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連載
騒がしい始まり⑯
体勢を整えた黒山羊さんは、前脚で石畳を蹴る。やる気満々やんっ。この黒山羊さん、さっきまでいなかったよね? ボスザさん達が騎乗していた山羊はみんな白い毛並みやもん。つまり、後から来たんやろ? この短時間の間に何があったの? あっ、ノワールの手綱を握っていた警備の方が、干し柿のようにぶら下がったまま、目を回してる。それでも手綱を外さない、すごい根性っ。
ノワールはぶるぶる言いながら、迎え立つみたいに、こちらも前脚で石畳を蹴る。
「ダメよノワールッ」
「イスウィットッ、やめんかっ」
? えっ、なんで、ザイーム殿下が? あっ、もしかして、ザイーム殿下の騎乗する山羊さん?
いかん、このまま再びぶつかったら、向こうの黒山羊さんが無事に済まない気がするっ。そうなれば、色々問題がっ。
「ビアンカッ、ルージュッ、止めてっ」
『大丈夫なのですよ。子供のケンカなのです』
『ノワールなら負けないわよ。あの若い山羊が癇癪起こしているだけよ』
「ノワールが勝ったら勝ったで問題なんよっ」
うちのノワール、魔法馬の上位種である、戦車馬であるのをお忘れっ。騎士の中隊では相手にならないし、色々問題のゴブリンの巣の中規模サイズだって、冷蔵庫ダンジョンのニ十匹以内なら蛇部屋だって単独で淘汰出来るのにっ。
あの黒山羊さんのレベルは分からないが、とてもノワールとどっこいどっこいって感じではない。ノワールが本気を出せば、向こうまで吹き飛ばされて、壁にめり込んでしまうっ。
「あの黒山羊さんにケガがあったらすっごい問題なんよっ、止めてっ」
私が必死に言う。
『止めない方が良いと思うのですが、分かったのです。ノワール、止めるのです。ユイに迷惑かけては駄目なのです』
「ぶるぶるっ」
ノワールや、なんや、めっちゃ不満そうやね。それでもしぶしぶ止まってくれた。干し柿と化した警備の方は、他の人達が回収している。
で、黒山羊さんは?
『止まりなさい』
ルージュが黒い触手で、締め上げている。ちょっとちょっとルージュさんっ、手荒すぎないっ。
「メェ~ッ、メェ~ッ」
おっ、すごい黒山羊さんっ、明らかに格上のルージュに向かって足掻いている。微妙に体ごと持ち上げているのか、足をバタバタさせているのが、なにやらかわいか。ルージュは静かに黒山羊さんの顔をのぞき込む。赤い目を細め、
『止まりなさい』
と、再び言うと、途端に頭に血が昇っていた黒山羊の顔色が変わる。急に、きゃいん、と言わんばかりの顔になる。
「メェッ、メェ~ッ」
ルージュが黒い触手を緩めると、黒山羊さんは藻掻いて逃れる。そしてザイーム殿下の脇の下に頭を突っ込んでいる。立派な角があるから大変そう。お尻がぷりぷりや。
「まったく、お前はなぜそう短気なのだ。お前の父は、いつでも冷静沈着であったぞ」
ザイーム殿下が呆れている。
「メェッメェ~ッ」
黒山羊さんは、だってだって~、みたいな感じだ。
ケガは無さそうや、まあ、それはいいとして。
「ザイーム殿下、騒ぎを起こしてしまい申し訳ありません」
私はザイーム殿下に謝罪。
「いえ、おそらくこちらにも非があるはず。どうか、お気になさらず」
「しかし、警備の方が」
目を回したし。
「彼らは職務です。お気になさらずに。さ、宿に参りましょう。少し移動して頂きますので、どうぞ馬車に。我々も騎乗しますので」
先程のノワールと黒山羊さんのゴツンで、既に周りは動揺が走っているし、ダラダラ長居しない方がいいかな。
後で、ノワールから話を聞かんとね。こんなトラブル初めてや。基本的にノワールは食事と戦闘関連以外はおとなしいのに。ちらっ、と見るとノワールはホークさんに甘えるように頭を寄せている。ホークさんはちょっとよしよししてから、馬車をノワールに繋ぐ。
ホークさんはテオ君と御者台に乗り、私達は馬車に乗り込み、黒山羊さんに騎乗したザイーム殿下先頭にして移動。
先程はゆっくり風景を見ていたが、そんな余裕もなく。
「すみませんユイさん、騒ぎになって」
ミゲル君が申し訳ない顔で謝ってくる。
「いやいや、ミゲル君のせいやなかろうもん。でも、あの人とは面識はないんよね?」
「はい。思い出せません。向こうが覚えているのなら、何処かであっているかも知れませんけど」
ミゲル君がうんうん唸る。
「本当にすみません、分かりません」
「なら、よかよ。その程度の仲ってことやろうし。向こうが一方的にミゲル君を知っていただけかも知れんしね」
白夜が締め上げたあの青年。確か、ミゲル君のご実家が営む仕立て屋さん「リソーナ」の名前を挙げた。もしかして、その関係かも知れない。ただ、ミゲル君は短期間仕立て屋さんの見習いをしただけで、表に出ることはなかったって。
本当に、どちら様やろう。
確認する手段はあるが、これ以上の騒ぎにしたくない。
既に結構な騒ぎになってしまったしね。
馬車はゆっくり移動して、十分程で到着する。
「宿やないやん、お屋敷やん」
と、晃太が呟く。
馬車から降りると、ユリアレーナでお借りたゲストハウスに引けを取らない、立派なお屋敷が視界に飛び込んで来る。
「あ、俺達、別の宿をっ」
自然と付いてきたファングさんが慌てている。
「そんな面倒くさい事せんでいいやないですか、さ、行きましょう」
「いや、敷居がっ」
「いいやないですか。部屋一杯ありそうやし」
なんだか、ユリアレーナでも似たようなやり取りしたなあ。
ノワールはぶるぶる言いながら、迎え立つみたいに、こちらも前脚で石畳を蹴る。
「ダメよノワールッ」
「イスウィットッ、やめんかっ」
? えっ、なんで、ザイーム殿下が? あっ、もしかして、ザイーム殿下の騎乗する山羊さん?
