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二十七. 再び火星
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長かった惑星の旅を終えて、ミロメシアは復路最後の惑星火星のスペースコロニーまで帰ってきた。じいさんは、最後まで共に闘おうと思っていたが、長旅でかなり弱っていた。この星のコロニーにある病院での療養を必要としていた。ドクターの診断によると、これまでの戦闘によるストレスでかなり血圧が上がっており、糖尿病の血糖値も上がり、このまま地球での戦いにはとても耐えられる状態ではないとのことであった。
じいさんは、たいそう気にはしていたが、火星に到着し丸1日療養すると、老体にムチ打って半日程、ドクターとセバスチャンとともに情報収集とその分析にあたった。航海中にも情報収集を行っていたが、火星での情報収集による裏付けと補正が必要だった。
じいさんが、この陰謀の首謀者と睨んでいたマロンフィールドが立候補している国連事務総長の選挙は、2月14日に予定通り実施されることになっていた。じいさんが言うには、すでに抗ウィルス剤を奪い火星まできていることも認識されているらしいとのことであった。
対立している有力候補者たちの身内にもウィルスに侵されているものもあり、選挙運動も低下し、ほとんどマロンフィールドの当選が確実視されていた。カズたちは一刻も早く抗ウィルス剤を、世界に影響力を持つアメリカ大統領経由でCDC(アメリカ疾病予防管理センター)やWHO(世界保健機関)に引き渡し、量産のめどをつけてマロンフィールドの野望を打ち砕かなくてはならなかった。もし、選挙が行われ、マロンフィールドが当選すれば、彼は強大な権力を握ることになり、事件ももみつぶされてしまうことになる。当然マロンフィールドは、全力をあげてカズたちへの妨害工作を開始していた。
その日のうちにコロニーのじいさんの病室に一通の手紙が届いた。なんと、すでにカズの妹とセバスチャンの娘が人質にとられていた。選挙が終わるまでおとなしくしていなければ人質を殺すという内容であった。
じいさんは、セバスチャンとカズを呼んで、手紙を読み上げた。2人の顔は、みるみる驚愕の表情へ変わり、手は震えていた。
「おまえさん達が、望むのならこのミッションは辞めてしまってもいいんだよ」
「それで、あるいは2人は助かるかもしれん」
するとカズが、「ボ、ボクは、こんなことでこのミッションは辞められないよ。困っている人達も、妹達も助ける方法はあるよね」と言った。
セバスチャンは、「じいさん、何を言ってるんだ。今このミッションを辞めてしまったら、どれだけたくさんの人が死ぬことになるか計り知れないことは、じいさんもわかっているだろ」と大声をあげた。
「もちろん、できる限りの手は尽くすが、・・・。いいんじゃな」
2人は、突然の事件をまだ受け入れきっていない様子ではあるが、黙って首を縦に振った。
カズたちは、まだ火星にいながらにして、選挙の2月14日までのわずか2週間足らずで、人質を奪還した上で、アメリカ大統領に事件の全貌を知らしめ抗ウィルス剤を献上しなければならなかった。
明らかにカズたちの力だけでは、不可能なミッションであった。かといって国家レベルでの工作がなされれば、敵に感づかれる可能性が高かった。
そこで、セバスチャンが「クソやろうどもが。しゃあねぇな。インカの奴らの手でも借りるか」と言い出した。
じいさんも、「それしか、あるまい。こんな手を打ってくるとは思っていなかったが、わしはすでにインカの連中に連絡をとってある。もう、そろそろこのコロニーへ到着するころじゃて。あと小一時間もすれば、奴らがやってくるぞ」と言った。
「さすが、じいさん抜かりはないな」と言いながらも、セバスチャンは少し不安げな表情を浮かべた。
セバスチャンの頭に、ペルーのマヌー湖へ沈められた時のことがよぎった。
セバスチャンの心を見透かしたじいさんは、「トラウマじゃな。大丈夫だ。インカのやつらも、我々と心は一つじゃよ」と薄笑いを浮かべた。
