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連載
ファンタジー的な②
ゲストハウスを出て、いざギルドに向かうと、オスヴァルトさんがわざわざ付いてくれた。どうやら、私に話があったようだ。
「実はご意見番から、少し話の場を設けていただけないかと」
「はい、大丈夫です。私も一度ご挨拶したかったので」
良かった。後見人になってくれたし、マーファのスラム街騒動で名前も出したし、お礼を言いたかった。お忙しいから、どうしようか悩んでいたから、私にとっては渡りに船だ。
「では、明後日の17時にゲストハウスで」
「はい、お待ちしてます」
オスヴァルトさんともう一人若い赤騎士団の人が同行し、ギルドに問題なく到着。
まず、担架を商人ギルドに返却。対応してくれたリーバクさんが、凄まじい顔をする。ホークさんとエマちゃんが回復していることに驚いているようだ。私はそのまま、例の依頼書の話をすると、すぐに対応してくれた。
せっかくの虎の威を借る狐作戦が。
書類を出すまでの間に、冒険者ギルドで手続きをする。一旦、私と鷹の目の皆さんの冒険者ギルドカードを預けて、作業後、魔力を流す。父から、少しだけと釘を刺されていたので、少しだけ。だけと、流した途端に、私は目眩を起こしてしまう。なんとか踏ん張ったが、ビアンカとルージュが気がついた様で、カウンターにいた私に勢いよく来たので、ちょっと騒動になる。
自分ではずいぶんいいと思ったけど、やっぱりまだ中毒から離脱してないんやね。異世界への扉がいまだに使えないから、ちょっと不便を感じはじめている。卵が今日の朝御飯の味噌汁で底をついた。まだ、晃太や母のアイテムボックスやルームの冷蔵庫には食材はまだあるが、いつまで使えないのがわからないから不安だ。野菜とかなら、こちらで買ってもいいけど、やはり米や卵、調味料は異世界への扉で調達したい。神様へのお供えもあるし。
どうしたものか?
「ユイさん、大丈夫?」
「ん? 大丈夫よ、エマちゃん」
ギルドの椅子で腰かけて、リーバクさんを待ちながら悩む。
待ちながら、武装一式が揃う店を教えてもらう。
ギルド近くにある『ワーグ商店』が、品揃えと品質が一番だと。
よし、ギルドの後はそのワーグ商店やね。
「にゃあ、にゃあ」
ヒスイが私の足に、自分の前足をかける。かわいかね、はい、かいかい。
元気は触りたそうな顔をしている冒険者の人に向かって、後ろ足で立っているが、ビアンカがリードを咥えてびくともしない。ルリとクリスはビアンカにぴったり張り付き。コハクは大人しくルージュの側に。
『ユイ』
『妙な奴が来るわ』
ヒスイをかいかいしていると、ビアンカとルージュが警告してきた。
「え? どんな感じ?」
『なんだか、敵意や害意はないのですが』
『傲慢、かしら? 碌な奴ではないわ。でも、大丈夫よ、問題なく止められるわ』
「だから何を? 息の根?」
思わずポロリ。途端に周りの空気が凍りつく。しまった。
「ユイさん、どうしました?」
ホークさんが確認するように聞いてくる。
「いや、あの。変な人が来るって、ビアンカとルージュが」
「ミズサワ殿、詳しく分かりますか?」
オスヴァルトさんまで聞いてくるが、私はよく分からない。
「ねえ、ビアンカ、ルージュ、来るのは何人?」
『うーん、妙な奴は一匹なのですが』
『他にもいるけど、そいつらは混乱と戸惑いと恐怖ね。めんどくさそうなのは一匹だけよ』
「そう」
私はそのまま、オスヴァルトさんに説明する。
「そうですか。あらかたの予想は付きました」
「え?」
「アルティーナ帝国の大使ですよ。実は貴女に接見したいとゲストハウスにおしかけようとして、我々が防いでいました」
なんじゃそりゃ。
晃太を振り返る。
「姉ちゃん、体調悪かったから全部断ったんよ。心配させるだけやと思って黙っといたんよ。どうせ、目的は分かっとるし」
ビアンカとルージュ、5匹の仔達やね。
「ご心配なく、我々がお守りしますので」
おお、オスヴァルトさん、格好いい。だけど、ここはオスヴァルトさんに任せた方が良さそう。よく分からないけど、国際問題とかにならないか心配だしね。
「よろしくお願いします」
私はがっちり、ホークさんとチュアンさんにガードされ、その前にオスヴァルトさん。晃太、ビアンカとルージュ、仔達には若い赤騎士団さんと、マデリーンさんが張り付く。
『ユイ、来るのです』
『いいの? 撃退しなくて?』
「やめて、大惨事になるけん。唸るだけよ、頼むけん、唸るだけよ。それもちょっとよ」
私は釘を刺す。
