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第46話 ユリア・ラドロの過去(二)
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物心がつく頃にもなると、自身の身の振り方を考えるようになっていた。
身体能力が向上し、皮肉にも彼らのおかげで危機察知能力も身に付き、どうやったら逃げ切れるか、何よりもそもそもの危険を回避するためにはどうしたら良いかという思考力もついていた。
結果、私が出した答えは彼らと手を切ることだった。弱い者を犠牲にして、自分たちは安全を確保するという彼らの浅知恵にいつまでも付き合ってやる義理はない。
暴挙を繰り返して悪質犯罪者集団に指定されていた私たちのグループを捕まえるべく、とうとう騎士が動き出すという話を小耳にした私は、彼らとの最後の仕事の日、まだ信じているフリをして騙し返した。
「ユリアァァーッ! 裏切りやがったのか、このクソ女! 誰が今まで面倒を見てやっていたと思っているんだ! 恩を仇で返しやがって、地獄に落やがれっ!」
騎士に捕まった彼らは遠方で眺めている私に驚き、暴言をわめき散らす様を静かに見つめ返した。
ざまあみろとは思わなかった。嬉しさは無かった。かといって後悔も無かった。悲しさも無かった。私には……何も無かった。何も感じることはできなかった。きっと裏切られた日から私の心はゆっくりと時を刻み、今やすっかり止まりきってしまったのだろう。
でもこの世界で生きるための術を身につけたと思うことにした。
彼らと決別しても私ができることは、これまで経験で学んできたこと、つまり盗みだけ。ただし彼らのやり方と違って気付かれないように、騒ぎを起こされないように静かに手際よく盗みを働く。
中には大金が入っていることがあって、そんな時、私は決まって食べ物よりも身を綺麗にし、服を買うことを優先した。
人は見た目によって扱いが左右される。小汚い格好をしていれば警戒されたり、盗みに気付かれた時、すぐに特定されて捕まりやすくなってしまうことを経験上、知っていたからだ。
私はいつの間にか、次の盗みのための盗みをしていた。
財布は一度盗めば、お金が泉のようにあふれ出るものではない。使えば無くなるものだ。全ての日が成功に終わるわけではなく、何も盗れない日も当然あった。
小さい頃の一日というのは気が遠くなるほど長く、明日のことを思うと眠れない日々もあった。ともかく一日一日を生きぬことに必死だったように思う。
しかしある時、ふと考えた。
私はなぜこうまでして生きているのだろうと。泥水をすすってでも、人を傷つけてでも、人の心を失ってまでも、なぜ私は生きたいと思うのだろう。目の前はまっ暗闇で、何一つ道が見えはしないのに。
何のために、何の目的があって生きようと思っているのだろう。いっそうのこと、この王国に流れる大川に身を委ねて流されてしまった方が楽なのではないだろうかと。
そんな折りに私はロザンヌ様に出会った。
小綺麗にした、おそらく貴族と思われる男性から財布を盗み取った後のことだった。路地裏で財布の中身を確認しようとしたその時。
ガシッ。
私の腕が取られた。
まさか!? 誰かに見つかった気配はなかったのに。殺気などなかったのに。
驚いて捕まれている腕の方向へと視線を上げるとそこには誰もいない。慌てて今度は下を見るとそこにいたのは小さな女の子。
瑞々しさと柔らかさを感じる白い肌、太陽に透けてきらきら光り、ふんわりカールした髪と薄い緑色のくりくりとした目で、可愛い服に身を包んだ幼女がこちらを見上げている。
いつかどこかで見たことがあるような、光をまとった天使のような子だ。
「な、何?」
「ロザンヌのおとうさま、しりませんか」
身なりが良く、お上品な言葉を使うこの子は貴族か、豪商の娘なのだろう。親とはぐれたらしい。
「知らない。離してくれる」
「やだぁぁぁ。おとうさま、どこ!?」
「知らないったら。離しなさいよ」
手を解こうと振り上げようとした瞬間、彼女は火が付いたように泣き叫んだ。
「おとうさま、おとうさま、おとうさまあぁぁぁ!」
「ちょっ。静かに、だま、黙って」
まさかまだ十歳程度の私がこの幼女を誘拐するなどとは思われはしないだろうが、彼女の声で人が集まってくるのはまずい。
「だって、おとうさまぁぁ!」
「わ、分かった。分かったから黙って。一緒に探してあげるから」
そんな義理は全く無いけれど、意外と力強い幼女は私の腕を掴んで離さない。また泣き喚かれても面倒だし、さっさと父親に会わせてやって解放される方がましだろうと思った。
「ほんとう?」
「ええ。どこから来たの」
彼女の父親も探しているだろうし、下手に歩き回らない方がいい。ただし、元の道にいる方がいいだろう。
「あっち」
彼女はしっかりと指で方向を示した。
表通りか。今、そこで財布をすってきたばかりだから戻るのは気が進まないが……。
ちらりと彼女を見ると、意志の強そうな瞳で私をじっと見つめている。