病室のドアをノックする音が鳴った。そして、3人の男と1人の女が入ってきた。
「いやあ、お久しぶりです。よくぞ、ご無事に帰ってこられましたな」と一人の男が感激高揚した様子で言った。
それは、インカの地底都市で市長の側近の中にいた男で、ミロメシアのクルー達のお世話してくれた人だった。インカの市長がクルーを安心させるためにわざわざ気をきかしてくれたのであった。
無論、ミロメシアのクルー達は、まだ火星にいるのではあるが、やっと帰ってきたんだということを実感するのには、余りある心遣いだった。特に、カズとセバスチャンは肉親を人質に捕られて内心不安でしょうがなかったが、強力なバックアップ組織の存在に再び勇気が沸々と湧き上がってきた。
じいさんが「よく来てくれた。ありがとう」と言った。
これに続いて、他のみんなも「ありがとう。よろしく、お願いします」と口ぐちに言葉を発するとともに、お互いに一人一人が握手をかわし合った。
病床から、じいさんが「この最終ミッションの命題は、いたって単純じゃ。人質を助け出して、アメリカ大統領へ、要人に紛れ込んだマフィアのリストと抗ウィルス剤を手渡すことだ。無論、リストは送ってもよいのじゃが、人質の危険を冒しても、信じてもらえるかわからん。そこで、わしに、とっておきの考えがある」と言った。
情報を分析するとマロンフィールドたちはアステロイドベルトでの工作に失敗すると同時に、マフィアによる誘拐を企てていたのだった。
「我々は、人質となっている2人を助けなくてはならないのだが、現状どこにいるかすら、わからん」とじいさんが言った。
セバスチャンとカズは不安げな表情を浮かべた。
「そこでじゃ。インカの人たちにお願いしたいのは、2人がいなくなった時の状況を急いで調べてほしい。無論、敵に悟られるような目立った行動は控えてもらう必要がある。わしは、インターネットで情報収集する。そのために、インカから来た3人のエキスパートの力をお借りする」
クリスが「えっ。じいさんは、最初から誰かが誘拐されることがわかっていたのか」と言った。
「いや。そんなことは、考えておらなんだのじゃが、火星から地球へ到達するまでに、できる限りの情報を収集し、このマフィアのリストを元に、世界的に同時にマフィアの奴らを逮捕できるように考えていた」と苦々しい表情を浮かべながら言った。
じいさんがいうには、ミロメシアのマークも厳しくなり、火星から地球に近づくにつれて敵の攻撃は激しくなり、襲撃をかわし切ることはできないとのことであった。そこで、ミロメシアを囮にして、ミロメシアのクルーは輸送船で地球に戻る作戦をたてることにした。ただ、ミロメシア以外の宇宙船で地球に行くとしたら、あまりにも時間がかかりすぎてしまう。危険ではあるが、敵の攻撃を受ける空間に入る直前までミロメシアで航行し、そこからはミロメシアに積載した小型輸送船で、地球に着陸することにした。それでも、地球に着陸するまでに、最低でも5日間の時間を要した。
じいさんは、クルーとは別れて、1週間かけて医療施設のある旅客船で、月へ向かうことにした。
そして、再び月からミロメシアのクルーを支援することにした。
セバスチャンが、「事は一刻を争う。小型輸送船の準備ができ次第できる限り早く出発しよう。地球のどこへ着陸するかの詳細は、ミロメシアの中でじいさんからの連絡を待っていれば、いいのですな」と言った。
じいさんは、ゆっくりと首を縦に振った。5時間後、ミロメシアは最後の航海へ出発した。
ミロメシアは2日程度の加速モードの後、減速モードへ移行する予定であった。5日後にクルー達は、半年ぶりに地球の大地を踏みしめることになる。それぞれの胸に去来するものは、複雑であった。
セバスチャンとカズにとっては、ミロメシアを操縦しながらも、人質として捕らわれた肉親を一刻も早く救出したい一心であった。
美鈴にとっては、出発直前で敵の仕業と思われる交通事故に巻き込まれ重傷を負ったおじいちゃんのことが心配でどうしようものなかったが、クリスと共にした大道芸の練習の日々や冥王星でクリスと共に捕らわれの身になったことなども昨日のことのように思い出された。
