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一. プロローグ
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「ヒッ・ヒッ・フー」女は繰り返す。
助産婦はしきりに声をはりあげる。
「いきんじゃダメ」
「おしもの方を切りますね」
助産婦の柔らかい声に男は顔面蒼白になりながら、女の腹を擦る手を一瞬とめた。
助産婦はベッドに横たわる女の局部に数回麻酔注射を打ちハサミを入れた。しばらくして、その割れ目から黒いラインが少しずつ伸びていった。
「ふん、ぎゃー」
しばらくすると、猿のようでもあるが、まぎれもなく一人の男の子が誕生し、この世での第一声をあげた。
重力は小さいはずなのに、男は体中の力が抜けて、ヘナヘナと腰から崩れ落ちそうになった。
そして、少し安堵のタメ息をついた。
どこでもありそうな出産のシーンではあったが、窓から見えるのは満面に散らばる星空と、円く大きく青く輝く、地球だった。
「私、今日は非番で、急に呼び出されちゃったけど、月のスペースコロニーの病院に妊婦さんを沢山かかえているし、帰らないといけないの」
「ここじゃ、満足な設備もないし、おいしいランチも出ないから、奥さんと息子さんもいっしょに連れていきますよ」
「どっ、どうもありがとうございました。すっ、すみませんがよろしくお願いします。たっ、たいへん心苦しいのですが、私は重大なミッションが残っていて着いて行くこができませんので」
西暦2297年現在、月では鉱物の採掘や低重力環境での工場や研究所が作られていた。また、低重力有効活用ということで、リハビリ施設、デイケア施設や老人ホームなども作られていた。
しかしながら、月の低重力環境で長い間生活を続けると地球での生活に順応できなくなる恐れがある。
それで、特別な事情がない限りは月に滞在する一般人は、3か月という単位をリミットとして、地球と同じ重力設定にしているスペースコロニーという巨大な居住用人工衛星で3か月以上の生活を送ることになっていた。
スペースコロニーは21世紀の最後に地球の人口が100億人を超えて、22世紀に入ってから計画し、建設を目指すようになった。
22世紀初め頃まで、宇宙空間にスペースコロニーという居住用の巨大な人工衛星を作ることなど、遠い未来のSFの世界の話だと思われていた。というのは、スペースコロニーを作るための人間や物資を宇宙空間に運ぶには、ロケットを数千回飛ばしても、成し遂げることができなかったからであった。
ところが、21世紀の初めに宇宙エレベーターを建設するための基礎技術が確立された。
その技術とは、カーボンナノチューブという炭素原子を絡めた紐で、それは宇宙エレベーターに利用されても切れない強度を有した。それでも、当初は短いものしかできなかった。
しかし、22世紀には10万kmの長い紐を作る技術が確立され、宇宙エレベーターとスペースコロニーの建設が現実味を帯び始めていった。
宇宙エレベーターは、赤道付近の空を周回する静止衛星とその真下の地面付近のポイントを繋いだカーボンナノチューブの紐が基本的な構造になっている。
静止衛星は、高度3万6千kmを地球のまわりをまわる人工衛星で、その高度になると地球の回転速度と人工衛星の回転速度は同じになるので、あたかも地球上のある一点の上空に停まっているかのように見える。そこから、紐を垂らすだけでは、紐の重さで人工衛星は落ちてしまう。そこで、反対側にも紐を伸ばして遠心力を強くして、重力と遠心力を釣り合わせながら、上下に紐を伸ばし、地球側は地上まで3万6千km、外側は6万4千kmまで、到達させる。
静止衛星の付近は、無重力状態となるので、資材を持ち込めば、簡単に組み立てなどの作業ができる。
スペースコロニーを作るためには、多くの課題があったが、特に2つの大きな課題があった。
一つ目は、何万人、何十万人が居住できるような空間を実現するためにどうやって、その資材を調達し、そこまで誰がどうやって運ぶのかだ。二つ目は、居住用人工衛星が、どうやって月のように安定して地球を周回できるかだ。
一つ目の課題を克服できたのは、宇宙エレベーターの実現であった。限りなく不可能だと思われた宇宙エレベーターは、カーボンナノチューブの発明と、そのチューブの長い紐化により、実現可能になった。
地球と宇宙空間を結ぶ10万キロメータにも及ぶ紐を作ることが、カーボンナノチューブという驚異的な強度を持つ物質によって可能となった。その強靭な紐は、理論上、宇宙空間と地球を行き来するエレベーターの籠をぶらさげることを可能にした。
宇宙エレベーターの実現で、大きな重力の壁を越えて地球から物資を運ばなくても、月や小惑星から建造物を造り出すだけの物資を運ぶことも可能になった。
二つ目の課題に対しては、月と地球の重力バランスの中で、安定して地球の周回軌道を回ることのできる居住用の巨大な人工衛星を稼働させることのできるラグランジェポイントという領域の発見であった。
ラグランジェポイントでは、スペースコロニーと呼ばれる地球と同じ重力設定の巨大な回転する筒を配置することが可能であった。当初、1つのスペースコロニーで、数万人の人が、生活することができた。そして、徐々にたくさんのスペースコロニーが作られるようになっていった。
