かぐや姫奇譚?ー求婚者がダメンズばかりなんですがー

青太郎

文字の大きさ
24 / 31

24 敢え無し(阿部無し)-あえなし-

しおりを挟む

「かぐや、大臣様が火鼠の皮衣を持ってこられたのじゃが…」

部屋にいると爺さんが呼びに来た。
手には美しい瑠璃色の箱を持っている。

大臣様?…火鼠の皮衣?

「…火鼠の皮衣ですか?」

「…そうじゃ。ワシには本物に見えるのじゃが…」

爺さんはまだ車持皇子の事を引きずっているのか自信なさげに言うと手に持つ箱を差し出す。

ソッと蓋を開けてみるとそこには美しい毛皮が入っていた。

色は紺青で毛先が金色に見え、とても清麗な雰囲気を持った毛皮である。


「…」

え、すごい神秘的な毛皮なんだけど、火鼠の皮衣は下界にないはずだよな…。

『…とりあえず、本物ではありませんが美しくはありますね』

偽物だったらしい。良かった。

しかし、あれだけ目利きに自信があると言っていたはずなのになぜ偽物なんかを持参したのだろうか…?

…ひょっとして何か隠された意味があるのもしれない。

『…普通に騙されたのではないですか』

俺が考え込んでいるとお姫様から冷めた声が聞こえた。


「…こんな見事な品をお持ち頂いたからのぉ…大臣様には屋敷へと上がって頂いておるのじゃが…」

爺さんはチラリとこちらを見る。

「そうですね、私もお話を伺ってみます」

「おぉ、そうしてくれるかのぉ。良かった良かった」

爺さんは安心したようにふにゃりと笑う。

爺さんのくせに…可愛いな、おい。

「…こんな美しい毛皮をご用意くださるなんてのぉ。…この際、もう本物だということで結婚を決めたらどうじゃ?」

やっぱり、可愛くはないかな…じいさんだもんな…。

「…それは他の方々にも失礼ではないですか…」

「…たしかに…そうじゃな…」

爺さんは少し残念そうな顔で納得する。

部屋にて待つ大臣の元へと向かうと、なにやらどっしりと得意顔で座っている。

横には数人の家臣を引き連れ、門の外にも何人か連れて来ているようだ。

「…お待たせしました」

御簾越しに声を掛けると大臣は満面の笑みで返事をする。

「本当にな。せっかく希望の品をお持ちしたというのにこれ程待たされるとは…」

「…」

「…」

俺も爺さんもうっかり沈黙してしまった。

あれ、こいつ性格大丈夫か?

思わず爺さんとアイコンタクトを取る。

「…そ、それは大変申し訳ないのぉ…」

「礼儀も何も知らぬ身分ゆえ仕方がないとはいえ、次回からは気をつけるようにせよ」

「…」

「…」

やばい、見るのと実際言われるのとではムカつき加減が全く違う。

コイツのモラハラっぷりは知っていたはずなのに体験してみたら思った以上にイラっとする。

「…だ、大臣様はこちらの火鼠の皮衣を手に入れられたそうで…」

爺さんがなんとか話を繋ごうと一生懸命だ。

「その通り。この毛皮はこの国どころか唐土にも無かったのをなんとか私の伝手を使い見つけ出したものだ」

ただでさえ偉そうな態度なのに更に胸を張って自慢げに語る。

「なぁに、私の手腕ならばこの通り幻と言われる物でさえ見つけることができるのですよ」

「…はは。…素晴らしいですね」

爺さんのひきつったお愛想にひどく満足気にしている。

その表情に何か裏があるようには思えない。

あれ?
こいつひょっとして、あえて偽物を持ってきたわけじゃないのか…?

俺がこれまでの認識に疑問を持っているとお姫様から少し怒ったような声が聞こえる。

『…だから、ずっとそんなに賢そうに見えないと言っていたではないですか…』

どうやら、お姫様の見解は正しかったようでコイツはそんなに賢くなさそうだ。

『燃やしなさい』

お姫様から簡潔な命が下された。

得意気な奴の顔からは含みなどは全く感じない。

『本物だと信じるあの者の前で、早く燃やして見せなさい』

お姫様はサクッと終わらせたがっているようだが俺自身も奴のやたら偉そうな態度が鼻に付くので含みがないなら早く終わらせたい…。

「お爺さん、火鼠の皮は火に入れても燃えないと聞きます。
…ぜひ、試してみたいですね」

「…」

爺さんは俺の発言に少し困った顔をする。

多分、何か嫌な予感でもしているのだろう。


随分鋭くなってきたな…。


「はっはっは。よろしいですよ」

奴は余裕の態度で話に割り込んできた。

「この皮衣は私自らが交渉してやっとの思いで手に入れた物なんですよ。
目利きの私がわざわざ手に入れた品なのですから間違いなどないです」

…すごい自信だな。

『ふっ』

お姫様から鼻で笑う声が聞こえたんだが…。

「どうぞ、気が済むのなら燃やしてみてください」

奴は俺の提案にノリノリで乗ってきた…。

爺さんも奴がそう言うのならと燃やすことに賛同する。


奴は賢いどころか多分アホだな…。

燃えない素材なんて俺でもアスベスト(石綿)くらいしか思いつかないのに…こんな柔らかくてフワフワなよく燃えそうな毛皮をそこまで信じられるなんて…。

いや、ひょっとして俺たちも知らないような新素材で作った毛皮なのか…?


部屋の中で燃やすことはできない為、庭に火を用意する事となった。

奴の連れてきた部下達が手伝ってくれた為、すぐに庭に火の用意は出来た。

『本来、火鼠とは真っ白い毛皮を持ち、火に入る事で体の不浄な物を燃やし尽くすのですが…』

…と、言うことは本物であれば燃やせば余分な汚れが落ち去り真っ白になると言うことだな。

家臣の1人がよく燃える火の中へ美しい紺青の皮衣を投げ入れる。

…。

…。


「「「…」」」


皆、無言だ。


…毛皮は一瞬で真っ白な…

…灰になった。


いや、そうだとは思ってたけど…。


あんなに自信満々だったのに紺青の皮衣はあえなく一瞬で燃えてしまった。

それを見つめる阿倍御主人も多分頭の中が真っ白になっているようだ。

「…」

「…偽物だとわかっていたら、わざわざ燃やさなくても良かったんですけどね…」

俺の言葉に阿倍御主人は茫然とした顔を向ける。

そう、燃やす前ならば返品も一考の余地があったのだが無くなってしまってはそれも出来ないだろう。

自慢の目利きが出来たなら汚名は残っても現品は残ったのに…。

結局は現品を失い汚名も被る事となった。


後で知った事だが、奴はこの皮衣に相当な金額を費やしていたそうだ。

しかも、俺との結婚話も既に決定のように話し回っていた為、訂正と共に偽物を持参した話まで知れ渡り優秀で目利きが出来るという信用も失った。

元々部下からも嫌われていた為、大臣という地位も失う事となった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...