自分自身で軽薄な男であると自認しているクリスは、ウィルスに侵されたアメリカ大統領である兄の娘のことやこの航海でのできごとも思い出されたが、いつの間にか美鈴のことを考える時間が大きくなっていることに自分自身では気づいていなかった。
ドクターは、無論医者としてウィルスに侵された多くの人達を救うためにやるべきことを考えることが多かったが、このミッションで起こりうる事象に対する対策をインカ人やじいさんと打ち合わせたりもしていた。思い出すこととしては、やはり冥王星での攻防の末、セバスチャンが死にかけて、その大手術を執刀したことがあげられる。今こうして生き生きと活躍しているセバスチャンを見て時々不思議な気持ちになった。というのも、誰にも言わなかったが本当はセバスチャンが助かったのは奇跡に近かったからであった。
ミロメシアが火星を後にしてから、2日後じいさんからの連絡が入ってきた。インカの諜報活動能力は優れているようで、わずか3日足らずで2人が拉致された時の状況を克明に調べ上げていた。そして、日本とスペインでそれぞれが拉致された後、向かった方角について複数の情報を仕入れることにより割り出した。そして、マロンフィールド達が所属しているマフィアのアジトの候補を絞っていった。それから日本とスペインのアジトの共通点やそのアジト周辺での人の出入りを事つぶさにしらべあげ、その共通項として、オーストラリアのダーウインが捜査線上へ浮かび上がってきた。インカの諜報機関によると2人がダーウィンへ連れていかれたことは99%間違いないということであり、すでに救出工作まで図ろうとしていた。無論それぞれの国の警察組織も動いていたが、まさかその裏に国際マフィアが暗躍していて、2人が自国の外へ連れ出されているとは知る由もなかった。
セバスチャンは、「オーストラリアのダーウィンへ向かうぞ」と言った。
「ただし、これから1日間の減速モード後、ミロメシアを捨てて搭載してきた輸送船で地球に着陸する」
クリスが、「じゃ、ミロメシアはどうするんだい」と言った。
これに対してドクターが、「じいさんが言うには、『無人のミロメシアはある程度地球に近づいた時点で撃破されることは間違いない』とのことだそうだ。しかし、抵抗もせずに攻撃を甘んじて受けて撃破されれば、当然敵に怪しまれることは間違いない。そこで、自動操縦でも敵の攻撃をある程度しのいで反撃できるプログラムを仕掛けることにした。無論、自動操縦ではセバスチャンの操縦技術には、とても及ばん。そこで、その前にミロメシアが故障したように見せかけることにした。これからエンジンの一部が故障した時のプログラムを仕組んでおいて、ミロメシアが傾いて航行しながら、時々進路が狂って補正しているように見せかけるよう設定する。トラブルモードプログラムは、私の方で作りこんである」と言った。
カズが「なるほど。そんな作戦があるんだね」と言った。
「さて、セバスチャン。我われがミロメシアで地球へ近づける限界距離は、100万kmくらいで、どのあたりで輸送船にスイッチするかなんだが」
「そうですね。多少リスクはありますが、地球到達に1日も遅れることができない状態にあるので100万kmギリギリまでひっぱりましょう。そこで、分離してミロメシアには月へ向かわせましょう。人質を取られているということもあり、迂闊に地球へ近づけないということで」
「そうだな。輸送船の能力もあるし、せいぜい6時間くらいの減速が関の山だから、ギリギリまでひっぱるしかないかな」
「よし。そうと決まれば、ミロメシアは、あと1時間後にトラブルモードに入り36時間後に輸送船で分離するぞ。カズ」
「了解」
1日半後、セバスチャン以外のクルーは輸送船に乗りこんだ。セバスチャンは輸送船の自動切り離しを設定すると共に、最後に輸送船に乗りこみ、その操縦席に座った。カズはすでに助手席に座っていた。
カズが、「1分後に、輸送船はミロメシアを離脱します。秒読み開始。30、29、28・・・、5、4、3、2、1、離脱」と呼びあげると、輸送船はミロメシアの下面から離脱し、みるみるミロメシアから遠ざかっていった。
