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24 敢え無し(阿部無し)-あえなし-
しおりを挟む「かぐや、大臣様が火鼠の皮衣を持ってこられたのじゃが…」
部屋にいると爺さんが呼びに来た。
手には美しい瑠璃色の箱を持っている。
大臣様?…火鼠の皮衣?
「…火鼠の皮衣ですか?」
「…そうじゃ。ワシには本物に見えるのじゃが…」
爺さんはまだ車持皇子の事を引きずっているのか自信なさげに言うと手に持つ箱を差し出す。
ソッと蓋を開けてみるとそこには美しい毛皮が入っていた。
色は紺青で毛先が金色に見え、とても清麗な雰囲気を持った毛皮である。
「…」
え、すごい神秘的な毛皮なんだけど、火鼠の皮衣は下界にないはずだよな…。
『…とりあえず、本物ではありませんが美しくはありますね』
偽物だったらしい。良かった。
しかし、あれだけ目利きに自信があると言っていたはずなのになぜ偽物なんかを持参したのだろうか…?
…ひょっとして何か隠された意味があるのもしれない。
『…普通に騙されたのではないですか』
俺が考え込んでいるとお姫様から冷めた声が聞こえた。
「…こんな見事な品をお持ち頂いたからのぉ…大臣様には屋敷へと上がって頂いておるのじゃが…」
爺さんはチラリとこちらを見る。
「そうですね、私もお話を伺ってみます」
「おぉ、そうしてくれるかのぉ。良かった良かった」
爺さんは安心したようにふにゃりと笑う。
爺さんのくせに…可愛いな、おい。
「…こんな美しい毛皮をご用意くださるなんてのぉ。…この際、もう本物だということで結婚を決めたらどうじゃ?」
やっぱり、可愛くはないかな…じいさんだもんな…。
「…それは他の方々にも失礼ではないですか…」
「…たしかに…そうじゃな…」
爺さんは少し残念そうな顔で納得する。
部屋にて待つ大臣の元へと向かうと、なにやらどっしりと得意顔で座っている。
横には数人の家臣を引き連れ、門の外にも何人か連れて来ているようだ。
「…お待たせしました」
御簾越しに声を掛けると大臣は満面の笑みで返事をする。
「本当にな。せっかく希望の品をお持ちしたというのにこれ程待たされるとは…」
「…」
「…」
俺も爺さんもうっかり沈黙してしまった。
あれ、こいつ性格大丈夫か?
思わず爺さんとアイコンタクトを取る。
「…そ、それは大変申し訳ないのぉ…」
「礼儀も何も知らぬ身分ゆえ仕方がないとはいえ、次回からは気をつけるようにせよ」
「…」
「…」
やばい、見るのと実際言われるのとではムカつき加減が全く違う。
コイツのモラハラっぷりは知っていたはずなのに体験してみたら思った以上にイラっとする。
「…だ、大臣様はこちらの火鼠の皮衣を手に入れられたそうで…」
爺さんがなんとか話を繋ごうと一生懸命だ。
「その通り。この毛皮はこの国どころか唐土にも無かったのをなんとか私の伝手を使い見つけ出したものだ」
ただでさえ偉そうな態度なのに更に胸を張って自慢げに語る。
「なぁに、私の手腕ならばこの通り幻と言われる物でさえ見つけることができるのですよ」
「…はは。…素晴らしいですね」
爺さんのひきつったお愛想にひどく満足気にしている。
その表情に何か裏があるようには思えない。
あれ?
こいつひょっとして、あえて偽物を持ってきたわけじゃないのか…?
俺がこれまでの認識に疑問を持っているとお姫様から少し怒ったような声が聞こえる。
『…だから、ずっとそんなに賢そうに見えないと言っていたではないですか…』
どうやら、お姫様の見解は正しかったようでコイツはそんなに賢くなさそうだ。
『燃やしなさい』
お姫様から簡潔な命が下された。
得意気な奴の顔からは含みなどは全く感じない。
『本物だと信じるあの者の前で、早く燃やして見せなさい』
お姫様はサクッと終わらせたがっているようだが俺自身も奴のやたら偉そうな態度が鼻に付くので含みがないなら早く終わらせたい…。
「お爺さん、火鼠の皮は火に入れても燃えないと聞きます。
…ぜひ、試してみたいですね」
「…」
爺さんは俺の発言に少し困った顔をする。
多分、何か嫌な予感でもしているのだろう。
随分鋭くなってきたな…。
「はっはっは。よろしいですよ」
奴は余裕の態度で話に割り込んできた。
「この皮衣は私自らが交渉してやっとの思いで手に入れた物なんですよ。
目利きの私がわざわざ手に入れた品なのですから間違いなどないです」
…すごい自信だな。
『ふっ』
お姫様から鼻で笑う声が聞こえたんだが…。
「どうぞ、気が済むのなら燃やしてみてください」
奴は俺の提案にノリノリで乗ってきた…。
爺さんも奴がそう言うのならと燃やすことに賛同する。
奴は賢いどころか多分アホだな…。
燃えない素材なんて俺でもアスベスト(石綿)くらいしか思いつかないのに…こんな柔らかくてフワフワなよく燃えそうな毛皮をそこまで信じられるなんて…。
いや、ひょっとして俺たちも知らないような新素材で作った毛皮なのか…?
部屋の中で燃やすことはできない為、庭に火を用意する事となった。
奴の連れてきた部下達が手伝ってくれた為、すぐに庭に火の用意は出来た。
『本来、火鼠とは真っ白い毛皮を持ち、火に入る事で体の不浄な物を燃やし尽くすのですが…』
…と、言うことは本物であれば燃やせば余分な汚れが落ち去り真っ白になると言うことだな。
家臣の1人がよく燃える火の中へ美しい紺青の皮衣を投げ入れる。
…。
…。
「「「…」」」
皆、無言だ。
…毛皮は一瞬で真っ白な…
…灰になった。
いや、そうだとは思ってたけど…。
あんなに自信満々だったのに紺青の皮衣はあえなく一瞬で燃えてしまった。
それを見つめる阿倍御主人も多分頭の中が真っ白になっているようだ。
「…」
「…偽物だとわかっていたら、わざわざ燃やさなくても良かったんですけどね…」
俺の言葉に阿倍御主人は茫然とした顔を向ける。
そう、燃やす前ならば返品も一考の余地があったのだが無くなってしまってはそれも出来ないだろう。
自慢の目利きが出来たなら汚名は残っても現品は残ったのに…。
結局は現品を失い汚名も被る事となった。
後で知った事だが、奴はこの皮衣に相当な金額を費やしていたそうだ。
しかも、俺との結婚話も既に決定のように話し回っていた為、訂正と共に偽物を持参した話まで知れ渡り優秀で目利きが出来るという信用も失った。
元々部下からも嫌われていた為、大臣という地位も失う事となった。
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