いかん、このまま再びぶつかったら、向こうの黒山羊さんが無事に済まない気がするっ。そうなれば、色々問題がっ。
「ビアンカッ、ルージュッ、止めてっ」
『大丈夫なのですよ。子供のケンカなのです』
『ノワールなら負けないわよ。あの若い山羊が癇癪起こしているだけよ』
「ノワールが勝ったら勝ったで問題なんよっ」
うちのノワール、魔法馬の上位種である、戦車馬であるのをお忘れっ。騎士の中隊では相手にならないし、色々問題のゴブリンの巣の中規模サイズだって、冷蔵庫ダンジョンのニ十匹以内なら蛇部屋だって単独で淘汰出来るのにっ。
あの黒山羊さんのレベルは分からないが、とてもノワールとどっこいどっこいって感じではない。ノワールが本気を出せば、向こうまで吹き飛ばされて、壁にめり込んでしまうっ。
「あの黒山羊さんにケガがあったらすっごい問題なんよっ、止めてっ」
私が必死に言う。
『止めない方が良いと思うのですが、分かったのです。ノワール、止めるのです。ユイに迷惑かけては駄目なのです』
「ぶるぶるっ」
ノワールや、なんや、めっちゃ不満そうやね。それでもしぶしぶ止まってくれた。干し柿と化した警備の方は、他の人達が回収している。
で、黒山羊さんは?
『止まりなさい』
ルージュが黒い触手で、締め上げている。ちょっとちょっとルージュさんっ、手荒すぎないっ。
「メェ~ッ、メェ~ッ」
おっ、すごい黒山羊さんっ、明らかに格上のルージュに向かって足掻いている。微妙に体ごと持ち上げているのか、足をバタバタさせているのが、なにやらかわいか。ルージュは静かに黒山羊さんの顔をのぞき込む。赤い目を細め、
『止まりなさい』
と、再び言うと、途端に頭に血が昇っていた黒山羊の顔色が変わる。急に、きゃいん、と言わんばかりの顔になる。
「メェッ、メェ~ッ」
ルージュが黒い触手を緩めると、黒山羊さんは藻掻いて逃れる。そしてザイーム殿下の脇の下に頭を突っ込んでいる。立派な角があるから大変そう。お尻がぷりぷりや。
「まったく、お前はなぜそう短気なのだ。お前の父は、いつでも冷静沈着であったぞ」
ザイーム殿下が呆れている。
「メェッメェ~ッ」
黒山羊さんは、だってだって~、みたいな感じだ。
ケガは無さそうや、まあ、それはいいとして。
「ザイーム殿下、騒ぎを起こしてしまい申し訳ありません」
私はザイーム殿下に謝罪。
「いえ、おそらくこちらにも非があるはず。どうか、お気になさらず」
「しかし、警備の方が」
目を回したし。
「彼らは職務です。お気になさらずに。さ、宿に参りましょう。少し移動して頂きますので、どうぞ馬車に。我々も騎乗しますので」
先程のノワールと黒山羊さんのゴツンで、既に周りは動揺が走っているし、ダラダラ長居しない方がいいかな。
後で、ノワールから話を聞かんとね。こんなトラブル初めてや。基本的にノワールは食事と戦闘関連以外はおとなしいのに。ちらっ、と見るとノワールはホークさんに甘えるように頭を寄せている。ホークさんはちょっとよしよししてから、馬車をノワールに繋ぐ。
ホークさんはテオ君と御者台に乗り、私達は馬車に乗り込み、黒山羊さんに騎乗したザイーム殿下先頭にして移動。
先程はゆっくり風景を見ていたが、そんな余裕もなく。
「すみませんユイさん、騒ぎになって」
ミゲル君が申し訳ない顔で謝ってくる。
「いやいや、ミゲル君のせいやなかろうもん。でも、あの人とは面識はないんよね?」
「はい。思い出せません。向こうが覚えているのなら、何処かであっているかも知れませんけど」
ミゲル君がうんうん唸る。
「本当にすみません、分かりません」
「なら、よかよ。その程度の仲ってことやろうし。向こうが一方的にミゲル君を知っていただけかも知れんしね」
白夜が締め上げたあの青年。確か、ミゲル君のご実家が営む仕立て屋さん「リソーナ」の名前を挙げた。もしかして、その関係かも知れない。ただ、ミゲル君は短期間仕立て屋さんの見習いをしただけで、表に出ることはなかったって。
本当に、どちら様やろう。
確認する手段はあるが、これ以上の騒ぎにしたくない。
既に結構な騒ぎになってしまったしね。
馬車はゆっくり移動して、十分程で到着する。
「宿やないやん、お屋敷やん」
と、晃太が呟く。
馬車から降りると、ユリアレーナでお借りたゲストハウスに引けを取らない、立派なお屋敷が視界に飛び込んで来る。
「あ、俺達、別の宿をっ」
自然と付いてきたファングさんが慌てている。
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