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四度目の人生
第31話 今ならできることがある
「アリシア様に脅されて毒物を入れたと証言した侍女とおっしゃいましたか? そのような者は確認されていませんが」
「え? ダリアと言う女性ですよ。ミラディア王女殿下の侍女で、お茶を淹――あ」
シメオン様の回答に一瞬呆気に取られたが、私はすぐに頭を抱えた。
「ごめんなさい。そうだわ。勘違いしていました。それは二度目の人生の時でした」
三度目からは私がカップを入れ替えたことにより、私が毒を混入したことになっていたのだ。ならば、私の代わりに毒物を入れたと証言させる侍女の存在は不要だ。私にとっては続いて起こっている出来事であるとはいえ、焦る余り、情報を入り交えて都合よく考えてしまうとは。それにシメオン様にも伝え忘れがあったようだ。
私はため息をつく。
「つまり、わたくしの無実を証明してくれるものは、その証拠品のみということなのですね」
「誠に……申し訳ありません」
これまでの人生では、私が処刑されるまでにミラディア王女殿下がお目覚めになったことはない。だから王女殿下の証言を得ることは期待できないだろう。仮にお目覚めになられたとしても、明確な証拠がなければ、毒を服した王女殿下の証言は信憑性に欠けるとして破棄される危惧だってあるし、王女殿下も記憶が定かではないかもしれない。
「そう。そうですか。もうわたくしたちには打つ手がないのですね」
やっとの思いでここまで来たのに。もはやこれまでらしい。
私は苦々しい思いで笑いをこぼした。どうやっても処刑される運命だったのならば、なぜこんな苦しいことを繰り返さなければならなかったのだろう。
「いいえ。今ならできることがあります」
「え? 他に何が――まさか!」
シメオン様が暗闇に潜むような黒いローブに身を包み、忍び込むように夜ここにやって来たのは。
「ええ。お察しの通り、ここから逃げ出すのです」
「だ、脱獄って、本気なのですか?」
信じられない思いでシメオン様を見つめる。
彼の瞳には揺らぎがない。本気のようだ。
「全て先手を打たれて、今はこれしかあなたを助ける方法がありません。現在も捜索させておりますが、取り返せない可能性だってある。また、重要な証拠品の存在を知られてしまった以上、相手も陛下に訴えかけて処刑日を早める危険性があります。何にしろ時間との勝負となるでしょう。ですから今は、万が一に備えて逃げるべきなのです」
私たちだけで本当に逃げ出せるのだろうか。
私の表情に不安が混じっているように見えたのだろう。シメオン様は穏やかに微笑んだ。
「大丈夫。信頼する方の協力を得てこの計画を立て、逃走の手はずを整えていただきました。きっとこの国から逃げ切ることができるはずです。私と一緒に逃げましょう」
シメオン様はそう言って私に手を差し出す。
「ですが、それではわたくしのせいでシメオン様の人生が台無しになってしまいます。わたくしはそれを望みません。あなたは、あなたの人生を大事にされるべきです」
「私の人生だからこそです。愛する人と一緒にいることができる私の人生が不幸だと思われますか?」
「で、ですが! ですがこの国を出たら、あなたの地位、これまでの努力が全て失われてしまうわ」
「おや。アリシア様は地位や権力、お金を失った私にはもう興味がありませんか?」
困ったように小首を傾げるシメオン様。
「違っ、そうではありません!」
私が拳を作って主張すると彼は軽快に笑った。
「冗談です。そんな方ではないことは存じています。もちろんこれまでのような、何の不自由もない暮らしをさせてあげることはできなくなるでしょう。逃亡生活が長く続くかもしれません。あなたをまた危険な目に遭わせるかもしれません。苦しい思いをさせるかもしれません。自分勝手だと思います。傲慢だと思います。それでも私はあなたを失いたくないのです。どうか私と共に生きてください」
「生きて……」
――必ず生き延びる道を探してください。何が何でも生きて生きて……生きてください。私の望みはそれだけです。
私が生きる未来を願い、私の身勝手さを受け入れてくれて、涙ながらに送り出してくれた人生三度目の時のシメオン様。彼のためにも私は生きなければならない。
