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二十八. オーストラリア
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輸送船から見る地球は、青く大きく輝いていた。地球まで、あと10万kmのところまで来ていた。間もなく、美鈴とクリスにとっては、初めての大気圏突入であった。もっとも、月生まれのカズは生後1カ月の時に体験したことだから、初めてのようなものではあった。テレビや映画で見る大気圏突入のイメージからすると一抹の不安はぬぐえなかった。もちろん、セバスチャンという人類最高クラスのパイロットが導いてくれるので、万に一つの失敗も考えられなかったが。
輸送船は、少し軌道を変えながら地球へ向かった。半日後には、大きな衝撃と共に地球の大気圏に突入し、じいさんからの指示でオーストラリアのダーウィン北方80kmに位置する亜熱帯のメルヴィル島に着陸した。
メルヴィル島は、19世紀にはヨーロッパからの来訪者によるその歴史への介入はあったが、早くから原住民アボリジニ保護区域に指定されていた。リゾートや観光地でもあったが、島民の生活を重視し、独自のアボリジニの文化を守り続けていた。
メルヴィル島は、タスマニアに次いでオーストラリアで2番目に大きい島であったが、数千の人しか住んでいなかった。しかし、この島の人々とインカ人とは古くから交流があり、この島のアボリジニ達はインカ人を敬っていた。
今回の事件で、インカ人はメルヴィルのアボリジニに、カズ達の輸送船の着陸を許可してもらっていた。メルヴィルの人達は、彼らのカラフルな民族衣装を着てカズ達5人を歓迎してくれた。そして、ダーウィンへの飛行機が出るまでのわずか3時間の束の間の休息時間をとらせてもらった。カズとセバスチャンにとっては、人質に捕らわれている肉親のことが心配で一刻でも早くここから出発したかった。人質に関する情報は、ダーウィンの空港でインカ人から教えてもらう手筈になっており、二人にとって心休まることはなかった。
メルヴィル島から飛び立った飛行機は、ダーウィンへ到着した。飛行機が空港に着き到着ゲートを抜けた時、空港のテレビパネルにはじいさんの予想通り月へ向かっていた国籍不明の宇宙船を撃墜したというニュースが映し出されていた。ミロメシアは、SOS信号を出しながら飛行していたはずなので、国際宇宙法上、撃破は違法行為であった。当然、マフィアの息のかかった一部の国際宇宙連合軍の人間がこれを無視して撃ち落としてしまったのだ。ドクターは、これで奴らの目を欺くことができたのかが気がかりではあった。セバスチャンとカズはそれぞれ娘と妹の救出のことで頭がいっぱいではあったが、もう2度とミロメシアのコックピットの空間・匂い・操縦桿の感触を味わうことができないという寂しさが胸をよぎった。美鈴とクリスは、2人で大道芸の練習に明け暮れた日々の光景が胸に去来した。
観光客を装った5人が、その映像を見入っている時、地元のオーストラリア人と思われる大きな男が、5人に向かって「全く宇宙では何をやっているのかわけがわかりませんな」と話しかけてきた。5人に緊張感が走った。
「敵なのか味方なのか」
男は、「ダーウィンでのお泊まりは、是非○○ホテルへどうぞ」と言いながら、無理やりそのホテルのパンフレットをカズに押しつけてきた。
カズは渋々それを受け取った。男の通信ピアスがちょうどこの時、受信したようで、何やら話しながらどこかへ行ってしまった。
カズは、「全く、こんな時に」と思いながら、そのパンフレットを捨てようとした。
するとクリスが、「カズ、待て。それをオレに見せてくれ」と言った。
カズは、無言でそのパンフレットをクリスに手渡した。
クリスが、それを楽しそうに眺め始めた。
美鈴の白い視線を感じながらも。
しばらくすると、クリスがニコニコしながら、「それじゃ、今日はここに泊るか」と言って皆の顔を見回した。
セバスチャンが今にも殴りかからんばかりの形相で、顔を赤らめていた。
そこで、ドクターがそれを制して、「そうだな。皆疲れているし」と言いながら、席を立った。
そこで、初めて皆、「何かあるのだな」と気がつき、すでに1階のゲートに向かって歩き始めたクリスの後について行った。
1階のエントランスを出ると、すでにそのホテルのマイクロバスが停まっていた。例の男はいなかった。白髪の60過ぎの老人が運転席にすわっているだけであった。
そこで、クリスは真面目な顔になって、「よろしく」と老人に向かって言った。
老人は、無言で軽く頷き、カズ達はマイクロバスに乗り込んだ。
「あのパンフレットには、ここではオレ達は目立ちすぎで、まずは1階のエントランス外に○○ホテルのマイクロバスが停めてあるので、それに乗ってくれという内容のことが書いてあったんだ。手紙の最後に、プルートーカロンと締めくくってね」とクリスが言った。
そこで初めて皆の顔に安堵の色が宿った。
カズ達を乗せた車は、ダーウィンの中心市街には向かわずに、空港の南にあるチャールズダーウィン国立公園の外側の道に沿って東へ向かって走っていた。10分程して車は、森の中のロッジの前で停まった。そこには、さっきの大男と1人のチャイニーズ系のインカ人が出迎えてくれていた。
インカ人は、「あいさつは後だ。とにかく中へ入れ」と言った。
運転手のじいさんを残して、すぐさま全員ロッジの中へはいって行った。
インカ人が自己紹介した。
「私の名前はリョサです。普段はこのオーストラリアのノーザンテリトリーで農場の経営をしているのですが、事が起これば本部の指示に従い世界平和のための活動をしています。結婚して、ペルーから家族でここへやってきて、かれこれ15年くらいになるかな。私にとっても、今回、最高危機レベルのミッションは初めてになりますが、思いはあなたたちといっしょです」
「そして、ここにいる大男はフリーマンです。通称ジャンボくんです。今回、あなた達が着陸したメルヴィル島のアボリジニの子孫で、島の村長の推薦で私たちに、協力をしてもらっています。彼は、ゴールドコーストの国際武道大学のマスターを卒業したばかりで、ありとあらゆる格闘技をマスターしている猛者です。きっと、あなたたちの役に立つでしょう」
ジャンボくんは、その体とアンバランスなベビーフェイスで、「よろしくです」と言いながら、ニコっと笑った。
インカ人のリョサは、「人質は、ここには、もういない。今晩、Lーガン号という列車で、オーストラリア南岸の都市アデレードに向かってください」と言った。
ガン号というのは、元々2~3日かけてオーストラリア大陸を縦断していたが、2100年頃リニア化されL-ガン号となり、10時間で縦断できるようになっていた。その後、L-ガン号は改良を重ね、特殊コンテナまで連結できるようになっていた。
「我々は、1週間前にインカの最高顧問より、特命を受けてここへ移ってきました。そして、空港での聞き込みで、ダーウィンの港の倉庫で人質が拉致されているところまで、調べはつきました。しかし、ほとんどそれがわかったタイミングで、なぜか奴らは人質をアデレード方面へ連れていってしまったようです。もちろん、我々に気付かれたとは考えられないのですが」
ドクターは、「奴らは、拉致するのに、一定の手順を踏んでいるのかもしれん。どこへ連れて行ったのかがばれないようにするため、自分達が追跡されていないかどうかを調べるためだろう」
「おそらく、日本、スペイン、ダーウィンでの追跡状況は見極められている可能性が高い。それに、やつらは我われが生きているとしたら、拉致して抗ウィルス剤を取り上げてしまいたいはずだ。いや、最初から人質をエサにして、我々を消去してしまおうというハラだろう」
リョサは、「なるほど。奴らなら、そこまでやりかねませんな」と言った。
「そこで、今回はどうするかだが。まず、人質の2人はアデレードへ連れていくフリをして別のところへ連れていっていったのではないかと思うのだが。インカの人達には、彼女達がどこへ連れて行かれたのかなんとか探り出してほしい。もちろん、ばれないように。それと、我々の動きは、まだ奴らに察知されていないはずだから、奴らの裏をかいて、ひっかかったフリをして私と美鈴はアデレードへ向かおう」とドクターが言った。
するとクリスが、「オレはともかくとして、美鈴をそんな危険な目に合わせなくてもいいだろう」と珍しく真顔で言った。
美鈴が「あら、クリス、あなた私のことをかばってくれるの。案外、やさしいとこあるのね」と言った。
「バカヤロー。おまえが、人質になると、いつ切れて取り返しのつかないことをやるかわからないからだよ」と言った。
「いや、クリス。キミにはキミにしかできない、任務があるんだ。キミは、これから直接アメリカ大統領に会って、事情を説明するんだ。こんな話を突然持ちかけて信じてもらえるのは、キミしかいないだろう。もう時間がない。私達を信じてキミは、アメリカへ飛ぶんだ。ホワイトハウスへ。これを持ってな。大統領の弟としてな」と、抗ウィルス剤、その製法の書いたデータとマフィアの要人データの入ったケースを指差した。
「今日は2月10日だ。選挙が終わるまで、あと4日しかない。大統領への連絡も、並行して進めなくてはならない。大丈夫だ。私達は、必ず人質を助けてみせるさ」と自分自身に言い聞かせるようにドクターが言った。
「わかった。オレはやるよ。でも、いったいどうやって」とクリスは言った。
「それだ。クリスは、いったんメルヴィル島へ戻ってくれ。そこからオーストラリアの観光施設団に紛れ込んで、ペルーの首都リマへ飛ぶんだ。
更に、インカの代表がすでにペルーの大統領と交渉中で、アメリカとの首脳会談の下準備のため外交官をワシントンへ派遣することにして、キミをその飛行機に同乗させてもらうように取り計らっている。キミはホワイトハウスへ潜入して、大統領に直談判するんだ」とドクターが説明した。
「よし、わかった。しかし、人質の救出はどうやって連絡してくれるんだ」
「うまくいった時には、ペルー政府に紛れ込んだインカの人達がマチュピチュで1万発の花火を打ち上げてくれることになっている。その映像は、すぐにXP通信に流して、世界へ報道してくれることになっている。クリスくんのコンタクトレンズブラウザには、必ず映し出されるはずだ。一般の通信は危険じゃからな。早速だが、クリスくんは、そこのじいさんとダーウィン空港へ行って、そこからメルヴィル島へ飛んでくれ。それから、冥王星で抗ウィルス剤の処方箋をいただいた時に、世界中のウィルス感染者リストも手に入れている。そいつも、大統領に渡してくれ」
「わかった。それじゃ、じいさん頼む」といつの間にか部屋に入ってきていたマイクロバスの運転手のじいさんに向かって言った。
じいさんは、黙って頷き外へ出て行った。
クリスは美鈴に、「ムチャすんなよ」と言って、部屋を出ていくドアへ手をかけた。
美鈴は、「あんたもね」と不安そうな顔をして言った。
ドクターは、「さて、私と美鈴はアデレードへ向かうとして、セバスチャンとカズだな。私の予測では、彼女たちはアデレードへ行くまでに途中下車してどこかへ連れて行かれたとみて、ほぼ間違いないと思う。今、インカの人たちに、L―ガン号の停車駅での不審な荷物の積み下ろしが衛星撮影されていなかったか解析してもらっているところなので、間もなく結果がわかると思う。しばらく、がまんして待つんだ」とセバスチャンとカズの心を鎮めるように言った。
そうして、1時間ほど沈黙の時が過ぎた。外から聞こえてくる鳥の声だけが部屋の中の緊張感を和らげていた。
リョサの通信ネックレスが鳴り響いた。リョサは、その内容を確認し、添付されていた衛星撮影動画をすぐさま立体映像で空間表示させながら、その場にいるみんなへ説明しはじめた。その映像は、L―ガン号の経路の中間地点にあるアリススプリングスで多数のコンテナが切り離されている様子が映し出されていた。そして、そのコンテナの中に怪しげなトレーラに繋がれて、すぐにその場を離れていくコンテナがあった。
ドクターは「やはり」と呟いた。
ジャンボくんが、「アリススプリングスで、あの方面にコンテナが向かっていること自体、不自然だな」と言った。
「よし、今夜のL―ガン号に乗ろう。私と美鈴は客車に乗るが、セバスチャンとカズは、コンテナに乗り込むんだ。私たちは、アデレードで人質を探してるフリをしてからやつらを欺いて、リョサとアデレードのオーストラリアの空軍基地に入り込んで、セバスチャンとカズからの連絡を待っている。私はなんとか空軍基地の連中を説得して、キミたちと人質を救出しにいく」とドクターが言った。
「それから、ジャンボくんは運送業者になりすましてアリススプリングスで降りて、2人を乗せたコンテナをトレーラーで安全なところで、降ろしてやってくれ。それで、3人で相談しながら、人質が連れて行かれたところを探し出して、救出に向かってくれ。決してムリせずに、やばそうな時は早い目に、連絡をしてくれ」とドクターは話続けた。
「カズとセバスチャンは直接ダーウィン駅へは行かずに、ここから10kmほど北にある運送会社へジャンボくんと向かってくれ。そこで、2人はコンテナの荷物となって、ジャンボくんはドライバーに変身する。それで、L―ガン号のコンテナに接続させてくれ。我われとは、別行動でくれぐれも敵にばれないようにな」
ジャンボくんが、「わかりました。まかせといてください」と言いながら、部屋にある運送会社の作業着を持って、隣の部屋へ着替えに行った。
そして、ジャンボくんとカズとセバスチャンは、出て行った。できるだけ早く、L―ガン号の手続きをすませるために急ぐ必要があった。2人をコンテナに潜入させるのも、できるだけ早くやる必要があった。
部屋には、ドクターと美鈴とリョサが残された。
美鈴が、「ホントに、カズたちは大丈夫かしら」と言った。
ドクターは、部屋にあったパソコンを操作しながら、「大丈夫だ。彼らなら必ず人質を救出できるだろう。いや、やってもらうしかないんだ」と言った。
ドクターは、オーストラリア軍の基地へ侵入するための情報収集を開始していた。その横で、リョサがドクターの質問に答えながら、作戦の提案をしていた。
美鈴は、いつの間にか彼女の心の中に勝手に棲み込むようになったクリスのことを思い出しながら、眠りについていた。
美鈴が目を開けた時、窓の外は真っ暗になっていた。ドクターとリョサは、テーブルを挟んでコーヒーを飲みながら、雑談を交えながらオーストラリア軍を動かすための段取りをツメていた。
美鈴が目を覚まして上半身を起こした時、リョサが、「おはよー。お腹がすいたでしょう」と言いながら、キッチンから食事を運び始めた。
美鈴が眠っている間に、準備してくれていたようであった。
3人は食事をとりながら、今後の段取りについて話し合った。必然的に、ドクターとリョサが美鈴に説明し、美鈴が不明点について質問した。そして、食事を終え3人は、L―ガン号が待つダーウィン駅へ向かった。
21:30ダーウィン駅。人の数はまばらだが、列車にはたくさんのコンテナがつながれていた。美鈴は、あの中の1つにカズとセバスチャンが入っているんだと思った。3人は、観光客の服装で列車のコンパートメントに、乗り込んだ。
22:00定刻通り、列車は出発した。カズたちが下車するアリススプリングスまで5時間、アデレードまで10時間の乗車予定であった。
アリススプリングス駅停めのコンテナに乗り込んだカズとセバスチャンは、とりあえず眠らなくてはと思っていたが、やはり人質にとられた肉親のことを思うとあまり眠れなかった。
5時間後列車は停止し、次々とコンテナを切り離していく振動音が鳴り響いた。停車してから、15分が経ち、カズたちの入っているコンテナが動き出した。そして、ジャンボくんは停車後すぐに、アリススプリングス駅でチャーターしていたトレーラーに乗り込み、2人が乗ったコンテナを繋いで走りだした。そして、20分程してトレーラーは停まった。
