月影の魔法使い 〜The magic seeker of the moonlight shadow〜

よしだひろ

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Eine Serenade des Vampirs編

オーテンベルを襲う者

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 シュタインの屋敷を出て二十日程経った。シュタイン達は街道から逸れて小さな道を進んでいた。遠くに村が見える。
「まだ日があるな。あれがオーテンベルの村かな?」
 その日はオーテンベルという村まで行って宿泊する予定だった。その村に宿泊施設があるのかは分からなかったがなんとかなるだろうとシュタインは思っていた。
 暫く進むと道の右側に畑が広がっていた。道の反対側は羊や牛が放牧されている。
「なんか変だな」
 シュタインは呟いた。並走していたリグルが聞いた。
「何か変ですか?」
「農作業をしている人がいない。今は春だから作業も余りないのかな?」
「どうなんでしょうね。或いはもう作業を終えて村に帰ってるのでは?」
 シュタインは何となく違和感を感じたがそういう物なんだと納得した。
 村の門は木で出来た簡易な門で門扉と言うか簡単な両開きの柵があり、一応閉じられているが外側から手を入れて簡単に閂が外せた。
 リグルは閂を外すと再びリーに跨って言った。
「やけに新しい門扉ですね」
 その柵は最近作られたもののようで質感が妙に新しかった。
 シュタイン達は村に入って泊めてもらえそうな家を探す事にした。ダラダラと村の中を歩く。
めて! 手を離して!」
 近くで女性の声がした。シュタイン達は声のする方へ行ってみた。
 角を曲がると小汚い格好の男が若い女性の手を引っ張って無理やり連れて行こうとしていた。
「ここにいたらやべえんだよ。俺と一緒に来い」
「いやよ。いくら幼馴染だからってあんたみたいな裏切り者と!」
 リグルが馬を進めた。
「止めるんだ。嫌がっておるではないか」
 リグルは馬の上から睨んだ。男は女性の手を取ったままリグルを見上げた。
「何だお前は。見ない顔だな」
「旅の者だ」
「邪魔するんじゃねえ。邪魔すると痛い目を見るぞ」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すぞ」
 しばし二人は顔を見合わせる。シュタインもリグルの横にやって来て言った。
「お前がどれ程の男か知らないが、リグル相手じゃかなり苦戦するよ。許してやるから手を離して立ち去った方がいい」
「ちっ」
 男は渋々手を離した。
「俺は親切で言ってやったんだ。精々今夜気をつけるんだな」
 そう言うと男は立ち去った。
「怪我はないか?」
「はい。危ない所をありがとうございます。旅の方ですか?」
「ああ、旅の途中で立ち寄らせてもらったのだよ」
 リグルはチラリとミカとザイルの方も見て言った。
「今夜泊まらせてもらえそうな所を探していてな」
「それでしたら丁度いい。うちにいらして下さい」
「四人もいるが大丈夫かな?」
「はい……こちらです」
 そう言うと女性は踵を返して歩き出した。シュタインはミカに手招きしてリグルと共にその女性について行った。
 数分後その女性は大きな屋敷の前で立ち止まった。
「ここが私の家です。改めまして、私はここの村長の娘でリニエと申します」
「村長の娘? するとここは村長の?」
「はい」
 と言うとリニエは大きな門扉の横にある通用口から鍵を開けて中に入っていった。閂を開ける音がした後、門扉の片方が重く外側に開かれた。リグルは慌てて馬から降りてもう片方の門扉を開ける手伝いをした。
「ありがとうございます。さ、中へ」
 シュタイン達は門の中へ入った。リニエは全員家の敷地内に入ったのを確認すると再び門扉を閉じて閂をかけた。
 中は村長の家と言うだけあってかなり広かった。馬小屋もあり、ウェザーとリー、それから荷台を外したポートとスターボードを馬小屋に入れた。
 リニエに連れられてそのまま屋敷の中に入り応接間に通された。リニエは一旦退室していき暫くするとお茶と共に村長である父親を連れて来た。
 シュタインは立ち上がり村長にお辞儀をした。ミカやリグル達も真似してお辞儀をした。
「この度は娘を助けて頂いたそうで、ありがとうございます」
「助けたと言うか、ちょっと注意しただけですよ」
 リグルが謙遜気味に言う。リニエが補足する。
「あの男は私の幼馴染なんですが、最近現れた謎の女の手下に成り下りまして……」
「謎の女?」
 すると今度は村長が話し始めた。
 最近の話だが、この村に長いマントに身を包んだ女が現れたそうだ。その女は村長を訪ねこう言ったそうだ。
「この村を私に下さらないかしら」
 村長は当然首を横に振った。そんな意味のわからない事を言う奴の相手をしている暇も無かった。
「村をくれないと言うのなら実力で奪い取るまでですわよ」
 しかし村長は相手にしなかった。女はその時はそのまま立ち去ったと言う。
「しかし数日後、その女が徒党を組んで村に攻め入って来たのです。畑を焼かれ放牧している家畜を殺されました」
 その時女は遠くから眺めているように見えた。手下のもの達が畑を荒らしたり畑仕事をしている村人から金を奪ったりしているようだった。
「しかしその光景を見ていた村人が不思議な事を言うのです」
「不思議な事?」
「はい。女が手に持つ杖を頭上に掲げると、そこから謎の光線が飛んで来て家畜に当たり、その家畜が死んでしまったと。更に女はその光線をあちこちに飛ばして村を破壊して回ったと」
 シュタインはそれが魔法だとすぐに分かった。
「魔法探究者か……いや、ただの魔法使いか?」
 魔法探究者は通常自分達の事を魔法使いとは言わない。魔法探究者は、魔法の研究を第一としていてその研究成果の一つとして魔法が使えるだけだからだ。ここでシュタインがその女の事を"魔法使い"と言ったのは、その女は魔法の研究者ではなく魔法を使う事を第一としている職業魔法使いだと思ったからだ。
 魔法探究者は日々魔法の研究をしているので場合によっては新しい魔法の発掘をしたりもするが魔法使いはそのような成長はない。ただ己の霊力を磨いているだけだ。
「その女はここ数日、度々村を襲撃するようになったのです。なので村人達は怖がっているのです」
 ミカが言った。
「師匠。その悪い魔法探究者を捕まえてやりましょう」
「魔法探究者じゃなくて魔法使いかもしれないがな……しかしミカ。僕は消極的だよ。急いでハインベルクに行きたいし……」
 村長も言った。
「これは村の問題。旅のお方にご迷惑をお掛けするわけには行きません」
「でも……」
「安心して下さい。お泊まりする部屋は十分にございますから、どうぞうちへ泊まっていって下さい」
 ミカが提案した女魔法使いを捕まえる作戦にシュタインは消極的だった。今は先へ急ぎたいらしい。村長も村以外の人間に迷惑をかけたくないと言っている。
 ミカは仕方なく大人しくしている事にした。
 村長の言う通り部屋はたくさんあるようで、一人に一部屋ずつ割り当てられた。ミカはやる事もなく魔術書を読んでいたが眠くなって来たので外へ出て剣の素振りをして過ごした。
(ローエ・ロートで素振りだなんて、何て贅沢なのかしら)
 ローエ・ロートは伝説の炎の魔剣だ。持つ者が持ったら世界を統べる事が出来るかもしれない。そんな剣で素振りをしている自分は許されるのか、ミカは自問するのだった。
 夜も遅くなった。ミカはベッドに入った。適度に運動したせいか、すぐに眠りに落ちていった。
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