セバスチャンが、モニタのミロメシアに向かって無言で敬礼をすると、クルー全員が共に敬礼し、ミロメシアの最後を見送った。セバスチャンとカズの目は、赤く充血し、うっすらとこみ上げるものがあった。
輸送船は、少し軌道を変えながら地球へ向かった。半日後には、オーストラリアのダーウィンに着陸の予定であった。
じいさんは、たいそう気にはしていたが、火星に到着し丸1日療養すると、老体にムチ打って半日程、ドクターとセバスチャンとともに情報収集とその分析にあたった。航海中にも情報収集を行っていたが、火星での情報収集による裏付けと補正が必要だった。
じいさんが、この陰謀の首謀者と睨んでいたマロンフィールドが立候補している国連事務総長の選挙は、2月14日に予定通り実施されることになっていた。じいさんが言うには、すでに抗ウィルス剤を奪い火星まできていることも認識されているらしいとのことであった。
対立している有力候補者たちの身内にもウィルスに侵されているものもあり、選挙運動も低下し、ほとんどマロンフィールドの当選が確実視されていた。カズたちは一刻も早く抗ウィルス剤を、世界に影響力を持つアメリカ大統領経由でCDC(アメリカ疾病予防管理センター)やWHO(世界保健機関)に引き渡し、量産のめどをつけてマロンフィールドの野望を打ち砕かなくてはならなかった。もし、選挙が行われ、マロンフィールドが当選すれば、彼は強大な権力を握ることになり、事件ももみつぶされてしまうことになる。当然マロンフィールドは、全力をあげてカズたちへの妨害工作を開始していた。
その日のうちにコロニーのじいさんの病室に一通の手紙が届いた。なんと、すでにカズの妹とセバスチャンの娘が人質にとられていた。選挙が終わるまでおとなしくしていなければ人質を殺すという内容であった。
じいさんは、セバスチャンとカズを呼んで、手紙を読み上げた。2人の顔は、みるみる驚愕の表情へ変わり、手は震えていた。
「おまえさん達が、望むのならこのミッションは辞めてしまってもいいんだよ」
「それで、あるいは2人は助かるかもしれん」
するとカズが、「ボ、ボクは、こんなことでこのミッションは辞められないよ。困っている人達も、妹達も助ける方法はあるよね」と言った。
セバスチャンは、「じいさん、何を言ってるんだ。今このミッションを辞めてしまったら、どれだけたくさんの人が死ぬことになるか計り知れないことは、じいさんもわかっているだろ」と大声をあげた。
「もちろん、できる限りの手は尽くすが、・・・。いいんじゃな」
2人は、突然の事件をまだ受け入れきっていない様子ではあるが、黙って首を縦に振った。
カズたちは、まだ火星にいながらにして、選挙の2月14日までのわずか2週間足らずで、人質を奪還した上で、アメリカ大統領に事件の全貌を知らしめ抗ウィルス剤を献上しなければならなかった。
明らかにカズたちの力だけでは、不可能なミッションであった。かといって国家レベルでの工作がなされれば、敵に感づかれる可能性が高かった。
そこで、セバスチャンが「クソやろうどもが。しゃあねぇな。インカの奴らの手でも借りるか」と言い出した。
じいさんも、「それしか、あるまい。こんな手を打ってくるとは思っていなかったが、わしはすでにインカの連中に連絡をとってある。もう、そろそろこのコロニーへ到着するころじゃて。あと小一時間もすれば、奴らがやってくるぞ」と言った。
「さすが、じいさん抜かりはないな」と言いながらも、セバスチャンは少し不安げな表情を浮かべた。
セバスチャンの頭に、ペルーのマヌー湖へ沈められた時のことがよぎった。
セバスチャンの心を見透かしたじいさんは、「トラウマじゃな。大丈夫だ。インカのやつらも、我々と心は一つじゃよ」と薄笑いを浮かべた。
病室のドアをノックする音が鳴った。そして、3人の男と1人の女が入ってきた。
「いやあ、お久しぶりです。よくぞ、ご無事に帰ってこられましたな」と一人の男が感激高揚した様子で言った。
それは、インカの地底都市で市長の側近の中にいた男で、ミロメシアのクルー達のお世話してくれた人だった。インカの市長がクルーを安心させるためにわざわざ気をきかしてくれたのであった。
