月影の魔法使い 〜The magic seeker of the moonlight shadow〜

よしだひろ

文字の大きさ
36 / 39
Eine Serenade des Vampirs編

説得

しおりを挟む
 翌朝シュタインは無事宿に入る事が出来た。ミカ達と朝食を取る。
「師匠。昨夜はどうでした?」
「うーん。結論から言うと失敗だよ」
「やはり見つからなかったのですか?」
「いや、見つけたよ。しかし結界に守られてた」
「結界に……」
 ミカはまだ魔法の経験が浅いので解呪によって結界が解ける事を思いつかなかった。過去何度かそれを目の当たりにしていたのだがその発想には至らなかった。
「満月は明日だ。今日中にタエスを説得するしかない」
「タエスを?」
「ああ。表裏の石が結界で守られていて盗み出せない以上、タエスを説得するしかない」
 しかしシュタインはタエスを説得する事は困難だと思っていた。タエスの決心は固い。そんな男の心を動かす事はとても時間がかかり難しい。
「説得には僕が行くよ。ミカ達は万が一の時のために剣術の鍛錬でもしていてくれ」
「万が一?」
「恐らくその万が一になると思うんだけどね」
 朝食を終えるとシュタインは早速タエスの家へ向かった。
 ミカ達もシュタインに言われた通り村の外に出て剣の鍛錬を始めた。ザイルは基本的な素振りなど型の稽古、ミカとリグルは実践的な稽古を始めた。
「ミカ様。実戦では今ザイルがしているような基本的な型が通用しない局面も出てきます」
「どう言う事?」
「例えば……」
 そう言うとリグルは持っていた木の棒のきっさきを地面に少し刺した。そして徐ろにミカの方へ薙いだ。砂が舞いミカの顔にかかる。
「キャア」
 ミカは思わず目を閉じた。
「これです。所謂目潰しです」
「そんな、卑怯な!」
「実戦で卑怯もクソもありませんよ。生き残った者が正義です」
 それ以外にもリグルは幾つか卑怯な戦い方を教えた。
「それからミカ様は魔法を使う事が出来ます。魔法戦闘に持ち込めれば有利になりますよ」
「魔法を使うには呪文の詠唱が必要よ。その間に攻撃されたら終わりだわ」
「魔法を上手く活用するには単純には相手との間合いを取る事、それから先ほど教えた卑怯な手を使って時間稼ぎをする事ですね」
「卑怯な手は使いたくないわ」
「卑怯と表現するから毛嫌いされますが戦略と考えればそれも立派な手ですよ」
「戦略ねぇ……」
 ミカは何となくリグルに教えてもらった技は使いたくないなと思った。しかし実戦で生き残るには致し方ないのかなとも思った。
「そう言えば前にオーテンベルで賊と戦った時、このローエ・ロートが炎に包まれたのよ。その時一回きりだったけど、どうしたらまたあの炎の剣が使えるのかしら」
「その話、シュタイン様にもしてましたね」
「ええ。師匠は基礎魔法の応用だよってだけ教えてくれたんだけど……」
 シュタインは勉強の為に敢えて真実を話さなかったのだが、これは単純な話で持ち手の集中力が一定以上高まると自然とローエ・ロートは発火するのだった。
「私は魔法の事は分かりませんが集中力が大事だと聞きました。何かそれがヒントなのでは?」
「確かに魔法を使う時は高い集中力が必要なの」
「剣で戦う時も高い集中力が必要になります。似ていますね」
「集中力か……」
 その後もミカ達は剣の鍛錬を続けた。ザイルは素振りばかりやらされていてヘトヘトになっていた。
 昼になりミカ達は一旦宿に戻る事にした。するとシュタインが部屋に戻ってきていた。
「師匠。戻ってたんですね。これから昼食を取るところですよ」
「ああ、一緒に食べよう」
 階下に降りて適当な席に着く。程なくして店員が人数分の昼食を運んできた。
「師匠。タエスの説得は出来ましたか?」
「それがね……」
 シュタインは朝宿を出ると真っ直ぐタエスの家に向かった。しかしタエスは家にいなかった。窓から家の中を覗いて見たがその姿はなかったそうだ。
「どこか外へ出てるのかと思って探して見たんだけどね。いなかった」
「教団本部にいるんじゃないですか?」
「うん、そうだったんだ」
 シュタインは教団本部へ行ってみた。しかし遠くから眺めてみるだけにした。暫く観察しても入り口に立っている二人が雑談しているのは変わらなかった。
 そこでシュタインは一旦村の外へ出て回り込み本部の裏側に来てみた。裏側には人はいなかった。例の小道の奥から人が複数人歩いてくる気配がした。
 シュタインは茂みに身を隠した。
 歩いてきたのはライスとタエス、後二人の信者と思しき男だった。
「タエス。決意は変わらないですね? ゼーレンと共に永遠の愛を全うするのです」
「はい」
「しかしそのシュタインと言う男。気を付けなければなりませんね」
 ライスとタエスは本部の裏口から建物の中に入っていった。残った二人は裏口の見張りに立った。
 シュタインは再び村をぐるっと周り村の中に入り、教団本部の前に現れた。
「よ! 友人」
「こんにちは、友よ」
「今日も見学させてもらっていいかな?」
「あなたはシュタイン様ですね。申し訳ありませんがお引き取りください」
「急に冷たくなったね……直球で言おう。タエスに会いたい」
「タエスなんて者はいません」
「さっき本部に入っていくのを見たよ」
「知りません。友よ、お帰り下さい」
 シュタインは仕方なく宿に帰ってきたと言うわけだった。
「今回は手詰まりだよ」
「もう止める手立ては無いんですか?」
「後残された手は儀式そのものを妨害するしかない」
「儀式に乱入すると言う事ですか?」
「まあそうだね。強行的に表裏の石を奪うしか無い」
 シュタインはどことなく悔しそうだった。シュタインとしては儀式の前に何とかしたかったのだった。
「午後は僕一人で儀式が行われる広場を見に行ってみるよ。儀式は明日だからね」
 シュタインは午後広場を見にいく前にもう一度本部へ行ってみた。しかし相変わらず門前払いだった。
 広場に行くには例の小道を通るのが一番早い。しかし教団本部の裏口には見張りが立っている。シュタインは林の中を見張りに見つからないように進んでいった。
 広場には相変わらず人の気配は無かった。魔法陣が描かれていて傍らに箱が置かれている。
 シュタインは周囲の地理を隈なく回って覚えて宿に帰る事にした。宿に着くとミカ達にその事を報告した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...