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序章 合縁奇縁
因果応報
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自由に生きてきた、縛られることなく、家族の誰より自由だった。
狭い家の中で過ごすよりも、広い世界を見たくて家を出た、今思えばだいぶ無茶をしたのだと思う、放浪というには短い日々を乗り越えて辿り着いたのはとある貴族の家だった。
怪しさしかない私の事を受け入れて、様々な稽古をつけてくれた、武術に学問、芸術や魔法、どれも初めてのことで広い世界の中で生きるのが楽しくて仕方がなかった、生まれた国を出て、付いて行く人を決めて、ずっとそうやって生きるんだと思っていた。
なのに、今の私はどうだろうか。
恩のある家を出て、仕える人を失って、その果てに辿り着いたのは、名家の令嬢として隣国の皇帝に嫁ぐ道。
なんで、こんなことになったのか、
見知らぬ部屋の鏡を見つめながらぼんやりと死んだ顔の自分に問い掛ける。
「こんなことしたい訳じゃない、」
誰もいない部屋、広い屋敷の離れは私の嫁入りの準備の為だけに使われている。せめても大公家の令嬢として見えるようにしてから嫁がせるためだろう。
数ヶ月に及んだ準備を終えて、今日私はこの家を出る。
馬車に乗り込んで外を見やれば大公家の人々が揃い踏みで私を見送っていた、私が皇帝に嫁いで役目を果たすのを望んでいるのだろうに、心配なのか面持ちが暗い。
一応は"娘"を皇后として送り出すのだから、せめても明るい顔をすればいいのに、そこには気が回らないのだろう、それ以上見ているのも忍びないからそのまま馬車のカーテンを閉める、乗り合いの侍女までもが不安そうな顔をする。
「ルクシアーシャ様、どうかなさいましたか?
これより長旅にはなりますが、魔法転移式によってなるべくご負担がないように致しますゆえ、不安なことがあれば申し付け下さい。
一切の不自由なく帝国に送り届けよと、大公様より承っておりますから、何かあればすぐにも、」
「別に構わないわ、気にしているのはそこでは無いから。
転移式で帝国に辿り着いたあとの方が、気掛かりだわ。」
「帝国領に入ったあと、ですか?
内乱などが起きているわけでもございませんし、至って平和であると伝え聞いておりますが」
「だからといって、隣国から急にやってきた皇后が直ぐに受け入れられるかは別問題でしょう、歳の近い令嬢など幾らでもいるのに、わざわざソフィルニア王国の大公家令嬢を皇后に迎える意味は何かしら、」
「それは勿論、両国の友好の証として、かと。
現皇帝は国境付近の争いや、反乱などを平定し、長く続いていた近隣国との小競り合いも解決したことで先帝から譲位されたと言われていますから、軍事力を鑑みてその気になればソフィルニアと開戦することも可能だったはずです。
ですがそんなことになれば両国共に疲弊し、戦火が国を焼くだけですから、その気は無いということを示すためにも友好の証として高位貴族のご令嬢を皇后として迎えたいと、皇帝直筆で申し出てきたと、大公様は仰られていました。」
「そして、そんなままごとの為に私はシオンフォルス帝国皇帝の元へ嫁ぐと、
上手くいくかも分からない賭けに出るのは好きでは無いんだけど、そんなことも言ってられないのかしら、
タダでさえ王国でも帝国でも、開戦派が動き回ってるんですから。」
「アーシャ様?!?そんな事、口が裂けても向こうでは言ってはなりませんよ!?
そんなことをすれば、」
「殺されてしまう、かしら?、それとも、情報収集が上手くいかなくなってしまう?
