プルートの逆襲

LongingMoon

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十六. 火星

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  火星に近づくにつれて、その起伏にとんだ赤っぽい姿を目の当たりにすることができた。再び燃料補給のため、火星の月にあたる衛星フィボスとのラグランジュポイントにあるスペースコロニーへミロメシアは着陸した。本当は、火星に着陸する予定であったが、火星の宙港の過密事情ですぐには着陸できなかった。
コロニーに着陸し、ミロメシアに対する補給と整備にセバスチャンとじいさんとドクターがあたった。
他の3人は自由に行動してよいことになった。そこで、美鈴とクリスとカズは火星に降りて、しばしの自由時間を楽しむことになった。
火星の重力は、地球の1/3程度であり二酸化炭素の大気圧も地球の1/100以下である。月と比べて重力は地球に近く、連続滞在許容期間は6カ月までとされていて、多少長い間生活することも可能であった。そこで、ドーム型の観光名所も点在していた。
美鈴は、単独の女性として溜まったストレスを解消すべく、1人でショッピングを楽しむことにした。美鈴は火星で唯一の小さな繁華街で、スイーツを食べたり、ドレスやアクセサリーを見物したりした。ドーム内では、温度は20℃で空気が1気圧に保たれており、重力を除いて問題なく、軽装で歩き回ることができた。

しばらくすると、一人の男が突然声をかけてきた。
「あれ。美鈴さんじゃないですか。覚えてますか。ボクですよ」
「えぇっー、ウソー。フェ、フェイロンじゃないの」
フェイロンは、美鈴の元彼チャイニーズ系アメリカ人で、3年前にアメリカの商社から貿易で香港に派遣されてきた。彼は美鈴のおじいさんがやっている太極拳道場に訪れて、美鈴と知り合った。彼も、太極拳拳法の有段者で礼儀も正しく、すぐにおじいさんに気にいられた。それで、美鈴が彼の香港生活をサポートしているうちに恋に落ちた。
しかし、彼の仕事が忙しくなり道場に来る機会が少なくなり、そのうち彼は帰国することになり、2人は深い仲になる前に別れてしまったという経緯があった。
彼は、昔のことには触れなかった。
「美鈴。ボクは今ここで、火星で採掘される宝石や鉱物の仕事をしてるんだ」
「へぇー。商社もたいへんね。鉱物の採掘はなんとなくイメージできるけど。こんなところで宝石って?何か出てくるの」
「ふふっ。美鈴は何も知らないんだな」
フェイロンは、少しだけドヤ顔で笑顔を見せた。
「なんと、なんと、ここではなぁ。大量のオパールが眠ってるんだぜ」
「えぇっ。本当に」
「本当さ。今から、300年くらい前に、水と生命を求めて、オレ達のじっちゃんのじっちゃんくらいの世代の人達が、発見してたんだぜ。オパールは、砂漠で生まれた水の宝石と呼ばれてて、宝石の中に水を含んでいるんだぜ」
美鈴は、瞳を輝かせた。
「フェイ、私にうんちくはいらないわ。なんとか、それタダで手に入らないのかなぁ」
フラれたのではないかと思っていた男のことより、宝石のことで美鈴の頭は、一杯になっていた。
「今は、発掘されるところは管理されていて、一般の人はムリだよ。でも、オレがいれば、なんとかなるかな」
もう、美鈴の頭の中から与えられた使命は消え去って、オパールのことで一杯になっていた。
「それじゃ、オレが今担当していてオパールが最も発掘できるマリネリス峡谷へでも行ってみるか」
フェイロンが美鈴を最もオパール発掘できるマリネリス峡谷へ案内してくれることになった。

