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ある日、鮫島が一人だけやってきた。
「やぁ・・・
今日はね。
君にいい物を持ってきたんだ。
ここにいたら、どうしても情報が入ってこないだろう。
私が、ちょっと懇意にしている人から譲ってもらったんだ。
どうだろう・・・
このサプリ。
これを飲んでみたら、もっと君は美しくなる」
美しく・・・・
女の人のように?
― 女だったらって言われない?―
客からの貢ぎ物は基本的に、色子の物となる。
色子の興味を引き付けるために、貢ぐ。
受け取る判断も、また色子だった。
「あの・・・
母は、元気でしょうか?」
遠慮しがちに、小さい声で尋ねる。
鮫島は、先ほどまでの温厚な態度から、急に冷たくなる。
「それは、今、聞くことではないだろう」
それを言われると、何も返せない。
所詮、客のご機嫌を損ねたら、売り上げも落ちる。
鮫島が新たに顧客を呼ぶ可能性もある。
そう思うと、雪柳は何も言えなかった。
再びガラリと雰囲気を温厚なものとし、
「では、次来るまでに、これを一日、朝と夜に飲むんだよ」
そう言い残し、鮫島は帰っていった。
鮫島が残していったサプリ。
容器のパッケージは何もない。
中の物は、ピンク色。
試しに一つ飲んでみる。
これを飲むと美しくなる。
鮫島は美しくなると言っていた。
少しでも、女性に近づけるように・・・
サプリを飲み始めて、ある評判が流れていた。
白菊の雪柳が最近、変わってきたらしい。
この噂は、花街を知る者ならすぐに興味が出てくるだろう。
持ち前の容姿に、自分を魅力的見せるように着た和服。
そして、最近特にでてきた色香。
白い肌が見える首筋。
着物の中から出てくる手は白魚のよう。
以前は、男性のような手だった。
最近は、丸みのあるとても柔らかそうな肌となっていた。
髪も長くのばされているのだが、艶もよくなっている。
鮫島から渡されたサプリは、確かに雪柳を美しくしていった。
一年。
また一年。
なくなる頃に鮫島は現れた。
そして美しくなったと褒め、そしてサプリを置いて行った。
その頃には、黒須も色子としての年季は明け、緑は客と花街を去って行っていた。
「え・・・・」
店が休みの日、面会だと、花街を去った黒須が雪柳を訪ねてきた。
「お母さん、亡くなったわ・・・」
花街をでてから一度も、連絡を取らなかった。
それは、里心を起こさないためにと考えて二人で決めたこと。
鮫島には一度、尋ねたが、冷たく避けられて知ることはできなかった。
「・・・あの。
それは、事故とかでなくなったということでしょうか?」
雪柳の質問に黒須は、じっと見つめ、横に首を振る。
「事故ではないみたい。
自殺らしい」
―・・・そんな・・
母が、母がそんなことをするはずがない。
雪柳は、黒須に詰め寄った。
「そんなはずっありません!!
父が・・・!
黒須さん、父がいるんです。
!!父は・・・父は生きているのでしょうか?」
花街に居る時には見たことのない、雪柳の感情を込めた表情を見て、黒須は驚く。
「ごめんなさいね。
そこまでは、知らないの・・・」
「父は、まだ病院であのまま・・・」
部屋は沈んだ空気になる。
絞り出すような声で雪柳が尋ねる。
「・・・母の葬儀は、どうなるのでしょう。
私は、ここから出ることはできません・・・」
黒須は、小さい声で答える。
「それが、もう、終わっていたのよ」
―!!???
何故?
誰が・・・
!!
母の実家?
黒須は、その雪柳の表情を見て先回りして答える。
「・・ご実家では、ないわ」
・・・えっ
黒須が顔を近づけ
「鮫島って知ってる?」
・・・
「はい。
母がお世話になっていて、私のお客でもあります。
ここに、来るようにと勧められたのも鮫島様です。
鮫島様が・・・。
また、お礼をしなくては。
どんどん、借りが増えてしまう・・・」
安心した表情の雪柳を、黒須はじっと見る。
「ねぇ、あなた。
何か薬を飲んでないかしら?」
?
黒須の突然に雪柳が怪訝な顔をする。
「特に、病気などはおかげさまでしていません。
あっ。
薬ではないですが・・・
毎日、欠かさずに、飲んでいるものは、ありますよ」
その答えに、黒須が反応する。
「それは、何かしら?」
雪柳はその問いの答えをはぐらかした。
もう、何度目になるだろう。
同じ言葉を、何度も言われてきたからだ。
「ふふふ・・・秘密です」
その表情を見た黒須は、違和感を覚える。
いくら美容に気を付けても、男は所詮男。
骨格も、体つきも、どんなにしても男として生まれたのには、変わらなかった。
どんなに女性的にしていても、身体から出てくるホルモンは止めることができない。
・・・・ホルモン・・・
―!!!
この子、確か女になりたいと言っていた。
それを思い出した黒須は、雪柳の姿を見る。
身体に丸みが出ている。
着物で誤魔化されているが、確かに胸のあたりも少し丸みがある。
髪も、男性特有の硬さのある髪質ではなく、艶のある柔らかいもの。
花街では、見ることのない薬。
「あなた、冗談じゃ済まされないわ。
いいから!」
―リリリン―
面会を終える時間を知らせるベルが鳴る。
「黒須さん、教えていただき、ありがとうございました」
雪柳が立ちあがり、部屋を出ようとする。
「雪柳!!