どちらでも構わないわ、申し付けられた分の役目は果たすわ、お飾りの令嬢でもある程度の仕事はしなくては、ボロが出てしまうもの。
ちゃんと頑張るから、そんなに青い顔をしないでアルバ、今から馬車酔いみたいな顔よ。」
「誰のせいだと思ってるんですか、、、」
大公家からお目付け役として付けられた侍女のアルバは良くも悪くも素直な人柄だ、私より5歳ほど歳上で、わざわざ私の為だけに帝国に着いてきてくれるくらいには、お人好しだとも言える。
まぁ、少し口煩い時もあるものだけど。
そんなこんなで揺れの少ない馬車に乗って暫く走れば、ようやく帝国と王国を結ぶ転移式に辿り着いた。
馬車に乗りながら式が発動する、少し強い光に思わず目をつぶって耐えていればほんの少しの浮遊感と共に、
歓声の響く大きな広場にたどり着いていた。
「随分と盛大なお祭りね、」
「それは勿論、!皇后を迎える為に皇帝自らが指揮を執って計画から実行までを行ったのですから、盛大に開かれない筈がありません!
お嬢様のための祭りと言っても過言では無いのですよ!」
やけに興奮した様子のアルバを横目に、馬車の外を眺める。帝国民達は随分と顔色も良く、パッと見ただけでも貧民街は見当たらない。勿論こんな大通りから見える場所には無いだろうけれど、少なくとも整備されている街中を見れば
「幸せそうな国ね、」
お金に目が眩んだ犯罪、権力を求めた闘争、痴情のもつれ、
人間が生きるには否定しようがない事実、醜い本性、それをこの国の皇帝は誰よりも知っているはずだ。
にも関わらず、民には裕福な暮らしをさせ、貴族には権力を与え、そして他国から嫁いでくる皇后は盛大に祝う、
「せめて能無しなら良かったのに。」
「何か言われましたか?」
「いいえ、気にしないで。独り言よ。」
見ればわかる、皇帝は酷く頭が回る。民には不満を与えず、貴族は上手く手のひらで転がし、
隣国からは適度に高位な"無能"の公女を皇后に迎え入れる。
全て、人間の愚かさを理解しているから出来ることだ。
『お飾りでいればいい』
「お飾りなら、自分の隣でお人形みたいに座っていればいいってことかしら。」
皇宮までの道のりを馬車がゆっくりと走っていく、沿道の国民達は無邪気に皇后の名を叫ぶ、これから婚姻式だと言うのに既に式は終わったかのような盛り上がりだ。
「式の流れは、把握されていらっしゃいますか?」
「あら、貴方は?」
「急に失礼致しました、帝国近衛騎士団1番隊隊長のフィリップ・グライオンと申します。
転移式から皇宮までの馬車の護送を担当しております。」
少し馬車の窓を開けていた私に、流れるように話しかけて来たのは、少しくすんだ黄金色の髪の騎士だった。
馬に乗りながらもブレない体幹、馬車に乗った私が見上げるレベルには高い身長と鍛えられた体格、隊長と名乗るだけはある実力者であろうことはすぐに分かった。
「護送ね、皇帝陛下は随分と私のことを気にかけて下さっているようでなによりだわ。
後で感謝の言葉を申し上げなければいけないわね。」
口角は少しあげて、眉は下げて、あどけない表情を演出する。箱入り娘として、お飾りの皇后として、毒気のない人間を演じるのだ。
「それは勿論、皇帝陛下はこの日を大変待ち望んでおられましたから。皇宮での式の準備も陛下が一から指揮されたのですよ。
きっと、喜ばれるかと思います、式の後にお時間がありますのでそこでお伝え下さいませ。」
随分と皇帝のことを知っているような口ぶりをする、親しい中とでも言いたいのだろうか。
それにしては私に対して警戒心が無さすぎる、精々近くで仕えたことがあるという程度だろうか、悪意のある人間では無いが皇宮内で上手く立ち回れる人間かは、微妙なところだろうか。
