つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
35 / 315

第35話 私はこう見えてもロザンヌ・ダングルベールです

しおりを挟む
 執務室にベールのみ置いて出ると、私は自分の部屋へと向かう。
 途中何人かの宮廷侍女とすれ違った。侍女服のまま廊下を歩いていたら、手伝ってくれと他の侍女から声がかかるのではと戦々恐々としていたけれど、何事も無く無事到着したので、ほっと一息。

 万が一、声をかけられたら部署が違うという言葉で一蹴できるからそう言えと、殿下から魔法の言葉を授かった。
 その魔法が本当に効果があるのかどうか、現時点では定かではない。――はい。つまり、殿下のおっしゃることなので当てにならないといったところです。

 王族居住区に入って進むと、私の部屋の前に見知らぬ若い護衛官が立っていた。

 あれ? 私の部屋にまで護衛を付けてくれることになったのだろうか。
 近付いていくと、その青年はこちらを警戒したような冷たい瞳で見つめてくる。

「あの、あなたは?」
「ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢様のお部屋の護衛を任されております第二部隊カルロ・アレオンと申します。ロザンヌ様に何かご用でしょうか。このお部屋へはロザンヌ様ご不在の際、王家の方々、及び二人の侍女のみの入室が許可されております」

 ああ、そっか。私が侍女服を着ているからなのね。
 自分の姿を思い出して納得する。私に貴族としての気品や華がないとか、そういうことでは決してない。……はず。多分。きっと。おそらく。自分の誇りのためにそういうことにしておきたい。

 ちょっと自信を失いつつも私はえへんと一つ咳払いして口を開いた。

「わたくしはロザンヌ・ダングルベール本人でございます。お部屋に入りたいので、お通し願えますか」

 するとその護衛官は眉をひそめた。
 ――というか、何で眉をひそめるのよ。本人を前に失礼でしょ!

「何かご本人を証明するものなどはお持ちですか」
「しょ、証明するもの?」

 学生服には本人証明する物を携帯しているけれど、殿下の部屋に向かう前に着替えていて、今、手に持っているのは侍女服に着替える前の私服のみだ。

「え、えっと今は持っておりません」

 しどろもどろになる私に対して、護衛官はますます警戒の目を厳しくする。
 う、疑われている。何でこんな目に!?

「申し訳ありませんが、護衛官室まで少しご同行願いますか」
「護衛官室までご同行!?」

 たった今、そこから戻って来たばかりなのよ。それにロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢と思われず、不審に思われ連行されたとなると、さっきの殿下の言葉を自ら証明するみたいで嫌っ! さらに殿下に知られるとなると――屈辱的です!

「ま、待って。わたくしは本当にロザンヌ・ダングルベールです。あ! ああ、そうだわ! 中にいる侍女を呼んで。わたくしだと証明してくれるはずです」
「ただいま、このお部屋には誰もおられません」
「そ、そんな。――あ、だったらお部屋に入れば身分を証明する物を置いています! 一度入らせて!」

 焦った私は扉のノブに手を伸ばそうとした瞬間、護衛官にがつりと手首を掴まれた。

「不法侵入で連行させていただきます」
「ま、待って。まだ未遂のはずよ!? 手に触れてないもの!」

 そういう意味ではないのは分かっておりますが。

「抵抗されるなら、力づくで押さえ込むことになります」

 まだ必要以上に腕を捻り上げたりはしないけれど、淡々と警告する彼に、私もすぅっと頭の芯が冷えた。

「そう。ならば、あなたは激しく後悔することになるでしょうね。それでもいいのならやってみなさい」
「――っ!」

 動揺が消えて、落ち着き払った様子に変わった私の気迫に押されたのか、彼は息を呑む。しかし手を離そうとはしない。

 ふむ、なかなか見上げた根性だ。
 と感心している場合でもない。これ以上、長引かせて騒ぎにしては本末転倒だ。仕方ないから護衛官室に逆戻りするかと心の中でため息をついた時。

「何をしている!」

 よく知った、咎めるような声が駆け足と共に聞こえてきた。
 そう。護衛官長のジェラルド様のお出ましである。

 ああ、来てくださった。私の身に危険が及ぶ時、いつも駆けつけてくれるのはジェラルド様だ。

 ああ、良かった。これで殿下にバレないで済む。助かった……。
 私が最終的に思ったことはそれだった。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。 ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。 そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。 このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって… ※ご都合主義のラブコメディです。 よろしくお願いいたします。 カクヨムでも同時投稿しています。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

処理中です...