コンテナの扉が開いた。セバスチャンとカズは経験の差や年の違いこそあれ、いよいよ戦闘開始だなという思いで、胸が高鳴った。トレーラはアリススプリングスの深夜のゴルフ場のクラブハウス前に停まっていた。ジャンボくんがいうには、衛星動画によると何台かのコンテナ車がウルルと呼ばれる方面へ向かっていって、そこから先は不明とのことであった。それで、とりあえず300km以上離れたウルルまで向かうことになった。乗用車で、すっとばして、4~5時間はかかる道のりであった。もう、考える余裕はなかった。3人は乗用車に乗り込んでウルルへ向かった。
4時間後、車はウルルへ到着した。タイムリミットはせまっている。時間がない。3人は、ウルル近辺でアボリジニへの聞き込みを開始した。3時間が経過し、太陽は高く上り、もう正午近くになっていた。住民の話をまとめると、1~2カ月ごとに深夜、ウルル近辺の立ち入り禁止区域の森林に、何台かのトラックが入ったりすることがあることと、ヘリコプターが発着しているような音を聞いた者がいるということであった。しかも、最近はその頻度がずいぶん増えているとのことだった。3人は、そこに間違いないということで意見が一致した。3人は、ジャンボくんが、交渉してその近辺の民家に、夜まで潜入することにした。その民家は、初老のおばあさんの一人暮らしだった。3人は、そのおばあさんにもその立ち入り禁止の森について、何か変わったことがないか聞いてみた。
すると、そのおばあさん、「わたしゃ、ヘリコプターらしきものがグレートビクトリア砂漠の方へ飛んでいったのを見たことがある」と言いだした。
3人は、顔を見合わせた。
ジャンボくんが、「そういえば、大学時代、オーストラリアのどこかの砂漠に、得体のしれないマフィアの基地があるといううわさを聞いたことがある」と言った。
すると、おばあさんが間髪いれず話し出した。
「今夜は、たぶんそのヘリコプターが発着する日じゃよ。新月の夜には、ほとんどヘリコプターの羽ばたく音がするんじゃ。年寄りには、あの低音が耳につくんじゃ。今夜は、新月じゃな」
セバスチャンの顔が真剣な表情に変わっていた。
「この話、だいぶ信憑性がでてきたな。夕べのL―ガン号のことを考えたら、まず、間違いないな」
「暗くなったら、この森に侵入し、奴らのヘリを奪って、秘密基地へ行くぞ」
ジャンボくんは、このことをアデレードにいるリョサへ連絡した。
カズは、今すぐにでも、妹を助けるために、森の中へ飛び込んでいきたい衝動を抑えながら夜が来るのを待った。もう、どんな危険も危険と感じなくなっていた。それは、セバスチャンとジャンボくんという最強の仲間がいたからでもあった。
ようやく、うす暗くなってきた。
セバスチャンが、「よし、いくぞ」と言って、2人の顔を見た。
2人は、黙ってうなずいた。
森の中へは、以外と簡単に侵入することができた。昔ながらの、十字鉄線のハザードが設けられているだけで、森の中にある木と外の木をロープでつないで、越えることができた。
木々はうっそうとおい茂り険しかった。照明を照らすことはできない。3人は、ダーウィンから持ってきた赤外線スコープを装着し、突き進んだ。レーザ銃やスタンガンなどの武装もしていた。
手さぐりで進むことは、ただ遭難しに行くようなものであった。しかし、ジャンボくんからの連絡を受けたリョサは、すぐさま森の衛星写真解析をインカ本部に依頼し、森の中心にある平原までの道のりを示す地図をジャンボくんの携帯端末へ送りつけてきていた。
3人は地図にしたがい、森の中心へ突き進んでいった。星は見えない。目印になるものもほとんどない。目的地までは、3kmくらいであるということだけは、わかっていた。このあたりで、GPS機能は使えない。敵に存在を気付かれる恐れがあるからだ。方位磁石とわずかな土地の起伏、水の流れだけがたよりであった。
1時間ほど、中止しながら進み続けた。残りあと1kmくらいのところまで来ているはずであった。すると少し明かりが見え始めた。明かりへ近づくにつれて、人が動いている気配が濃厚となっていった。注意深く敵にばれないように前進すると、やはり3人の武装した見張り役がいた。おそらく、中心の広場の周囲1km付近に、見張りを配備していることが予想された。カズたちにはジャンボくんという強い味方がいた。やつらを倒すことは簡単であった。しかし、3人を一気に倒さなければ、本部に連絡される可能性があった。まず、セバスチャンが敵に気付かれないギリギリの見張り小屋近辺のところで、身を隠した。ジャンボくんはもう少し離れたところに身を隠した。更にもう少し離れたところで、カズがわざとケモノが動いているような物音をさせた。2人の見張りはジャンボくんが隠れているところまで調べにやってきた。そのタイミングでカズは、ブレスレットのサウンドジェネレーターからフクロウの鳴き声とはばたく音を発生させた。
2人は、「なーんだ。フクロウか」と言って、安心して方向を変えた瞬間、ジャンボくんが一気に二人を倒してしまった。
カズもすぐに参戦しようとして走り寄ったが、活躍するチャンスは失われていた。そして、小屋から残りの1人が出てきた瞬間、今度はセバスチャンがそいつを倒してしまった。ジャンボくんとカズは、倒した2人を担いで見張り小屋までやってきた。セバスチャンはすでに、倒した1人を縛り上げていた。3人とも縛り上げて、小屋の中に放り込んだ。通信に使われそうなものに近付けないよう、小屋の柱に縛り付けた。更に3人には、睡眠剤を注射した。もちろん、手持ちの通信機器も全て取り上げて、小屋の外に放り出した。
カズたち3人は更に森の中心部へ突き進んだ。30分ほどすると、照明に照らされた区域が視界に入ってきた。そして、しばらく注意深く進むと木々の隙間から広場が見え始めてきた。森の中で広場全体が見渡せるところまで近づくと、ヘリに乗せる物資や人質と思われる人達が集められていた。
セバスチャンが、カズへ視線を送った。
「やっと、ここまで来れたな」
「うん。絶対、助けられるよね」
「オレたち、3人がいれば絶対大丈夫さ」
ジャンボくんは、カズの不安な気持ちを払しょくさせるように言った。
1時間ほどすると、ヘリの音が聞こえ始め、だんだんその音が大きくなり、8機のヘリが着陸した。最初の3機に人質らしき人達がヘリに乗せられて飛び立っていった。人質の中に、セバスタチャンの娘カルメンとカズの妹ハルカはいないようだった。
カズは気持ちの高ぶりを抑え切れなかった。
「早くいかないとヘリがいなくなっちゃうよ」
「いや、もう少し待つんだ。必ず、チャンスはあるさ。敵のヘリを奪ったとしても、ばれてしまったら、追尾もできなくなってしまうからな。こういう時は、敵の状況を。よーく見て、方法を考えるんだ。必ず、抜け道があるもんだぜ。よーく、覚えとけ」
セバスチャンも心の中は、焦りと不安を募らせていたが、自分自身に言い聞かせるように、客観的思考を心がけるようにしていた。
しばらくして、セバスチャンが「あのヘリを見てみろ。オレと同じくらいの背丈のパイロットが、機外でタバコ吸いながらソワソワしてるぜ。ありゃ絶対トイレだぜ。ここには、そんなもんないから、必ず茂みにいくぜ。あそこから、一番近い茂みに移動しよう。急いで」
そこから広場周囲の1/4ほど離れたところを指さしながら言った。
3人は、敵に悟られないように、忍び足で走りだした。
セバスチャンは、走りながら、ジャンボくんに話しかけた。
「ジャンボくん、頼んだぜ。わかるな。どうするか」
「大丈夫だよ」
ジャンボくんは、OKサインを出してから、猛然と忍び足でできる限りダッシュした。
そして、用をたしているパイロットの背後に回り込み、ほとんどパイロットがそれに気付いたかどうかというタイミングで、殴り倒して、気絶させた。セバスチャンとカズが追いついた時には、ジャンボくんはパイロットを縛りにかかろうとしていた。
セバスチャンが、「待て。縛る前に、やることがある。そいつの服を脱がせてくれ」と言った。
「なるほど」
カズとジャンボくんは、声を重ね合わせて、倒れた男の服を脱がせ始めた。
「セバスチャン、少し小便くさいぜ」
ジャンボくんは、自分の鼻をつまんだ。
「しかたないさ」
セバスチャンが、急いでその服を着始めた。最後にゴーグルを付けて、1人でヘリの方へ向かった。
ヘリは、すでにプロペラが回転し、人の声はほとんど聞こえなかった。セバスチャンは、ヘリにそなえつけているホワイトボードによる筆談で、そのヘリを担当している2人の工作員に向かって、「あの茂みのあたりで、怪しい声が聞こえたような気がした。ちょっと、見てきてくれないか」と書いてみせた。
工作員の1人は、「もう、出発だ。そんなのいいだろ」と筆談で返した。
ゴーグルで顔を隠したセバスチャンは、「いや、気になって仕方がない。少しだけでも頼む」と返した。
その工作員は、「しょうがないなあ」という表情を浮かべながら、もう一人の工作員に親指で、茂みを指した。2人は、小走りで茂みに向かった。
セバスチャンの作戦は成功した。2人の工作員は、茂みの中で、なぐり倒され、上着をはがれて、睡眠剤の注射を打たれて縛られた。もちろん、ジャンボくんの仕業であった。
1人の工作員は、大柄であったが、それでも彼の服はジャンボくんにとってパツンパツンであった。カズの方は、少し大きい目であったが、問題なかった。
照明があたっていても遠目から見て、まさか、3人がそっくり入れ替わってしまっていることには、その広場にいる誰も気づかなかった。3人は、ヘリに乗り込んで、管制本部からの指示を待った。残っているヘリ5機のうち、2機が飛び立った後、無線で飛び立つよう指示があった。
セバスチャンは、「ちょっと、腹の調子が悪いので、最後にしてくれ」と管制へ話しかけた。
管制本部担当は、「基地までがまんできないのか」と言ったが、セバスチャンは、「ダメだ。もう行く」と言った。
管制本部担当は、「しゃあねえな」といったが、その時、すでにセバスチャンは、茂みに走り出していた。そして、残りの2機が飛び立ちそうなのを見計らって、戻ってきた。
セバスチャン、カズ、ジャンボくんが乗ったヘリは、すぐに離陸し、先に飛び立ったヘリを追尾し始めた。
ヘリは、やはりグレートビクトリア砂漠の方へ向かっていた。
途中、セバスチャンは、ヘリに装備されている緊急脱出用のマニュアルを指差し、2人に読んでおくように指示した。2人は、それを何度も読み返した。
離陸してから1時間ほどすると、輸送ヘリの一団はある地点で旋回し始めた。すると、その下方の地上に光のサークルが浮かび上がってきた。全ヘリに無線で順次着陸態勢に入れとの指令が入った。すると、セバスチャンのへりは、何をとち狂ったのかバランスを失ったような動きをし始めた。
そして、「本ヘリ328号は、バランス制御装置トラブルで飛行不能。飛行不能」と無線に向かって叫んだ。そして、2人に向かって親指で、脱出用パラシュートを指さした。
カズとジャンボくんは、顔を見合わせ頷きながらニヤっと笑い、すぐに装備を始めた。
セバスチャンは、「本機は、基地への着陸不能。着陸不能。周囲の空き地に不時着する」と無線を続けた。
管制本部から「了解。基地南東部に着陸されたし」と返事が返ってきた。
セバスチャンは、いったんその方面を目指したが、バランスを失った操縦を続けて、基地の東部付近の起伏を隔てたところへ向かった。そして、自らも操縦しながらパラシュートを装着し終えると、左手の指でカウントダウンを始めた。セバスチャンが5本目の指を折り曲げた瞬間、体がばらばらになるような衝撃とともに3人は外へ放り出された。ヘリは、不規則に回転しながら地面に向かって落下し叩きつけられ、爆発炎上した。星々が輝く夜空を、3人はヘリを追いかけるようにゆっくりと、パラシュートで降りて行った。オーストラリアの砂漠は、他大陸の砂漠と比べてそれ程厳しい気候ではなかったが、昼間と打って変わって夜は寒々としていた。全く経験のない2人は、少し離れたところへ降りてしまったが、すぐにセバスチャンの元へやってきた。
セバスチャンは、炎上するヘリから少し離れたところで、砂漠に穴を掘り始めていた。2人がやってくると、セバスチャンは「早く。急いで穴を掘るんだ」と言った。
カズが「そうか。パラシュートを埋めるんだね」と言いながら、ジャンボくんといっしょに穴掘りを手伝い始めた。
「やつらが、ここへやってくる前に、パラシュートを埋めて、とんずらするんだ。急ぐんだ」
3人は、5分で作業を終え、その場から敵基地の北側へ向かった。セバスチャンは、上空から見た基地の構造上、敵は南東方面からやってくると考えたからであった。また、セバスチャンは、基地の北側にも必ず出入り口があるはずだと思った。基地の全容はわからなかったが、基地は普段は砂漠の中に隠れていて見えないが、ヘリが発着する時だけ、ヘリポートが地上に露出するしかけになっているようであった。まだ、炎上しているヘリとヘリポートの明かりを手掛かりに、出入り口を探した。1時間程、さまよった。出入り口は、見つからない。ヘリポートの明かりは消え、ヘリの炎も消えつつあった。
セバスチャンは、「やつらも、オレたちの遺体がないことに気づいているだろうな」とつぶやいた。
内心、早く出入り口を見つけなければやばいという焦りの気持はあったが、カズとジャンボくんには、「落ち着いて探せば、必ず見つかるから、探すんだ」と言いながら、一切不安な表情は見せないよう心がけていた。
それからさらに30分ほど探し続けた。
すると、セバスチャンが「みんな、伏せろ」と言って、突然身をかがめた。
カズとジャンボくんも身をかがめた。すでに、人工的な光は消滅し、満天の星空の中、人を載せたラクダが現れた。人影をよく観察すると、小学生でいえば高学年くらいの子供のようであった。
オーストラリアの砂漠は、アフリカやモンゴルの砂漠と違って、全く人が住んでいないというわけではなかった。事実、オーストラリアの砂漠には、アボリジニの部族が点在していた。アボリジニの部族には、掟があって自分たちのテリトリーから出てはいけないことになっていたが、夜、寝つけずに遠くでかすかな爆発音を聞きつけたこの少年は、禁を破ってラクダに乗ってここまで来てしまったようだった。
セバスチャンが、「カズ、おまえの出番だ。あれは、アボリジニの子供だ。なんとか交渉して、基地の出入り口を聞き出すんだ。こんな時間にこんなところをうろついているような少年だ。きっと、秘密基地に関する何かを知っているに違いない」と言った。
「えぇー。言葉がわからないよ」
「バカヤロー。言葉なんて、身ぶり手ぶりでなんとかなるさ。それより、突然オレたちが顔を出したら、あの子、警戒するだろ。わかるだろ」
「うん。そうだね」
カズは返事しながら、ジャンボくんにアボリジニ語の「こんばんは」だけを聞いてから、両手をあげてその好奇心旺盛な少年の方に向かって歩いていった。
「こんばんは」
「立派なラクダだね」と言いながら身ぶり手ぶりでそれを示してみせた。
少年は、ラクダを降りて、ニコッと笑って、カズとそのラクダの背中を指さして、乗ってみるかという身ぶりをしてみせた。
カズは、あわてて首と手を振る拒否の動作をしてみせた。
ついつい出てしまう英語も、ほぼ通じているようであった。
そして、カズは自分には仲間がいて、その中にはその少年と同じアボリジニの大きな男がいることを必死で説明した。すると、その少年は首を縦に振って、手でおいでおいでの身ぶりをしてみせた。
カズは、声をセーブしながらも「ジャンボくーん」と彼らにまで聞こえるような声で叫んだ。
するとジャンボくんだけが小走りでかけよってきた。
ジャンボくんは、少年が驚いて気が動転したような表情を浮かべたのをごまかすように、少年の脇に手を入れて高い高いをしながら、「君は立派な少年だ。きっとオレ達を助けてくれる神の子だ」と満面の笑顔を作って言った。