だからこそ、私の護送を担当しているのか。
「ありがとう、この後の式を楽しみにしているわ。」
少女のように、少し大人びた表情から幼さを見せれば、流石に警戒心は持たれないだろう。
この国の中枢たる皇宮で生きていくのであれば、警戒されていない方が動きやすい、少しくらい信頼されている方が上手く情報も拾えるはずだ。
グライオン卿から皇宮についてからの流れについて説明をされつつ、帝国から届いていた式の流れと誤差がないことを把握する。
流石に嫁いで初日に恥をかくようなことにはならずに済みそうで安心する。ドレスは白と決まっているし、婚姻式からのパレードまでのドレスは華やかな水色だ。
どれも皇室御用達の仕立て屋がデザインし、作り上げたものを大公家で確認し、調整して持ってきている。
どちらも委細問題がないことをアルバが確認しているから、心配はしていない。
白で統一された皇宮の入口は神聖さすら醸し出している、想像以上の荘厳さだった。
帝国はその領土の広さと影響力に見劣りしない皇宮を設えているとは聞いていたけれど、実際に見るのは初めてだった。
私が驚いた顔をしながら外を眺めていれば、グライオン卿が少し微笑んでいるのが見えた。
「こちらはほんの先月に完成したばかりの、新しく造られた入口なのですよ、皇帝陛下が即位なされてから、皇宮は色々と改築しているのですが、ここはその中でも1.2を争うほどに大規模に改築したのです。
陛下は昔から様々な分野にご関心があったそうで、建築もそのひとつなのでしょう。」
「そうなのね、私には陛下についてまだまだ知らないことが沢山あるようだわ。」
思わず感心の声が零れてしまう。ここまでの改築をここ数年で行ったというのは流石の手腕だ、譲位されてから暫くは皇帝としての地位を固めるのに時間を費やすのが普通なのに、それどころか皇宮の改築に手を出すとは、
「皇帝陛下は随分と多才な方でいらっしゃるんですね、」
アルバの言葉に思わず頷く、
「ええ、そのようね。
まだ随分お若いと聞いているけれど、その賢才が存分に発揮されているようだわ。」
私が現在19歳、陛下はそれより3つ歳上の22歳だと聞き及んでいる。
その時まで婚約者が居なかったのも驚きだが、皇太子妃不在のままで即位し、暫くの間も皇后どころか皇妃も置かなかったとは、中々の策士といえる。
シオンフォルス帝国は皇室の力が強いことで知られ、外部による干渉を受けにくい為に、貴族たちは息子や娘を近臣として送り出すことが多い。
皇室に入れば血縁家族との繋がりは、臣下との関係性になり親しく交流することは難しい。そのためどれだけ優秀な子を皇室に送り込んで、皇太子が産まれようとも貴族は外祖父などとして政治に介入することが難しく、皇室から政治を支配する事はほぼ不可能だ。
それならば、と貴族たちはこぞって子を臣下に送り出し、帝国議会での発言力を追い求めるという。
だからこそ皇室は議会を尊重し、皇室の独立性を保ち続けている。
皇室の結婚が自由性の高いものである理由はここにあるのだろう、実際、現皇帝も22歳まで結婚せずにいたところで、急に隣国の大公家から碌に社交活動もしていなかった令嬢を皇后に迎え入れている。
果たして、本当に皇帝がそれを望んでいたかは別として、少なくとも国内で済ませれば楽なところをわざわざ隣国から皇后に迎え入れているのだから、そこに政治的な思惑が絡んでいないわけが無い。
何せ"ルクシアーシャ・グラファイン"は皇帝と全くもって繋がりがないのだから、なぜ急に選ばれたのか心底不思議でならないはずだ。
だからこそ私も、何も知らずに嫁いできた人畜無害のお飾り皇后の顔をしなければならない、皇帝の顔も知らず、皇宮の位置も良く把握していない、箱入り娘を演じなければならないのだ。
