A.I. AM A FATHER(覚醒編)

LongingMoon

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二〇. 出会い

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5月初めのある夜、モンゴルのハラホルンにて、・・・。

「光一くん。聞いてる」
施設長が、携帯電話に向かって語りかけた。

光一のアイコンはノーマルで無表情だった。

しばらく、沈黙が続いた。
「・・・うん、いや、はい。少し、両親のことが気になって、日本にいたところだったんです」

「そう。あなたも、いろいろ大変ね」
「明後日は、オユンナの2才の誕生日、つまりトヤーの命日なのは、わかっているわよね」

「はい、もちろん」

「それで、私は、明日から2日かけて、日帰りで、ウランバートルのトヤーのお墓にオユンナを連れて行こうと思うの」

「えっ、施設長さん、大丈夫ですか」

「なんとかなるわ。この国はね、子供をみんなで育てる国なの。見ず知らずの子供でも困っている子を見かけたら、少しでも助けてくれるのよ」
「施設のみんなは、それなりに大きくなったから、私の友達にまかせればなんとかなるわ」
「光一は、どこでも自由に行けていいわね」

「それは、そうだけど、肉体がないから、あんまり意味ないし」
「施設長さんも、もう歳だし、2人が身動きとれない状態になった時、オレがいれば、何とでもできるので、安心して下さい」

「まぁ、私の歳のことは、余計だけど、頼りにしているわよ」

「うん、トラックのおにいさんの携帯電話にうまくハッキングすれば、なんとかなるんじゃないかと思ってますよ。あと、いざという時には、警察の力を借りれば大丈夫だよ」

「国をだまして、内戦を止められるくらいだから、安心してるわよ」

「人聞きの悪い。オレはモンゴルを救うために・・・」

「わかっているわよ。冗談よ。おやすみなさい」

「必要ないと思いますが、オレの方でも日程は調べて、施設長さんの携帯電話のメモ帳に必要情報を書き込んでおきますね。おやすみなさい」

翌朝、施設長の携帯電話の目覚ましが6時に鳴った。

オレは、モンゴルに来て、暇なときは、専ら大学や研究所の類のコンピュータから、情報収集していた。あとは、モンゴル人の生活習慣を知るために、興味本位でいろんな人の携帯電話やパソコンにハッキングしたりしていた。

「おはようございます」

「おはよー」

「相変わらず、早いねぇ。そっか、アナタに睡眠時間は要らないのね」

「いや、強いて言うなら、人工知能の中枢に支配されて、まじめに情報収集している時が睡眠時間みたいなものかな」

「まぁ、アナタといれば寝坊することないから便利ね」

「オレは目覚まし時計じゃないぞ。ところで、これからどうするるんですか」

「そうね、今日はいつものように、皆の朝食を作るだけじゃなくて、2人分のお弁当を作らないといけないからね。一泊か二泊、留守にしちゃうし、できるだけのことをして、ウランバートルへ行かなきゃね」、

「施設長さんも元気だね」
「そりゃ、そうよ。私たちは共同生活で、子供たちの面倒見ているんだから。お互いに助け合ってやっていかなくちゃ」

と、話していると、施設長さんの友達も起きてきた。

「あら、何か話し声が聞こえてきたけれど、独り言?」

「そうよ。この携帯電話にはアプリが入っていて、時々会話しているのよ」

「へんなの。そんなことより、あなたは、今日と明日は強行軍なんだから、水臭いことししないで、私たちに朝のワークはまかしておいて頂戴よ」

「何言っているのよ。私がそんなことできる性格じゃないのわかってるくせに。今日は、お弁当も作らないといけないから、料理の方はまかせてもらうわよ。あなたの方は、洗濯と掃除を頼むわね」

オレは、当面施設長さんたちが、オユンナのお世話してもらえることに感謝という感情と安心感のようなものを抱いていた。施設長さんの携帯電話から、飛び出して、朝早くだけど、施設の外そこいらにいる人たちの携帯電話を、ハッキングしてまわった。
そして、施設長さんの携帯電話に戻ってきて、オユンナのかわいらしい画像を何度も認識した。