少年の顔にも笑顔がさした。
ジャンボくんのアボリジニ語とパフォーマンスが通じたようであった。そこからは、ジャンボくんが誠心誠意、これまでの事情を少年に話して聞かせた。そして、その話の中に出てくるセバスチャンを呼び寄せた。セバスチャンはゆっくりと笑顔を作りながら、少年に近づいて握手を交わした。カズ達には、残された時間は少ない。遅くとも48時間以内には、人質を助け出して、ペルー経由でアメリカへ向かったクリスに知らせなければならばかった。ジャンボくんは、少年に、秘密基地の出入り口についての情報が何かないか何でもいいから話して欲しいと必死で話かけてくれた。しかし、少年は夜空に輝く南十字星の方向を見つめてしばらく黙り込んでしまった。
そして、少年は何を思ったのか、全く反対の方角を指差した。ジャンボくんの質問に対して、それは彼が住んでいるアボリジニの村の方角であることがわかった。少年が言うには、この砂漠地帯の出入り口があると考えられる地帯に、これ以上近づいて帰ってきた者はいないということであった。今では、少年の村の部族でそこへ近づく者はいないということであった。少年は更なる話によると、少年の村の古井戸から基地へ潜入できるはずだと言い張った。その古井戸は、現在は水が出るわけではなく、村の神様が祭られている祭壇のようなものになっていて、村の行事がある時に、村の長とその親族達が飾り付けをして、祈りを捧げる場所になっているということであった。無論、そこへは他の誰も近づいてはいけないという掟があった。
しかし、少年は3年前にその禁を破って、他の村の子供たちとそこへ入って、地下水脈の洞窟があることを発見し、3日3晩彷徨い歩き続けた。そこで、水脈の奥の方から聞こえてくる音を聞き付けて、偶然マフィアの秘密基地らしきものがあるのを見つけてしまった。
そこで、少年たちはそこにいる怪しげな輩に見つかってしまったら、殺されるだろうという危険を察知し、来た道を引き返した。迷いながらも、なんとか水脈へ入り込んだ古井戸のところまでやってきた。もちろん、村では神隠しではないかということで、古井戸に祭壇を飾り付け、毎日祈りをささげていた。少年たちは、示し合わせて、夜中になるのを待って古井戸の周りで寝転がり、朝、誰かに起こされるのを待った。少年たちは、意図的に神のお告げを聞いてからその3日3晩の記憶は失っていたということにしていた。
神隠しということで、少年たちは叱られずに事なきを得た。そのことは、今でも村の少年たちの秘密であった。カズたちがその古井戸に入る為に村の長をどうやって説得するかが、問題であった。もちろん、少年たちが見てきたことを話すわけにはいかなかった。
「よし、そしたら、カズたちを、地の神様にしよう」
少年が、自信満々の表情を浮かべていた。
「えー。そんなことができるのかなあ」
ジャンボくんの翻訳に対して、カズが声をあげた。
少年は、話を続けた。
「大丈夫さ。今から村へ行って、友達をたたき起こして、カズたちに神様の化粧をするんだよ。それで、3人は村のトーテムポールのところに並んで、座るんだよ。村の長を呼んでくるので、長に向かって、ジャンボくんが言うのさ。『我らはアボリジニの地の神なり。アボリジニの村々の見回りをして帰ってきたところじゃ。お前たちは、よく信心してくれているようじゃな。ご苦労なことじゃ。我らは、これからあの古井戸から神の国へ帰るのじゃ。早く古井戸の囲いを取り除いて、我らに食べ物を備えるのじゃ』と言ってください」
カズが不安そうな顔をして、ジャンボくんの通訳を介して、少年に言った。
「そんな単純なしかけで、大丈夫なのか」
少年には、全く不安げな様子はなかった。
「大丈夫さ。ジャンボくんの演技次第だけどね」
ジャンボくんは、すぐに反応した。
「大丈夫。オレにまかせろ」
カズはなんだか不安だったが、今度はセバスチャンが反応した。
「カズ、心配するな。こんな時は、うまくいく、いかせるんだと思ってりゃ、必ずうまくいくもんだぜ。なりきることだよ。時間がない。さあ、行こう」
1時間程で少年の村についた。カズ達は、トーテムポールのところで、待たされた。
少年は、30分ほどして、仲のいい友達を5人連れてきた。彼らは、アボリジニの化粧道具を持ってきていた。カズたちは、30分ほどで化粧をしてもらった。特に、ジャンボくんはトーテムポールそのもののようだった。3人は、ジャンボくんを真ん中にして並んで座らされた。5人の友達は、それぞれの家へ帰っていった。少年が、村の長を呼びに行った。
村の長は、ジャンボくんたちの前にくるやいなや、彼自身もジャンボくんの前に跪き、祈るように声を上げた。
「おお、神よ。怒りを鎮めてくれたまえ。我らは、いつも神を敬い、祭りたたえております。どうか、我らの村がいつまでも平穏無事で豊かであり続けるよう取り図り給え」
ジャンボくんは少年に教えられたとおりに言った。
「我らはアボリジニの地の神なり。アボリジニの村々の見回りをして帰ってきたところじゃ。お前たちは、よく信心してくれているようじゃな。ご苦労なことじゃ。我らは、これからあの古井戸から神の国へ帰るのじゃ。早く古井戸の囲いを取り除いて、我らに食べ物を備えるのじゃ」
村の長は、応えた。
「おお神よ。わかりました。すぐにしたくをします」
そして、耳をつんざくような大声をあげた。
「村の衆。すぐに起きて、古井戸に集まれ」
すると、村の班長らしき人達が集まってきて、長と何やらボソボソと話し始めた。班長らしき人達は、それぞれの班へ帰って、お供えの指示を出して戻ってきた。そして、古井戸の囲いを撤去し始めた。撤去が終わったころには、お供えを持った女たちがやってきて、供え始めて、30分ほどで供え終わった。
村の長が、ジャンボくんに向かって、うやうやしく言い放った。
「お供えは終わりました。さあ古井戸の方へお越しください」
ジャンボくんは、仰々しく応えた。
「御苦労である」
更に続けて言った。
「我らは、旅を急ぐ。これだけ、いただいていく」
武装道具を入れた袋に食料を詰め込み始めた。
村の人達は、ひれ伏していた。それをしり目に、3人はロープを使って、古井戸の中へ消えて行った。
井戸の底には、少年が言っていたとおり、人ひとりがやっと通れるくらいの小さな穴があった。カズやセバスチャンはその穴を無理なく進むことができたが、ジャンボくんにとってはギリギリ通れる状態であった。さすがのジャンボくんも、もし途中で穴が行き止まりになっていたら、後ろ向きに進むことは困難極まりないことで、不安な思いにかられながら進んでいった。
15分程進んだところであろうか、先頭を進んでいたカズが、「やったぁ、広場に出たよ」と叫んだ。
ジャンボくんは、たったの15分が24時間くらい経過したかのように感じられ、他の人にはわからない安堵感を感じた。空間で明かりを照らすと、こぢんまりとした空間があり、奥に続きそうな8つくらいの穴があった。
セバスチャンは、コンパスを見ながら、「奴らの基地は、こっちの方角だな」と言って、1つの穴を指差した。
カズは、「行くっきゃないね」と言って、穴の方へ進んだ。
セバスチャンは、「よし、赤外線スコープを付けてくれ。消すぞ」と言って、照明を消した。
3人が進んでいった穴は、人が歩いて通れるくらいの空間があり、下り坂になっていた。もう後戻りはできない。大男のジャンボくんは、無言で2人に続いた。3人は、自然にできた洞窟を、途中蛇行したり、段差を飛び降りたりしながら、下へ下へ進んでいった。セバスチャンは、来た道を戻ることはないと思いながらも、万が一戻ることになった時のために目印となるマーキングのICチップを残しながら進んでいった。30分程進んだ時、ほとんど垂直に降りなければならない底の見えない窪地に出くわした。アボリジニの少年が言っていた通りであった。セバスチャンは手慣れた様子で、ロープをセッティングし、スルスルと降りて行った。カズとジャンボくんもそれに続いた。そして、10メートルほど降りたところに横穴があり、3人はそこへ入っていった。更に30分ほど進むと、突如、スコープを通して大きな空間が広がった。数十メートル先には、地底湖らしき水脈が広がっていた。スコープをはずすと、湖の向こう岸に、かすかな明かりが見えていた。
セバスチャンは、呟いた。
「なるほど、やつらはこの水脈を利用して秘密基地を構築してやがるんだな。インカのやつらといい、まあ、これだけ人知れず、モグラ生活を送ってられるもんだな」
「よし、これから先は、敵と遭遇しながらのミッションだ。出会ったやつらが、本部や他のやつらに連絡できないように細心の注意が必要だ。急がなくてはならないが、人質の居場所を突き止めて、助けられる目星がつくまでは、慎重に行動するんだ。大丈夫だ。必ず、糸口はあるはずだ」
セバスチャンは、他の2人と自分自身に言い聞かせるように言った。
3人は、湖の北側を回り込むルートで、敵基地の明かりを目指した。15分程歩くと徐々に、敵の基地らしき建物が見え始めた。
「よし、手前から3番目の建物から明かりがもれている。まずは、あそこから行くぞ」
セバスチャンが言った。
一番手前の方には、倉庫らしき建物が並んでいた。そして、その倉庫の並びの端に居住区を兼ねた事務所らしき建物があって、その建物に明かりが灯っていた。
「倉庫の横を通る時には、十分注意しなくちゃな。もし、誰かにこっそり見つけられるようなことがあったら、事だからな。カメラにも気をつけてな」
セバスチャンが言った。
「まずは、あの事務所に居る人を全員眠らせて、あそこにあるパソコンから情報を引っ張り出すんだね」
カズが言った。
セバスチャンが応えた。
「上出来だ。おまえも、この仕事がわかってきたようだな。このミッションが終わったら、スペイン軍にでも推薦してやろうか」
「いやだよ。そんな、ぶっそうな仕事は」
カズは、あわてて拒否した。
「ジャンボくんは、どうだい。いいからだしてるしな」
セバスチャンがジャンボくんの肩を叩いて言った。
ジャンボくんも、少しあわてた様子で、応えた。
「め、めっそうもない。ボクは、こう見えても、結構気が弱くて臆病者なんだ」
「そうか。おまえら、結構見どころあるんだがなあ」
セバスチャンは、冗談とも本気とも言えるような口調で言った。
深夜時間帯のせいか、倉庫は無人のようだった。特に、カメラらしき物も見当たらなかった。
セバスチャンが、「例の作戦で、いくぞ」と言うと、2人は、「了解」と言った。
3人は、まず洞窟空間の天井が崩れたかのように見せるために、その事務所の玄関側の外に、小砂利や石ころをばらまいた。少し離れたところに大きな岩があり、そこには大量の砂利を積み上げて、カズとジャンボくんはそこに隠れた。セバスチャンは、更に小砂利をその事務所の屋根の上に向かって投げ上げた。そして、すぐに隣の倉庫の物陰に隠れた。
3階建ての事務所の3階に明かりが灯り、その窓から4人が顔をのぞかせた。4人は、小砂利に気付いたようであった。しばらくして、3人が外へ出てきて、2人は、大きな岩の方へ向かった。もう1人は、事務所の前に落ちている小砂利の様子を見ていた。セバスチャンは、大きな岩へ近づいた2人の様子を確認して、自分が隠れている付近で小砂利が落ちる音をさせた。そして、残りの1人が事務所から見えない倉庫の影の方へやってきた時に、スタンガンで気絶させた。大きな岩の方でも、カズとジャンボくんが2人を倒していた。ウルルでの作戦の再現であった。しかし、今度は、まだ事務所に最低でも1人の人間が残っていた。時間を開け過ぎると怪しまれるので、すぐに、見つからないよう細心の注意を払いながら事務所に潜入し、残っている奴らを倒さなければならなかった。
セバスチャンは、気絶させた人間の服に着替えて、単独で鍵を開けて玄関から入って行った。ここは、一か八かの奇襲作戦しかないと思って、とにかく彼らが潜んでいた3階へ上がって行った。2人が戻ってくるのを待つ余裕はなかった。しかし、3階には誰もいなかった。セバスチャンの額と背中から、汗がにじり出た。セバスチャンは「しまった。連絡されたか」と思いながら、3階のフロアをチェックしてまわった。確かに直近まで人がいた痕跡は残っていた。もう、カズたちも事務所の玄関から入ってきていた。
その玄関では、小学校高学年くらいに見える女の子がそこで待っていて、「おはよう」と言ってニコっと笑った。
カズとジャンボくんは、唖然として、「おはよう」と言い返した。
そこへ、あわてた様子でセバスチャンが降りてきて、「おはよう」と言った。
女の子も、また、「おはよう」と言って笑った。
セバスチャンは、汗を拭きながら、「キミが誰で、なぜここにいるのか、おじちゃんたちに教えてくれるね」と言った。
「おかあさんを呼んでくるから、ちょっと待っててね」
間もなく、女の子の母親が1階へ降りてきた。
「おはようございます。よく、ここまで無事にたどり着かれたのですね」
3人は、あっけにとられた。
「冥王星にいる主人は元気にしていましたか」
いきなり、母親が言い放った。
その一言で、蒼白になっていた3人の表情に赤味がさした。その親娘は、冥王星でマフィアの研究をさせられているシバザトの妻子であったのだ。
カズが応えた。
「ご主人、いやお父さんは元気にしていましたよ。それで、お父さんもあなた達のことを心配していましたよ」
「話は後ね。早く、あなたたちが外で倒してきた4人をここまで運んできて、監禁しないといけないわ」
今度は、セバスチャンが応えた。
「わかりました」
セバスチャンは、2人をつれて外で倒れている敵の4人を運ぶために出て行った。
3人が帰ってくると、シバザトの奥さんは、全てを見通しているかのように話しかけてきた。
「2階の廊下の突き当たりにある部屋に監禁してください。あそこなら、意識が戻っても、外と連絡ができないようになっているので。それが終わったら、3階の湖側の奥の部屋に来てください」
3人は、その通りにして、3階の部屋へ入った。そこには、情報機器が設置されており、女の子が説明しはじめた。
「私たちは、お父さんが火星で拉致された時、同じタイミングで、火星のスペースコロニーで拉致されてここへ連れてこられました。私は乳児だったので、ここの生活しか記憶にないけど、世界で起こっていることや、あなた達のことを知っています。私たちだけでは、どうすることもできなくて、お母さんとこの時がくるのをじっと待っていました」
「娘のノアが言う事は少し生意気で聞き捨てならないこともあるかもしれませんが、幼いころから知能が高くて全てを理解した上で情報収集し、マフィアの野望を打ち砕き、父親と暮らせる日を夢見て生きてきたので、許してください」
セバスチャンは、しゃがんで、ノアに目線を合わせた、
「状況はわかったよ。どうしたらいいか、おじちゃんに教えてくれるね」
3人は、ノアのことを、きっとシバザト博士のDNAを受け継いだ天才少女なのだと理解した。
「この基地は、地下100m直径1kmくらいの地底湖のまわりにある空洞を利用して作られているらしいの。もちろん、マフィアの武器、麻薬、人質なんかの格納場所としてね。ここの全体図は、この図のようになっているの」
ノアは、そう言いながら空間映像を壁の手前に映しだした。
更に、説明を続けた。
「私たちは、今ここにいて、・・・」
そして最後に、「おそらく、今ここにいるメンバーだけでは、人質を助け出すことは不可能だわ」とあっけらかんと言った。
カズが、「何を言ってるんだ。ボクらは、絶対助け出さなくてはいけないんだ。何が何でも」と声を荒げて言った。
ノアは「落ち着いて聞いて。何も救出できないと言ったわけではないの。でも、3人や5人の人質を救出するわけじゃないの。100人近くもの人を助けなければならないのよ。そこの大きな人」と言った。
ジャンボくんは、素っ頓狂な顔をして、「オレ?」と言って、自分を指さした。
