召喚士の冥府魔道 〜悪魔を呼び出した召喚士、復讐するための力を得る〜

ぼうよみのしおん

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004 「魔王を殺すのはあなたの役目」

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「では武器となるシリルの能力の説明からはじめましょう」



 言って、アイオンの左目のまえにちいさな魔法陣があらわれた。そして、すぐに僕の目の前にも手のひら大の魔法陣が浮かび上がり、そのうえにうっすらと小窓のようなものが浮上した。


 これは、見たことがある。《鑑定》と呼ばれる技能スキルだ。
 己や他者のなまえ、能力値、技能などを視認できるようにするもので、きわめて希少な技能だったはず。
 そして、ここに記されている各種ステータスは僕のものだ。



「……かなり、弱い」



 体力から魔力、筋力などの数値がすべて一桁。強さの基準がわからない僕からしても、弱小の類だということは安易にわかる。
 さっきまでの決意が、折れてしまいそうだった。



「そこは別にみなくてもいいわよ。これからどうとでもなるところだからね」

「そうなの?    じゃあ、どこをみれば……?」

「技能をみなさい。シリル、あなたがどうして私を呼び出せたのか。あなたの姉はどうして私のツノをプレゼントに選んだのか。それらの理由が、



 《召喚術》——ただひとつ……僕の技能欄に存在していたソレから派生して、あらたな小窓が出現した。


【召喚術……特定の手順を踏んで、物質・生物・魔法などを顕現させる。召喚した対象と契約を交わした場合、経験値やあらたに獲得した技能が共有される。※技能《召喚術》には熟練度が存在しません】



「これが、僕の力……」

「そう、とても稀有な技能よ。この技能を持っていることが知れたら、あなたを巡って戦争が起きるほどに。魔族は真っ先にあなたを殺しにくるでしょうね」

「それほどまでに、強いの?」

「ええ。現に、私を呼び出したでしょう?」

「アイオンって……やっぱり悪魔なの?」

「そうよ。悪魔にみえない?」

「いや、そんなことはない……けれど」



 足首まで届きそうな深い赤髪から突き出た二本のねじれたツノ。人間とは異なる雰囲気、蠱惑こわく的な魔貌。
 悪魔には総じて美形が多い——なんて、お姉ちゃんが貸してくれた古い文献にはそう書かれていたけど。
 実際目にしてみると、その隔絶された美貌は目にした瞬間に鳥肌が立つレベルだ。
 事実、彼女と出会ってからというものの、胸が痛い……物理的な話ではなく、僕が、ミスラお姉ちゃんに抱く感情のように。


 絶世独立とはこういうことなのだろうか。ミトラお姉ちゃんも美人の類だけれど、アイオンに関しては、
 どう説明していいのかわからないけれど、きっと悪魔という種族に備わっている技能のようなもの、なのだろうか。



「くふっ。そんな情熱的にみられたら困ってしまうわ。——ねえ。

「え、あ……いや、あの、なんでもない、です」

「残念。でも時間はたっぷりあるから、ね?」



 なにが、    なのかはよくわからないけれど、赤くなる顔を背けるようにして、テーブルに広がった料理に視線を移した。
 未だに信じられない。こんな綺麗な人と、キスをしたなんて……。
 ミスラお姉ちゃんとすら、まだしたことがないのに。



「お腹空いているでしょう?    食べながら聞いてちょうだい」

「う、うん……」



 ぴかぴかに磨き抜かれたフォークをとって、とりあえず薄く分けられた肉に突き刺した。



「まず知っておいてほしいのは、序列が低い悪魔でも、この世界からみたら脅威になり得るということ。単体で一国を滅ぼすことなんて容易なのよ」


「そんなに強いの……?」



 嘘を言っている……ようには思えなかった。
 彼女ならやりかねない——そんな確信めいた予感がある。



「ええ。だから私がもし下級の悪魔だとしても、そうね……特級魔人と同程度の力はあるのかしら」

「特級……魔人?」



 知らない単語がでてきた。魔族であることはなんとなくニュアンスでわかるけれど。



「これから魔族と戦うなら知っておくべき知識ね。魔族にはね、個々の強さに応じて等級が与えられるの。第三級から二級、一級、そして特級。それら頂点が魔王」

「う、ん……強そうなのはわかったけど、イメージが沸かないかな。人間側と照らし合わせることってできる?」

「そうね……アムルタート、という男のことは知っているかしら?」

「あ、アムルタートっ?!    そ、そんなの、知らない人間なんていないってぐらい有名だよ!」

「……そ、そう。それはよかったわ」



 勢い余って大声をだしてしまった僕に、アイオンは苦笑した。
 恥ずかしくなった僕は、グラスに注がれていた紫色の液体を飲み干す。苦くて酸っぱくて、よくわからない味が喉に流れ込んでいった。