待ちなさいっ!」
一礼して部屋を出ていく雪柳。
その周りには、黒服の男たち。
ガシャン・・・
閉じられた花街と繋がる扉を黒須は、見つめる。
抱く懸念が、取り返しのつかない方向にすすんでいる。
それだけは、分かったのだった。
「やぁ・・・
今日はね。
君にいい物を持ってきたんだ。
ここにいたら、どうしても情報が入ってこないだろう。
私が、ちょっと懇意にしている人から譲ってもらったんだ。
どうだろう・・・
このサプリ。
これを飲んでみたら、もっと君は美しくなる」
美しく・・・・
女の人のように?
― 女だったらって言われない?―
客からの貢ぎ物は基本的に、色子の物となる。
色子の興味を引き付けるために、貢ぐ。
受け取る判断も、また色子だった。
「あの・・・
母は、元気でしょうか?」
遠慮しがちに、小さい声で尋ねる。
鮫島は、先ほどまでの温厚な態度から、急に冷たくなる。
「それは、今、聞くことではないだろう」
それを言われると、何も返せない。
所詮、客のご機嫌を損ねたら、売り上げも落ちる。
鮫島が新たに顧客を呼ぶ可能性もある。
そう思うと、雪柳は何も言えなかった。
再びガラリと雰囲気を温厚なものとし、
「では、次来るまでに、これを一日、朝と夜に飲むんだよ」
そう言い残し、鮫島は帰っていった。
鮫島が残していったサプリ。
容器のパッケージは何もない。
中の物は、ピンク色。
試しに一つ飲んでみる。
これを飲むと美しくなる。
鮫島は美しくなると言っていた。
少しでも、女性に近づけるように・・・
サプリを飲み始めて、ある評判が流れていた。
白菊の雪柳が最近、変わってきたらしい。
この噂は、花街を知る者ならすぐに興味が出てくるだろう。
持ち前の容姿に、自分を魅力的見せるように着た和服。
そして、最近特にでてきた色香。
白い肌が見える首筋。
着物の中から出てくる手は白魚のよう。
以前は、男性のような手だった。
最近は、丸みのあるとても柔らかそうな肌となっていた。
髪も長くのばされているのだが、艶もよくなっている。
鮫島から渡されたサプリは、確かに雪柳を美しくしていった。
一年。
また一年。
なくなる頃に鮫島は現れた。
そして美しくなったと褒め、そしてサプリを置いて行った。
その頃には、黒須も色子としての年季は明け、緑は客と花街を去って行っていた。
「え・・・・」
店が休みの日、面会だと、花街を去った黒須が雪柳を訪ねてきた。
「お母さん、亡くなったわ・・・」
花街をでてから一度も、連絡を取らなかった。
それは、里心を起こさないためにと考えて二人で決めたこと。
鮫島には一度、尋ねたが、冷たく避けられて知ることはできなかった。
「・・・あの。
それは、事故とかでなくなったということでしょうか?」
雪柳の質問に黒須は、じっと見つめ、横に首を振る。
「事故ではないみたい。
自殺らしい」
―・・・そんな・・
母が、母がそんなことをするはずがない。
雪柳は、黒須に詰め寄った。
「そんなはずっありません!!
父が・・・!
黒須さん、父がいるんです。
!!父は・・・父は生きているのでしょうか?」
花街に居る時には見たことのない、雪柳の感情を込めた表情を見て、黒須は驚く。
「ごめんなさいね。
そこまでは、知らないの・・・」
「父は、まだ病院であのまま・・・」
部屋は沈んだ空気になる。
絞り出すような声で雪柳が尋ねる。
「・・・母の葬儀は、どうなるのでしょう。
私は、ここから出ることはできません・・・」
黒須は、小さい声で答える。
「それが、もう、終わっていたのよ」
―!!???
何故?
誰が・・・
!!
母の実家?
黒須は、その雪柳の表情を見て先回りして答える。
「・・ご実家では、ないわ」
・・・えっ
黒須が顔を近づけ
「鮫島って知ってる?」
・・・
「はい。
母がお世話になっていて、私のお客でもあります。
ここに、来るようにと勧められたのも鮫島様です。
鮫島様が・・・。
また、お礼をしなくては。
どんどん、借りが増えてしまう・・・」
安心した表情の雪柳を、黒須はじっと見る。
「ねぇ、あなた。
何か薬を飲んでないかしら?」
?
黒須の突然に雪柳が怪訝な顔をする。
「特に、病気などはおかげさまでしていません。
あっ。
薬ではないですが・・・
毎日、欠かさずに、飲んでいるものは、ありますよ」
その答えに、黒須が反応する。
「それは、何かしら?」
雪柳はその問いの答えをはぐらかした。
もう、何度目になるだろう。
同じ言葉を、何度も言われてきたからだ。
「ふふふ・・・秘密です」
その表情を見た黒須は、違和感を覚える。
いくら美容に気を付けても、男は所詮男。
骨格も、体つきも、どんなにしても男として生まれたのには、変わらなかった。
どんなに女性的にしていても、身体から出てくるホルモンは止めることができない。
・・・・ホルモン・・・
―!!!
この子、確か女になりたいと言っていた。
それを思い出した黒須は、雪柳の姿を見る。
身体に丸みが出ている。
着物で誤魔化されているが、確かに胸のあたりも少し丸みがある。
髪も、男性特有の硬さのある髪質ではなく、艶のある柔らかいもの。
花街では、見ることのない薬。
「あなた、冗談じゃ済まされないわ。
いいから!」
―リリリン―
面会を終える時間を知らせるベルが鳴る。
「黒須さん、教えていただき、ありがとうございました」
雪柳が立ちあがり、部屋を出ようとする。
「雪柳!!
待ちなさいっ!」
一礼して部屋を出ていく雪柳。
その周りには、黒服の男たち。
ガシャン・・・
閉じられた花街と繋がる扉を黒須は、見つめる。
抱く懸念が、取り返しのつかない方向にすすんでいる。
それだけは、分かったのだった。
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