元に蠱惑的な笑みを浮かべるマティアスが口にした次の呟きは、誰にも気づかれる事は無かった。
「……それに私のモノはいささか特殊ですからね。あかり様がこのカーディナルに慣れてから堕とす方がいいでしょう」
「マティアス様、あかり様、ーーーーいや聖女という存在はご家庭を持つ事はできるのだろうか。いやその、つまり、私はあかり様を幸せにしてさしあげたい。呪いや悪しきものを払う聖女としてではなく、普通の女の子として扱ってさしあげたいのだ」
少し照れたように目の下を赤くしたカルロスは、それでも真っ直ぐにマティアスを見ながら淀む事なく自分の思いを口にする。
「聖女と言う存在は、その、処女なのだろう? 私が彼女の処女を奪えば……あかり様はこの世界に留まることにならないだろうか」
「マティアスそれはまことか!? それならば私だってあかり様を……!」
顔を赤くして興奮したように話す二人にマティアスは深い溜息を吐き、ナリッサはまるで気味の悪いモノを見てしまったように眉を顰めた。
「……そんな都合のいい方法がある訳ないでしょう。ただ方向性としては間違っていないとは思います」
「方向性とはなんだ!」
「あかり様の心を掴むことが出来れば、それだけ向こうの世界に戻りたいとは思わなくなるだろうという事です」
「なるほどそういう事か! ならば私が一番適任ではないか。この国の次期国王である私には、あかり様を守る権力も財力もある。それに以前はあんなに可愛がって下さったのだ、私の容姿もきっとお好みに違いない」
そう言って得意気に笑うアルベルトを、カルロスが鼻で笑った。
「ふっ、何をおっしゃいます。殿下が可愛がられていたのは、単に子供の頃の容姿が可愛かったからだけでしょう。大体どの口が『私は厄介者扱いをされていた』などとおっしゃるのか。殿下が厄介者扱いされていたのは、ご自身がとんでもない悪ガキだったからでしょうに」
「そうですわよ。それに生まれた時からの婚約者と気心がしれていたなどと、よくもまああんな嘘八百を。あの方とは小さい頃から顔を合わせると喧嘩する犬猿の仲、水と油だと散々言われていたではありませんか」
「ぐっ、お前等……」
「それに殿下、しがらみの多い王族に嫁いだところであかり様が余計な苦労をするだけです。その点私はあかり様と同じ庶民出身、しかも同い年だっただけあって昔から気心が知れている。それに今は昔とは違い純粋に力も身につけた。……あかり様をお守りするのは私です」
「ああら、殿下は30歳、カルロスに至っては38歳、二人共あかり様から見ればもうずいぶんなおっさんです。二人に比べたら私の方がずっと適任ですわ」
「ナリッサ、お前何を考えている? もしやお前女が……?」
「フッ、殿下、甘いですわよ? 我が息子のネイトは18歳、ルークは15歳、お若いあかり様にぴったりではありませんか」
「くっ……! ルートマイヤー家の若獅子か! こんなところに思わぬ強敵が……!」
「……3人とも、いい加減にしてください」
盛り上がる3人を、マティアスの地を這うような冷たい声が止めた。
「一番大事なのはあかり様本人のお気持ちです。いいですか、無理強いはいけません。そしてくれぐれもこんな馬鹿げた話をあかり様に気取られないように」
「ああわかった」
「もちろんだ」
「わかっております」
マティアスは神妙に返事をする3人をじろりと睨んだ。
「……それから殿下、先程伺ったところあかり様は一刻も早く神殿に帰りたいそうです。明日の午前中は殿下の予定を全て開けてください。よろしいですね?」
「それは元よりそのつもりだが……。神殿より城の方が快適だろう? 何故急ぐのだ?」
「あかり様ご本人が城が落ち着かないとおっしゃっております。……もしかしたら聖女であるあかり様には、城の空気が合わないのかもしれません。体調も万全ではないので今は無理をさせるべきではないでしょう」
「む……確かにそうだな。わかった明朝すぐに作業できるよう私の自室を準備させよう」
「殿下の自室……ですか?」
「フッ、私はやんごとなき身分だからな。みだりに人前で肌を晒す訳にはいかぬのだ。お前がそう言ったのであろう? ……今回の解呪には私とあかり様以外の人間が部屋に立ち入ることを禁ずる。いいな?」
「殿下それは……! 一体あかり様と二人きりで何をなさるおつもりか!」
「…………」
意地悪い勝ち誇ったような笑みを浮かべるアルベルトに、顔を赤くしたカルロスは怒りも露わに声を震わせる。しかしその横でマティアスは何事かを少し思案するそぶりを見せた。
「……いいでしょう。ですがあかり様に万が一の事があってはいけません。最低限の枷は付けさせていただきます。よろしいですね」
「マティアス様! しかしそれでは!」
「枷といってもせいぜいカルロスを外に見張りに立てるくらいだろう? 好きにすればいい」
「わかりました。……言質はとりましたからね。後悔なさらないように」
「うん? 何か言ったか?」
「いいえ、それでは私は明日の支度があるのでこれで失礼します」
そう言って軽く頭を下げたマティアスが足早に部屋を出て行こうとするところに、カルロスが後ろから声をかけた。
「マティアス様、……貴方のお気持ちはどうなのです」
「私の気持ち……?」
「ええ、このカーディナル全体に『聖女に感謝を奉げる日』を認知させたマティアス様が、どれだけあかり様を大切に思っていらっしゃるかは周知の事実。そのマティアス様は一体どうするおつもりか」
マティアスは立ち止まると長い銀の髪を揺らしゆっくりと振り返った。
「そんな事は口にするまでもない。……だが私は気が長い方です。ゆっくり待ちますよ。あかり様はどこへ行こうと、いずれは私の元へと帰ってくるのですから」
そして口元に蠱惑的な笑みを浮かべるマティアスが口にした次の呟きは、誰にも気づかれる事は無かった。
「……それに私のモノはいささか特殊ですからね。あかり様がこのカーディナルに慣れてから堕とす方がいいでしょう」
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