無論、ミロメシアのクルー達は、まだ火星にいるのではあるが、やっと帰ってきたんだということを実感するのには、余りある心遣いだった。特に、カズとセバスチャンは肉親を人質に捕られて内心不安でしょうがなかったが、強力なバックアップ組織の存在に再び勇気が沸々と湧き上がってきた。
じいさんが「よく来てくれた。ありがとう」と言った。
これに続いて、他のみんなも「ありがとう。よろしく、お願いします」と口ぐちに言葉を発するとともに、お互いに一人一人が握手をかわし合った。
病床から、じいさんが「この最終ミッションの命題は、いたって単純じゃ。人質を助け出して、アメリカ大統領へ、要人に紛れ込んだマフィアのリストと抗ウィルス剤を手渡すことだ。無論、リストは送ってもよいのじゃが、人質の危険を冒しても、信じてもらえるかわからん。そこで、わしに、とっておきの考えがある」と言った。
情報を分析するとマロンフィールドたちはアステロイドベルトでの工作に失敗すると同時に、マフィアによる誘拐を企てていたのだった。
「我々は、人質となっている2人を助けなくてはならないのだが、現状どこにいるかすら、わからん」とじいさんが言った。
セバスチャンとカズは不安げな表情を浮かべた。
「そこでじゃ。インカの人たちにお願いしたいのは、2人がいなくなった時の状況を急いで調べてほしい。無論、敵に悟られるような目立った行動は控えてもらう必要がある。わしは、インターネットで情報収集する。そのために、インカから来た3人のエキスパートの力をお借りする」
クリスが「えっ。じいさんは、最初から誰かが誘拐されることがわかっていたのか」と言った。
「いや。そんなことは、考えておらなんだのじゃが、火星から地球へ到達するまでに、できる限りの情報を収集し、このマフィアのリストを元に、世界的に同時にマフィアの奴らを逮捕できるように考えていた」と苦々しい表情を浮かべながら言った。
じいさんがいうには、ミロメシアのマークも厳しくなり、火星から地球に近づくにつれて敵の攻撃は激しくなり、襲撃をかわし切ることはできないとのことであった。そこで、ミロメシアを囮にして、ミロメシアのクルーは輸送船で地球に戻る作戦をたてることにした。ただ、ミロメシア以外の宇宙船で地球に行くとしたら、あまりにも時間がかかりすぎてしまう。危険ではあるが、敵の攻撃を受ける空間に入る直前までミロメシアで航行し、そこからはミロメシアに積載した小型輸送船で、地球に着陸することにした。それでも、地球に着陸するまでに、最低でも5日間の時間を要した。
じいさんは、クルーとは別れて、1週間かけて医療施設のある旅客船で、月へ向かうことにした。
そして、再び月からミロメシアのクルーを支援することにした。
セバスチャンが、「事は一刻を争う。小型輸送船の準備ができ次第できる限り早く出発しよう。地球のどこへ着陸するかの詳細は、ミロメシアの中でじいさんからの連絡を待っていれば、いいのですな」と言った。
じいさんは、ゆっくりと首を縦に振った。5時間後、ミロメシアは最後の航海へ出発した。
ミロメシアは2日程度の加速モードの後、減速モードへ移行する予定であった。5日後にクルー達は、半年ぶりに地球の大地を踏みしめることになる。それぞれの胸に去来するものは、複雑であった。
セバスチャンとカズにとっては、ミロメシアを操縦しながらも、人質として捕らわれた肉親を一刻も早く救出したい一心であった。
美鈴にとっては、出発直前で敵の仕業と思われる交通事故に巻き込まれ重傷を負ったおじいちゃんのことが心配でどうしようものなかったが、クリスと共にした大道芸の練習の日々や冥王星でクリスと共に捕らわれの身になったことなども昨日のことのように思い出された。
自分自身で軽薄な男であると自認しているクリスは、ウィルスに侵されたアメリカ大統領である兄の娘のことやこの航海でのできごとも思い出されたが、いつの間にか美鈴のことを考える時間が大きくなっていることに自分自身では気づいていなかった。