ギルド内は、私達の話の内容を察知して、退避するか、ギルドのお偉いさんを呼びに行っているようだ。
そうこうしていると、ギルドの扉が乱暴に開け放たれる。
そこには、過度に装飾されたギラギラスーツを着た若い男性。うわあ、典型的な嫌な奴の雰囲気が溢れでている。
「やっとゲストハウスから出てきたかッ。この私がわざわざ足を運んでやったのに、無礼にも断りおってッ。身分をわきまえない下賤がッ。さっさとその従魔を献上しろッ、何をしているッ、私はアルティーナ帝国7大公爵家筆頭マモーナリ家の大使であるぞッ。全員、膝を突かぬかッ」
カチンッ。
なんやねん、こいつ、いきなり。
後ろに付いている人達の焦った顔、まさに顔面蒼白だよ。
「何をしておるッ、さっさとその従魔を捕らえよッ。我が家が望んでいるのだ、差し出すのが道理であるッ。我が家がそれを飼ってやると言っているのだッ。聞こえぬのかッ」
カチン、カチン、カチーン。
私は武器用のフライパンを出しそうになる。
こいつ、典型的な金持ち、権力持ちの嫌な奴だ。自分の要求は、どんな理不尽なことでも、通って当たり前と信じて疑わない。
ルージュの言うように、まさに傲慢。
『ユイ、腕を食いちぎるのです』
『私は足ね』
今回ばかりは、思わず甘噛みくらいいいよ、と言いたくなるが、堪える。
「おやめ頂けますか大使殿」
オスヴァルトさんが前に出る。ここはオスヴァルトさんに任せよう。私はビアンカとルージュに、小さく首を横に振って、だめの意思を伝える。
ねえね、ねえね。
ん?
「私の前に立つ無礼者がッ」
「若様、お止めください」
後ろにいたお付きの人が、恐る恐る止めに入る。
「ええぃッ、お前も無礼なッ、身分を弁えよッ」
お付きの人は突き飛ばされて尻餅をつく。
大丈夫、あのお付きの人、そこそこのお歳の人だけど、骨、大丈夫? 慌てて別のお付きの人が助け起こしている。
「大使殿、私はユリアレーナ王国赤騎士団所属、オスヴァルト・ウルガー准将でございます。このご婦人に関しては、ユリアレーナ王室より通達があったはず」
丁寧だけど、棘のある話し方だなあ。
「ふんっ、それがなんだ? 先代皇帝の慈悲で生き延びてきた者が、私に指図などするとはなんとおこがましい。この国は………」
「若様ッ、なりませんッ」
突き飛ばされたお歳の男性が、必死に腕にすがりつく。もう一人もだ。
「何をするッ、無礼者ッ」
あーあーあーあー。
しっちゃかめっちゃか。
ギラギラスーツの大使は手のつけれない子供のようにわめき散らし、暴言を吐き、暴れる。
あれだ、自分は大使だ、公爵だ、アルティーナ帝国に楯突くのか、膝をつけだ、従魔を渡せだ、ユリアレーナの分際で指図するな、キリがない。私は怒りを通り越えて、あきれ返る。
大使の仕事ってよく分からんけど、国同士が円滑に、仲良く出きるように橋渡しをする人じゃないの? その国の代表者みたいな人が、こんなのが大使なら、アルティーナ帝国の品位が問われるんやない? よくもまあ、こんなのを大使にしたね。
ねえね、ねえね。
ん?
さっきから、かわいい声が何処からか。
「そこのテイマー女ッ」
は? 私?
「最後の慈悲だっ、我が祖父の愛人に召し抱えてもらうよう取り計らってやるッ。従魔を差し出せッ」
「嫌よ」
私は反射的に返事をする。
ギラギラスーツの大使の顔が、真っ赤に染まる。
「この無礼者ーッ」
ギラギラスーツの大使は、腰のこれまた派手な装飾の剣を引き抜く。
が。
『ふんっ』
ビアンカの鼻息が炸裂。剣は真ん中から、ぱきん、と折れる。ふふん、うちのビアンカの鼻息は、半端ないんよ。
ぱきん、と折れた剣を、わなわな震えながら見るギラギラスーツの大使。
「大使殿。ここが何処だかお分かりですか? ユリアレーナ王国、ギルド本部でございますよ」
オスヴァルトさんの口調は変わらないが、周りの傍観者は、あーあー、やっちゃったよ、みたいな顔だ。
「抜刀されましたな、アルティーナ帝国大使殿」
そこに、2人の人物が現れる。1人はいかにもできる会社役員みたいな男性と、もう1人は大柄の獣人さん。今までみた中で最高に大柄の人だ。丸耳がついててかわいか。
「ご自分の立場、ご理解を?」
会社役員さんは眼鏡を押し上げて聞く。
「ふんッ、その女が無礼だから、不敬として斬り捨てるのだッ、邪魔をするでないッ」
「ここはギルドでございます。その様なこと、我らが許すとでも? そもそも大使殿、こちらに来られると報せがございませんでしたが?」
丸耳の獣人さんも、静かに言い放つ。
それから再び始まる舌戦。
まあ、明らかに向こうが非常識なことをしているようだ。めんどくさ、早く帰りたか。
ねえね、ねえね。
ん? ん? ん?