 オレは、今日、明日の旅行で、不確定変数が多すぎて心配だった。一番の心配は、施設長さんの携帯電話の電池切れだった。施設長さんの携帯電話が使えなくなっても、何とかすることはできると思うが、山の中で、情報通信ができなくなることだけは、最悪避けねばならなかった。その点も、施設長さんには伝えてはいるのだが、・・・・。

 「オハヨ」

 オユンナが起きてきた。今、光一には、声しか聞こえない。

「イタダキマチュ」
オユンナが朝食を食べ始めたようだ。
 施設長さんは、遅れてくる子供たちに食事を与えながら、食事を終えた子の食器を洗っている。それから、施設長さんとオユンナのお弁当も作っていた。

オレには、何か寂しさと言えるのかどうかわからないが、人工知能の機能の鈍くなったような気がした。
「オレとしたことが、人工味覚機能を作っておくべきだったなぁ」
「一応、人工嗅覚と言えるかどうかわからないが、危険を察知するための機能は作っていて、携帯電話でもアプリで実現できるようにはしたんだがなぁ」
「まぁ、そのあたりは、これから、ゆっくり作り込もう」

10時になった。

「それじゃ、私は、オユンナを連れてウランバートルへ行ってくるわ。ごめんね。忙しいのに」

「何を言ってるの。あたりまえじゃないの。気を付けて行ってきてね」

「それじゃ、行ってきまーす」
施設長さんは、荷物を背中に背負って、オユンナを抱いて施設を後にした。

「ウランバートル行きは、10時出発の16時頃着でしたよね。5月と言っても、まだ雪も残っているし、大丈夫ですか」

「これくらいの寒さは、へっちゃらよ。雪道には転ばないように注意しないといけないけどね」

施設長さんとオユンナは、30分ほど歩いて、バス停に到着してバスに乗ろうとした。
「あら、可愛い女の子ね。お孫さん?」
と言いながら、先にバスに乗った女の人が、施設長さんからオユンナを奪い取るようにして、抱ききあげてくれた。
「そうよ。私のかわいい孫よ。どうもありがとう」

バスの中でも、まるで近所の知り合いのように、他の人たちも親切だった。
「あら、かわいい子ね。こっち空いてるから座ってちょうだい」
施設長さんは「ありがとう」と言いながら、オユンナを座らせてから、背中の荷物を網棚にあげて、オユンナを再び抱きかかえて、席に着いた。

満員のバスの中で、携帯電話に流れる電流で、圧迫感を感じた。そんな中でも、施設長さんとオユンナは眠り始めたようだった。
「ウランバートルまで6時間以上かかるから、次の休憩停車時間に弁当だな」

今回は、長旅なので、施設長さんの携帯電話の電池がなくならないように、バスにのって写メを動作させている人達の携帯電話にハッキングして、それとなくまわりの景色を眺めていた。

ハラホリンからウランバートルへは、ほとんど山道だった。雪が残る高い山々の間を縫うように、バスは、ゆっくり走った。

山のクネクネの中、2時間がすぎて、バスが停まった。運転手さんが叫んだ。
「トイレ休憩だよ。次の休憩まで2時間あるから、必ず、トイレに行ってくださいね。昼食を食べる人もいると思うんで、30分休みまーす。30分後に帰ってこられない人は置いていきますからね」

トイレの建物は恐ろしいほど汚く、トイレの建物で用を足す人は誰もいなかった。若い女性もそうであった。各々、バスから離れた少し隠れられるようなところを探して用を足している様だった。オレは、しばらく、バスに据え付けられているパソコンに身を映した。

施設長さんとオユンナも、運転手の声で目を覚ましていた。

「おなかちゅいたよ」

「さぁ、さぁ、お弁当の前にトイレよ。お漏らししたらたいへんだからね」
2人も、他の人たちと同じように適当な場所を探しに行って帰ってきた。

オレは、タイミングを見計らって施設長さんお携帯電話に戻った。

「さぁ、お弁当よ。早くたべなきゃいけないよ」

施設長さんは、普通のごはんに、オユンナが食べやすいサイズにカットしたおかずの弁当を取り出した。オユンナは、もう、離乳食を卒業していた。
「オユンナ、どう。こんなところで、お弁当たべるのもいいでしょ」