助産婦はしきりに声をはりあげる。
「いきんじゃダメ」
「おしもの方を切りますね」
助産婦の柔らかい声に男は顔面蒼白になりながら、女の腹を擦る手を一瞬とめた。
助産婦はベッドに横たわる女の局部に数回麻酔注射を打ちハサミを入れた。しばらくして、その割れ目から黒いラインが少しずつ伸びていった。
「ふん、ぎゃー」
しばらくすると、猿のようでもあるが、まぎれもなく一人の男の子が誕生し、この世での第一声をあげた。
重力は小さいはずなのに、男は体中の力が抜けて、ヘナヘナと腰から崩れ落ちそうになった。
そして、少し安堵のタメ息をついた。
どこでもありそうな出産のシーンではあったが、窓から見えるのは満面に散らばる星空と、円く大きく青く輝く、地球だった。
「私、今日は非番で、急に呼び出されちゃったけど、月のスペースコロニーの病院に妊婦さんを沢山かかえているし、帰らないといけないの」
「ここじゃ、満足な設備もないし、おいしいランチも出ないから、奥さんと息子さんもいっしょに連れていきますよ」
「どっ、どうもありがとうございました。すっ、すみませんがよろしくお願いします。たっ、たいへん心苦しいのですが、私は重大なミッションが残っていて着いて行くこができませんので」
西暦2297年現在、月では鉱物の採掘や低重力環境での工場や研究所が作られていた。また、低重力有効活用ということで、リハビリ施設、デイケア施設や老人ホームなども作られていた。
しかしながら、月の低重力環境で長い間生活を続けると地球での生活に順応できなくなる恐れがある。
それで、特別な事情がない限りは月に滞在する一般人は、3か月という単位をリミットとして、地球と同じ重力設定にしているスペースコロニーという巨大な居住用人工衛星で3か月以上の生活を送ることになっていた。
スペースコロニーは21世紀の最後に地球の人口が100億人を超えて、22世紀に入ってから計画し、建設を目指すようになった。
22世紀初め頃まで、宇宙空間にスペースコロニーという居住用の巨大な人工衛星を作ることなど、遠い未来のSFの世界の話だと思われていた。というのは、スペースコロニーを作るための人間や物資を宇宙空間に運ぶには、ロケットを数千回飛ばしても、成し遂げることができなかったからであった。
ところが、21世紀の初めに宇宙エレベーターを建設するための基礎技術が確立された。
その技術とは、カーボンナノチューブという炭素原子を絡めた紐で、それは宇宙エレベーターに利用されても切れない強度を有した。それでも、当初は短いものしかできなかった。
しかし、22世紀には10万kmの長い紐を作る技術が確立され、宇宙エレベーターとスペースコロニーの建設が現実味を帯び始めていった。
宇宙エレベーターは、赤道付近の空を周回する静止衛星とその真下の地面付近のポイントを繋いだカーボンナノチューブの紐が基本的な構造になっている。
静止衛星は、高度3万6千kmを地球のまわりをまわる人工衛星で、その高度になると地球の回転速度と人工衛星の回転速度は同じになるので、あたかも地球上のある一点の上空に停まっているかのように見える。そこから、紐を垂らすだけでは、紐の重さで人工衛星は落ちてしまう。そこで、反対側にも紐を伸ばして遠心力を強くして、重力と遠心力を釣り合わせながら、上下に紐を伸ばし、地球側は地上まで3万6千km、外側は6万4千kmまで、到達させる。
静止衛星の付近は、無重力状態となるので、資材を持ち込めば、簡単に組み立てなどの作業ができる。
スペースコロニーを作るためには、多くの課題があったが、特に2つの大きな課題があった。
一つ目は、何万人、何十万人が居住できるような空間を実現するためにどうやって、その資材を調達し、そこまで誰がどうやって運ぶのかだ。二つ目は、居住用人工衛星が、どうやって月のように安定して地球を周回できるかだ。
一つ目の課題を克服できたのは、宇宙エレベーターの実現であった。限りなく不可能だと思われた宇宙エレベーターは、カーボンナノチューブの発明と、そのチューブの長い紐化により、実現可能になった。
地球と宇宙空間を結ぶ10万キロメータにも及ぶ紐を作ることが、カーボンナノチューブという驚異的な強度を持つ物質によって可能となった。その強靭な紐は、理論上、宇宙空間と地球を行き来するエレベーターの籠をぶらさげることを可能にした。
宇宙エレベーターの実現で、大きな重力の壁を越えて地球から物資を運ばなくても、月や小惑星から建造物を造り出すだけの物資を運ぶことも可能になった。
二つ目の課題に対しては、月と地球の重力バランスの中で、安定して地球の周回軌道を回ることのできる居住用の巨大な人工衛星を稼働させることのできるラグランジェポイントという領域の発見であった。
ラグランジェポイントでは、スペースコロニーと呼ばれる地球と同じ重力設定の巨大な回転する筒を配置することが可能であった。当初、1つのスペースコロニーで、数万人の人が、生活することができた。そして、徐々にたくさんのスペースコロニーが作られるようになっていった。
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