昇華混じりの雪柳 淡い恋の白い肌

香野ジャスミン

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会えない・・・
メールだけでは済ますことができない内容なだけに、会って話をしたい。
そう思って、あの子に会えるように、いつも会えていた場所で待つ。

・・・それでも、いくら待っていても会えずにいた。
偶然だ!と、会えたことに喜んでいる姿も、近くまで来たから・・と言われた言葉も、違っていた。
あの子が、全て動いてくれていた。
部活にも、あの公園以来、姿をみせていない。

友人と話していたことは、本心ではない。
そのことだけでも、あの子に知ってほしかった。

その週、どんなにあの子のことを探しても、見つけることはできなかった。

『おかけになった電話番号は現在使われておりません』

覚悟を決めて電話をかけると機械の音声が対応した。
なぜ?
戸惑いと同時に、傷ついた。
いや、彼を先に傷つけたのは、自分である。
電話番号を変えたのか?

拒絶されたのも、仕方がないかもしれない。
ただ、一度・・・・
会って、本心を伝えたかった。

「・・・お前さ・・・
 最近、どうしたの?」

友人に八つ当たりをしそうになる気持ちを抑えようと、窓の外を見る。
「― 別に・・何もないよ」

様子を見て、明らかにいつもとは違う反応に、友人は、気分を変えようと話題を転換する。
「そういえばさ、親父がさ、ずっと執着している女がいるんだけど・・・」
・・・・
耳を傾けながら遠くを見る。
「そう言えば、お前にべったりだった奴の名前、なんだったっけ?」
急に興味のある内容になり、思わず反応をしてしまう。
まともに、友人の顔を見るが、
「・・・自分で調べたら?」
余計なことを教えたくない。
自分ですら、あの子の名前をまだ、呼んだことがないのに・・・
「つめて~の!!
 ま、いいや。
 雪柳だっけ?
 珍しい苗字だよな」
!!!!
睨みつけるように見る。
知ってるのに、ワザと聞いてくる辺り、性格の悪さがわかる。

「あいつ、もうこの学校にいないぜっ。馬鹿だよな~」
―!!!!
「どうして、いない?」
聞き返して話を聞こうとする。
「おいおいっ!
 人の話を聞いてなかったのかよ。
 だから、言ったじゃん。

 親父が執着している女がいるって。
 どこかの、お嬢様だったんだけど、親父がごたごたしている間に、結婚して子ども産んでたの。
 で、ここからが、おもしれーの。
 どこの昼ドラだよって、感じ。
 その女、実家から勘当されてんの。
 相手が花街の男らしくて、家柄がどうの・・・とかで?
 あ、それ実家にチクったの、親父。

 そいつを親父が、気に入っててな。
 女の旦那?
 それを、事故で植物人間にしてんの。
 ま、それも、親父が金でただ、機械つけて生かしてんだけど・・・
 本当に、あれって生きてんのかね?
 実は、もう死んでたりして?

 その女には、代わりに面倒をみるからって騙して、自分の身の周りの世話をさせてんの。
 女はさ、自分は雇われて住み込みで働いているって思ってんだけど、違うよな・・・
 あれは、囲われてるわ。
 普通、自分に執着している奴を警戒するだろう。

 それなのに、女はさ、自分に甘いんだろうな・・・
 もう、今にも手を出されてもいい感じだからな。
 子どもは親父からすると、邪魔だろ?
 だから、どっかに一人で暮らさせてんだけど。

 いまいち納得できねんだけど・・・
 邪魔なら、どっか施設に入れればいいだろ?
 でも、親父しないんだぜっ!
 ありゃ、なんか企んでるわ・・・

 でも、お袋にさ。バレそうになったらしい。
 女は知らないが、親父がヘマしてやんの。
 それで、違う場所に隠したんだろう・・・」

話を聞いているだけでも、最低な話だ。
目の前の友人もその最低な親の子どもだけあって、その非道な行為も気にしていない。
「たしか、その女の名字が雪柳だっけ?
 ・・・ぁぁ、そういえば、奴に似てるわ‥‥」
椅子を勢いよく押し立ち上がる。
「おいおい、どこにいく?」
引き留める声を無視して、教室をでる。

廊下を走ってあの子の教室に行く。
―バン!!
と、扉を開けると大きい音とともに、中に入る。
「雪柳くんは?!」
上級生の慌てた様子に、教室の中にいた生徒が一斉に見る。
近くにいた生徒が、躊躇いがちに話を返す。
「・・・あの・・・雪柳くんは、もうこの学校にはいません」
担任から説明されたと教えてくれた事情は、友人が話をしていた話と少し違う。
濁されて濁されてあやふやにされているのだろう。

たぶん、友人の話が真実に近いだろう。

放心状態のままで教室に戻る気にもならず、屋上に向かう。


この学校は、進学校として名高いが、そのせいか、資産家や大企業の子息が通う率が多い。
幼いころから英才教育を受けている者は、この学校に通うことが、今後の人間関係を築き上げるベースとなると言っていい。
ただ、学生の時分では、その環境を一切、学校生活では影響を与えてはいけない。
敵対する企業同士の子どもでも、学校では友人として関係を深める。
その学校にも、一般家庭の子ども中にはいる。
庶民と呼ぶのは、適切ではないだろうが、育った環境が違う家庭の子どもたちが出会えるのも、また学校の魅力の一つだった。
あの子も、たぶん普通の家庭の子どもだろうと思っていた。

本当に、あの子はこの学校を去ったのか・・・
友人の不愉快な話も気になるが、それ以上に気になったのは、彼の行方だった。

屋上で、一人考える。
スマホを取り出し、親に繋げる。
「調べていただきたいことがあります」

話をして、納得してもらえた。
本来なら自分が動くのが筋だろう。
ただ、この学校にいる限り、動くことは賢明ではない。
それでも、彼を放置することもできない。

もっと、彼について早く調べるべきだった?
いや。
興味があるからと、本人の事情を考えずに勝手に調べるのは、失礼なことだ。

あと、少し。
この学校生活が終わるまで、あの子には何も起こらないように・・・・
そう、願うしかなかった。
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