ノアは、「そう。あなたよ。あなたは、これまでインカの人と連絡を取っているわね。このあたりまで来ていることは、連絡はついているわね」と言った。
「うん。おそらくヘリを墜落させたところまでは、インカのスパイ衛星で掴んでいるはずだと思うよ」
「たよりないわね、あなた。でっかいのに。まっ、いいわ」
ジャンボくんは、幼く見える女の子に子供のようにあしらわれて情けなさ気な顔をしていた。
「わかったわ。私たちは、人質を連れてカズ達がやってきた洞窟で逃げ出すのよ」
「そんなことをしたら、すぐにやつらに捕まっちゃうよ」
「そりゃ、何も工夫せずにやれば、だめよ。何のために、ドクター達がアデレードに行ったと思ってるの。それはねオーストラリア軍を動かすためよ。ただ、マフィアも軍も正面衝突なんてできるはずもないから、そうなったら人質をつれて逃げようとするわね。まあ、正規軍を簡単に動かせるわけでもないけどね。やっぱり、特殊工作部隊ね。この地下水脈の南側から基地本部と武器・麻薬庫を攻めさせるの。確か南側にもアボリジニの村落があって、そこから地下水脈に入れるはずだわ。よし、すぐに私がマフィアにばれないようにドクターへ暗号を送るわ。ドクターなら、きっとその準備を始めてるはずよ」
カズは自分が妹を助けなくてはならない立場にありながらも、「そんなに、うまく行くのかなあ」と思いつつ、もう彼女の考えに頼るしかなかった。
ノアは、「タイミングが重要だからね。これから、私たちが人質を脱出させる段取りができた段階で、本部をせめてもらわないとダメね。それで人質のガードが甘くなったところでガードを全て倒して、一気に救出ね。こっちの方が早そうね。今から3時間後に、特殊工作部隊がマフィア本部の攻撃をするよう秘密の暗号を送るわね。あっちは、それぐらいはかかりそうだから」と言いながら、パソコンをたたく指の方が先に動いていた。
もう時間がないことも、この少女は知っている。カズたちは、この少女軍師の作戦に身を委ねるしかないと思った。
ノアは、更にネックレスの飾りに向かって、「おっ、おかあさんがたいへんなの。階段から落ちて、意識を失って動かなくなっちゃったの。ここの人達は、なんとか蘇生させようとしているのだけど、助けにきてー。お願いー」と声だけの迫真の演技を演じた。
そして、3人に向かって、間髪入れず言った。
「もうわかると思うけど、ここの救護用カートが来たら、救急班を眠らせて、カートを奪って乗り込むのよ」
セバスチャンも、すぐに呼応した。
「よし、わかった。しかし、絶対本部へ連絡を取らせてはいかん。オレが、外で隠れて、救急カートに残っている運転手を片付けるから、カズとジャンボくんは部屋のドアの手前で待ち伏せするんだ。奥さんは、部屋から入ってきた救護員にすぐわかるように、そこで眠っていてください。ノアちゃんは、救護員が来たらこの部屋まで誘導してくれ」
10分後に、マフィアの救急班がやってきて、事務所の前に停まった。
家を裸足で飛び出したノアは、「早く、早く、お母さんが、お母さんが、大変なの」と救護員をせきたてた。
2人の救護員は、その言葉に引っ張られて、担架を持って家の中に入って行った。運転手を残して。
セバスチャンは、3人が階段を上がって行く音を聞いて、救急カートにこっそり近づいて、そのドアを開けるや否や、スタンガンで運転手を眠らせた。
一方、事務所の2階では予定通りカズとジャンボくんが、2人の救護員をやはりスタンガンで眠らせた。
カズたちは、眠らせた3人を、この事務所にいた者たちといっしょの部屋に放り込んだ。
カズ、セバスチャン、ジャンボくん、ノア、ノアの母親は、武器を積み込んで救急カートに乗り込んだ。
「いよいよね」
ノアが、希望と不安の入り混じった表情で、母親の耳元へ呟いた。
「そうね。やっと、お父さんに会える日がやってくるのね」
カズとセバスチャンは、肉親を人質に捕られているのは自分たちだけでないのだということを改めて思い知らされた。
セバスチャンは、ノアの指示にしたがって、カートを走らせた。カズたち3人は、すでに眠らせた3人の救護員の白衣に着替えていた。やはり、ジャンボくんには白衣もパツンパツンだった。
5分程で、救急施設の駐車場にカートを停めた。
ノアは改めて、基地の構造と人質を救出する段取りを説明した。
この計画は、あくまでもオーストラリアの特殊工作部隊が2時間以内に南部から攻撃することが前提であった。
しかし、ノアの計画に反して、救護員が帰ってこないことを不審に思ったマフィア救護部隊が防衛部隊に連絡し、調査に行ってしまった。防衛部隊は、1時間で事務所に入り、閉じ込められていた5人を発見してしまった。もちろん、シバザトの妻子がいないこともばれてしまった。ノアの計画より45分も早く警報が鳴り始めた。しかも、それは特殊工作部隊のためではなく、ノア達自身の脱走によるものであった。ノアは、強引に閉じ込められている人質を解放し、戦力になる者を味方につける作戦に切り替えることにした。
「もう、やるっきゃないわよ。私たちが、人質解放をしようとしていることを気付かれる前に、一気に監禁されている部屋へ行くのよ。それから、人質の閉じ込められている部屋を占領して、特殊工作部隊が南から攻撃をしかけるのを待つの。やつらは、必ずそっちに力を傾けるはずだから、その時私たちは打って出るのよ。それで、セバスチャンさんは人質を先導してアボリジニの村へ誘導して。ジャンボくんとカズは人質を助けた後、しんがりでマフィアの攻撃を防ぐのよ。そのうち、特殊工作部隊が助けてくれるはずだから」
ジャンボくんが、「よし、わかった」と言って、行動を開始した。セバスチャンとカズもそれに続いた。病院の駐車場から人質の部屋までは、500mもなかった。敵がいなければ、10分もあれば行ける距離であった。セバスチャンにとっては娘のカルメンが、カズにとっては妹のハルカが、すぐ目と鼻の先にいて、助け出せるんだという思いで、レーザー光線銃を撃ちまくりながら、突き進んだ。そして、30分後ついに人質の部屋までやってきた。さすがに、敵の応援部隊も大挙してせまっていた。もう、人質が監禁されている部屋で籠城するしかなかった。人質の部屋の監視員と激しく打ち合った。そして、ついにそこを突破し、5人は人質の部屋へ走りこんだ。
ハルカが「おにいちゃーん」と叫びながらカズに抱きついてきた。
もちろん、カルメンも「おとうさーん」と叫びながらセバスチャンに抱きついてきた。
しかし、彼らは感動の対面を振りほどき、敵に対峙した。
ノアが叫び声をあげた。
「みなさーん。早く、何でもいいからバリケードになるものをあそこへ積み上げて」
そして、その部屋の入り口を指さした。すると、50人くらいの人質たちが、どんどんバリケードの山を積み上げていった。そして、バリケードの隙間を通して激しい銃撃戦も始まっていた。すでに、敵の応援部隊は到着していた。バリケードの山は、どんどん崩れていく。
カズもジャンボくんもセバスチャンも必死の形相で戦い続けていたが、崩れゆくバリケードの状況に緊迫した悲壮な顔色に変わりつつあった。
ノアが、再び叫んだ。
「3人とも、がんばって。あと、少しよ。あと10分よ。10分以内に必ず、必ず、敵の攻撃は弱まるはずよ」
もう、バリケードは人が飛び越えられるくらいに崩れていた。3人とも敵レーザがどこかにあたって崩れた破片で、傷ややけどを負っていた。カズは、もう、このまま死ぬかもしれないと思った。
かろうじて残っていたバリケードも音を立てて大きく崩れ始めた。
その時、遠くで別の警報音が鳴り響いた。
「やったわよ。やっと、特殊工作部隊がやってきたのよ」
ノアが、三度、叫んだ。
ノアの言葉通り、敵の攻撃が弱まり始めた。
セバスチャンが、「よし、今だ」と言って、手榴弾を敵にお見舞いした。
人質の見張りにあたっていた敵は、絶叫の声とともにせん滅されてしまった。
「行くわよ。さあ、急いで」
ノアが、人質となっていた人達をせかし立てた。
ノアは母親に、「私は、カズやジャンボくんといっしょに、最後から着いて行くわ。おかあさんは、人質の人たちが、不安がらないように勇気づけながら、先に行ってちょうだいね」と言った。
母親は、「わかったわ。あなたも、十分注意してね」と言って、人質の人達に紛れ込んでいった。
セバスチャンが、「よし、オレについてくるんだ」と言って、人質たちを誘導した。
そして、最後にノア、ジャンボくん、カズが続いた。
人質の最後尾から、少し離れてノアが部屋から飛び出すやいなや、突然、再び敵の攻撃が始まり、ノアの周りをレーザー光線が飛び交い、一人の銃口からノアに向かって発射されそうになっていた。
その瞬間、ジャンボくんがノアの後ろから猛然とダッシュし、「ノア、伏せろ」と言いながら、ノアの体に覆いかぶさるようにして、ノアを押し倒した。すぐに、すっかり腕を上げたカズが援護射撃で、その敵を一瞬にして倒した。
「重いわね。ジャンボくん。どいてよ」
ノアが言った。
しかし、ジャンボくんは動かなかった。ノアは、後頭部に生ぬるい液体が垂れ続けている感触を覚えた。
ノアは、「ジャンボくん、どうしたの」と言いながら、首だけをなんとか天井の方へ動かした。
ノアの顔は一瞬にして蒼白となり、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と大声で絶叫した。
ジャンボくんの片目がグシャグシャに潰れ、大量の血が流れ出していた。
ノアは「私のせいで、私のせいで。ジャンボくんが、ジャンボくんがぁー」と泣き叫んだ。
カズが、あたりの全てを切り裂くような大声で、
「ノアアアア―、落ち着け。落ち着くんだぁぁぁ」と叫んだ。
更に、カズは今度は打って変ってやさしい声で、「ノア、落ち着いて聞いてくれ。よく見てみろ。ジャンボくんは生きている。ボクがすぐに応急処置をする。今は、彼の命を助けるんだ。いいな。そこから這い出て、ジャンボくんを仰向けに寝かせるのを手伝ってくれ。泣き叫んでるヒマはない。一刻を争うんだ」と言いながら、ダーウィンから持ってきた医療道具をまさぐりながら、ジャンボくんの傍らに寄り添った。
ノアが、「カズくん。大丈夫なの」と心細げに言った。
「ボクは、これまでウィッキー・マンデラという世界最高のドクターにいろいろ教えてもらった。心音、脈拍、残された左目を見る限り、右目の負傷は脳にまで達していないようなんだ。出血を抑えれば命は助かるはずだと思う。だから、キミも手伝ってくれ」
ノアは、「本当に?」と言いながら、カズの指示で傷のまわりを丹念にきれいにして消毒し始めた。
それでも、時折悲しみを抑えきれず、嗚咽しながら、「ジャンボくん。ジャンボくん」と何度も彼の名を呼んだ。
ジャンボくんの顔は、ノアの涙が滴り落ちて濡れていた。
ものの10分程しか経っていなかったが、応急処置を終えたカズには何時間も経過したように思えた。
カズは、それまで自身の呼吸が止まっていたかのように「ふーっ」と息を吐きながら、ヘナヘナとそこへ崩れ落ちた。
ノアは、ジャンボくんの目以外の傷も隈なくケアしていた。時折、ジャンボくんの名を呼びながら。ジャンボくんは、時々苦しそうに唸り声をあげて体をくねらせた。
それから1分程して、「ノア、しょっぱいぜ。涙のスープは」と、蚊の鳴くような小声が聞こえた。
ノアは、目と口を大きく開いて、一瞬あっけにとられた。
そして、「ジャンボくん、あなた意識、戻ったの?」と問いかけた。
「どうやらな」
「もう、天国にでも着いたのかと思ったよ。柔らかくて、いい匂いがして、気持ちよかったなんてな」
ノアの目からは、ボロボロと涙がこぼれだした。
「何よ。バカバカ」と言いながら、ノアはジャンボくんの胸を何度も叩いた。
ジャンボくんは、「いてててっ。重傷のけが人に何をしやがるんだ」と言った。
ジャンボくんは激しい鈍痛に襲われながらも、ノアの顔を見ていると不思議とまだまだやれるという勇気を感じていた。
ジャンボくんは、カズとノアの手を借りながら、なんとかアボリジニの村へ向かって、歩き始めた。時折、敵の残党が後ろから、攻撃を仕掛けてきたが、カズ1人で必死で防戦した。重傷のジャンボくんがいるので、確実に敵を倒しながら進まなければならなかった。
なんとか、往路で竪穴を降りて移動したところまで、やってきたが、ここはどう考えても、ジャンボくんを連れて越えることはできなかった。
ノアが、「待つのよ。必ず、セバスチャンが戻ってきてくれるわ」と言いながら、ジャンボくんの持っていたレーザー光線銃を取り上げて身構えた。
カズとノアの2人は少し戻って、マフィアの大空洞からアボリジニの村を結ぶ小さな洞窟の口のところで、敵を迎え打つことにした。ここで、2人は必死で戦った。ジャンボくんのいるところまで、退くわけにはいかなかった。しかし、多勢に無勢でじわじわと後退せざるをえなかった。また、カズたちは危機的状態に追い込まれていった。
ノアが、「あの洞窟の曲がってるところまでは下がれないわ」と、悲壮な顔で銃を撃ちながらカズに言った。
「大丈夫だ。セバスチャンがきっと来てくれるさ」
しかし、もう銃のチャージがきれかかっていることをカズはわかっていた。
敵の攻撃に曝されはじめ、カズの髪をレーザーがかすめ、焼け焦げる匂いがした瞬間、2人の後ろから、二条の閃光が敵の中へ吸い込まれた。2人が後ろを振り返ると、そこにはセバスチャン以外になんと美鈴の姿があった。
「なんとか、間に合ったようね」
カズとノアは、いっぱいいっぱいだった。体中の力が抜けて、その場にしゃがみこんだ。
セバスチャンが、「よくやった。さあ、オレ達に任せて、2人とも下がってくれ」と言った。
その言葉を聞いた瞬間、ノアはジャンボくんのことが心配になって、すぐにジャンボくんのところまで、走った。すると、1人の医師がジャンボくんの治療を始めていた。言わずと知れた世界最高のドクター、ウィッキー・マンデラだった。
「ノアちゃんだね。シバザトの娘さんだね。よく、がんばったね。あとは、私に任せてくれれば、大丈夫だ。必ず、助けてみせるさ」
ノアは、コクっと首を振って、「お願い。ジャンボくんを、ジャンボくんを助けて」と、うっすらと涙を浮かべながら言った。
カズは、引き下がらずに、セバスチャンたちと一緒に戦い続けた。一気に、形成が逆転し始めた。そして、セバスチャンたちが来てから10分程すると敵は背後からオーストラリア工作部隊の攻撃を受け始め、挟み撃ちの状態となり、一気に瓦解した。結果的に、ノアの作戦は成功した。
工作部隊の1人が美鈴の前までやってきて、「アデレード以来だな。お嬢さん」と言いながら、マスクをはずし、手を差し延べた。
それは、アデレードで喧々諤々の口論のすえ、やっとの思いで出動することを約束させた工作部隊の隊長だった。
「ありがとう。でも、遅かったわね。もっと、早く来れなかったの」
美鈴はそう言いながら、握手の手を差し延べた。
「かなわんなあ。お嬢さんにかかっちゃあ」
「けが人がいるの。運ぶのを手伝ってくれるわね」
隊長は、「もちろん」と言って、すぐに部下に指示を出した。
カズとセバスチャンは、すでにジャンボくんのところへ、向かっていた。
「ドクター、どうでしょうか。ボクは、ボクは、できるだけのことをやったつもりなんだけど」
カズが、うっすらと涙を浮かべながら、言った。
「これは、おまえがやったんだな」
カズが、コクっと頷いた。
ドクターは、手を動かしながらも少しためて、「上出来だ。よくやった。この手当がなければ、ジャンボくんの魂は、1人だけこの洞窟から抜け出していたところだったよ」と言った。
すると、なぜかカズの目から涙があふれ出し、その場にへたりこんでしまった。
すぐに、セバスチャンがその後ろからカズの両肩に手をあてて、「ご苦労だったな」と言った。
ジャンボくんの目は、ドクターの魔法のような手術にかかり、縫合を終えた。続いて、特殊工作部隊がすぐにジャンボくんを担架に乗せて担ぎ始めた。それに、皆が続いた。