振り切って逃げても騒ぎながらついてきそうだ。
私は分かった行こうと、ため息をついてポケットに財布をしまった。
身体能力が向上し、皮肉にも彼らのおかげで危機察知能力も身に付き、どうやったら逃げ切れるか、何よりもそもそもの危険を回避するためにはどうしたら良いかという思考力もついていた。
結果、私が出した答えは彼らと手を切ることだった。弱い者を犠牲にして、自分たちは安全を確保するという彼らの浅知恵にいつまでも付き合ってやる義理はない。
暴挙を繰り返して悪質犯罪者集団に指定されていた私たちのグループを捕まえるべく、とうとう騎士が動き出すという話を小耳にした私は、彼らとの最後の仕事の日、まだ信じているフリをして騙し返した。
「ユリアァァーッ! 裏切りやがったのか、このクソ女! 誰が今まで面倒を見てやっていたと思っているんだ! 恩を仇で返しやがって、地獄に落やがれっ!」
騎士に捕まった彼らは遠方で眺めている私に驚き、暴言をわめき散らす様を静かに見つめ返した。
ざまあみろとは思わなかった。嬉しさは無かった。かといって後悔も無かった。悲しさも無かった。私には……何も無かった。何も感じることはできなかった。きっと裏切られた日から私の心はゆっくりと時を刻み、今やすっかり止まりきってしまったのだろう。
でもこの世界で生きるための術を身につけたと思うことにした。
彼らと決別しても私ができることは、これまで経験で学んできたこと、つまり盗みだけ。ただし彼らのやり方と違って気付かれないように、騒ぎを起こされないように静かに手際よく盗みを働く。
中には大金が入っていることがあって、そんな時、私は決まって食べ物よりも身を綺麗にし、服を買うことを優先した。
人は見た目によって扱いが左右される。小汚い格好をしていれば警戒されたり、盗みに気付かれた時、すぐに特定されて捕まりやすくなってしまうことを経験上、知っていたからだ。
私はいつの間にか、次の盗みのための盗みをしていた。
財布は一度盗めば、お金が泉のようにあふれ出るものではない。使えば無くなるものだ。全ての日が成功に終わるわけではなく、何も盗れない日も当然あった。
小さい頃の一日というのは気が遠くなるほど長く、明日のことを思うと眠れない日々もあった。ともかく一日一日を生きぬことに必死だったように思う。
しかしある時、ふと考えた。
私はなぜこうまでして生きているのだろうと。泥水をすすってでも、人を傷つけてでも、人の心を失ってまでも、なぜ私は生きたいと思うのだろう。目の前はまっ暗闇で、何一つ道が見えはしないのに。
何のために、何の目的があって生きようと思っているのだろう。いっそうのこと、この王国に流れる大川に身を委ねて流されてしまった方が楽なのではないだろうかと。
そんな折りに私はロザンヌ様に出会った。
小綺麗にした、おそらく貴族と思われる男性から財布を盗み取った後のことだった。路地裏で財布の中身を確認しようとしたその時。
ガシッ。
私の腕が取られた。
まさか!? 誰かに見つかった気配はなかったのに。殺気などなかったのに。
驚いて捕まれている腕の方向へと視線を上げるとそこには誰もいない。慌てて今度は下を見るとそこにいたのは小さな女の子。
瑞々しさと柔らかさを感じる白い肌、太陽に透けてきらきら光り、ふんわりカールした髪と薄い緑色のくりくりとした目で、可愛い服に身を包んだ幼女がこちらを見上げている。
いつかどこかで見たことがあるような、光をまとった天使のような子だ。
「な、何?」
「ロザンヌのおとうさま、しりませんか」
身なりが良く、お上品な言葉を使うこの子は貴族か、豪商の娘なのだろう。親とはぐれたらしい。
「知らない。離してくれる」
「やだぁぁぁ。おとうさま、どこ!?」
「知らないったら。離しなさいよ」
手を解こうと振り上げようとした瞬間、彼女は火が付いたように泣き叫んだ。
「おとうさま、おとうさま、おとうさまあぁぁぁ!」
「ちょっ。静かに、だま、黙って」
まさかまだ十歳程度の私がこの幼女を誘拐するなどとは思われはしないだろうが、彼女の声で人が集まってくるのはまずい。
「だって、おとうさまぁぁ!」
「わ、分かった。分かったから黙って。一緒に探してあげるから」
そんな義理は全く無いけれど、意外と力強い幼女は私の腕を掴んで離さない。また泣き喚かれても面倒だし、さっさと父親に会わせてやって解放される方がましだろうと思った。
「ほんとう?」
「ええ。どこから来たの」
彼女の父親も探しているだろうし、下手に歩き回らない方がいい。ただし、元の道にいる方がいいだろう。
「あっち」
彼女はしっかりと指で方向を示した。
表通りか。今、そこで財布をすってきたばかりだから戻るのは気が進まないが……。
ちらりと彼女を見ると、意志の強そうな瞳で私をじっと見つめている。
振り切って逃げても騒ぎながらついてきそうだ。
私は分かった行こうと、ため息をついてポケットに財布をしまった。
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