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第3編:セレスティア(星海)航海編
第45章 銀河の耳、沈黙の彼方
しおりを挟む星々を見つめ続ける者は、どの時代にもいた。
エリッサ・ハーランもそのひとりである。
銀河外縁部を巡る観測衛星〈ヴェラⅢ〉に配属された彼女は、毎日のように観測ログを確認し、変動の兆候を探していた。
それは退屈で、気の遠くなるような作業だった。
だがある日、彼女は記録の奥底に、微弱な揺らぎを見つけた。
「……光より、先?」
つぶやきはかすれ、すぐに自分の耳でさえ疑った。
だが何度検証しても、そのデータは揺るがなかった。
遠方銀河NGC-1287から届いた光の波形と、0.4光秒ほど先に先行して記録された不可解な変動。
──光より先に届いた“何か”。
エリッサは震える指で再解析を繰り返した。
誤差の範囲ではなかった。観測機器の遅延でもなかった。
報告を受けた銀河科学評議会は大混乱に陥った。
「観測誤差に違いない!」
「いや、これは新しい物理の扉を開くかもしれない!」
議論は堂々巡りを続けた。
だが、数か月のうちに銀河各地の観測拠点から同様の報告が寄せられ始める。
星々の煌めきにわずかに先行して現れる、微細で曖昧なシグナル。偶然では片づけられない頻度と一貫性。
研究者たちはそれを仮に「先行波」と呼んだ。
やがて理論物理学者たちは口をそろえて、かつて「仮想粒子」として退けられてきた存在──タキオン粒子──の可能性に言及しはじめる。
質量は虚数、速度は相対論を超える。
「存在してはならない」と教科書に書かれた粒子が、現実の観測記録に刻まれていた。
エリッサの補佐官ミルダ・ジョーンは、過去数世紀のデータを徹底的に洗い直した。
そして二人は、90億光年彼方のスルカイ星からの光に注目する。
「……見てください。放射性物質893番の痕跡がある。」
「そんなはずはない。あれは半減期が45億年。崩壊しているはずだ。」
だが観測は確かだった。
崩壊後の痕跡ではなく、崩壊前のスペクトルが記録されていたのだ。
「つまり……光より45億年も前に、別の“何か”がここへ届いていたということ?」
エリッサの声は低く震えた。
ミルダは無言でうなずいた。
反証可能性を一つひとつ潰していった。
重力レンズではない。機器の誤差でもない。ノイズでもない。
残された結論はひとつ。
──確実に光よりも速い、未知の粒子が存在する。
それが文明に突きつけられた現実だった。
銀河の耳が沈黙の彼方に触れたとき、人類は初めて「光速の外側」を知覚した。
そこに広がるのは、恐れと希望を孕んだ、新しい夜明け。
エリッサは観測窓の外に広がる暗黒を見つめながら、思った。
「これが……次の時代の鼓動。」
彼女の言葉は、記録に残され、やがて未来の誰かの心に響くことになる。
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