アボリジニ村の井戸を出たところで、リョサが待っていた。リョサがアボリジニに話をつけてくれていたのであった。リョサはジャンボくんが帰ってきたのを待って、ペルーへ連絡し始めた。井戸の外は、白みがかった空が朝を告げようとしていた。
輸送船は、少し軌道を変えながら地球へ向かった。半日後には、大きな衝撃と共に地球の大気圏に突入し、じいさんからの指示でオーストラリアのダーウィン北方80kmに位置する亜熱帯のメルヴィル島に着陸した。
メルヴィル島は、19世紀にはヨーロッパからの来訪者によるその歴史への介入はあったが、早くから原住民アボリジニ保護区域に指定されていた。リゾートや観光地でもあったが、島民の生活を重視し、独自のアボリジニの文化を守り続けていた。
メルヴィル島は、タスマニアに次いでオーストラリアで2番目に大きい島であったが、数千の人しか住んでいなかった。しかし、この島の人々とインカ人とは古くから交流があり、この島のアボリジニ達はインカ人を敬っていた。
今回の事件で、インカ人はメルヴィルのアボリジニに、カズ達の輸送船の着陸を許可してもらっていた。メルヴィルの人達は、彼らのカラフルな民族衣装を着てカズ達5人を歓迎してくれた。そして、ダーウィンへの飛行機が出るまでのわずか3時間の束の間の休息時間をとらせてもらった。カズとセバスチャンにとっては、人質に捕らわれている肉親のことが心配で一刻でも早くここから出発したかった。人質に関する情報は、ダーウィンの空港でインカ人から教えてもらう手筈になっており、二人にとって心休まることはなかった。
メルヴィル島から飛び立った飛行機は、ダーウィンへ到着した。飛行機が空港に着き到着ゲートを抜けた時、空港のテレビパネルにはじいさんの予想通り月へ向かっていた国籍不明の宇宙船を撃墜したというニュースが映し出されていた。ミロメシアは、SOS信号を出しながら飛行していたはずなので、国際宇宙法上、撃破は違法行為であった。当然、マフィアの息のかかった一部の国際宇宙連合軍の人間がこれを無視して撃ち落としてしまったのだ。ドクターは、これで奴らの目を欺くことができたのかが気がかりではあった。セバスチャンとカズはそれぞれ娘と妹の救出のことで頭がいっぱいではあったが、もう2度とミロメシアのコックピットの空間・匂い・操縦桿の感触を味わうことができないという寂しさが胸をよぎった。美鈴とクリスは、2人で大道芸の練習に明け暮れた日々の光景が胸に去来した。
観光客を装った5人が、その映像を見入っている時、地元のオーストラリア人と思われる大きな男が、5人に向かって「全く宇宙では何をやっているのかわけがわかりませんな」と話しかけてきた。5人に緊張感が走った。
「敵なのか味方なのか」
男は、「ダーウィンでのお泊まりは、是非○○ホテルへどうぞ」と言いながら、無理やりそのホテルのパンフレットをカズに押しつけてきた。
カズは渋々それを受け取った。男の通信ピアスがちょうどこの時、受信したようで、何やら話しながらどこかへ行ってしまった。
カズは、「全く、こんな時に」と思いながら、そのパンフレットを捨てようとした。
するとクリスが、「カズ、待て。それをオレに見せてくれ」と言った。
カズは、無言でそのパンフレットをクリスに手渡した。
クリスが、それを楽しそうに眺め始めた。
美鈴の白い視線を感じながらも。
しばらくすると、クリスがニコニコしながら、「それじゃ、今日はここに泊るか」と言って皆の顔を見回した。
セバスチャンが今にも殴りかからんばかりの形相で、顔を赤らめていた。
そこで、ドクターがそれを制して、「そうだな。皆疲れているし」と言いながら、席を立った。
そこで、初めて皆、「何かあるのだな」と気がつき、すでに1階のゲートに向かって歩き始めたクリスの後について行った。
1階のエントランスを出ると、すでにそのホテルのマイクロバスが停まっていた。例の男はいなかった。白髪の60過ぎの老人が運転席にすわっているだけであった。
そこで、クリスは真面目な顔になって、「よろしく」と老人に向かって言った。
老人は、無言で軽く頷き、カズ達はマイクロバスに乗り込んだ。
「あのパンフレットには、ここではオレ達は目立ちすぎで、まずは1階のエントランス外に○○ホテルのマイクロバスが停めてあるので、それに乗ってくれという内容のことが書いてあったんだ。手紙の最後に、プルートーカロンと締めくくってね」とクリスが言った。
そこで初めて皆の顔に安堵の色が宿った。
カズ達を乗せた車は、ダーウィンの中心市街には向かわずに、空港の南にあるチャールズダーウィン国立公園の外側の道に沿って東へ向かって走っていた。10分程して車は、森の中のロッジの前で停まった。そこには、さっきの大男と1人のチャイニーズ系のインカ人が出迎えてくれていた。
インカ人は、「あいさつは後だ。とにかく中へ入れ」と言った。
運転手のじいさんを残して、すぐさま全員ロッジの中へはいって行った。
インカ人が自己紹介した。
「私の名前はリョサです。普段はこのオーストラリアのノーザンテリトリーで農場の経営をしているのですが、事が起これば本部の指示に従い世界平和のための活動をしています。結婚して、ペルーから家族でここへやってきて、かれこれ15年くらいになるかな。私にとっても、今回、最高危機レベルのミッションは初めてになりますが、思いはあなたたちといっしょです」
「そして、ここにいる大男はフリーマンです。通称ジャンボくんです。今回、あなた達が着陸したメルヴィル島のアボリジニの子孫で、島の村長の推薦で私たちに、協力をしてもらっています。彼は、ゴールドコーストの国際武道大学のマスターを卒業したばかりで、ありとあらゆる格闘技をマスターしている猛者です。きっと、あなたたちの役に立つでしょう」
ジャンボくんは、その体とアンバランスなベビーフェイスで、「よろしくです」と言いながら、ニコっと笑った。
インカ人のリョサは、「人質は、ここには、もういない。今晩、Lーガン号という列車で、オーストラリア南岸の都市アデレードに向かってください」と言った。
ガン号というのは、元々2~3日かけてオーストラリア大陸を縦断していたが、2100年頃リニア化されL-ガン号となり、10時間で縦断できるようになっていた。その後、L-ガン号は改良を重ね、特殊コンテナまで連結できるようになっていた。
「我々は、1週間前にインカの最高顧問より、特命を受けてここへ移ってきました。そして、空港での聞き込みで、ダーウィンの港の倉庫で人質が拉致されているところまで、調べはつきました。しかし、ほとんどそれがわかったタイミングで、なぜか奴らは人質をアデレード方面へ連れていってしまったようです。もちろん、我々に気付かれたとは考えられないのですが」
ドクターは、「奴らは、拉致するのに、一定の手順を踏んでいるのかもしれん。どこへ連れて行ったのかがばれないようにするため、自分達が追跡されていないかどうかを調べるためだろう」
「おそらく、日本、スペイン、ダーウィンでの追跡状況は見極められている可能性が高い。それに、やつらは我われが生きているとしたら、拉致して抗ウィルス剤を取り上げてしまいたいはずだ。いや、最初から人質をエサにして、我々を消去してしまおうというハラだろう」
リョサは、「なるほど。奴らなら、そこまでやりかねませんな」と言った。
「そこで、今回はどうするかだが。まず、人質の2人はアデレードへ連れていくフリをして別のところへ連れていっていったのではないかと思うのだが。インカの人達には、彼女達がどこへ連れて行かれたのかなんとか探り出してほしい。もちろん、ばれないように。それと、我々の動きは、まだ奴らに察知されていないはずだから、奴らの裏をかいて、ひっかかったフリをして私と美鈴はアデレードへ向かおう」とドクターが言った。
するとクリスが、「オレはともかくとして、美鈴をそんな危険な目に合わせなくてもいいだろう」と珍しく真顔で言った。
美鈴が「あら、クリス、あなた私のことをかばってくれるの。案外、やさしいとこあるのね」と言った。
「バカヤロー。おまえが、人質になると、いつ切れて取り返しのつかないことをやるかわからないからだよ」と言った。
「いや、クリス。キミにはキミにしかできない、任務があるんだ。キミは、これから直接アメリカ大統領に会って、事情を説明するんだ。こんな話を突然持ちかけて信じてもらえるのは、キミしかいないだろう。もう時間がない。私達を信じてキミは、アメリカへ飛ぶんだ。ホワイトハウスへ。これを持ってな。大統領の弟としてな」と、抗ウィルス剤、その製法の書いたデータとマフィアの要人データの入ったケースを指差した。
「今日は2月10日だ。選挙が終わるまで、あと4日しかない。大統領への連絡も、並行して進めなくてはならない。大丈夫だ。私達は、必ず人質を助けてみせるさ」と自分自身に言い聞かせるようにドクターが言った。
「わかった。オレはやるよ。でも、いったいどうやって」とクリスは言った。
「それだ。クリスは、いったんメルヴィル島へ戻ってくれ。そこからオーストラリアの観光施設団に紛れ込んで、ペルーの首都リマへ飛ぶんだ。
更に、インカの代表がすでにペルーの大統領と交渉中で、アメリカとの首脳会談の下準備のため外交官をワシントンへ派遣することにして、キミをその飛行機に同乗させてもらうように取り計らっている。キミはホワイトハウスへ潜入して、大統領に直談判するんだ」とドクターが説明した。
「よし、わかった。しかし、人質の救出はどうやって連絡してくれるんだ」
「うまくいった時には、ペルー政府に紛れ込んだインカの人達がマチュピチュで1万発の花火を打ち上げてくれることになっている。その映像は、すぐにXP通信に流して、世界へ報道してくれることになっている。クリスくんのコンタクトレンズブラウザには、必ず映し出されるはずだ。一般の通信は危険じゃからな。早速だが、クリスくんは、そこのじいさんとダーウィン空港へ行って、そこからメルヴィル島へ飛んでくれ。それから、冥王星で抗ウィルス剤の処方箋をいただいた時に、世界中のウィルス感染者リストも手に入れている。そいつも、大統領に渡してくれ」
「わかった。それじゃ、じいさん頼む」といつの間にか部屋に入ってきていたマイクロバスの運転手のじいさんに向かって言った。
じいさんは、黙って頷き外へ出て行った。
クリスは美鈴に、「ムチャすんなよ」と言って、部屋を出ていくドアへ手をかけた。
美鈴は、「あんたもね」と不安そうな顔をして言った。
ドクターは、「さて、私と美鈴はアデレードへ向かうとして、セバスチャンとカズだな。私の予測では、彼女たちはアデレードへ行くまでに途中下車してどこかへ連れて行かれたとみて、ほぼ間違いないと思う。今、インカの人たちに、L―ガン号の停車駅での不審な荷物の積み下ろしが衛星撮影されていなかったか解析してもらっているところなので、間もなく結果がわかると思う。しばらく、がまんして待つんだ」とセバスチャンとカズの心を鎮めるように言った。
そうして、1時間ほど沈黙の時が過ぎた。外から聞こえてくる鳥の声だけが部屋の中の緊張感を和らげていた。
リョサの通信ネックレスが鳴り響いた。リョサは、その内容を確認し、添付されていた衛星撮影動画をすぐさま立体映像で空間表示させながら、その場にいるみんなへ説明しはじめた。その映像は、L―ガン号の経路の中間地点にあるアリススプリングスで多数のコンテナが切り離されている様子が映し出されていた。そして、そのコンテナの中に怪しげなトレーラに繋がれて、すぐにその場を離れていくコンテナがあった。
ドクターは「やはり」と呟いた。
ジャンボくんが、「アリススプリングスで、あの方面にコンテナが向かっていること自体、不自然だな」と言った。
「よし、今夜のL―ガン号に乗ろう。私と美鈴は客車に乗るが、セバスチャンとカズは、コンテナに乗り込むんだ。私たちは、アデレードで人質を探してるフリをしてからやつらを欺いて、リョサとアデレードのオーストラリアの空軍基地に入り込んで、セバスチャンとカズからの連絡を待っている。私はなんとか空軍基地の連中を説得して、キミたちと人質を救出しにいく」とドクターが言った。
「それから、ジャンボくんは運送業者になりすましてアリススプリングスで降りて、2人を乗せたコンテナをトレーラーで安全なところで、降ろしてやってくれ。それで、3人で相談しながら、人質が連れて行かれたところを探し出して、救出に向かってくれ。決してムリせずに、やばそうな時は早い目に、連絡をしてくれ」とドクターは話続けた。
「カズとセバスチャンは直接ダーウィン駅へは行かずに、ここから10kmほど北にある運送会社へジャンボくんと向かってくれ。そこで、2人はコンテナの荷物となって、ジャンボくんはドライバーに変身する。それで、L―ガン号のコンテナに接続させてくれ。我われとは、別行動でくれぐれも敵にばれないようにな」
ジャンボくんが、「わかりました。まかせといてください」と言いながら、部屋にある運送会社の作業着を持って、隣の部屋へ着替えに行った。
そして、ジャンボくんとカズとセバスチャンは、出て行った。できるだけ早く、L―ガン号の手続きをすませるために急ぐ必要があった。2人をコンテナに潜入させるのも、できるだけ早くやる必要があった。
部屋には、ドクターと美鈴とリョサが残された。
美鈴が、「ホントに、カズたちは大丈夫かしら」と言った。
ドクターは、部屋にあったパソコンを操作しながら、「大丈夫だ。彼らなら必ず人質を救出できるだろう。いや、やってもらうしかないんだ」と言った。
ドクターは、オーストラリア軍の基地へ侵入するための情報収集を開始していた。その横で、リョサがドクターの質問に答えながら、作戦の提案をしていた。
美鈴は、いつの間にか彼女の心の中に勝手に棲み込むようになったクリスのことを思い出しながら、眠りについていた。
美鈴が目を開けた時、窓の外は真っ暗になっていた。ドクターとリョサは、テーブルを挟んでコーヒーを飲みながら、雑談を交えながらオーストラリア軍を動かすための段取りをツメていた。
美鈴が目を覚まして上半身を起こした時、リョサが、「おはよー。お腹がすいたでしょう」と言いながら、キッチンから食事を運び始めた。
美鈴が眠っている間に、準備してくれていたようであった。
3人は食事をとりながら、今後の段取りについて話し合った。必然的に、ドクターとリョサが美鈴に説明し、美鈴が不明点について質問した。そして、食事を終え3人は、L―ガン号が待つダーウィン駅へ向かった。
21:30ダーウィン駅。人の数はまばらだが、列車にはたくさんのコンテナがつながれていた。美鈴は、あの中の1つにカズとセバスチャンが入っているんだと思った。3人は、観光客の服装で列車のコンパートメントに、乗り込んだ。
22:00定刻通り、列車は出発した。カズたちが下車するアリススプリングスまで5時間、アデレードまで10時間の乗車予定であった。
アリススプリングス駅停めのコンテナに乗り込んだカズとセバスチャンは、とりあえず眠らなくてはと思っていたが、やはり人質にとられた肉親のことを思うとあまり眠れなかった。
5時間後列車は停止し、次々とコンテナを切り離していく振動音が鳴り響いた。停車してから、15分が経ち、カズたちの入っているコンテナが動き出した。そして、ジャンボくんは停車後すぐに、アリススプリングス駅でチャーターしていたトレーラーに乗り込み、2人が乗ったコンテナを繋いで走りだした。そして、20分程してトレーラーは停まった。
コンテナの扉が開いた。セバスチャンとカズは経験の差や年の違いこそあれ、いよいよ戦闘開始だなという思いで、胸が高鳴った。トレーラはアリススプリングスの深夜のゴルフ場のクラブハウス前に停まっていた。ジャンボくんがいうには、衛星動画によると何台かのコンテナ車がウルルと呼ばれる方面へ向かっていって、そこから先は不明とのことであった。それで、とりあえず300km以上離れたウルルまで向かうことになった。乗用車で、すっとばして、4~5時間はかかる道のりであった。もう、考える余裕はなかった。3人は乗用車に乗り込んでウルルへ向かった。