「勇者アムルタート。人類最強の戦士と謳われた彼でさえ、魔王の一柱すらたおすことはできなかった。彼を魔族の等級に当て嵌めるとするのなら、特級ね」

「アムルタート様が特級……じゃあ、アイオンは、アムルタート様と同等の強さを持つってこと?」

「そういう風に捉えてもらえれば結構よ。……シリル、アムルタートに憧れているのね」

「う、うん……よく英雄譚で読んでいたから。魔王をたおせなくても、八柱の魔王と交渉し争うことをやめさせたって」

「くふふっ、そうよ。一歩間違えれば人類が全滅するような綱渡りを、いいえ、そもそもそこに綱があったのかさえ微妙な賭けに彼は勝利した。まさしく彼は勇者だったのよ」



 まるで見てきたかのような口ぶりのアイオンは、思い出したかのように言った。



「そういえば、彼が犠牲になったことで稼げた休戦協定は、ことは知っていた?」

「……え?」



 ——勇者の犠牲により千年もの長い間、人類は安寧を手に入れていた。
 八柱の魔王が動かない——たったそれだけのことで、人類はおおきく発展した。だが、アイオンが言うにはそれも後四年の猶予だという。
 魔王の恐ろしさをしらない僕は、他人事のように頷くことしかできなかった。



「そうでしょうね。あんな田舎じゃ知る由もないわ。それとも、お偉いさん方が隠しているのか……どうでもいい話だけれどね。何がどうであれ、あなたがやることは何も変わらない」

「……っ」



 言われなくてもわかる。誰でもない僕が、魔王を斃せばいいだけだ。



「魔王を殺すのはあなたの役目。かの英雄アムルタートの成し得なかった偉業をあなたが背負い、果たすのよ」

「……僕が」



 できないとかやれないとか……そういう言葉は出てこなかった。
 やるしかない。やらなければいけない。やる——頭の中には、いかに魔族を滅殺できるかだけを描き始めていた。



「時間は残されていないわ。四年後に向けて、最低でも特級魔人は斃せるレベルに持っていきたいところね。軽く一級相当の魔人をひねれるようになるまでは、私が面倒をみてあげる」

「……ずっとそばには、いてくれないの?」

「くふっ。いいこと、シリル。魔族はね、あなた自身の手で殺さなければいけないの。そこに第三者が介入する余地はない……させてはいけないわ」



 なぜならこれは、あなたの復讐なのだから——。


 続けて彼女が言った言葉に、胸が詰まる思いを感じた。


 なにを、狼狽えているのだろうか、僕は。



「これは冥府魔道。血と錆に穢れ、屍を背負いどこまでも醜く足掻くあなたの……あなたにしか成せない物語」



 それは、決して報われない。
 それは、決して救われない。
 それは、決して希望なんて生温い感情の下にあるわけではない。



「遂げる力はすでに与えられている。全てはあなたの意志力で決まる。引き返すなら今だけれど、もし怖気付いたのなら——」

「——まさか。冗談でもやめるなんて言わないよ」



 覚悟は決めている。なら、後はやるのみだろ。



「……素敵な眼。舐めてしまいたい」



 悪魔の発言は聴かなかったことにして、僕は椅子から立ち上がった。
 やると決めたのら、すぐにやろう。アイオンがいったとおい、時間はない。四年なんて一瞬で過ぎ去ってしまう。



「アイオン、僕に教えてほしい。どうすればこの力を使えるのかを」

「くふふっ。ええ、もちろん。手取り足取り、しっかりとその身に染み込ませてあげるわ。
 ——でも、安心して。そばにいなくとも、私はずっとあなたを視ているから」


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