「はい。シメオン様と一緒に参ります」
私は彼の手を取った。
「え? ダリアと言う女性ですよ。ミラディア王女殿下の侍女で、お茶を淹――あ」
シメオン様の回答に一瞬呆気に取られたが、私はすぐに頭を抱えた。
「ごめんなさい。そうだわ。勘違いしていました。それは二度目の人生の時でした」
三度目からは私がカップを入れ替えたことにより、私が毒を混入したことになっていたのだ。ならば、私の代わりに毒物を入れたと証言させる侍女の存在は不要だ。私にとっては続いて起こっている出来事であるとはいえ、焦る余り、情報を入り交えて都合よく考えてしまうとは。それにシメオン様にも伝え忘れがあったようだ。
私はため息をつく。
「つまり、わたくしの無実を証明してくれるものは、その証拠品のみということなのですね」
「誠に……申し訳ありません」
これまでの人生では、私が処刑されるまでにミラディア王女殿下がお目覚めになったことはない。だから王女殿下の証言を得ることは期待できないだろう。仮にお目覚めになられたとしても、明確な証拠がなければ、毒を服した王女殿下の証言は信憑性に欠けるとして破棄される危惧だってあるし、王女殿下も記憶が定かではないかもしれない。
「そう。そうですか。もうわたくしたちには打つ手がないのですね」
やっとの思いでここまで来たのに。もはやこれまでらしい。
私は苦々しい思いで笑いをこぼした。どうやっても処刑される運命だったのならば、なぜこんな苦しいことを繰り返さなければならなかったのだろう。
「いいえ。今ならできることがあります」
「え? 他に何が――まさか!」
シメオン様が暗闇に潜むような黒いローブに身を包み、忍び込むように夜ここにやって来たのは。
「ええ。お察しの通り、ここから逃げ出すのです」
「だ、脱獄って、本気なのですか?」
信じられない思いでシメオン様を見つめる。
彼の瞳には揺らぎがない。本気のようだ。
「全て先手を打たれて、今はこれしかあなたを助ける方法がありません。現在も捜索させておりますが、取り返せない可能性だってある。また、重要な証拠品の存在を知られてしまった以上、相手も陛下に訴えかけて処刑日を早める危険性があります。何にしろ時間との勝負となるでしょう。ですから今は、万が一に備えて逃げるべきなのです」
私たちだけで本当に逃げ出せるのだろうか。
私の表情に不安が混じっているように見えたのだろう。シメオン様は穏やかに微笑んだ。
「大丈夫。信頼する方の協力を得てこの計画を立て、逃走の手はずを整えていただきました。きっとこの国から逃げ切ることができるはずです。私と一緒に逃げましょう」
シメオン様はそう言って私に手を差し出す。
「ですが、それではわたくしのせいでシメオン様の人生が台無しになってしまいます。わたくしはそれを望みません。あなたは、あなたの人生を大事にされるべきです」
「私の人生だからこそです。愛する人と一緒にいることができる私の人生が不幸だと思われますか?」
「で、ですが! ですがこの国を出たら、あなたの地位、これまでの努力が全て失われてしまうわ」
「おや。アリシア様は地位や権力、お金を失った私にはもう興味がありませんか?」
困ったように小首を傾げるシメオン様。
「違っ、そうではありません!」
私が拳を作って主張すると彼は軽快に笑った。
「冗談です。そんな方ではないことは存じています。もちろんこれまでのような、何の不自由もない暮らしをさせてあげることはできなくなるでしょう。逃亡生活が長く続くかもしれません。あなたをまた危険な目に遭わせるかもしれません。苦しい思いをさせるかもしれません。自分勝手だと思います。傲慢だと思います。それでも私はあなたを失いたくないのです。どうか私と共に生きてください」
「生きて……」
――必ず生き延びる道を探してください。何が何でも生きて生きて……生きてください。私の望みはそれだけです。
私が生きる未来を願い、私の身勝手さを受け入れてくれて、涙ながらに送り出してくれた人生三度目の時のシメオン様。彼のためにも私は生きなければならない。
「はい。シメオン様と一緒に参ります」
私は彼の手を取った。
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