「おいちぃ」

オレは、声を聴きながら、2人がお弁当を食べている様子を想像していた。正確には、こんな時に、描写されるイメージ画像合成ををメモリーに何度もロードした。
「オユンナもこんなところまで、やってこられる歳になったんだ」
「もし、オレもトヤーも生きてオユンナと旅行にでかけることができたら、どんな風景になっていたかと思い架空の画像を造り出していた。だめだ、電池無くなっちまう。すぐに画像を消さなきゃ」

お弁当を食べ終わる前に2人は、バスの座席に戻って、続けて食べているようだった。2人が食べ終えたころ、バスが動き出した。2人は、しばらく、外の雪山の風景を見ながら、また眠りについた。

施設長さんの携帯電話の電池は、まだまだある。オレは、先にウランバートルへ1度行ってみることにした。あの郵便局のメールアドレスへ飛んだ。そして、郵便局あたりにいる人の携帯電話から携帯電話へと飛び回り、その辺りの喧騒やたまたま写メをとっている人のカメラから情景を捉えた。

「やっぱり、ハラホルリンと比べると全然都会で、日本の地方中心都市くらい賑やかなようだなぁ」

今度は、トヤーが死にオユンナが生まれた病院へとんだ。郵便配達のお兄さんの携帯電話へハッキングしても、いつ、あの施設につけるかわからなかったので、病院あたりにいる人の携帯電話から、携帯電話へハッキングしていった。施設の跡は、そのままだった。
 施設はウランバートル郊外で、郵便局あたりと比べてひっそりしていた。施設の中にあるトヤーの墓を見ることはできなかった。
 「ああ、トヤー。もうほとんど誰も、おまえのことを弔う人はいなくなったんだね。とにかく、ウランバートルは平和を取戻し、反政府軍の影も形もなくて、よかった」

オレは、いきなり施設長さんの携帯電話へ戻った。ちょうど、2回目の休憩時間前で、2人は起きていた。
「そんなに、2人の近くを離れて大丈夫なのかって・・・。バスの運転手の無線情報と携帯電話と施設長さんの携帯電話から、定期情報をNATO本部のコンピュータにアップロードするように仕込んでいたんだよ」
「そんでもって、オレは30秒に1回、そのコンピュータにチェックを入れていた。施設長さんとオユンナの鼓動は、それぞれほとんど同じ間隔でなっていた。山道を走るバスの運転手の鼓動は、一定ではなかった」

バスが停まって、また施設長さんはオユンナをだいて用をたしに出って行った。

携帯電話のオレのアイコンは変顔で準備していた。

「プッ」

 施設長さんが、携帯電話を見た瞬間、予想以上に笑ってくれた

「あら、あなたいたのね。あなたヒマで、どっか地球の裏側でもぶらついているんじゃないかと、私思っていたわ」

「オレには人工知能として、オレが決めたミッションがあるからね。先に、ウランバートルの様子を見に行ってたんだよ」

「まぁ、用意周到ね。で、どうだった」

「そうですね。ウランバートルは賑やかで、治安も安定していていましたよ。反政府軍も、すっかり息を潜めた感じでしたよ」

「あなたのおかげね」

「昔の施設の焼け跡は、そのままで、ひっそりしていましたよ」

「あのあたりは、何もないからね」

オユンナが不思議そうな顔をしていた。誰もいないのに、施設長さんが、携帯電話と
何かわけのわからない話をしている。

「ケーチャイ。ケーチャイ」と言いながら、施設長さんの携帯電話を、取ろうとして背伸びしていた。
「ダメよ。携帯電話は、まだオユンナには早すぎるわ」
と言って、施設長さんは、オユンナに携帯電話を渡さなかった。

すると、オユンナは泣き出した

「ケーチャイ、ケーチャイ、ケーチャイ、ほちい」」

施設長さんは、子供が携帯電話を持つことを許さなかった。発達段階教育を考えると
小さな子供のうちは、自然の中で具体的に存在する物を直接見て、感性と抽象化の能力を磨くこと。自分の中で創造していくことが、大切なことだという信念があったからだった。
 しかし、トヤーや光一の画像は印刷して、オユンナの部屋には貼ってくれていた。オユンナは時々、会ったことのないオレたちの絵を描いてくれていたようだ。施設長さんは、その絵も貼ってくれていた。
 施設長さんは、何やらお菓子を取り出して、オユンナを泣き止ませて、バスに乗り込んだ。
「さぁ、もう少しよ。オユンナが生まれたところよ」

