月影の魔法使い 〜The magic seeker of the moonlight shadow〜

よしだひろ

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エングラントの槍編

守りの布陣

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 翌日シュタインはネーエンを屋敷に呼んだ。今後の方針について話すためだ。
「ネーエン殿。バオホが攻め込んでくるのはどの方角だと思う?」
 フェネッケンは西に雪割り山脈を持つ。山脈を超えるとエングラント大公国だ。この山脈は高くそびえ夏でも頂には雪が残っている。そして南の方に長く続いていた。軍隊を山脈の向こうから山を越えて移動させる事は現実的ではない。
「セオリーから言えば雪割り山脈が低くなっている北西の方角から攻め込んでくるだろうな」
「確かにね……」
 シュタインもそれは考えていた。しかしそれではセオリー通りで、それを元に守りの布陣を敷けば簡単に打ち払う事が出来る。バオホがそんな単純な手で来るだろうか。
「シュタインよ。魔法の軍勢とはどのようなものなのだ?」
 一年戦争の頃は魔法使いは重宝されその数も多かった。兵士として訓練された魔法探究者が一部隊として編成されていた。だから戦闘となれば魔法を交えての白兵戦だった。
 しかし今回バオホが率いるのは、基本的に普通の兵士軍団だ。その代わり魔法により鍛えられた武具を装備している。
「兵士達は魔法を使うわけではないけれど、魔法により守られていたり魔法をかけられた武器による攻撃はダメージが大きいと思った方がいい」
 シュタインは徐ろに腰に挿した剣を取り出した。
「例えばこの剣は一見普通の剣だが、実際は魔剣です。その攻撃力は同じくらいの剣に比べて遥かに大きい」
 シュタインは剣を抜いて見せた。気のせいかうっすら光っているようにも見える。
「見た目には普通の剣ですよね? しかし通常の剣より攻撃力は高い。こんな剣を持ってる兵士がゴロゴロいるんですよ。全員ではないけどね」
「ふーむ」
 ネーエンはそれを全く信じられなかった。
「恐らくバオホの軍団は総数は五百程度。しかし魔法によって鍛えられている事を考えると攻撃力は数倍と考えた方がいいです」
「たかが魔法で数倍もの力になるとは思えん。敵が五百で来るならこちらも五百で十分だ。北西の陣でいいな?」
「それでいいですよ。ただし国境付近には通常より多く、密に斥候を出していてほしい。迅速に対応するためにね」
「分かった。で、残りの兵士達には何をさせる?」
 シュタインはバオホが北西の山を越えてくるとは思えなかった。ネーエンにそう言ったのは、五百で迎え撃つとネーエンが言ったからだ。来もしない布陣に多くの兵を割くわけにはいかない。それでネーエンが納得するならそれで良いと思ったのだ。
 北西の山から来ないなら、どこから来る?
 雪割り山脈を越える事など到底できないだろう。理屈ではそうだ。
「残りの兵士のうち二千は採掘場の防衛を頼みます。残りで街自体を守ります」
「守る? 北西の平地が戦場だぞ。何から守るのだ?」
「魔法探究者を侮ってはいけない。考えうる全ての事には対処しておくのです。兵を分散配置する事で、臨機応変に対応できる」
 シュタインは何か嫌な予感がしていた。
 細かい打ち合わせを終えてネーエンは帰っていった。
 シュタインはすぐにミカに言った。
「ミカ。雪割り山脈について詳しく調べてみてくれないか。図書館に行けば古い文献もあるだろうから」
「分かりました」
 常識的に考えるのならばバオホは北西の、低くなっている山地を超えてくるしかない。それは分かる。しかし、バオホは何か別の道を知っているような気がして仕方がなかった。
 もし自分がバオホの立場なら北西の道は選ばない。待ち伏せされているのは目に見えているからだ。
 西から来るか?
 西からなれば採掘場がそこにある。しかし山をどう越える?
 南西、もしくは南から?
 採掘場から見てバオホの拠点エングラントの槍は南にある。
 雪割り山脈は長く南へ続いている。山越えを避けるなら一旦エングラントの槍から更に南へ下って迂回する方法もある。しかしそれでは時間がかかってしまう。
「バオホは時間に迫られているわけではない。ならば南からの道が一番不意をつけるか……?」
 シュタインは結論を決めかねていた。今はあり得る全ての可能性に対応しておく必要がある。
「取り敢えず町長の屋敷の守りも考えなければ」
 シュタインは部屋を出て町長の屋敷へ向かった。バオホの最終的な目標は町長の首。これを取り戦意が喪失したところを最終攻撃するつもりだろう。
 シュタインは町長の屋敷に着くとあちらこちらをウロウロするのだった。門番は不審に思うのだが考え事をしながらうろついてるのだろうと納得していた。
     *
 翌日も天気の良い心地よい日だった。
「班長、あの魔法使い……シュタインとか言いましたっけ? 奴は何をやってるのでしょうか?」
 街の城壁の上に陣を構えている治安部隊の兵士が城壁から外を警戒していた。街を出て西の方角に広い荒地が広がっているのだが、シュタインはその荒地をあっちへ行ったりこっちへ来たり、ウロウロとさまよっていたのだった。
「さあな。魔法使いと言う者は初めて見たが、噂通り変わり者さ」
 魔法使いと言うのはこの当時良く思われてはいなかった。その昔はどこにでも魔法を習得した者がいて日常的に見かける存在だった。しかし時が流れるとともにその数は減り、その実態を知る者も少なくなり、権威は下がり、一般に変わり者と思われるようになっていた。
「西から来るはずもない敵軍の警戒をさせるとか、あいつ戦ってものを分かってるんですかね?」
「一応ネーエン様からの命令だ。ネーエン様には何か考えがおありなのだろう」
 昼になりシュタインがウロウロ歩きから帰ってきた。この辺りは西側付近に荒地が多かった。畑を作ってもうまく作物が育たない。だからこの街は食料の多くを近くの街などから輸送してもらっていた。
 シュタインが帰ってくるのを見て愚痴を漏らしていた兵士が下の方に向かって叫んだ。
「魔法使い様がお帰りだ! 門を開けよ!」
 シュタインが門に着く頃、門扉の片側が外側に少し押し広げられた。
 シュタインは兵士に礼を言って中に入った。
 丁度そこへミカが走って向かってきた。シュタインの元まできて両膝に手をついてハアハアと息を吐いている。
「どうしたんだい?」
「雪割り山脈に道を見つけました!」
「なんだって⁉︎」
 シュタインはチラリと周りの兵士を見た。ここは場所が悪い。
「取り敢えず息を整えよう。ここでは何だから屋敷に戻ろう」
 頷くとシュタインとミカは屋敷に向かって歩き出した。
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