プルートの逆襲

LongingMoon

文字の大きさ
1 / 29

一. プロローグ

しおりを挟む
「ヒッ・ヒッ・フー」女は繰り返す。

助産婦はしきりに声をはりあげる。
「いきんじゃダメ」

「おしもの方を切りますね」
助産婦の柔らかい声に男は顔面蒼白になりながら、女の腹を擦る手を一瞬とめた。
助産婦はベッドに横たわる女の局部に数回麻酔注射を打ちハサミを入れた。しばらくして、その割れ目から黒いラインが少しずつ伸びていった。
「ふん、ぎゃー」
しばらくすると、猿のようでもあるが、まぎれもなく一人の男の子が誕生し、この世での第一声をあげた。
重力は小さいはずなのに、男は体中の力が抜けて、ヘナヘナと腰から崩れ落ちそうになった。
そして、少し安堵のタメ息をついた。

どこでもありそうな出産のシーンではあったが、窓から見えるのは満面に散らばる星空と、円く大きく青く輝く、地球だった。

「私、今日は非番で、急に呼び出されちゃったけど、月のスペースコロニーの病院に妊婦さんを沢山かかえているし、帰らないといけないの」
「ここじゃ、満足な設備もないし、おいしいランチも出ないから、奥さんと息子さんもいっしょに連れていきますよ」
「どっ、どうもありがとうございました。すっ、すみませんがよろしくお願いします。たっ、たいへん心苦しいのですが、私は重大なミッションが残っていて着いて行くこができませんので」

 西暦2297年現在、月では鉱物の採掘や低重力環境での工場や研究所が作られていた。また、低重力有効活用ということで、リハビリ施設、デイケア施設や老人ホームなども作られていた。
しかしながら、月の低重力環境で長い間生活を続けると地球での生活に順応できなくなる恐れがある。
それで、特別な事情がない限りは月に滞在する一般人は、3か月という単位をリミットとして、地球と同じ重力設定にしているスペースコロニーという巨大な居住用人工衛星で3か月以上の生活を送ることになっていた。

 スペースコロニーは21世紀の最後に地球の人口が100億人を超えて、22世紀に入ってから計画し、建設を目指すようになった。
 22世紀初め頃まで、宇宙空間にスペースコロニーという居住用の巨大な人工衛星を作ることなど、遠い未来のSFの世界の話だと思われていた。というのは、スペースコロニーを作るための人間や物資を宇宙空間に運ぶには、ロケットを数千回飛ばしても、成し遂げることができなかったからであった。
ところが、21世紀の初めに宇宙エレベーターを建設するための基礎技術が確立された。
その技術とは、カーボンナノチューブという炭素原子を絡めた紐で、それは宇宙エレベーターに利用されても切れない強度を有した。それでも、当初は短いものしかできなかった。
 しかし、22世紀には10万kmの長い紐を作る技術が確立され、宇宙エレベーターとスペースコロニーの建設が現実味を帯び始めていった。
宇宙エレベーターは、赤道付近の空を周回する静止衛星とその真下の地面付近のポイントを繋いだカーボンナノチューブの紐が基本的な構造になっている。
 静止衛星は、高度3万6千kmを地球のまわりをまわる人工衛星で、その高度になると地球の回転速度と人工衛星の回転速度は同じになるので、あたかも地球上のある一点の上空に停まっているかのように見える。そこから、紐を垂らすだけでは、紐の重さで人工衛星は落ちてしまう。そこで、反対側にも紐を伸ばして遠心力を強くして、重力と遠心力を釣り合わせながら、上下に紐を伸ばし、地球側は地上まで3万6千km、外側は6万4千kmまで、到達させる。
静止衛星の付近は、無重力状態となるので、資材を持ち込めば、簡単に組み立てなどの作業ができる。

 スペースコロニーを作るためには、多くの課題があったが、特に2つの大きな課題があった。
一つ目は、何万人、何十万人が居住できるような空間を実現するためにどうやって、その資材を調達し、そこまで誰がどうやって運ぶのかだ。二つ目は、居住用人工衛星が、どうやって月のように安定して地球を周回できるかだ。

 一つ目の課題を克服できたのは、宇宙エレベーターの実現であった。限りなく不可能だと思われた宇宙エレベーターは、カーボンナノチューブの発明と、そのチューブの長い紐化により、実現可能になった。
地球と宇宙空間を結ぶ10万キロメータにも及ぶ紐を作ることが、カーボンナノチューブという驚異的な強度を持つ物質によって可能となった。その強靭な紐は、理論上、宇宙空間と地球を行き来するエレベーターの籠をぶらさげることを可能にした。
宇宙エレベーターの実現で、大きな重力の壁を越えて地球から物資を運ばなくても、月や小惑星から建造物を造り出すだけの物資を運ぶことも可能になった。

 二つ目の課題に対しては、月と地球の重力バランスの中で、安定して地球の周回軌道を回ることのできる居住用の巨大な人工衛星を稼働させることのできるラグランジェポイントという領域の発見であった。
ラグランジェポイントでは、スペースコロニーと呼ばれる地球と同じ重力設定の巨大な回転する筒を配置することが可能であった。当初、1つのスペースコロニーで、数万人の人が、生活することができた。そして、徐々にたくさんのスペースコロニーが作られるようになっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...