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第35話 私はこう見えてもロザンヌ・ダングルベールです
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執務室にベールのみ置いて出ると、私は自分の部屋へと向かう。
途中何人かの宮廷侍女とすれ違った。侍女服のまま廊下を歩いていたら、手伝ってくれと他の侍女から声がかかるのではと戦々恐々としていたけれど、何事も無く無事到着したので、ほっと一息。
万が一、声をかけられたら部署が違うという言葉で一蹴できるからそう言えと、殿下から魔法の言葉を授かった。
その魔法が本当に効果があるのかどうか、現時点では定かではない。――はい。つまり、殿下のおっしゃることなので当てにならないといったところです。
王族居住区に入って進むと、私の部屋の前に見知らぬ若い護衛官が立っていた。
あれ? 私の部屋にまで護衛を付けてくれることになったのだろうか。
近付いていくと、その青年はこちらを警戒したような冷たい瞳で見つめてくる。
「あの、あなたは?」
「ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢様のお部屋の護衛を任されております第二部隊カルロ・アレオンと申します。ロザンヌ様に何かご用でしょうか。このお部屋へはロザンヌ様ご不在の際、王家の方々、及び二人の侍女のみの入室が許可されております」
ああ、そっか。私が侍女服を着ているからなのね。
自分の姿を思い出して納得する。私に貴族としての気品や華がないとか、そういうことでは決してない。……はず。多分。きっと。おそらく。自分の誇りのためにそういうことにしておきたい。
ちょっと自信を失いつつも私はえへんと一つ咳払いして口を開いた。
「わたくしはロザンヌ・ダングルベール本人でございます。お部屋に入りたいので、お通し願えますか」
するとその護衛官は眉をひそめた。
――というか、何で眉をひそめるのよ。本人を前に失礼でしょ!
「何かご本人を証明するものなどはお持ちですか」
「しょ、証明するもの?」
学生服には本人証明する物を携帯しているけれど、殿下の部屋に向かう前に着替えていて、今、手に持っているのは侍女服に着替える前の私服のみだ。
「え、えっと今は持っておりません」
しどろもどろになる私に対して、護衛官はますます警戒の目を厳しくする。
う、疑われている。何でこんな目に!?
「申し訳ありませんが、護衛官室まで少しご同行願いますか」
「護衛官室までご同行!?」
たった今、そこから戻って来たばかりなのよ。それにロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢と思われず、不審に思われ連行されたとなると、さっきの殿下の言葉を自ら証明するみたいで嫌っ! さらに殿下に知られるとなると――屈辱的です!
「ま、待って。わたくしは本当にロザンヌ・ダングルベールです。あ! ああ、そうだわ! 中にいる侍女を呼んで。わたくしだと証明してくれるはずです」
「ただいま、このお部屋には誰もおられません」
「そ、そんな。――あ、だったらお部屋に入れば身分を証明する物を置いています! 一度入らせて!」
焦った私は扉のノブに手を伸ばそうとした瞬間、護衛官にがつりと手首を掴まれた。
「不法侵入で連行させていただきます」
「ま、待って。まだ未遂のはずよ!? 手に触れてないもの!」
そういう意味ではないのは分かっておりますが。
「抵抗されるなら、力づくで押さえ込むことになります」
まだ必要以上に腕を捻り上げたりはしないけれど、淡々と警告する彼に、私もすぅっと頭の芯が冷えた。
「そう。ならば、あなたは激しく後悔することになるでしょうね。それでもいいのならやってみなさい」
「――っ!」
動揺が消えて、落ち着き払った様子に変わった私の気迫に押されたのか、彼は息を呑む。しかし手を離そうとはしない。
ふむ、なかなか見上げた根性だ。
と感心している場合でもない。これ以上、長引かせて騒ぎにしては本末転倒だ。仕方ないから護衛官室に逆戻りするかと心の中でため息をついた時。
「何をしている!」
よく知った、咎めるような声が駆け足と共に聞こえてきた。
そう。護衛官長のジェラルド様のお出ましである。
ああ、来てくださった。私の身に危険が及ぶ時、いつも駆けつけてくれるのはジェラルド様だ。