4時間後、車はウルルへ到着した。タイムリミットはせまっている。時間がない。3人は、ウルル近辺でアボリジニへの聞き込みを開始した。3時間が経過し、太陽は高く上り、もう正午近くになっていた。住民の話をまとめると、1~2カ月ごとに深夜、ウルル近辺の立ち入り禁止区域の森林に、何台かのトラックが入ったりすることがあることと、ヘリコプターが発着しているような音を聞いた者がいるということであった。しかも、最近はその頻度がずいぶん増えているとのことだった。3人は、そこに間違いないということで意見が一致した。3人は、ジャンボくんが、交渉してその近辺の民家に、夜まで潜入することにした。その民家は、初老のおばあさんの一人暮らしだった。3人は、そのおばあさんにもその立ち入り禁止の森について、何か変わったことがないか聞いてみた。
すると、そのおばあさん、「わたしゃ、ヘリコプターらしきものがグレートビクトリア砂漠の方へ飛んでいったのを見たことがある」と言いだした。
3人は、顔を見合わせた。
ジャンボくんが、「そういえば、大学時代、オーストラリアのどこかの砂漠に、得体のしれないマフィアの基地があるといううわさを聞いたことがある」と言った。
すると、おばあさんが間髪いれず話し出した。
「今夜は、たぶんそのヘリコプターが発着する日じゃよ。新月の夜には、ほとんどヘリコプターの羽ばたく音がするんじゃ。年寄りには、あの低音が耳につくんじゃ。今夜は、新月じゃな」
セバスチャンの顔が真剣な表情に変わっていた。
「この話、だいぶ信憑性がでてきたな。夕べのL―ガン号のことを考えたら、まず、間違いないな」
「暗くなったら、この森に侵入し、奴らのヘリを奪って、秘密基地へ行くぞ」
ジャンボくんは、このことをアデレードにいるリョサへ連絡した。
カズは、今すぐにでも、妹を助けるために、森の中へ飛び込んでいきたい衝動を抑えながら夜が来るのを待った。もう、どんな危険も危険と感じなくなっていた。それは、セバスチャンとジャンボくんという最強の仲間がいたからでもあった。
ようやく、うす暗くなってきた。
セバスチャンが、「よし、いくぞ」と言って、2人の顔を見た。
2人は、黙ってうなずいた。
森の中へは、以外と簡単に侵入することができた。昔ながらの、十字鉄線のハザードが設けられているだけで、森の中にある木と外の木をロープでつないで、越えることができた。
木々はうっそうとおい茂り険しかった。照明を照らすことはできない。3人は、ダーウィンから持ってきた赤外線スコープを装着し、突き進んだ。レーザ銃やスタンガンなどの武装もしていた。
手さぐりで進むことは、ただ遭難しに行くようなものであった。しかし、ジャンボくんからの連絡を受けたリョサは、すぐさま森の衛星写真解析をインカ本部に依頼し、森の中心にある平原までの道のりを示す地図をジャンボくんの携帯端末へ送りつけてきていた。
3人は地図にしたがい、森の中心へ突き進んでいった。星は見えない。目印になるものもほとんどない。目的地までは、3kmくらいであるということだけは、わかっていた。このあたりで、GPS機能は使えない。敵に存在を気付かれる恐れがあるからだ。方位磁石とわずかな土地の起伏、水の流れだけがたよりであった。
1時間ほど、中止しながら進み続けた。残りあと1kmくらいのところまで来ているはずであった。すると少し明かりが見え始めた。明かりへ近づくにつれて、人が動いている気配が濃厚となっていった。注意深く敵にばれないように前進すると、やはり3人の武装した見張り役がいた。おそらく、中心の広場の周囲1km付近に、見張りを配備していることが予想された。カズたちにはジャンボくんという強い味方がいた。やつらを倒すことは簡単であった。しかし、3人を一気に倒さなければ、本部に連絡される可能性があった。まず、セバスチャンが敵に気付かれないギリギリの見張り小屋近辺のところで、身を隠した。ジャンボくんはもう少し離れたところに身を隠した。更にもう少し離れたところで、カズがわざとケモノが動いているような物音をさせた。2人の見張りはジャンボくんが隠れているところまで調べにやってきた。そのタイミングでカズは、ブレスレットのサウンドジェネレーターからフクロウの鳴き声とはばたく音を発生させた。
2人は、「なーんだ。フクロウか」と言って、安心して方向を変えた瞬間、ジャンボくんが一気に二人を倒してしまった。
カズもすぐに参戦しようとして走り寄ったが、活躍するチャンスは失われていた。そして、小屋から残りの1人が出てきた瞬間、今度はセバスチャンがそいつを倒してしまった。ジャンボくんとカズは、倒した2人を担いで見張り小屋までやってきた。セバスチャンはすでに、倒した1人を縛り上げていた。3人とも縛り上げて、小屋の中に放り込んだ。通信に使われそうなものに近付けないよう、小屋の柱に縛り付けた。更に3人には、睡眠剤を注射した。もちろん、手持ちの通信機器も全て取り上げて、小屋の外に放り出した。
カズたち3人は更に森の中心部へ突き進んだ。30分ほどすると、照明に照らされた区域が視界に入ってきた。そして、しばらく注意深く進むと木々の隙間から広場が見え始めてきた。森の中で広場全体が見渡せるところまで近づくと、ヘリに乗せる物資や人質と思われる人達が集められていた。
セバスチャンが、カズへ視線を送った。
「やっと、ここまで来れたな」
「うん。絶対、助けられるよね」
「オレたち、3人がいれば絶対大丈夫さ」
ジャンボくんは、カズの不安な気持ちを払しょくさせるように言った。
1時間ほどすると、ヘリの音が聞こえ始め、だんだんその音が大きくなり、8機のヘリが着陸した。最初の3機に人質らしき人達がヘリに乗せられて飛び立っていった。人質の中に、セバスタチャンの娘カルメンとカズの妹ハルカはいないようだった。
カズは気持ちの高ぶりを抑え切れなかった。
「早くいかないとヘリがいなくなっちゃうよ」
「いや、もう少し待つんだ。必ず、チャンスはあるさ。敵のヘリを奪ったとしても、ばれてしまったら、追尾もできなくなってしまうからな。こういう時は、敵の状況を。よーく見て、方法を考えるんだ。必ず、抜け道があるもんだぜ。よーく、覚えとけ」
セバスチャンも心の中は、焦りと不安を募らせていたが、自分自身に言い聞かせるように、客観的思考を心がけるようにしていた。
しばらくして、セバスチャンが「あのヘリを見てみろ。オレと同じくらいの背丈のパイロットが、機外でタバコ吸いながらソワソワしてるぜ。ありゃ絶対トイレだぜ。ここには、そんなもんないから、必ず茂みにいくぜ。あそこから、一番近い茂みに移動しよう。急いで」
そこから広場周囲の1/4ほど離れたところを指さしながら言った。
3人は、敵に悟られないように、忍び足で走りだした。
セバスチャンは、走りながら、ジャンボくんに話しかけた。
「ジャンボくん、頼んだぜ。わかるな。どうするか」
「大丈夫だよ」
ジャンボくんは、OKサインを出してから、猛然と忍び足でできる限りダッシュした。
そして、用をたしているパイロットの背後に回り込み、ほとんどパイロットがそれに気付いたかどうかというタイミングで、殴り倒して、気絶させた。セバスチャンとカズが追いついた時には、ジャンボくんはパイロットを縛りにかかろうとしていた。
セバスチャンが、「待て。縛る前に、やることがある。そいつの服を脱がせてくれ」と言った。
「なるほど」
カズとジャンボくんは、声を重ね合わせて、倒れた男の服を脱がせ始めた。
「セバスチャン、少し小便くさいぜ」
ジャンボくんは、自分の鼻をつまんだ。
「しかたないさ」
セバスチャンが、急いでその服を着始めた。最後にゴーグルを付けて、1人でヘリの方へ向かった。
ヘリは、すでにプロペラが回転し、人の声はほとんど聞こえなかった。セバスチャンは、ヘリにそなえつけているホワイトボードによる筆談で、そのヘリを担当している2人の工作員に向かって、「あの茂みのあたりで、怪しい声が聞こえたような気がした。ちょっと、見てきてくれないか」と書いてみせた。
工作員の1人は、「もう、出発だ。そんなのいいだろ」と筆談で返した。
ゴーグルで顔を隠したセバスチャンは、「いや、気になって仕方がない。少しだけでも頼む」と返した。
その工作員は、「しょうがないなあ」という表情を浮かべながら、もう一人の工作員に親指で、茂みを指した。2人は、小走りで茂みに向かった。
セバスチャンの作戦は成功した。2人の工作員は、茂みの中で、なぐり倒され、上着をはがれて、睡眠剤の注射を打たれて縛られた。もちろん、ジャンボくんの仕業であった。
1人の工作員は、大柄であったが、それでも彼の服はジャンボくんにとってパツンパツンであった。カズの方は、少し大きい目であったが、問題なかった。
照明があたっていても遠目から見て、まさか、3人がそっくり入れ替わってしまっていることには、その広場にいる誰も気づかなかった。3人は、ヘリに乗り込んで、管制本部からの指示を待った。残っているヘリ5機のうち、2機が飛び立った後、無線で飛び立つよう指示があった。
セバスチャンは、「ちょっと、腹の調子が悪いので、最後にしてくれ」と管制へ話しかけた。
管制本部担当は、「基地までがまんできないのか」と言ったが、セバスチャンは、「ダメだ。もう行く」と言った。
管制本部担当は、「しゃあねえな」といったが、その時、すでにセバスチャンは、茂みに走り出していた。そして、残りの2機が飛び立ちそうなのを見計らって、戻ってきた。
セバスチャン、カズ、ジャンボくんが乗ったヘリは、すぐに離陸し、先に飛び立ったヘリを追尾し始めた。
ヘリは、やはりグレートビクトリア砂漠の方へ向かっていた。
途中、セバスチャンは、ヘリに装備されている緊急脱出用のマニュアルを指差し、2人に読んでおくように指示した。2人は、それを何度も読み返した。
離陸してから1時間ほどすると、輸送ヘリの一団はある地点で旋回し始めた。すると、その下方の地上に光のサークルが浮かび上がってきた。全ヘリに無線で順次着陸態勢に入れとの指令が入った。すると、セバスチャンのへりは、何をとち狂ったのかバランスを失ったような動きをし始めた。
そして、「本ヘリ328号は、バランス制御装置トラブルで飛行不能。飛行不能」と無線に向かって叫んだ。そして、2人に向かって親指で、脱出用パラシュートを指さした。
カズとジャンボくんは、顔を見合わせ頷きながらニヤっと笑い、すぐに装備を始めた。
セバスチャンは、「本機は、基地への着陸不能。着陸不能。周囲の空き地に不時着する」と無線を続けた。
管制本部から「了解。基地南東部に着陸されたし」と返事が返ってきた。
セバスチャンは、いったんその方面を目指したが、バランスを失った操縦を続けて、基地の東部付近の起伏を隔てたところへ向かった。そして、自らも操縦しながらパラシュートを装着し終えると、左手の指でカウントダウンを始めた。セバスチャンが5本目の指を折り曲げた瞬間、体がばらばらになるような衝撃とともに3人は外へ放り出された。ヘリは、不規則に回転しながら地面に向かって落下し叩きつけられ、爆発炎上した。星々が輝く夜空を、3人はヘリを追いかけるようにゆっくりと、パラシュートで降りて行った。オーストラリアの砂漠は、他大陸の砂漠と比べてそれ程厳しい気候ではなかったが、昼間と打って変わって夜は寒々としていた。全く経験のない2人は、少し離れたところへ降りてしまったが、すぐにセバスチャンの元へやってきた。
セバスチャンは、炎上するヘリから少し離れたところで、砂漠に穴を掘り始めていた。2人がやってくると、セバスチャンは「早く。急いで穴を掘るんだ」と言った。
カズが「そうか。パラシュートを埋めるんだね」と言いながら、ジャンボくんといっしょに穴掘りを手伝い始めた。
「やつらが、ここへやってくる前に、パラシュートを埋めて、とんずらするんだ。急ぐんだ」
3人は、5分で作業を終え、その場から敵基地の北側へ向かった。セバスチャンは、上空から見た基地の構造上、敵は南東方面からやってくると考えたからであった。また、セバスチャンは、基地の北側にも必ず出入り口があるはずだと思った。基地の全容はわからなかったが、基地は普段は砂漠の中に隠れていて見えないが、ヘリが発着する時だけ、ヘリポートが地上に露出するしかけになっているようであった。まだ、炎上しているヘリとヘリポートの明かりを手掛かりに、出入り口を探した。1時間程、さまよった。出入り口は、見つからない。ヘリポートの明かりは消え、ヘリの炎も消えつつあった。
セバスチャンは、「やつらも、オレたちの遺体がないことに気づいているだろうな」とつぶやいた。
内心、早く出入り口を見つけなければやばいという焦りの気持はあったが、カズとジャンボくんには、「落ち着いて探せば、必ず見つかるから、探すんだ」と言いながら、一切不安な表情は見せないよう心がけていた。
それからさらに30分ほど探し続けた。
すると、セバスチャンが「みんな、伏せろ」と言って、突然身をかがめた。
カズとジャンボくんも身をかがめた。すでに、人工的な光は消滅し、満天の星空の中、人を載せたラクダが現れた。人影をよく観察すると、小学生でいえば高学年くらいの子供のようであった。
オーストラリアの砂漠は、アフリカやモンゴルの砂漠と違って、全く人が住んでいないというわけではなかった。事実、オーストラリアの砂漠には、アボリジニの部族が点在していた。アボリジニの部族には、掟があって自分たちのテリトリーから出てはいけないことになっていたが、夜、寝つけずに遠くでかすかな爆発音を聞きつけたこの少年は、禁を破ってラクダに乗ってここまで来てしまったようだった。
セバスチャンが、「カズ、おまえの出番だ。あれは、アボリジニの子供だ。なんとか交渉して、基地の出入り口を聞き出すんだ。こんな時間にこんなところをうろついているような少年だ。きっと、秘密基地に関する何かを知っているに違いない」と言った。
「えぇー。言葉がわからないよ」
「バカヤロー。言葉なんて、身ぶり手ぶりでなんとかなるさ。それより、突然オレたちが顔を出したら、あの子、警戒するだろ。わかるだろ」
「うん。そうだね」
カズは返事しながら、ジャンボくんにアボリジニ語の「こんばんは」だけを聞いてから、両手をあげてその好奇心旺盛な少年の方に向かって歩いていった。
「こんばんは」
「立派なラクダだね」と言いながら身ぶり手ぶりでそれを示してみせた。
少年は、ラクダを降りて、ニコッと笑って、カズとそのラクダの背中を指さして、乗ってみるかという身ぶりをしてみせた。
カズは、あわてて首と手を振る拒否の動作をしてみせた。
ついつい出てしまう英語も、ほぼ通じているようであった。
そして、カズは自分には仲間がいて、その中にはその少年と同じアボリジニの大きな男がいることを必死で説明した。すると、その少年は首を縦に振って、手でおいでおいでの身ぶりをしてみせた。
カズは、声をセーブしながらも「ジャンボくーん」と彼らにまで聞こえるような声で叫んだ。
するとジャンボくんだけが小走りでかけよってきた。
ジャンボくんは、少年が驚いて気が動転したような表情を浮かべたのをごまかすように、少年の脇に手を入れて高い高いをしながら、「君は立派な少年だ。きっとオレ達を助けてくれる神の子だ」と満面の笑顔を作って言った。
少年の顔にも笑顔がさした。
