逆張りの占い師、マデリーネ・アモンドにお任せください!

樹里

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6.詐欺被害者家族からのご依頼

第2話 最後のカードは

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 そっかぁと私が苦笑いしていると、レオンさんはすみませんとこちらも苦笑いを返してきた。

「僕たちの所にも同じ依頼が複数舞い込んで来ているんです。つまり今、男はこの町で詐欺を同時進行で行っているということですね」
「結婚詐欺師っていうのは、二股も三股もするのよね。まったく男って奴は。ねえ、レオン」
「ぼ、僕!? 僕は関係ないだろ! 一緒にするな!」

 不機嫌になるレオンさんに私とルチアさんはくすくすと笑う。

「レオンは良い子だもんねー」

 ルチアさんはレオンさんの頭を撫でようとするが、彼はふいっとその手を避けた。

「子供扱いもするな!」

 先ほどよりも不機嫌度が増した事に気付いて、私はますます笑みが抑えきれなくなる。しかし、じろりと彼から睨まれて私はひょいと肩をすくめた。
 はいはい。了解です。

「お話を戻しますけど、詐欺師の居場所を占いで突き止めるんですよね。仮に突き止めたとして、依頼者の方々はどうされるつもりですか?」
「お上に突き出したいと言っているわ。一応、刑罰を与えるのは難しいと伝えてはいるんだけどね。気が済まないからって。何とか一矢報いたいところだけど。そのためにはまず捕まえないとね」

 ルチアさんは面白くなさそうにため息をついた。
 結婚詐欺師というものは、お金目当てだから短期決戦なのだそうだ。騙されていると気付かれる前に姿を消す。その時にようやく騙されていたと気付いてルチアさんの所に駆け込んできても、実は相手の事を何も知らなかったとなることが多いらしい。

「そんな中で足取りを掴むのは難しいわ。ただでさえ情報伝達が発達していないこんな世の中で、二人しかいない弱小事業がこんな情報戦に挑むわけだから。まあ、それを言い訳にしてちゃ、この商売をやっていけないんだけどね」

 彼女は肩をすくめて自嘲した。

「でもねえ。もう少し手掛かりがあっても良いはずなのに、そうじゃないのが奇妙なのよね。容姿とか分かっているわけだし」
「これですよ、どうぞ。ルチアが描いたものです」
「ちょっ!?」

 焦るルチアさんを無視して、レオンさんがさっと差し出した物を見て言葉を失った。
 そこに描かれているのはかろうじて人間と分かる程度だ。これからその人の特徴を捉えることは困難を極める。
 ……もしかしてこれが捕まらない原因なのでは。

「な、なるほどですね?」

 私は顔を上げると敢えてにっこり笑った。若干、引きつっていたかもしれない。

「レオン! あなた、酷いわよ! 私だって……ちょっとくらい似ていないカナーって思っていたのに!」

 どうやらレオンさんのちょっとした悪戯だったらしい。ルチアさんは憤慨するが、私が笑うと彼女は私の手から似顔絵を取り返した。

「と、ともかくね。男性側はお金を持っているフリをしなきゃいけないから、身なりにもお金をかけているだろうし、派手に遊び回っているかなと思って、その線で回っているんだけど全くそんな気配が無いのよ。だから捕まらないの」

 もうこの町にいないか、あるいは派手にすると目を付けられるから、この町での仕事を終えるまでは大人しくしているか。

「だからリーネちゃんに占ってほしいの」
「えっと。似顔絵からでしょうか」
「リーネちゃんも言うわね……」

 苦笑いすると、ルチアさんはカバンからまとめた資料を取り出した。

「男の情報よ。申し訳ないけど、読んでもらえる?」
「はい。拝見します」

 真剣な表情になったルチアさんに私もまた笑みを消し、それらを手に取って目を通す。

「今回の依頼者は三人。顔の特徴、手口から言うと同じ人間よ。セシールさんの方は実際確認してもらわないと分からないけど、同じ人物と見ていいかしら。この町にいるかどうか、まず占ってみてくれる?」
「はい」