ああ、良かった。これで殿下にバレないで済む。助かった……。
私が最終的に思ったことはそれだった。
途中何人かの宮廷侍女とすれ違った。侍女服のまま廊下を歩いていたら、手伝ってくれと他の侍女から声がかかるのではと戦々恐々としていたけれど、何事も無く無事到着したので、ほっと一息。
万が一、声をかけられたら部署が違うという言葉で一蹴できるからそう言えと、殿下から魔法の言葉を授かった。
その魔法が本当に効果があるのかどうか、現時点では定かではない。――はい。つまり、殿下のおっしゃることなので当てにならないといったところです。
王族居住区に入って進むと、私の部屋の前に見知らぬ若い護衛官が立っていた。
あれ? 私の部屋にまで護衛を付けてくれることになったのだろうか。
近付いていくと、その青年はこちらを警戒したような冷たい瞳で見つめてくる。
「あの、あなたは?」
「ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢様のお部屋の護衛を任されております第二部隊カルロ・アレオンと申します。ロザンヌ様に何かご用でしょうか。このお部屋へはロザンヌ様ご不在の際、王家の方々、及び二人の侍女のみの入室が許可されております」
ああ、そっか。私が侍女服を着ているからなのね。
自分の姿を思い出して納得する。私に貴族としての気品や華がないとか、そういうことでは決してない。……はず。多分。きっと。おそらく。自分の誇りのためにそういうことにしておきたい。
ちょっと自信を失いつつも私はえへんと一つ咳払いして口を開いた。
「わたくしはロザンヌ・ダングルベール本人でございます。お部屋に入りたいので、お通し願えますか」
するとその護衛官は眉をひそめた。
――というか、何で眉をひそめるのよ。本人を前に失礼でしょ!
「何かご本人を証明するものなどはお持ちですか」
「しょ、証明するもの?」
学生服には本人証明する物を携帯しているけれど、殿下の部屋に向かう前に着替えていて、今、手に持っているのは侍女服に着替える前の私服のみだ。
「え、えっと今は持っておりません」
しどろもどろになる私に対して、護衛官はますます警戒の目を厳しくする。
う、疑われている。何でこんな目に!?
「申し訳ありませんが、護衛官室まで少しご同行願いますか」
「護衛官室までご同行!?」
たった今、そこから戻って来たばかりなのよ。それにロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢と思われず、不審に思われ連行されたとなると、さっきの殿下の言葉を自ら証明するみたいで嫌っ! さらに殿下に知られるとなると――屈辱的です!
「ま、待って。わたくしは本当にロザンヌ・ダングルベールです。あ! ああ、そうだわ! 中にいる侍女を呼んで。わたくしだと証明してくれるはずです」
「ただいま、このお部屋には誰もおられません」
「そ、そんな。――あ、だったらお部屋に入れば身分を証明する物を置いています! 一度入らせて!」
焦った私は扉のノブに手を伸ばそうとした瞬間、護衛官にがつりと手首を掴まれた。
「不法侵入で連行させていただきます」
「ま、待って。まだ未遂のはずよ!? 手に触れてないもの!」
そういう意味ではないのは分かっておりますが。
「抵抗されるなら、力づくで押さえ込むことになります」
まだ必要以上に腕を捻り上げたりはしないけれど、淡々と警告する彼に、私もすぅっと頭の芯が冷えた。
「そう。ならば、あなたは激しく後悔することになるでしょうね。それでもいいのならやってみなさい」
「――っ!」
動揺が消えて、落ち着き払った様子に変わった私の気迫に押されたのか、彼は息を呑む。しかし手を離そうとはしない。
ふむ、なかなか見上げた根性だ。
と感心している場合でもない。これ以上、長引かせて騒ぎにしては本末転倒だ。仕方ないから護衛官室に逆戻りするかと心の中でため息をついた時。
「何をしている!」
よく知った、咎めるような声が駆け足と共に聞こえてきた。
そう。護衛官長のジェラルド様のお出ましである。
ああ、来てくださった。私の身に危険が及ぶ時、いつも駆けつけてくれるのはジェラルド様だ。
ああ、良かった。これで殿下にバレないで済む。助かった……。
私が最終的に思ったことはそれだった。
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