テルとタロ

よしだひろ

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テルとタロ

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 その子犬がやってきたのは隼人君が小学校に上がった頃でした。隼人君はその子犬にテルと名付けました。
 隼人君はすぐにテルと仲良しになり、毎日のようにテルを連れて散歩に出かけました。
 近所の広い公園には、沢山の犬が駆け回るドッグランがあります。隼人君とテルはいつもそこで遊びました。
 テルは棒を投げてもらい取ってくる遊びが好きでした。
「それ! テル! 取ってこい!」
 隼人君は何回も何回も棒を投げてテルに取ってきてもらうのでした。
 ある日隼人君とテルはいつものようにドッグランで遊びました。そして帰り道公園の遊歩道を歩いていました。
 遊歩道の向こうからおじいさんとそれを介助してる男の人が歩いて来ました。
おじいさんはテルを見つけると驚いたように近付いてきました。
「タロ、タロじゃないか」
「おじいさん。この犬はテルだよ」
「いいや、タロじゃ。間違いない」
 すると介助していた男の人が言いました。
「小林さん、この犬はタロじゃなくてテル君みたいですよ」
 しかしおじいさんは言う事を聞きません。
「タロよ、今はこの子供の所におるのか。可愛がってもらっているのか? たまにはわしの家にも遊びに来てくれないか」
 隼人君は少し戸惑いました。介助している男の人は更に言いました。
「タロと言うのはこのおじいさんが飼ってた犬の名前なんだよ。それはそれは可愛がっててね。でも数年前に亡くなってしまってね。それ以来おじいさんはすっかり老け込んでしまったんだよ」
「そうなんだね。じゃあおじいさんも寂しいんだね」
 隼人君はある事を思いつきました。
「じゃあ明日も同じ時間にここに来て。僕もテルを連れてここに来るから」
 翌日から隼人君とおじいさんは日付を約束して会うようになりました。
 おじいさんは相変わらずテルの事をタロと呼んで喜んでいました。でも日に日に元気になっていくようでした。介助していた人もおじいさんがテルに会える日はワクワクしてると教えてくれました。
「おじいさんが喜んでくれて僕も嬉しいな。きっとテルも喜んでると思うよ」
 そんなある日の事です。隼人君はテルを連れていつもの場所へおじいさんに会いに行きました。するとおじいさんは言いました。
「おお、テル。今日も来てくれたのか」
「あれ? おじいさんテルの事分かるの?」
「あぁ、やっと思い出したよ。この犬はタロではなくテルじゃな。タロはもう何年も前に死んでしまったよ」
 介助していた人は驚きました。
「このおじいさんの症状は認知症と言ってね。普通は一度忘れた事は思い出さないんだよ。でもテル君と遊んでいるうちに思い出したんだね」
「凄いや。テルが思い出させてくれたんだね」
「テル君と遊んでいる小林さんはどんどん元気になってるよ」
 するとおじいさんは言いました。
「まだまだわしは元気じゃぞ」
 3人は笑いました。テルはワンワンと鳴きました。
 こうしておじいさんはみるみる元気を取り戻していったそうです。
 隼人君とテルはその後もおじいさんと約束しては一緒に遊びました。
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