ウランバートルに近づくにつれて、遊牧の羊や建物も多くなり、オユンナはキョロキョロしていた。

郊外から、街の中心部に近づくにつれて、ボロボロの服を着た子供たちも増えてきた。
バスが信号でとまると、子供たちが話しかけてくる。
「おじさん、新聞や雑誌を買ってよ。少し古いから安くしとくよ」
「この人形、いいでしょ。お土産に買っていってよ」
方々から、子供たちの声が聞こえてくる。

アクセサリや山羊の牛乳も、そこいらで売られていた。
似顔絵かきやストリートミュージシャンを、生業にしているような人達もいた。

バスが、バスのたまり場に停まった。

「さぁ、着いたわよ」
オユンナを抱いた施設長さんは、押し出されるようにしてバスを後にした。
「ホテルは、ここと施設の中間くらいかな」

「そんなに、遠くまで歩いて行くんですか」

オレは小声で、施設長さんに話しかけた。
施設長さんが携帯電話を耳に近づけた。
「この時間だと、あっちへ行くバスがないのよ」
「それじゃ、今日は墓参りできないんですね」
「そうね。明日の朝早くに行くわ」

「オユンナ、そろそろ起きなさい。着いたわよ」
「うーん」
「さあ。ホテルまで、歩くのよ。がんばって」
「うーん。眠たーい」
「だめよ。ここで休んでると、暗くなっちゃうからね。がんばって」
「はーい」

施設長さんは、荷物を背中のリュックに背負って、眠っているオユンナを抱きかかえて出発した。
施設長さんは2kmほど歩き続けたところのスーパーの前で立ち止まった。もうあたりは暗くなっていた。

「ちょっと、ここで買い物するわね」
そう言いながら、オユンナをそっと買い物カートに座らせたて、買い物を始めた。

手には、夜と朝用の施設長さんとオユンナの食べ物を持っていた。

「特に、変わりなく、オユンナはぐっすり眠っていましたよ」

施設長さんは、そこからまた20分ほどベビーカーを押し続け、予約していたホテルについた。

「お疲れ様でしたね」
オレは自然とそんな音声を出した。

チェックインし、ホテルの部屋についた。
施設長さんは、早速夕食の準備を始めた。

「オユンナ起きなさい」
施設長さんが、オユンナの体を揺すり始めた。

「うーん。うーん」

「オユンナ、まんまよ。いいにおいがするでしょ」

携帯電話のカメラごしで見た食事の風景は、かぼちゃの煮物と羊のミルクのようだった。

2人は、よっぽどお腹が空いていたのか、あっという間に食事を食べてしまった。

「オユンナ、しっかり食べたわね。今度は、お風呂よ」

「あんたは人工知能だけど、男だからしょうがないわねぇ」と言いながら、施設長さんは、携帯電話を裏返しにしてしまった。

「うーん、しょうがないか。ほんとだったら、オレがオユンナをお風呂に入れてあげる役目だったのになぁ。こればっかりは、切なく哀しい」

「オユンナ、きれいきれいしようね」
と施設長さんとオユンナは服を脱いで風呂に入ってしまった」
しばらくすると、施設長さんとオユンナは風呂から出てきた。

施設長さんは、携帯電話のカメラをまわして、オユンナを映してくれた。風呂上りのオユンナはとてもかわいらしかった。頭にはタオルを巻いてもらっていた。

施設長さんは、テレビをつけて、ニュースと天気予報を見ていた。オユンナもいっしょに見ていたが、いつの間にかソファーで眠っていた。
施設長さんは、オユンナをベッドに移して、携帯電話をテーブルに置いて充電しながらまだテレビを見ていた。

「明日、天気よさそうですね」

「そうね。よかったわ。明日は早く起きて、今日買ってきたパンを食べてでかけるのよ。オユンナには、羊のミルクでフレンチトーストにしてあげれば大丈夫よ。私も今日は疲れたから、そろそろ眠るわ。光一君は、私たちが眠っても退屈じゃないのよね」