マリネリス峡谷とは、グランドキャニオンの10倍くらいの規模を持つ深さ8kmの溝が広がる谷で、火星の名所の1つになっていた。

そこで、2人は繁華街の中にある観光センターへ行って、宇宙服に着替えた。
マリネリス峡谷へは、ホバークラフト型の観光バスがあり、それで移動した。

2人は、特に景色の奇麗なところでゴンドラに乗り、遊覧を楽しみながら谷底へ降りて行った。
谷底から上空の峡谷を見上げるのも圧巻の風景だった。美鈴がまわりの谷底を見回すと、一区画に柵が設けられ、関係者以外立ち入り禁止の看板が立っていた。
美鈴を連れたフェイロンが、そこへ近づいて守衛の人に話しかけた。
「やぁ、ご苦労さんです」
「あれっ。今日は、非番じゃなかったんですか」
「うん、そうだけど、今日は偶然出会った昔の知り合いに現場を見せてやろうかと思って、やってきたんだけど、ダメですかねぇ」
「どうぞ、どうぞ。今日は、うるさい現場監督も非番だし、全然大丈夫っすよ。入ってください」
もう、美鈴の顔は紅潮し、瞳はギラついていた。
美鈴は、展示室のオパールを見せてもらった後、採掘現場を見せてもらった。
「ここでは、やっぱり直接オパールを採ったりすることは、難しいね。宇宙服着ているし」
フェイロンはそう言いながら、美鈴の宇宙服のポケットに、こっそり怪しく虹色の光を放つ石を入れてくれた。そして、彼は宇宙服のごっつい人差し指を、自分の口元にあてた。
美鈴たちは、しばしのマリネリス地底の洞窟観光を楽しんだ後、最初に訪れた繁華街へ戻った。すると、繁華街でクリスとカズに偶然出くわしてしまった。クリスとカズは、なぜか挙動不審で、特にカズは終始うつむいていた。
「ありゃ、これは、これは、美鈴ちゃん。いい男連れてるね。美鈴ちゃんも、やるときゃやるねぇ」
「何言ってるの。この人は、昔、香港で私の道場に通ってきていた人で、偶然出会って、話をしていたのよ。変な勘ぐりをいれないでよ」
「それは、それは、失礼しやした。美鈴ちゃんの、おもりをしてくれていたんですね」
「あなたたちの話を美鈴から聞きました。こちらにいらっしゃる時間は短いと思うのですが、私にあなた達のお話を聞かせていただけないでしょうか。私の商社の上司が、是非あなた達の話を聞きたいと言っているのです。食事を用意して待ってるのですが。ミロメシアに残っている3人の方にも来てもらえないでしょうか」
「ミロメシアは、コロニーにいるので、ムリだわ」
そこで、クリスが美鈴の言葉を否定した。
「いや、ミロメシアはオレ達を迎えに、間もなく火星に着く予定だよ。さっき、連絡が入ってきたんだ」
 「あれ、いつの間にそうなったの」
「今、セバスチャンに連絡を入れるからね」
クリスが、セバスチャンに連絡を入れると、
「少し遅れるかもしれないが、確実にそちらへ着くよ」と、返事が返ってきた。
フェイロンが、誘導し始めた。
「あそこの角にある中華飯店なので、先に行きましょう」
クリスが応えた。
「いや、オレとカズはじいさん達をここで待っているよ」
そこで、美鈴とフェイロンは、先に中華飯店に行ってしまった。クリスとカズは、10分程待ったが、じいさん達はまだ来なかった。
「ちょっと、遅すぎるな。ミロメシアの着陸した宙港の方に行ってみよう」
二人は歩き始めた。
しばらく歩いて、宙港の近くまで着いてしまった。
「どうやら、すれ違ってしまったようだな。せっかくだから、ちょっくらミロメシアでも拝んでから、戻るとするか」
二人は、建物の間を縫って、宙港が見えるところまで歩き始めた。
目の前にドームの外にある宙港の空間が広がった。
すると、カズが急に興奮し始めた。
「クリス、あれ見て。ミロメシアのまわりに、黒っぽい服をきた怪しい奴らがいるよ」
「あんにゃろう。オレ達のミロメシアに何しやがるんだ」
クリスが、入港ゲートの方へ走り出し、カズもその後を追った。
クリスが、ゲートの係官に説明して、ゲートの中に入ろうとしたが、係官は簡単には、通してくれない。カズは、このままだとミロメシアが奪われてしまうと思った。カズは、放っておいてどうせそうなるならと思って、近くにある非常ベルを鳴らした。
