大事な帽子

よしだひろ

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大事な帽子

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 今日も健君達は河原で野球をしていました。
 健君はお父さんに買ってもらったお気入りの帽子を被って、外野を守っています。
 ピッチャーの球をバッターの誠君が打返しました。誠君が打った球は大きく弧を描いて健君の頭の上を飛び越えて行きました。
「やった! ホームランだ!」
 ボールはずっと遠くに飛びました。そして高い木の上に引っかかってしまいました。
「ああ、ずいぶん高い所に引っかかってしまったなぁ」
 健君は木に登り始めました。みんな心配して集まってきました。しかし健君は木登りが得意だったのでグングン上に登っていってボールを取ることが出来ました。
 その時です。
「あ!」
 一陣の突風が吹き健君が被っていた帽子を飛ばしてしまいました。
 帽子はそのまま川に落ちたのです。
 健君は急いで木から降りて川のそばまでやってきましたが、その時にはもう帽子はどこにもありませんでした。
 健君はひどく落ち込みました。
「健。仕方ないよ。諦めなよ」
 しかし健君はその場にしゃがみ込みジッと川を見ていました。みんなが何を言っても返事もしないで川をムスッと見ていました。
 仕方なくみんなもそこで川を眺めたりしていました。そしてやがて夕方になってしまいました。
「健。もう夕方だから俺たち帰るよ。お前ももう帰った方がいいぞ。じゃあな」
 しかし健君は何も言わずにブスッとして川を見つめていました。
「お父さんに買ってもらった大事な帽子なのに……」
 日が沈みきったその頃、不意に健君のお父さんが健君を探しにやってきました。
「おーい! 健。何やってんだ?」
 遠くからお父さんが健君の横に歩いてきました。
「どうしてここが分かったの?」
「お父さんは秘密探偵だから何でも知ってるのさ。と言うのは冗談で、誠君達が心配して教えにきてくれたんだよ」
「そうだったのかあ」
「帽子が無くなったんだって?」
「うん。お父さんが買ってくれた大切な帽子なのに風で飛ばされて川に落ちちゃったんだ」
 お父さんは頷いて健君の横に腰を下ろしました。暫く沈黙が続きました。その後お父さんが言いました。
「いいか健。帽子を大事にしてくれたのは嬉しい。だがな、帽子よりも大事なものをないがしろにしちゃいけない」
「帽子より大事なもの? それって何?」
「それは自分で見つけるんだ」
「……」
 お父さんはゆっくり腰を上げました。
「さ、母さんも心配しているぞ。早く帰ろう」
 健君はお父さんと手を繋いで帰りました。
 その夜健君はもう一度お父さんに聞きました。
「帽子より大切なものって何?」
「そうだな。もし健が病気になったらどうなる? もし学校で怪我したらどうなる? そういった事を考えてみなさい」
 健君は全く分かりませんでした。病気になったら辛いだけ、怪我をしたら痛いだけ。一体他に何があるのでしょうか?
 健君は色んな事に想いを巡らせてみました。
 僕が病気になったらお父さんやお母さんが看病してくれる。怪我したら誠や仲間が手助けしてくれる。
 もし僕ではなくお母さんが病気になったら? 誠が怪我をしたら?
「そうか! 帽子よりも大切なもの分かったよ」
 次の日学校で教室に入ると誠君がちょうど登校してきました。
「誠。昨日はごめんな。帽子にばかり気を取られちゃって」
「……」
「僕分かったんだよ。帽子よりも仲間の方が大事だって事。誠達が一緒にいてくれた事、父さんに話してくれた事、今思えばとてもありがたい事だよ。本当ありがとな」
「何言ってんだ、仲間なんだからそうするのは当たり前だろ? それよりまだ時間がある。校庭でサッカーしようぜ!」
 二人はサッカーボールを持って校庭に向かうのでした。
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