ジャンボくんのアボリジニ語とパフォーマンスが通じたようであった。そこからは、ジャンボくんが誠心誠意、これまでの事情を少年に話して聞かせた。そして、その話の中に出てくるセバスチャンを呼び寄せた。セバスチャンはゆっくりと笑顔を作りながら、少年に近づいて握手を交わした。カズ達には、残された時間は少ない。遅くとも48時間以内には、人質を助け出して、ペルー経由でアメリカへ向かったクリスに知らせなければならばかった。ジャンボくんは、少年に、秘密基地の出入り口についての情報が何かないか何でもいいから話して欲しいと必死で話かけてくれた。しかし、少年は夜空に輝く南十字星の方向を見つめてしばらく黙り込んでしまった。
そして、少年は何を思ったのか、全く反対の方角を指差した。ジャンボくんの質問に対して、それは彼が住んでいるアボリジニの村の方角であることがわかった。少年が言うには、この砂漠地帯の出入り口があると考えられる地帯に、これ以上近づいて帰ってきた者はいないということであった。今では、少年の村の部族でそこへ近づく者はいないということであった。少年は更なる話によると、少年の村の古井戸から基地へ潜入できるはずだと言い張った。その古井戸は、現在は水が出るわけではなく、村の神様が祭られている祭壇のようなものになっていて、村の行事がある時に、村の長とその親族達が飾り付けをして、祈りを捧げる場所になっているということであった。無論、そこへは他の誰も近づいてはいけないという掟があった。
しかし、少年は3年前にその禁を破って、他の村の子供たちとそこへ入って、地下水脈の洞窟があることを発見し、3日3晩彷徨い歩き続けた。そこで、水脈の奥の方から聞こえてくる音を聞き付けて、偶然マフィアの秘密基地らしきものがあるのを見つけてしまった。
そこで、少年たちはそこにいる怪しげな輩に見つかってしまったら、殺されるだろうという危険を察知し、来た道を引き返した。迷いながらも、なんとか水脈へ入り込んだ古井戸のところまでやってきた。もちろん、村では神隠しではないかということで、古井戸に祭壇を飾り付け、毎日祈りをささげていた。少年たちは、示し合わせて、夜中になるのを待って古井戸の周りで寝転がり、朝、誰かに起こされるのを待った。少年たちは、意図的に神のお告げを聞いてからその3日3晩の記憶は失っていたということにしていた。
神隠しということで、少年たちは叱られずに事なきを得た。そのことは、今でも村の少年たちの秘密であった。カズたちがその古井戸に入る為に村の長をどうやって説得するかが、問題であった。もちろん、少年たちが見てきたことを話すわけにはいかなかった。
「よし、そしたら、カズたちを、地の神様にしよう」
少年が、自信満々の表情を浮かべていた。
「えー。そんなことができるのかなあ」
ジャンボくんの翻訳に対して、カズが声をあげた。
少年は、話を続けた。
「大丈夫さ。今から村へ行って、友達をたたき起こして、カズたちに神様の化粧をするんだよ。それで、3人は村のトーテムポールのところに並んで、座るんだよ。村の長を呼んでくるので、長に向かって、ジャンボくんが言うのさ。『我らはアボリジニの地の神なり。アボリジニの村々の見回りをして帰ってきたところじゃ。お前たちは、よく信心してくれているようじゃな。ご苦労なことじゃ。我らは、これからあの古井戸から神の国へ帰るのじゃ。早く古井戸の囲いを取り除いて、我らに食べ物を備えるのじゃ』と言ってください」
カズが不安そうな顔をして、ジャンボくんの通訳を介して、少年に言った。
「そんな単純なしかけで、大丈夫なのか」
少年には、全く不安げな様子はなかった。
「大丈夫さ。ジャンボくんの演技次第だけどね」
ジャンボくんは、すぐに反応した。
「大丈夫。オレにまかせろ」
カズはなんだか不安だったが、今度はセバスチャンが反応した。
「カズ、心配するな。こんな時は、うまくいく、いかせるんだと思ってりゃ、必ずうまくいくもんだぜ。なりきることだよ。時間がない。さあ、行こう」
1時間程で少年の村についた。カズ達は、トーテムポールのところで、待たされた。
少年は、30分ほどして、仲のいい友達を5人連れてきた。彼らは、アボリジニの化粧道具を持ってきていた。カズたちは、30分ほどで化粧をしてもらった。特に、ジャンボくんはトーテムポールそのもののようだった。3人は、ジャンボくんを真ん中にして並んで座らされた。5人の友達は、それぞれの家へ帰っていった。少年が、村の長を呼びに行った。
村の長は、ジャンボくんたちの前にくるやいなや、彼自身もジャンボくんの前に跪き、祈るように声を上げた。
「おお、神よ。怒りを鎮めてくれたまえ。我らは、いつも神を敬い、祭りたたえております。どうか、我らの村がいつまでも平穏無事で豊かであり続けるよう取り図り給え」
ジャンボくんは少年に教えられたとおりに言った。
「我らはアボリジニの地の神なり。アボリジニの村々の見回りをして帰ってきたところじゃ。お前たちは、よく信心してくれているようじゃな。ご苦労なことじゃ。我らは、これからあの古井戸から神の国へ帰るのじゃ。早く古井戸の囲いを取り除いて、我らに食べ物を備えるのじゃ」
村の長は、応えた。
「おお神よ。わかりました。すぐにしたくをします」
そして、耳をつんざくような大声をあげた。
「村の衆。すぐに起きて、古井戸に集まれ」
すると、村の班長らしき人達が集まってきて、長と何やらボソボソと話し始めた。班長らしき人達は、それぞれの班へ帰って、お供えの指示を出して戻ってきた。そして、古井戸の囲いを撤去し始めた。撤去が終わったころには、お供えを持った女たちがやってきて、供え始めて、30分ほどで供え終わった。
村の長が、ジャンボくんに向かって、うやうやしく言い放った。
「お供えは終わりました。さあ古井戸の方へお越しください」
ジャンボくんは、仰々しく応えた。
「御苦労である」
更に続けて言った。
「我らは、旅を急ぐ。これだけ、いただいていく」
武装道具を入れた袋に食料を詰め込み始めた。
村の人達は、ひれ伏していた。それをしり目に、3人はロープを使って、古井戸の中へ消えて行った。
井戸の底には、少年が言っていたとおり、人ひとりがやっと通れるくらいの小さな穴があった。カズやセバスチャンはその穴を無理なく進むことができたが、ジャンボくんにとってはギリギリ通れる状態であった。さすがのジャンボくんも、もし途中で穴が行き止まりになっていたら、後ろ向きに進むことは困難極まりないことで、不安な思いにかられながら進んでいった。
15分程進んだところであろうか、先頭を進んでいたカズが、「やったぁ、広場に出たよ」と叫んだ。
ジャンボくんは、たったの15分が24時間くらい経過したかのように感じられ、他の人にはわからない安堵感を感じた。空間で明かりを照らすと、こぢんまりとした空間があり、奥に続きそうな8つくらいの穴があった。
セバスチャンは、コンパスを見ながら、「奴らの基地は、こっちの方角だな」と言って、1つの穴を指差した。
カズは、「行くっきゃないね」と言って、穴の方へ進んだ。
セバスチャンは、「よし、赤外線スコープを付けてくれ。消すぞ」と言って、照明を消した。
3人が進んでいった穴は、人が歩いて通れるくらいの空間があり、下り坂になっていた。もう後戻りはできない。大男のジャンボくんは、無言で2人に続いた。3人は、自然にできた洞窟を、途中蛇行したり、段差を飛び降りたりしながら、下へ下へ進んでいった。セバスチャンは、来た道を戻ることはないと思いながらも、万が一戻ることになった時のために目印となるマーキングのICチップを残しながら進んでいった。30分程進んだ時、ほとんど垂直に降りなければならない底の見えない窪地に出くわした。アボリジニの少年が言っていた通りであった。セバスチャンは手慣れた様子で、ロープをセッティングし、スルスルと降りて行った。カズとジャンボくんもそれに続いた。そして、10メートルほど降りたところに横穴があり、3人はそこへ入っていった。更に30分ほど進むと、突如、スコープを通して大きな空間が広がった。数十メートル先には、地底湖らしき水脈が広がっていた。スコープをはずすと、湖の向こう岸に、かすかな明かりが見えていた。
セバスチャンは、呟いた。
「なるほど、やつらはこの水脈を利用して秘密基地を構築してやがるんだな。インカのやつらといい、まあ、これだけ人知れず、モグラ生活を送ってられるもんだな」
「よし、これから先は、敵と遭遇しながらのミッションだ。出会ったやつらが、本部や他のやつらに連絡できないように細心の注意が必要だ。急がなくてはならないが、人質の居場所を突き止めて、助けられる目星がつくまでは、慎重に行動するんだ。大丈夫だ。必ず、糸口はあるはずだ」
セバスチャンは、他の2人と自分自身に言い聞かせるように言った。
3人は、湖の北側を回り込むルートで、敵基地の明かりを目指した。15分程歩くと徐々に、敵の基地らしき建物が見え始めた。
「よし、手前から3番目の建物から明かりがもれている。まずは、あそこから行くぞ」
セバスチャンが言った。
一番手前の方には、倉庫らしき建物が並んでいた。そして、その倉庫の並びの端に居住区を兼ねた事務所らしき建物があって、その建物に明かりが灯っていた。
「倉庫の横を通る時には、十分注意しなくちゃな。もし、誰かにこっそり見つけられるようなことがあったら、事だからな。カメラにも気をつけてな」
セバスチャンが言った。
「まずは、あの事務所に居る人を全員眠らせて、あそこにあるパソコンから情報を引っ張り出すんだね」
カズが言った。
セバスチャンが応えた。
「上出来だ。おまえも、この仕事がわかってきたようだな。このミッションが終わったら、スペイン軍にでも推薦してやろうか」
「いやだよ。そんな、ぶっそうな仕事は」
カズは、あわてて拒否した。
「ジャンボくんは、どうだい。いいからだしてるしな」
セバスチャンがジャンボくんの肩を叩いて言った。
ジャンボくんも、少しあわてた様子で、応えた。
「め、めっそうもない。ボクは、こう見えても、結構気が弱くて臆病者なんだ」
「そうか。おまえら、結構見どころあるんだがなあ」
セバスチャンは、冗談とも本気とも言えるような口調で言った。
深夜時間帯のせいか、倉庫は無人のようだった。特に、カメラらしき物も見当たらなかった。
セバスチャンが、「例の作戦で、いくぞ」と言うと、2人は、「了解」と言った。
3人は、まず洞窟空間の天井が崩れたかのように見せるために、その事務所の玄関側の外に、小砂利や石ころをばらまいた。少し離れたところに大きな岩があり、そこには大量の砂利を積み上げて、カズとジャンボくんはそこに隠れた。セバスチャンは、更に小砂利をその事務所の屋根の上に向かって投げ上げた。そして、すぐに隣の倉庫の物陰に隠れた。
3階建ての事務所の3階に明かりが灯り、その窓から4人が顔をのぞかせた。4人は、小砂利に気付いたようであった。しばらくして、3人が外へ出てきて、2人は、大きな岩の方へ向かった。もう1人は、事務所の前に落ちている小砂利の様子を見ていた。セバスチャンは、大きな岩へ近づいた2人の様子を確認して、自分が隠れている付近で小砂利が落ちる音をさせた。そして、残りの1人が事務所から見えない倉庫の影の方へやってきた時に、スタンガンで気絶させた。大きな岩の方でも、カズとジャンボくんが2人を倒していた。ウルルでの作戦の再現であった。しかし、今度は、まだ事務所に最低でも1人の人間が残っていた。時間を開け過ぎると怪しまれるので、すぐに、見つからないよう細心の注意を払いながら事務所に潜入し、残っている奴らを倒さなければならなかった。
セバスチャンは、気絶させた人間の服に着替えて、単独で鍵を開けて玄関から入って行った。ここは、一か八かの奇襲作戦しかないと思って、とにかく彼らが潜んでいた3階へ上がって行った。2人が戻ってくるのを待つ余裕はなかった。しかし、3階には誰もいなかった。セバスチャンの額と背中から、汗がにじり出た。セバスチャンは「しまった。連絡されたか」と思いながら、3階のフロアをチェックしてまわった。確かに直近まで人がいた痕跡は残っていた。もう、カズたちも事務所の玄関から入ってきていた。
その玄関では、小学校高学年くらいに見える女の子がそこで待っていて、「おはよう」と言ってニコっと笑った。
カズとジャンボくんは、唖然として、「おはよう」と言い返した。
そこへ、あわてた様子でセバスチャンが降りてきて、「おはよう」と言った。
女の子も、また、「おはよう」と言って笑った。
セバスチャンは、汗を拭きながら、「キミが誰で、なぜここにいるのか、おじちゃんたちに教えてくれるね」と言った。
「おかあさんを呼んでくるから、ちょっと待っててね」
間もなく、女の子の母親が1階へ降りてきた。
「おはようございます。よく、ここまで無事にたどり着かれたのですね」
3人は、あっけにとられた。
「冥王星にいる主人は元気にしていましたか」
いきなり、母親が言い放った。
その一言で、蒼白になっていた3人の表情に赤味がさした。その親娘は、冥王星でマフィアの研究をさせられているシバザトの妻子であったのだ。
カズが応えた。
「ご主人、いやお父さんは元気にしていましたよ。それで、お父さんもあなた達のことを心配していましたよ」
「話は後ね。早く、あなたたちが外で倒してきた4人をここまで運んできて、監禁しないといけないわ」
今度は、セバスチャンが応えた。
「わかりました」
セバスチャンは、2人をつれて外で倒れている敵の4人を運ぶために出て行った。
3人が帰ってくると、シバザトの奥さんは、全てを見通しているかのように話しかけてきた。
「2階の廊下の突き当たりにある部屋に監禁してください。あそこなら、意識が戻っても、外と連絡ができないようになっているので。それが終わったら、3階の湖側の奥の部屋に来てください」
3人は、その通りにして、3階の部屋へ入った。そこには、情報機器が設置されており、女の子が説明しはじめた。
「私たちは、お父さんが火星で拉致された時、同じタイミングで、火星のスペースコロニーで拉致されてここへ連れてこられました。私は乳児だったので、ここの生活しか記憶にないけど、世界で起こっていることや、あなた達のことを知っています。私たちだけでは、どうすることもできなくて、お母さんとこの時がくるのをじっと待っていました」
「娘のノアが言う事は少し生意気で聞き捨てならないこともあるかもしれませんが、幼いころから知能が高くて全てを理解した上で情報収集し、マフィアの野望を打ち砕き、父親と暮らせる日を夢見て生きてきたので、許してください」
セバスチャンは、しゃがんで、ノアに目線を合わせた、
「状況はわかったよ。どうしたらいいか、おじちゃんに教えてくれるね」
3人は、ノアのことを、きっとシバザト博士のDNAを受け継いだ天才少女なのだと理解した。
「この基地は、地下100m直径1kmくらいの地底湖のまわりにある空洞を利用して作られているらしいの。もちろん、マフィアの武器、麻薬、人質なんかの格納場所としてね。ここの全体図は、この図のようになっているの」
ノアは、そう言いながら空間映像を壁の手前に映しだした。
更に、説明を続けた。
「私たちは、今ここにいて、・・・」
そして最後に、「おそらく、今ここにいるメンバーだけでは、人質を助け出すことは不可能だわ」とあっけらかんと言った。
カズが、「何を言ってるんだ。ボクらは、絶対助け出さなくてはいけないんだ。何が何でも」と声を荒げて言った。
ノアは「落ち着いて聞いて。何も救出できないと言ったわけではないの。でも、3人や5人の人質を救出するわけじゃないの。100人近くもの人を助けなければならないのよ。そこの大きな人」と言った。
ジャンボくんは、素っ頓狂な顔をして、「オレ?」と言って、自分を指さした。
ノアは、「そう。あなたよ。あなたは、これまでインカの人と連絡を取っているわね。このあたりまで来ていることは、連絡はついているわね」と言った。
「うん。おそらくヘリを墜落させたところまでは、インカのスパイ衛星で掴んでいるはずだと思うよ」
「たよりないわね、あなた。でっかいのに。まっ、いいわ」
ジャンボくんは、幼く見える女の子に子供のようにあしらわれて情けなさ気な顔をしていた。