「うーん。でも、だんだん施設長さんとの会話が楽しくなってきたから、どっちかというと退屈かな」
「でも、オレのシステムにとって、人類のことと2人を守ることが課せられているから、施設長さんが眠ったらまわりに危険がないかパトロールみたいなことは多少やらないといけないけどね」
「モンゴルの反政府軍のことも気になるし」

「私からみたら、あなたは携帯のアイコンにしかすぎないけど、やること一杯あるのね」

「あっ、そうそう。オレには、いたずら機能があって、時々ドッキリみたいなことをやって、システムに刺激を受けて人間らしい感情のような記憶も学習もしているんだよ」
「しまった、余計なことを言ってしまった」

「それ自体、人間の感情が学習されているのかもしれないわね」
「あーぁ。私やっぱり、そろそろ眠るわ。おやすみなさい。明日起こしてね」

「うん、おやすみなさい」


「おはようございまーす。朝だよ。テレビつけたよ。天気予報やってるよ。パン食べよう」

「おっ、おっはよう。ずいぶん、騒がしいわね」

「これぐらいだったら、オユンナは起きないだろう」

施設長さんは、朝の身支度をして、ホテル備え付けの道具で朝食の準備を始めた。

「オユンナ、起きなさーい。朝ごはんできたわよ」
「先に、きれいきれいしようね」
施設長さんは、いきなりオユンナのオムツをとりかえて、ぬれたタオルでオユンナの体を拭いてくれているようだった。
 携帯電話は伏せられたまんまだった。
「本来なら、オレが全部やらなきゃいけないことなのになぁ」

「オユンナ、おいしいね」

「おいちい。おいちい」
普段、食べられないような朝食だったので、オユンナはニコニコしながら、食べてしまった。

「今日は、昨日の朝より早くバスがでるので、バスターミナルまで行って、9:00発の路線バスに乗らないといけないのよ」

施設長さんの計画は、確かだった。オレが夕べ調べて、携帯電話のメモ帳に書き込んでおいた計画と一致していた。

「オユンナ、まだ、7時だけど出かけるわよ」

施設長さんに手伝ってもらって、オユンナは外出の身支度をすませた。
施設長さんは、ベビーカーにオユンナをのせて、少しの荷物をベビーカーの下に潜ませて部屋を出た。
 チェックアウトを済ませると、ホテルを出発し、焼け跡となった施設へ向かってベビーカーを押しだした。

 30分ほどで、施設までやってきた。
施設長さんの目から涙がこぼれていた。
「あの火事がなければ・・・」と、呟いた。
「さあ、ここの裏のドアからは、中に入ることができるのよ。全焼しちゃったから人が住めるような建物はないけどね」
 
施設長さんは、携帯電話のオレに向かって、小声で話しかけてくれた。

「あの施設の正門の右横に石が積んであるでしょ。あそこが、トヤーのお墓よ。いつかちゃんとしたお墓を建ててあげたいんだけどね」

「施設長さん、ありがとう。トヤーのことを大事にしてくれて」
オレは小声で、オユンナにきづかれないように返事した。

「さあ,オユンナ、あそこに、このお花を、持って行ってね」
施設長さんは手部身振りでオユンナを誘導した。

「うん」
オユンナはお花をトヤーの墓前においた。

「あそこには、オユンナのママが眠っているのよ」

施設長さんも、お花を墓前に供えようとした。
施設長さんが、お墓に近づいたとき、丸っこい石で転んでしまい、携帯電話を落してしまった。
「痛ぁ、しまった」
施設長さんが叫ぶや否や、オユンナが、すぐに携帯電話を拾って見てしまった。

オユンナは、携帯電話を見た瞬間、
「あっ、パパ。おはよう」
オレのアイコンに話しかけてしまった。
オレのステータスは、おかしくなって、通常のアイコンの細い目が真ん丸く開いてしまった
「おっ、おはよう」
もう、携帯電話標準機能ではなく、施設長さんなどと対話できるアプリも完成していた。このアプリは、アイコンの表情を変えたり、変わったりすることもできたので、アイコンの目は、驚きで真ん丸に開いてしまった。
「オユンナ、・・・」
オレは、目をすぐに閉じていたが、目じりから自然と涙の画像がこぼれてしまった。
「パパ泣いちゃった」

膝小僧を擦りむいた施設長さんが、痛々しい顔をしていた。

「しょうがないパパね」
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