 私は二枚のカードを切って並べるとめくった。続いて彼が訪れた所も占ってみる。

「――まだいますね」
「まだいるの。随分と余裕だこと。こちらとしてはありがたいけどね」

 ルチアさんは眉を上げて皮肉っぽく笑う。

「あと、この町で宝石商、布地商、小間物商に訪れています」
「ええ。でも彼が立ち寄っただろう跡を辿って店の人に尋ねてみたけど、特に成果は無かったわ。余程悪目立ちでもしてなければ、普通の恋人同士に周囲が注意を払う必要もないものね。仕方がないんだけど」

 ルチアさんは悔しげに唇を一度噛む。一方で、レオンさんは不快そうに眉間に皺を寄せる。

「三人からのお話によると、彼女らと会っていたお店や場所は全く趣味が違うんです。まるで足跡が付かないようにして、次の行動を読ませないようにしているみたいだ」
「万が一のことを考えて、鉢合わせにならないようにする対策でもあったんでしょうね。あるいはわざと趣味の違う女性を標的にして、それに合わせていたのかもしれない」

 狡猾な人間のようだ。
 ルチアさんは前髪をくしゃりと握った。

「依頼人は既に連絡がつかなくなったと言っているから、男は近い内に町を出る可能性が高い。あまり時間は無いと見ているわ」
「……はい。あ。その男ですが、この町の人間ではないのは間違いないんですよね」
「ええ。それどころか、少しなまりのある言葉だったらしいわよ。他国出身者となると、真偽の程を確かめる術なんて、ほぼ無いものね。いくらでも嘘をつける」

 なるほど。となると、彼はこの町のどこかの宿屋に泊まっているはずだ。そこを突き止めれば良い。
 私は再びカードを選別して集中すると、それをめくっていく。
 ――しかし。

「そんな……」
「どうしたの? もしかして分からない?」

 全てめくられたカードを見たルチアさんは眉を落として尋ねてきた。
 そう。占いの結果は該当無しとなったのだ。まだ男はこの町にいて、宿屋に泊まっているのは間違いないはずなのに、該当無しだなんて矛盾している。
 これ以上、占いでは導き出せないということだろうか。あるいは私が未熟なだけかもしれない。どうしよう。どうすればいい?
 焦りの色をにじませていると、先ほどから考え込んでいたレオンさんが口を開いた。

「マデリーネさん。もしかして宿屋に特定して占いをされました?」
「あ、はい」
「もしかしたら潜伏しているのは宿屋じゃないかもしれませんよ」
「え?」
「被害者の女性は何かしら相手から贈り物をされているんです。口紅や装飾品の類いの物をね。しかもこの町でしか手に入らない流行ものの装飾品をもらった人もいます。だからこの町の店に訪れているのは間違いありません。しかし男性が一人で女性物を買うとなると、少しは記憶に残るはず。それなのにそんな情報は無い。……どういうことだと思いますか?」

 例えば顔を隠すような変装をしていたとか。しかし却って目立つような下手な装いもできないはず。……となると。
 私はルチアさんを見てはっと気付く。

「あ! もしかして女装していたとか?」

 レオンさんは少し笑って、首を振った。

「被害者の女性の話では、男性は女装できるほどの体格ではありません。もし無理に女装したとしたら目立つと思います。しかし、そんな話も出なかった。つまり男には」

 男性一人だけ店に訪れて、女物の装飾品を買うのならば印象に残る。しかし女性なら――。

「共犯者の女性がいたとか!」
「ええ。僕もそう考えます。ですから男がいるのは宿屋ではなくて、女性の所では?」
「……あ」

 そうか。何も寝泊まりできる所は宿屋に限らない。それこそ共犯者の女性に限らず、現在詐欺続行中なら、相手の女性に泊まっている可能性だってある。

 以前、ユリウスにも言われた。
 先入観を持ってカードを選択すれば、答えが出ない場合もある。自分の意識内だけで考えては駄目だということだ。広い視野や思考を持つことから逃げても避けても答えは導き出せない。だが、それらは一朝一夕でできる話ではない。経験値を高めなければならないのだ。ならば……今は時間がかかっても全てのカードを使ってやってやる。

