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第4編:88星座巡礼編
第69章 竜座の愛憎の惑星
しおりを挟む竜座の恒星系に、その惑星はあった。
海が大陸を深く抉り、無数の湾と島を抱く豊かな世界。
蒼い大気は柔らかな金色の光を受けて輝き、緑に染まる森は風とともにざわめく。
だが、この美しい惑星を形づくる文明の心臓部には、古代から変わらぬ「愛と憎しみの循環」が脈打っていた。
この星の知的種族は二つ。
翡翠色の瞳を持つ長命の「ヴェイル」と、短命だが爆発的な創造力をもつ「カルナ」。
彼らは互いに愛し合い、時に憎しみ、時に殺し合い、そしてまた惹かれ合ってきた。
数千年の歴史はその情念の連鎖に彩られ、文学も芸術も科学も、その激しさの上に築かれてきた。
僧侶がその星に降り立ったのは、巡礼の道を歩み始めて二十万年目のことだった。
意識生命体となった彼にとって時間は流れ続けても、心は肉体をもっていたころの感覚をまだ覚えていた。
港町の一角で、僧侶はひとりの若き詩人に出会った。
名をリオといった。
カルナの血を引く青年は、掠れた声で一篇の詩を朗読していた。
それは、ヴェイルの恋人への燃えるような愛と、彼女が他者に縛られていることへの絶望を吐き出したものだった。
僧侶は、彼の痛みに静かに耳を傾けた。
「愛は、時に星よりも重くなる」と、詩人は吐き出すように言った。
僧侶はただ頷き、言葉を返さなかった。彼には干渉する権利がないことを、長い旅の中で知っていたからだ。
やがて、嵐が訪れた。
愛と憎しみの均衡が崩れ、カルナとヴェイルの社会は混乱の渦に飲み込まれていった。
恋愛と復讐が絡み合う個人的な悲劇が、政治と経済をも巻き込み、惑星規模の対立に育っていったのだ。
僧侶は戦火の中心に足を運び、崩れかけた橋の下で泣き崩れるリオを見つけた。
恋人は暴動の中で命を落としていた。
「どうして、俺だけが生き残ったんだ」
リオは涙に濡れた瞳で、僧侶を見上げた。
僧侶はただ一言だけ残した。
「君が生きたことにも、彼女が去ったことにも、意味を求める必要はない。ただ祈りを持て。それだけで十分だ」
嵐は、やがて静まった。
愛憎の渦は完全には止まらなかったが、均衡を取り戻し、文明は再び歩き出した。
僧侶は、静かな夜の湾岸で海風を受けながら立ち去る準備をした。
港には、リオの詩を刻んだ新しい石碑が立っていた。
惑星を離れる瞬間、僧侶の意識に、この星の情念の残滓が深く刻まれた。
それは彼にとって、祈りの本質を見つめ直す契機となった。
愛も、憎しみも、どちらも生命が持つ不可避の光であり影であることを、彼はこの惑星で改めて理解したのだった。
彼が旅立った後、リオはその星で初めて意識生命体への移行を選んだカルナとなった。
その魂は、僧侶が再びこの星を訪れる百万年後、銀河の巡礼者として共に旅をする仲間の一人になることを、僧侶はまだ知らなかった。
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