あなただけが私を信じてくれたから

樹里

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四度目の人生

第29話 悲鳴から始まった

「きゃああああっ!?」

 それは誰かの叫び声から始まった。
 私は、はっと意識を取り戻す。まさかこんな直前だなんて。

「あ、あ、あ……」

 ミラディア王女殿下は目を見開いたまま声にならない声を上げ、ぐらりとその体を揺らした。

 ミラディア王女殿下、どうか。どうかこの機会を生かそうとする私をお許しください。

 私は心の中でミラディア王女殿下に謝罪して立ち上がると、テーブルに広がったお茶に右腕を置きながら、左手でミラディア王女殿下を支えるが、やはり支えきれずに一緒に崩れ落ちてしまう。

「ミラディア王女殿下! お医者様を! 早くお医者様を! 早く!」

 エレーヌ王女殿下が続いて叫んだ。

「お、お姉様! お姉様! しっかりしてください! 誰か! 誰かお姉様を助けてっ!」
「毒はアザジンです! アザジンの解毒を!」

 私は迷わず大きな声で叫んだ後、皆がミラディア王女殿下に駆け寄り、誰もが興味を失ったテーブルへと振り返る。するとそこにはテーブルへ瓶から毒を垂らすリーチェの姿が見えた。
 私の視線に気付いた彼女は顔色をさっと落としたが、私が事情を理解していないと踏んだのか、彼女は何事もない振りをして、王女殿下しっかりしてくださいと叫びながら駆け寄った。

 ――そして、もちろん私は牢屋の中だ。

 シメオン様がいつものように牢屋へやって来た。
 私は再び会えたことに感謝し、シメオン様の温もりの中に飛び込んで、しばらく号泣していた。


「そうですか。これまでそんなことが」

 また私はシメオン様にこれまでの全ての事情を打ち明けた。

「ええ。信じてくださる――わよね? これまでのシメオン様は信じてくださったわ」
「はい。もちろんです」

 少し挑発した物言いにも笑って頷いてくれるシメオン様に、私も笑顔で頷き返す。

「それで証拠がこれです」

 私は自分の右腕の紅茶で色づいた包帯を解くとシメオン様に渡した。
 これから毒が検出されなければ、新たな方向で再調査が行われ、そこから芋づる式に事態が明らかになるはず。ミラディア王女殿下の護衛騎士も正義感のある摯実な方だ。証言に協力してくれるだろう。

「はい。確かに受け取りました。秘密裏に第三者機関に検査を依頼いたします」
「ええ。よろしくお願いいたします。ただ、もうこちらの動きは察知されていると考えておいたほうが良さそうです」

 王太子殿下だって馬鹿ではない。実際、シメオン様が私のために調査していることを知っていたのだから。

「わたくしはテーブルに毒を垂らすリーチェと目が合ったのです。わたくしを排除するために、これまでと違った対策を早々に立てるかもしれません。また、シメオン様にも何か手を伸ばすかもしれません。どうかお気をつけて」
「承知いたしました。信頼のおける方に相談することを考えていますので、私のことはご心配なさらないでください。……ところで、アリシア様」

 シメオン様はなぜか少し気まずそうに自分の頬を人差し指で掻く。

「はい。何でしょう?」
「お話を聞いておりますと、はアリシア様と恋仲になった、という認識でよろしいのでしょうか?」
「……え!?」

 言葉を理解して数拍後、私は驚きのあまり肩が跳ねた。
 改めて言われると恥ずかしい。すごく恥ずかしい。

「そ、そうです」
「どこまででしょう」
「どこまで、ですか?」

 言葉の意味が分からなくて問い返す。するとシメオン様は一つ咳払いした。

「ええ。私はどこまでアリシア様との関係を作ったのでしょう。抱きしめるまででしょうか。口づけまででしょうか。それとももっと――」
「口づけ! 口づけです! 口づけまでです!」

 際どくなりそうな発言に私は慌てて答えた。

「そうですか。つまり私と三回ここで口づけを?」
「は、はい――あ。違いました。二度目の人生の時は、わたくしからもしましたし、お願いもしましたので、ご、五回です」

 そんな場合ではないと思うが、一体何を質問されているのだろうか。そして私はなぜ素直に答えているのだろう。

「五回? しかもアリシア様からされた上に求めたと? ……そうですか」

 シメオン様は一瞬、片眉を上げたが、すぐに微笑んだ。

「ではその愛を確かめていいでしょうか?」
「……は、はい」
「良かった。アリシア様、愛しております」
「わ、わたくしも愛し――っ!」

 思いのほか、シメオン様は嫉妬深いらしい。彼は私を抱き寄せるや否や、これまでのいつの時よりも長く――ずっと長く情熱的に口づけした。
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