 私は全てのカードを集めてテーブル一面に並べると、怒濤の勢いで展開していく。
 危機迫る様子で次々捌いていく私の前で二人が何やら話しているが、今はひたすらカードに集中だ。
 おそらく他でも同じような事をやっているだろう。もしかしたらもっと捕まえたい人がいるかもしれない。たくさん証言者がいるなら罪に問うことができるかもしれない。
 お金を奪い、人の心を深く傷つけ、人生を狂わせる詐欺師。絶対に許せない。私が一泡吹かせてやる!
 ――町。探す。犯罪。首。お金。南。端。お金と首……最南端の町。賞金首?

 この国では私刑は公然的には認められていないが、探し人として懸賞金をかけることに対しては目をつぶっている。軽犯罪の裁判による対費用や罪に問うのが難しい犯罪などがあるからだろう。

「リーネちゃん?」

 カードをめくる手が止まり、ぶつぶつ呟く私に声をかけるルチアさん。私はそこでようやく彼女を見た。

「ルチアさん。男の居場所が分かりました。それと最南端の町で賞金首になっている人の情報って分かります?」
「それは調べてみないと分からないけ――もしかして!?」

 さすがに察しの良いルチアさんだ。私は頷いて唇を横に薄く引いた。

「ええ。刑罰を与えられなくてもそこから懸賞金が手に入り、被害者の方に分配できるかもしれません」
「なーるほど。最南端の町は貿易が盛んだから、お金持ちが多い町なのよね。懸賞金を出してでも探したい人物が確かにいるかも。よし。早速当たってみるわ。もっと詳しく場所を特定してくれる?」
「はい!」

 そうしてルチアさんは私が導きだした町へと馬車を走らせ、レオンさんは男の潜伏場所に向かった。


「マディ、カウンターのテーブルを拭いて」
「はい」

 私はユリウスから無意識に布巾を受け取って、テーブルを拭きながら考える。
 ルチアさんはそろそろ戻って来た頃だろうか。依頼人も文句の一つくらいは言いたいだろうから集めると言っていたけど、大騒ぎになったら二人で抑えきれないんじゃないだろうか。それにセシールさんは大丈夫だろうか。彼女の思い詰めたような瞳が気にかかる。

「マディ。さっきから同じ所しか拭いていない」
「うん」
「……ルチアさんもあとは任せてほしいと言っていたし、マディができる事はもうない」
「うん」

 セシールさんの目的は本当に男からの謝罪だけなのだろうか。それだけで済むのだろうか。……嫌な予感が当たるというのは、端々にちりばめられた危険のしるしを無意識に感じ取っているからかもしれない。
 もやもやした気持ちから抜け出せない私は布巾から手を離した。

「マディ」
「あ、ごめんね。ちょっと」

 呆れたようなため息をつくユリウスにようやく我に返ると、軽く謝罪して椅子に座り、カードへと手を伸ばす。心を落ち着かせるために呼吸を整えると、カードを並べた。
 取り越し苦労ならそれでいい。むしろ取り越し苦労であってほしい。
 強く願いながら、順番に開いていった。
 しかし。

「――こ、れっ!」

 最後のカードをめくり終えた私は勢いよく椅子から立ち上がり、出入り口の扉へと走った。

「マディ!」

 背後で倒れた椅子の音やユリウスの呼び声が聞こえるが、決して振り向かないで駆けて行く。
 だって残った最後のカードは――『復讐』だったのだから。
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