まもなく皇宮に辿り着く、馬車のドアが開いたらそこからはもう気を抜けない。一瞬たりとも、"お飾り"としての仮面を外すことは許されない、生きるため、そして使命を果たすためには"ルクシアーシャ"としてこの皇宮で振る舞わなければならない、失敗は許されないのだから。
「グラファイン大公家長女 ルクシアーシャ・グラファイン様のご到着です!」
狭い家の中で過ごすよりも、広い世界を見たくて家を出た、今思えばだいぶ無茶をしたのだと思う、放浪というには短い日々を乗り越えて辿り着いたのはとある貴族の家だった。
怪しさしかない私の事を受け入れて、様々な稽古をつけてくれた、武術に学問、芸術や魔法、どれも初めてのことで広い世界の中で生きるのが楽しくて仕方がなかった、生まれた国を出て、付いて行く人を決めて、ずっとそうやって生きるんだと思っていた。
なのに、今の私はどうだろうか。
恩のある家を出て、仕える人を失って、その果てに辿り着いたのは、名家の令嬢として隣国の皇帝に嫁ぐ道。
なんで、こんなことになったのか、
見知らぬ部屋の鏡を見つめながらぼんやりと死んだ顔の自分に問い掛ける。
「こんなことしたい訳じゃない、」
誰もいない部屋、広い屋敷の離れは私の嫁入りの準備の為だけに使われている。せめても大公家の令嬢として見えるようにしてから嫁がせるためだろう。
数ヶ月に及んだ準備を終えて、今日私はこの家を出る。
馬車に乗り込んで外を見やれば大公家の人々が揃い踏みで私を見送っていた、私が皇帝に嫁いで役目を果たすのを望んでいるのだろうに、心配なのか面持ちが暗い。
一応は"娘"を皇后として送り出すのだから、せめても明るい顔をすればいいのに、そこには気が回らないのだろう、それ以上見ているのも忍びないからそのまま馬車のカーテンを閉める、乗り合いの侍女までもが不安そうな顔をする。
「ルクシアーシャ様、どうかなさいましたか?
これより長旅にはなりますが、魔法転移式によってなるべくご負担がないように致しますゆえ、不安なことがあれば申し付け下さい。
一切の不自由なく帝国に送り届けよと、大公様より承っておりますから、何かあればすぐにも、」
「別に構わないわ、気にしているのはそこでは無いから。
転移式で帝国に辿り着いたあとの方が、気掛かりだわ。」
「帝国領に入ったあと、ですか?
内乱などが起きているわけでもございませんし、至って平和であると伝え聞いておりますが」
「だからといって、隣国から急にやってきた皇后が直ぐに受け入れられるかは別問題でしょう、歳の近い令嬢など幾らでもいるのに、わざわざソフィルニア王国の大公家令嬢を皇后に迎える意味は何かしら、」
「それは勿論、両国の友好の証として、かと。
現皇帝は国境付近の争いや、反乱などを平定し、長く続いていた近隣国との小競り合いも解決したことで先帝から譲位されたと言われていますから、軍事力を鑑みてその気になればソフィルニアと開戦することも可能だったはずです。
ですがそんなことになれば両国共に疲弊し、戦火が国を焼くだけですから、その気は無いということを示すためにも友好の証として高位貴族のご令嬢を皇后として迎えたいと、皇帝直筆で申し出てきたと、大公様は仰られていました。」
「そして、そんなままごとの為に私はシオンフォルス帝国皇帝の元へ嫁ぐと、
上手くいくかも分からない賭けに出るのは好きでは無いんだけど、そんなことも言ってられないのかしら、
タダでさえ王国でも帝国でも、開戦派が動き回ってるんですから。」
「アーシャ様?!?そんな事、口が裂けても向こうでは言ってはなりませんよ!?
そんなことをすれば、」
「殺されてしまう、かしら?、それとも、情報収集が上手くいかなくなってしまう?
