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戦士とルミエール
しおりを挟むギルドの重厚な扉を押し開けると、中は活気に満ちていた。
冒険者たちのざわめき、クエストの依頼を読み上げる受付嬢の声、そしてどんな時でもカウンターで酒を飲む者たち——どれも懐かしく感じる。
「……変わらねぇな」
戦士は低く呟くと、奥へと足を進めた。
彼の目指すのは、このギルドの主——かつての仲間であり、今はギルドマスターを務める魔術師だった。
受付を通り、案内された執務室の扉を叩く。
「入って」
透き通るような声が扉の向こうから響いた。
戦士が扉を開くと、そこには長い金髪を揺らしながら書類に目を通すエルフの女性——ルミエールの姿があった。
「久しぶりだな」
戦士が言うと、ルミエールはゆっくりと顔を上げ、琥珀色の瞳で彼を見つめた。
「……まさか、あなたがここを訪ねてくるとはね。」
ルミエールは静かに微笑んだ。
彼女は変わらぬ美しさを保ちつつも、その表情にはかつてあった朗らかさはない。
「……無事だったか」
戦士の言葉に、ルミエールは肩をすくめる。
「この通りよ。ギルドマスターなんて柄じゃないと思っていたけれど、意外と向いていたみたい」
「はは……確かに、意外だな」
戦士は少しだけ笑い、ルミエールの向かいの椅子に腰を下ろした。
「さて……本題に入りましょう」
ルミエールは視線を鋭くし、戦士を見つめる。
「あなたがここに来たってことは、何か確かめたいことがあるんでしょう?」
戦士は目を伏せ、一呼吸置いた後、ゆっくりと口を開いた。
「……魔王が復活したって話、本当なのか?」
その言葉に、ルミエールの表情が僅かに曇る。
「……本当よ」
即答だった。
「……そうか」
戦士は低く呟き、拳を握りしめた。
「信じられねぇよ……俺たちがあんな犠牲を払って、ようやく討伐したはずなのに」
ルミエールは戦士の様子を見つめながら、ゆっくりと頷いた。
「私も最初は信じたくなかった。でも、確かな情報が入ってきたの。しかも——ただの魔王の復活とは思えない」
「……どういうことだ?」
「色々と動きが不自然なのよ」
ルミエールは静かに言った。
「魔王復活の報を受けてからの魔物の動きが早すぎるわ…」
そう、今までは魔王が復活して魔物達の脅威が高まるまでにはそれなりの時間がかかっていたのだ。
魔物達が力を蓄えるのと同じように人間側もその間に脅威に対抗するべく対策を行なってきた。
…そう、それこそ、“聖女”のように産まれた時点から“聖女”として育つまでの時間が確保出来る程には時間があったのだ。
それなのに…今回は復活も早かったが、魔王が脅威となるまでの時間も早い。
以前なら、魔物の増加や色々な異変が各地から報告され始め、徐々に魔王の復活が知れ渡っていく。
…それが、今回は魔王復活の噂が出る前の段階で既に魔物からの襲撃を受ける事となった。
これは、今までの事を鑑みれば異常な事態だ。
「…それに、この国の上層部は何かを隠しているように思える。…今回の魔物達の動きを知っていたかのように早い段階で禁忌な筈の召喚魔法まで使っているし…」
「…は?」
「…アイツら過去に禁止された筈の召喚魔法で希少スキル持ちを召喚したの…」
「…なんだってそんな…」
「…まるで、今から今までのように勇者になれそうな者達を育てても間に合わない事を“知っていた”かのようね」
「…なるほどな」
「…でも、その割に実際に召喚されたのはまだ若い者達ばかりで…戦力になんてならないと思うわ。……まったく、この国は何を考えているのか…」
「それに……召喚された“勇者”たちへの対応もなんだかおかしい気がするの…」
「“勇者”、か……」
戦士は眉をひそめた。
「……俺も、真相を確かめるべきだろうな。あの時、一緒に戦った仲間として」
ルミエールは微かに笑った。
「なら、協力する?」
戦士は少しの間考え、やがて苦笑した。
「酒はあるか?」
「あなた。もう飲まなくなったんじゃなかった?」
「今日は特別だ」
ルミエールは微かに笑い、机の引き出しから酒瓶を取り出した。
「なら、一杯付き合うわ。
「……ああ」
かつての戦友たちは、静かに酒を酌み交わしながら、再び訪れた戦いの予感を感じ取っていた
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