ドクターは、無論医者としてウィルスに侵された多くの人達を救うためにやるべきことを考えることが多かったが、このミッションで起こりうる事象に対する対策をインカ人やじいさんと打ち合わせたりもしていた。思い出すこととしては、やはり冥王星での攻防の末、セバスチャンが死にかけて、その大手術を執刀したことがあげられる。今こうして生き生きと活躍しているセバスチャンを見て時々不思議な気持ちになった。というのも、誰にも言わなかったが本当はセバスチャンが助かったのは奇跡に近かったからであった。
ミロメシアが火星を後にしてから、2日後じいさんからの連絡が入ってきた。インカの諜報活動能力は優れているようで、わずか3日足らずで2人が拉致された時の状況を克明に調べ上げていた。そして、日本とスペインでそれぞれが拉致された後、向かった方角について複数の情報を仕入れることにより割り出した。そして、マロンフィールド達が所属しているマフィアのアジトの候補を絞っていった。それから日本とスペインのアジトの共通点やそのアジト周辺での人の出入りを事つぶさにしらべあげ、その共通項として、オーストラリアのダーウインが捜査線上へ浮かび上がってきた。インカの諜報機関によると2人がダーウィンへ連れていかれたことは99%間違いないということであり、すでに救出工作まで図ろうとしていた。無論それぞれの国の警察組織も動いていたが、まさかその裏に国際マフィアが暗躍していて、2人が自国の外へ連れ出されているとは知る由もなかった。
セバスチャンは、「オーストラリアのダーウィンへ向かうぞ」と言った。
「ただし、これから1日間の減速モード後、ミロメシアを捨てて搭載してきた輸送船で地球に着陸する」
クリスが、「じゃ、ミロメシアはどうするんだい」と言った。
これに対してドクターが、「じいさんが言うには、『無人のミロメシアはある程度地球に近づいた時点で撃破されることは間違いない』とのことだそうだ。しかし、抵抗もせずに攻撃を甘んじて受けて撃破されれば、当然敵に怪しまれることは間違いない。そこで、自動操縦でも敵の攻撃をある程度しのいで反撃できるプログラムを仕掛けることにした。無論、自動操縦ではセバスチャンの操縦技術には、とても及ばん。そこで、その前にミロメシアが故障したように見せかけることにした。これからエンジンの一部が故障した時のプログラムを仕組んでおいて、ミロメシアが傾いて航行しながら、時々進路が狂って補正しているように見せかけるよう設定する。トラブルモードプログラムは、私の方で作りこんである」と言った。
カズが「なるほど。そんな作戦があるんだね」と言った。
「さて、セバスチャン。我われがミロメシアで地球へ近づける限界距離は、100万kmくらいで、どのあたりで輸送船にスイッチするかなんだが」
「そうですね。多少リスクはありますが、地球到達に1日も遅れることができない状態にあるので100万kmギリギリまでひっぱりましょう。そこで、分離してミロメシアには月へ向かわせましょう。人質を取られているということもあり、迂闊に地球へ近づけないということで」
「そうだな。輸送船の能力もあるし、せいぜい6時間くらいの減速が関の山だから、ギリギリまでひっぱるしかないかな」
「よし。そうと決まれば、ミロメシアは、あと1時間後にトラブルモードに入り36時間後に輸送船で分離するぞ。カズ」
「了解」
1日半後、セバスチャン以外のクルーは輸送船に乗りこんだ。セバスチャンは輸送船の自動切り離しを設定すると共に、最後に輸送船に乗りこみ、その操縦席に座った。カズはすでに助手席に座っていた。
カズが、「1分後に、輸送船はミロメシアを離脱します。秒読み開始。30、29、28・・・、5、4、3、2、1、離脱」と呼びあげると、輸送船はミロメシアの下面から離脱し、みるみるミロメシアから遠ざかっていった。
セバスチャンが、モニタのミロメシアに向かって無言で敬礼をすると、クルー全員が共に敬礼し、ミロメシアの最後を見送った。セバスチャンとカズの目は、赤く充血し、うっすらとこみ上げるものがあった。
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