どちらでも構わないわ、申し付けられた分の役目は果たすわ、お飾りの令嬢でもある程度の仕事はしなくては、ボロが出てしまうもの。
ちゃんと頑張るから、そんなに青い顔をしないでアルバ、今から馬車酔いみたいな顔よ。」
「誰のせいだと思ってるんですか、、、」
大公家からお目付け役として付けられた侍女のアルバは良くも悪くも素直な人柄だ、私より5歳ほど歳上で、わざわざ私の為だけに帝国に着いてきてくれるくらいには、お人好しだとも言える。
まぁ、少し口煩い時もあるものだけど。
そんなこんなで揺れの少ない馬車に乗って暫く走れば、ようやく帝国と王国を結ぶ転移式に辿り着いた。
馬車に乗りながら式が発動する、少し強い光に思わず目をつぶって耐えていればほんの少しの浮遊感と共に、
歓声の響く大きな広場にたどり着いていた。
「随分と盛大なお祭りね、」
「それは勿論、!皇后を迎える為に皇帝自らが指揮を執って計画から実行までを行ったのですから、盛大に開かれない筈がありません!
お嬢様のための祭りと言っても過言では無いのですよ!」
やけに興奮した様子のアルバを横目に、馬車の外を眺める。帝国民達は随分と顔色も良く、パッと見ただけでも貧民街は見当たらない。勿論こんな大通りから見える場所には無いだろうけれど、少なくとも整備されている街中を見れば
「幸せそうな国ね、」
お金に目が眩んだ犯罪、権力を求めた闘争、痴情のもつれ、
人間が生きるには否定しようがない事実、醜い本性、それをこの国の皇帝は誰よりも知っているはずだ。
にも関わらず、民には裕福な暮らしをさせ、貴族には権力を与え、そして他国から嫁いでくる皇后は盛大に祝う、
「せめて能無しなら良かったのに。」
「何か言われましたか?」
「いいえ、気にしないで。独り言よ。」
見ればわかる、皇帝は酷く頭が回る。民には不満を与えず、貴族は上手く手のひらで転がし、
隣国からは適度に高位な"無能"の公女を皇后に迎え入れる。
全て、人間の愚かさを理解しているから出来ることだ。
『お飾りでいればいい』
「お飾りなら、自分の隣でお人形みたいに座っていればいいってことかしら。」
皇宮までの道のりを馬車がゆっくりと走っていく、沿道の国民達は無邪気に皇后の名を叫ぶ、これから婚姻式だと言うのに既に式は終わったかのような盛り上がりだ。
「式の流れは、把握されていらっしゃいますか?」
「あら、貴方は?」
「急に失礼致しました、帝国近衛騎士団1番隊隊長のフィリップ・グライオンと申します。
転移式から皇宮までの馬車の護送を担当しております。」
少し馬車の窓を開けていた私に、流れるように話しかけて来たのは、少しくすんだ黄金色の髪の騎士だった。
馬に乗りながらもブレない体幹、馬車に乗った私が見上げるレベルには高い身長と鍛えられた体格、隊長と名乗るだけはある実力者であろうことはすぐに分かった。
「護送ね、皇帝陛下は随分と私のことを気にかけて下さっているようでなによりだわ。
後で感謝の言葉を申し上げなければいけないわね。」
口角は少しあげて、眉は下げて、あどけない表情を演出する。箱入り娘として、お飾りの皇后として、毒気のない人間を演じるのだ。
「それは勿論、皇帝陛下はこの日を大変待ち望んでおられましたから。皇宮での式の準備も陛下が一から指揮されたのですよ。
きっと、喜ばれるかと思います、式の後にお時間がありますのでそこでお伝え下さいませ。」
随分と皇帝のことを知っているような口ぶりをする、親しい中とでも言いたいのだろうか。
それにしては私に対して警戒心が無さすぎる、精々近くで仕えたことがあるという程度だろうか、悪意のある人間では無いが皇宮内で上手く立ち回れる人間かは、微妙なところだろうか。
だからこそ、私の護送を担当しているのか。
「ありがとう、この後の式を楽しみにしているわ。」
少女のように、少し大人びた表情から幼さを見せれば、流石に警戒心は持たれないだろう。
この国の中枢たる皇宮で生きていくのであれば、警戒されていない方が動きやすい、少しくらい信頼されている方が上手く情報も拾えるはずだ。