「わかったわ。私たちは、人質を連れてカズ達がやってきた洞窟で逃げ出すのよ」
「そんなことをしたら、すぐにやつらに捕まっちゃうよ」
「そりゃ、何も工夫せずにやれば、だめよ。何のために、ドクター達がアデレードに行ったと思ってるの。それはねオーストラリア軍を動かすためよ。ただ、マフィアも軍も正面衝突なんてできるはずもないから、そうなったら人質をつれて逃げようとするわね。まあ、正規軍を簡単に動かせるわけでもないけどね。やっぱり、特殊工作部隊ね。この地下水脈の南側から基地本部と武器・麻薬庫を攻めさせるの。確か南側にもアボリジニの村落があって、そこから地下水脈に入れるはずだわ。よし、すぐに私がマフィアにばれないようにドクターへ暗号を送るわ。ドクターなら、きっとその準備を始めてるはずよ」
カズは自分が妹を助けなくてはならない立場にありながらも、「そんなに、うまく行くのかなあ」と思いつつ、もう彼女の考えに頼るしかなかった。
ノアは、「タイミングが重要だからね。これから、私たちが人質を脱出させる段取りができた段階で、本部をせめてもらわないとダメね。それで人質のガードが甘くなったところでガードを全て倒して、一気に救出ね。こっちの方が早そうね。今から3時間後に、特殊工作部隊がマフィア本部の攻撃をするよう秘密の暗号を送るわね。あっちは、それぐらいはかかりそうだから」と言いながら、パソコンをたたく指の方が先に動いていた。
もう時間がないことも、この少女は知っている。カズたちは、この少女軍師の作戦に身を委ねるしかないと思った。
ノアは、更にネックレスの飾りに向かって、「おっ、おかあさんがたいへんなの。階段から落ちて、意識を失って動かなくなっちゃったの。ここの人達は、なんとか蘇生させようとしているのだけど、助けにきてー。お願いー」と声だけの迫真の演技を演じた。
そして、3人に向かって、間髪入れず言った。
「もうわかると思うけど、ここの救護用カートが来たら、救急班を眠らせて、カートを奪って乗り込むのよ」
セバスチャンも、すぐに呼応した。
「よし、わかった。しかし、絶対本部へ連絡を取らせてはいかん。オレが、外で隠れて、救急カートに残っている運転手を片付けるから、カズとジャンボくんは部屋のドアの手前で待ち伏せするんだ。奥さんは、部屋から入ってきた救護員にすぐわかるように、そこで眠っていてください。ノアちゃんは、救護員が来たらこの部屋まで誘導してくれ」
10分後に、マフィアの救急班がやってきて、事務所の前に停まった。
家を裸足で飛び出したノアは、「早く、早く、お母さんが、お母さんが、大変なの」と救護員をせきたてた。
2人の救護員は、その言葉に引っ張られて、担架を持って家の中に入って行った。運転手を残して。
セバスチャンは、3人が階段を上がって行く音を聞いて、救急カートにこっそり近づいて、そのドアを開けるや否や、スタンガンで運転手を眠らせた。
一方、事務所の2階では予定通りカズとジャンボくんが、2人の救護員をやはりスタンガンで眠らせた。
カズたちは、眠らせた3人を、この事務所にいた者たちといっしょの部屋に放り込んだ。
カズ、セバスチャン、ジャンボくん、ノア、ノアの母親は、武器を積み込んで救急カートに乗り込んだ。
「いよいよね」
ノアが、希望と不安の入り混じった表情で、母親の耳元へ呟いた。
「そうね。やっと、お父さんに会える日がやってくるのね」
カズとセバスチャンは、肉親を人質に捕られているのは自分たちだけでないのだということを改めて思い知らされた。
セバスチャンは、ノアの指示にしたがって、カートを走らせた。カズたち3人は、すでに眠らせた3人の救護員の白衣に着替えていた。やはり、ジャンボくんには白衣もパツンパツンだった。
5分程で、救急施設の駐車場にカートを停めた。
ノアは改めて、基地の構造と人質を救出する段取りを説明した。
この計画は、あくまでもオーストラリアの特殊工作部隊が2時間以内に南部から攻撃することが前提であった。
しかし、ノアの計画に反して、救護員が帰ってこないことを不審に思ったマフィア救護部隊が防衛部隊に連絡し、調査に行ってしまった。防衛部隊は、1時間で事務所に入り、閉じ込められていた5人を発見してしまった。もちろん、シバザトの妻子がいないこともばれてしまった。ノアの計画より45分も早く警報が鳴り始めた。しかも、それは特殊工作部隊のためではなく、ノア達自身の脱走によるものであった。ノアは、強引に閉じ込められている人質を解放し、戦力になる者を味方につける作戦に切り替えることにした。
「もう、やるっきゃないわよ。私たちが、人質解放をしようとしていることを気付かれる前に、一気に監禁されている部屋へ行くのよ。それから、人質の閉じ込められている部屋を占領して、特殊工作部隊が南から攻撃をしかけるのを待つの。やつらは、必ずそっちに力を傾けるはずだから、その時私たちは打って出るのよ。それで、セバスチャンさんは人質を先導してアボリジニの村へ誘導して。ジャンボくんとカズは人質を助けた後、しんがりでマフィアの攻撃を防ぐのよ。そのうち、特殊工作部隊が助けてくれるはずだから」
ジャンボくんが、「よし、わかった」と言って、行動を開始した。セバスチャンとカズもそれに続いた。病院の駐車場から人質の部屋までは、500mもなかった。敵がいなければ、10分もあれば行ける距離であった。セバスチャンにとっては娘のカルメンが、カズにとっては妹のハルカが、すぐ目と鼻の先にいて、助け出せるんだという思いで、レーザー光線銃を撃ちまくりながら、突き進んだ。そして、30分後ついに人質の部屋までやってきた。さすがに、敵の応援部隊も大挙してせまっていた。もう、人質が監禁されている部屋で籠城するしかなかった。人質の部屋の監視員と激しく打ち合った。そして、ついにそこを突破し、5人は人質の部屋へ走りこんだ。
ハルカが「おにいちゃーん」と叫びながらカズに抱きついてきた。
もちろん、カルメンも「おとうさーん」と叫びながらセバスチャンに抱きついてきた。
しかし、彼らは感動の対面を振りほどき、敵に対峙した。
ノアが叫び声をあげた。
「みなさーん。早く、何でもいいからバリケードになるものをあそこへ積み上げて」
そして、その部屋の入り口を指さした。すると、50人くらいの人質たちが、どんどんバリケードの山を積み上げていった。そして、バリケードの隙間を通して激しい銃撃戦も始まっていた。すでに、敵の応援部隊は到着していた。バリケードの山は、どんどん崩れていく。
カズもジャンボくんもセバスチャンも必死の形相で戦い続けていたが、崩れゆくバリケードの状況に緊迫した悲壮な顔色に変わりつつあった。
ノアが、再び叫んだ。
「3人とも、がんばって。あと、少しよ。あと10分よ。10分以内に必ず、必ず、敵の攻撃は弱まるはずよ」
もう、バリケードは人が飛び越えられるくらいに崩れていた。3人とも敵レーザがどこかにあたって崩れた破片で、傷ややけどを負っていた。カズは、もう、このまま死ぬかもしれないと思った。
かろうじて残っていたバリケードも音を立てて大きく崩れ始めた。
その時、遠くで別の警報音が鳴り響いた。
「やったわよ。やっと、特殊工作部隊がやってきたのよ」
ノアが、三度、叫んだ。
ノアの言葉通り、敵の攻撃が弱まり始めた。
セバスチャンが、「よし、今だ」と言って、手榴弾を敵にお見舞いした。
人質の見張りにあたっていた敵は、絶叫の声とともにせん滅されてしまった。
「行くわよ。さあ、急いで」
ノアが、人質となっていた人達をせかし立てた。
ノアは母親に、「私は、カズやジャンボくんといっしょに、最後から着いて行くわ。おかあさんは、人質の人たちが、不安がらないように勇気づけながら、先に行ってちょうだいね」と言った。
母親は、「わかったわ。あなたも、十分注意してね」と言って、人質の人達に紛れ込んでいった。
セバスチャンが、「よし、オレについてくるんだ」と言って、人質たちを誘導した。
そして、最後にノア、ジャンボくん、カズが続いた。
人質の最後尾から、少し離れてノアが部屋から飛び出すやいなや、突然、再び敵の攻撃が始まり、ノアの周りをレーザー光線が飛び交い、一人の銃口からノアに向かって発射されそうになっていた。
その瞬間、ジャンボくんがノアの後ろから猛然とダッシュし、「ノア、伏せろ」と言いながら、ノアの体に覆いかぶさるようにして、ノアを押し倒した。すぐに、すっかり腕を上げたカズが援護射撃で、その敵を一瞬にして倒した。
「重いわね。ジャンボくん。どいてよ」
ノアが言った。
しかし、ジャンボくんは動かなかった。ノアは、後頭部に生ぬるい液体が垂れ続けている感触を覚えた。
ノアは、「ジャンボくん、どうしたの」と言いながら、首だけをなんとか天井の方へ動かした。
ノアの顔は一瞬にして蒼白となり、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と大声で絶叫した。
ジャンボくんの片目がグシャグシャに潰れ、大量の血が流れ出していた。
ノアは「私のせいで、私のせいで。ジャンボくんが、ジャンボくんがぁー」と泣き叫んだ。
カズが、あたりの全てを切り裂くような大声で、
「ノアアアア―、落ち着け。落ち着くんだぁぁぁ」と叫んだ。
更に、カズは今度は打って変ってやさしい声で、「ノア、落ち着いて聞いてくれ。よく見てみろ。ジャンボくんは生きている。ボクがすぐに応急処置をする。今は、彼の命を助けるんだ。いいな。そこから這い出て、ジャンボくんを仰向けに寝かせるのを手伝ってくれ。泣き叫んでるヒマはない。一刻を争うんだ」と言いながら、ダーウィンから持ってきた医療道具をまさぐりながら、ジャンボくんの傍らに寄り添った。
ノアが、「カズくん。大丈夫なの」と心細げに言った。
「ボクは、これまでウィッキー・マンデラという世界最高のドクターにいろいろ教えてもらった。心音、脈拍、残された左目を見る限り、右目の負傷は脳にまで達していないようなんだ。出血を抑えれば命は助かるはずだと思う。だから、キミも手伝ってくれ」
ノアは、「本当に?」と言いながら、カズの指示で傷のまわりを丹念にきれいにして消毒し始めた。
それでも、時折悲しみを抑えきれず、嗚咽しながら、「ジャンボくん。ジャンボくん」と何度も彼の名を呼んだ。
ジャンボくんの顔は、ノアの涙が滴り落ちて濡れていた。
ものの10分程しか経っていなかったが、応急処置を終えたカズには何時間も経過したように思えた。
カズは、それまで自身の呼吸が止まっていたかのように「ふーっ」と息を吐きながら、ヘナヘナとそこへ崩れ落ちた。
ノアは、ジャンボくんの目以外の傷も隈なくケアしていた。時折、ジャンボくんの名を呼びながら。ジャンボくんは、時々苦しそうに唸り声をあげて体をくねらせた。
それから1分程して、「ノア、しょっぱいぜ。涙のスープは」と、蚊の鳴くような小声が聞こえた。
ノアは、目と口を大きく開いて、一瞬あっけにとられた。
そして、「ジャンボくん、あなた意識、戻ったの?」と問いかけた。
「どうやらな」
「もう、天国にでも着いたのかと思ったよ。柔らかくて、いい匂いがして、気持ちよかったなんてな」
ノアの目からは、ボロボロと涙がこぼれだした。
「何よ。バカバカ」と言いながら、ノアはジャンボくんの胸を何度も叩いた。
ジャンボくんは、「いてててっ。重傷のけが人に何をしやがるんだ」と言った。
ジャンボくんは激しい鈍痛に襲われながらも、ノアの顔を見ていると不思議とまだまだやれるという勇気を感じていた。
ジャンボくんは、カズとノアの手を借りながら、なんとかアボリジニの村へ向かって、歩き始めた。時折、敵の残党が後ろから、攻撃を仕掛けてきたが、カズ1人で必死で防戦した。重傷のジャンボくんがいるので、確実に敵を倒しながら進まなければならなかった。
なんとか、往路で竪穴を降りて移動したところまで、やってきたが、ここはどう考えても、ジャンボくんを連れて越えることはできなかった。
ノアが、「待つのよ。必ず、セバスチャンが戻ってきてくれるわ」と言いながら、ジャンボくんの持っていたレーザー光線銃を取り上げて身構えた。
カズとノアの2人は少し戻って、マフィアの大空洞からアボリジニの村を結ぶ小さな洞窟の口のところで、敵を迎え打つことにした。ここで、2人は必死で戦った。ジャンボくんのいるところまで、退くわけにはいかなかった。しかし、多勢に無勢でじわじわと後退せざるをえなかった。また、カズたちは危機的状態に追い込まれていった。
ノアが、「あの洞窟の曲がってるところまでは下がれないわ」と、悲壮な顔で銃を撃ちながらカズに言った。
「大丈夫だ。セバスチャンがきっと来てくれるさ」
しかし、もう銃のチャージがきれかかっていることをカズはわかっていた。
敵の攻撃に曝されはじめ、カズの髪をレーザーがかすめ、焼け焦げる匂いがした瞬間、2人の後ろから、二条の閃光が敵の中へ吸い込まれた。2人が後ろを振り返ると、そこにはセバスチャン以外になんと美鈴の姿があった。
「なんとか、間に合ったようね」
カズとノアは、いっぱいいっぱいだった。体中の力が抜けて、その場にしゃがみこんだ。
セバスチャンが、「よくやった。さあ、オレ達に任せて、2人とも下がってくれ」と言った。
その言葉を聞いた瞬間、ノアはジャンボくんのことが心配になって、すぐにジャンボくんのところまで、走った。すると、1人の医師がジャンボくんの治療を始めていた。言わずと知れた世界最高のドクター、ウィッキー・マンデラだった。
「ノアちゃんだね。シバザトの娘さんだね。よく、がんばったね。あとは、私に任せてくれれば、大丈夫だ。必ず、助けてみせるさ」
ノアは、コクっと首を振って、「お願い。ジャンボくんを、ジャンボくんを助けて」と、うっすらと涙を浮かべながら言った。
カズは、引き下がらずに、セバスチャンたちと一緒に戦い続けた。一気に、形成が逆転し始めた。そして、セバスチャンたちが来てから10分程すると敵は背後からオーストラリア工作部隊の攻撃を受け始め、挟み撃ちの状態となり、一気に瓦解した。結果的に、ノアの作戦は成功した。
工作部隊の1人が美鈴の前までやってきて、「アデレード以来だな。お嬢さん」と言いながら、マスクをはずし、手を差し延べた。
それは、アデレードで喧々諤々の口論のすえ、やっとの思いで出動することを約束させた工作部隊の隊長だった。
「ありがとう。でも、遅かったわね。もっと、早く来れなかったの」
美鈴はそう言いながら、握手の手を差し延べた。
「かなわんなあ。お嬢さんにかかっちゃあ」
「けが人がいるの。運ぶのを手伝ってくれるわね」
隊長は、「もちろん」と言って、すぐに部下に指示を出した。
カズとセバスチャンは、すでにジャンボくんのところへ、向かっていた。
「ドクター、どうでしょうか。ボクは、ボクは、できるだけのことをやったつもりなんだけど」
カズが、うっすらと涙を浮かべながら、言った。
「これは、おまえがやったんだな」
カズが、コクっと頷いた。
ドクターは、手を動かしながらも少しためて、「上出来だ。よくやった。この手当がなければ、ジャンボくんの魂は、1人だけこの洞窟から抜け出していたところだったよ」と言った。
すると、なぜかカズの目から涙があふれ出し、その場にへたりこんでしまった。
すぐに、セバスチャンがその後ろからカズの両肩に手をあてて、「ご苦労だったな」と言った。
ジャンボくんの目は、ドクターの魔法のような手術にかかり、縫合を終えた。続いて、特殊工作部隊がすぐにジャンボくんを担架に乗せて担ぎ始めた。それに、皆が続いた。
アボリジニ村の井戸を出たところで、リョサが待っていた。リョサがアボリジニに話をつけてくれていたのであった。リョサはジャンボくんが帰ってきたのを待って、ペルーへ連絡し始めた。井戸の外は、白みがかった空が朝を告げようとしていた。
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