宙港内に、けたたましい音が鳴り響いた。そして、多数の警備員が宙港内に飛び出した。
ゲート付近にいたカズとクリスはやってきた警備員に、「あなた達が、非常ベルを押したのですか」と尋ねられた。
興奮気味のカズが、口火を切った。
「はい、そうです」
「どうなされましたか」
今度は、クリスが顔を真っ赤にして、がなりたてた。
「あそこを見てくれ。奴らが、オレ達のミロメシアに何か悪さをしてるんだ。早く、奴らを捕まえてくれ」
「そうだったのですね。わかりました」
警備員は無線機で警備室に知らせ、宇宙服を着た警備員がミロメシアの方へ向かった。
すると、ミロメシアの破壊活動を行っていた思われる奴らは、すぐ近くに止めてあった車で移動し、ドームの外に止めてあった宇宙船で、どこかへ飛び立ってしまった。
一方、クリスからの連絡を受けたセバスチャン、ドクター、じいさんは、ちょうど、美鈴のいるレストランに合流したところであった。それで、美鈴は、フェイロンに別れを告げて、ミロメシアに向かう事になった。
しばらく、4人が宙港に向かって歩いていると、突然、前方からまばゆいレーザ銃の光が走り、波動音がドクターとじいさんの間を走った。
発射された方を見ると、3人の男がいた。
4人は慌てて、ビル間の路地に走りこんだ。路地に入ると、示し合わせてセバスチャンと美鈴がすぐに、自動販売機の陰に隠れて、じいさんとドクターは敵に後ろ姿を見せて路地を反対方向へ逃げ続けた。敵は、銃を撃ちながら追いかけてきた。そして、自動販売機のところに差し掛かった時、セバスチャンが、「この野郎」と言いながら、3人の内の1人に殴りかかった。
しかし、セバスチャンが殴りかかる前に、美鈴がすでに1人の男を蹴り倒していた。勝負は一瞬だった。2対2の接近戦では、マフィアのレーザー銃は役にたたなかった。残りの2人を倒して、4人はすぐに、宙港へ向かった。すでに、カズとクリスはミロメシアへ戻っており、そこへ美鈴たち4人が帰ってきた。
セバスチャンが、壊されたところをなでながら言った。
「全く、油断も隙もない奴らだ。まあ、この程度ならみんなであたれば3時間くらいで修理できそうだ」
美鈴が、節目がちな表情を浮かべていた。
「ごめんなさい。私、少し気になることがあるの。2時間以内には、帰ってくるから、わがまま許してね」
クリスが、柄にもなく優しげな微笑みを浮かべた。
「美鈴、思う存分行って来い。みんなも、いいだろう。戻ってこなくてもいいんだぜ。でも、連絡はしろよな」
みんなは、無言で、頷いた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私は必ず戻って来るから」
美鈴は、そう言い残して出て行った。
美鈴は、フェイロンが中華飯店で差し出したカードに書いてあった住所を覚えていて、そのあたりへ行ってみた。そこは、火星の一時的労働者用の居住区域らしかった。入口にある公園で、フェイロンが車イスに乗った子供とそのお姉さんらしき人と幸せそうに遊んでいた。しかし、彼らの会話からその子供もまたウィルスに冒されていることを知った。美鈴は、公園の周りに植えられた街路樹の外から彼との別れの涙を押さえつつも、敵への憎しみを新たにした。

  美鈴がミロメシアに帰ると、みんなはまだ修理にあたっていた。しかし、カズだけが夢うつつといった顔をして様子が変だった。クリスは、口笛を吹きながら、セバスチャンの手伝いをしていた。
 「お帰り。早かったな。もう、こっちは終わりだから部屋へ行って休みな」
「カズ、どうしたの」
「別に」
カズは顔を赤らめて一言答えるだけだった。
「おじょうさん、野暮なことは聞くもんじゃないぜ」
クリスは何事もなかったかのように口笛を吹きながら、作業を続けた。
美鈴は、2人と出くわした繁華街で、カズたちがやってきた方角にあった歓楽街のことを思い出した。
 「いやらしい」
美鈴は、声を荒らげて自分の部屋へ閉じこもって、香港に残してきたおじいさんの写真を見ながら眠りについた。
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