グライオン卿から皇宮についてからの流れについて説明をされつつ、帝国から届いていた式の流れと誤差がないことを把握する。
流石に嫁いで初日に恥をかくようなことにはならずに済みそうで安心する。ドレスは白と決まっているし、婚姻式からのパレードまでのドレスは華やかな水色だ。
どれも皇室御用達の仕立て屋がデザインし、作り上げたものを大公家で確認し、調整して持ってきている。
どちらも委細問題がないことをアルバが確認しているから、心配はしていない。
白で統一された皇宮の入口は神聖さすら醸し出している、想像以上の荘厳さだった。
帝国はその領土の広さと影響力に見劣りしない皇宮を設えているとは聞いていたけれど、実際に見るのは初めてだった。
私が驚いた顔をしながら外を眺めていれば、グライオン卿が少し微笑んでいるのが見えた。
「こちらはほんの先月に完成したばかりの、新しく造られた入口なのですよ、皇帝陛下が即位なされてから、皇宮は色々と改築しているのですが、ここはその中でも1.2を争うほどに大規模に改築したのです。
陛下は昔から様々な分野にご関心があったそうで、建築もそのひとつなのでしょう。」
「そうなのね、私には陛下についてまだまだ知らないことが沢山あるようだわ。」
思わず感心の声が零れてしまう。ここまでの改築をここ数年で行ったというのは流石の手腕だ、譲位されてから暫くは皇帝としての地位を固めるのに時間を費やすのが普通なのに、それどころか皇宮の改築に手を出すとは、
「皇帝陛下は随分と多才な方でいらっしゃるんですね、」
アルバの言葉に思わず頷く、
「ええ、そのようね。
まだ随分お若いと聞いているけれど、その賢才が存分に発揮されているようだわ。」
私が現在19歳、陛下はそれより3つ歳上の22歳だと聞き及んでいる。
その時まで婚約者が居なかったのも驚きだが、皇太子妃不在のままで即位し、暫くの間も皇后どころか皇妃も置かなかったとは、中々の策士といえる。
シオンフォルス帝国は皇室の力が強いことで知られ、外部による干渉を受けにくい為に、貴族たちは息子や娘を近臣として送り出すことが多い。
皇室に入れば血縁家族との繋がりは、臣下との関係性になり親しく交流することは難しい。そのためどれだけ優秀な子を皇室に送り込んで、皇太子が産まれようとも貴族は外祖父などとして政治に介入することが難しく、皇室から政治を支配する事はほぼ不可能だ。
それならば、と貴族たちはこぞって子を臣下に送り出し、帝国議会での発言力を追い求めるという。
だからこそ皇室は議会を尊重し、皇室の独立性を保ち続けている。
皇室の結婚が自由性の高いものである理由はここにあるのだろう、実際、現皇帝も22歳まで結婚せずにいたところで、急に隣国の大公家から碌に社交活動もしていなかった令嬢を皇后に迎え入れている。
果たして、本当に皇帝がそれを望んでいたかは別として、少なくとも国内で済ませれば楽なところをわざわざ隣国から皇后に迎え入れているのだから、そこに政治的な思惑が絡んでいないわけが無い。
何せ"ルクシアーシャ・グラファイン"は皇帝と全くもって繋がりがないのだから、なぜ急に選ばれたのか心底不思議でならないはずだ。
だからこそ私も、何も知らずに嫁いできた人畜無害のお飾り皇后の顔をしなければならない、皇帝の顔も知らず、皇宮の位置も良く把握していない、箱入り娘を演じなければならないのだ。
まもなく皇宮に辿り着く、馬車のドアが開いたらそこからはもう気を抜けない。一瞬たりとも、"お飾り"としての仮面を外すことは許されない、生きるため、そして使命を果たすためには"ルクシアーシャ"としてこの皇宮で振る舞わなければならない、失敗は許されないのだから。
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追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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