私はキョロキョロ。
ねえね、ゆい、ねえね。
ん? ん? ん?
私の視線の先には、ヒスイが。え、まさか。
「ヒ、ヒスイちゃん?」
私は震える手で手招きする。
「わんもあぷりーず」
『ねえね、ゆい、ねえねっ』
ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ、やっぱりーッ。
ヒスイの声やったーッ。
衝撃や、にゃんにゃん言ってたヒスイがーッ。ねえね言ったよ、衝撃よ、感動よ。あははははははははん、嬉しかあ、かわいかあ。
「ヒスイちゃん、もっかい言ってみてん」
私は唇を尖らせながら、わんもあぷりーず。
『ゆいねえねっ』
「そうよヒスイちゃんっ、ねえねよーっ」
私は人目を憚らずにヒスイを抱き締める。
ギラギラスーツの大使と会社役員と丸耳の獣人さんの舌戦なんて、もうどうでもいい。傍観者さん達は、私を見る目が、危ない奴になってるが、構わない。
「ユイさん。どうしたの?」
エマちゃんがいろんな心配の表情を浮かべている。
「あのね、ヒスイが『ゆいねえね』って言ったんよ」
「え? 声?」
「そうよー」
『ねえね、ねえね』
「なんね、ヒスイちゃん、ねえねよー」
たまらん。頬擦り。頬擦り。
「ヒスイ、わいは?」
晃太が自分を指し示す。
『…………にいに』
晃太が唇尖らせプルプルプルプル。
「…………………………姉ちゃん、お祝いや」
「あ、そうやね。ヒスイのおしゃべり記念や、鷹の目の皆さんの歓迎会もしとらんかったね。今日は盛大にしよう。うん、今日は好きなだけ食べてよかけんねー」
頬擦り。
すると、ギラギラスーツと向き合っていたビアンカとルージュがこちらを向く。
『私達も食べていいのですか?』
『ユイ。エビは?』
「今日だけ、よかよー。ヒスイのおしゃべり記念や、私の気が変わらんうちに」
「ふざけるなーッ」
ギラギラスーツの大使が吠える。
「私を無視して、タダで済むと思うなよッ。我がアルティーナ帝国のッ、ぐふうっ」
吠えるギラギラスーツの大使は、とうとうお付きの人が口を塞ぐ。それでも、暴れるギラギラスーツの大使。
「無礼者がっ、従魔だけで済まされたもの、を……………」
ギラギラスーツの大使の言葉が小さくなっていく。
『私のかわいい娘のおしゃべり記念を邪魔する気? 覚悟できているんでしょうね』
ルージュが火炎姫(フレアジャンヌ)になり、低い唸り声をあげている。
『そうなのです。さっきから黙って聞いていたのですが、私達はお前なんかに従わないのです。ユイは噛みつくなって言ったのですが、これ以上言うなら容赦しないのですよ』
ビアンカは風乙女(シルフィリア)で、ジリジリとギラギラスーツの大使に迫る。
私の位置から見えないが、恐ろしい形相で迫っているはず。あれだけ勢いの良かったギラギラスーツの大使が、ガタガタ震えている。
『ユイの気が変わったらどうしてくれるのですかッ』
『命惜しければ、さっさと消えなさいッ』
ビアンカとルージュの咆哮が響き、とうとう大使一行は、ギルドから逃げ出していった。
『ふんなのです』
『情けないわね、ちょっと吠えただけで』
逃げたあとを見ながら、ふと、思う。
国際問題に、ならないかな?
「実はご意見番から、少し話の場を設けていただけないかと」
「はい、大丈夫です。私も一度ご挨拶したかったので」
良かった。後見人になってくれたし、マーファのスラム街騒動で名前も出したし、お礼を言いたかった。お忙しいから、どうしようか悩んでいたから、私にとっては渡りに船だ。
「では、明後日の17時にゲストハウスで」
「はい、お待ちしてます」
オスヴァルトさんともう一人若い赤騎士団の人が同行し、ギルドに問題なく到着。
まず、担架を商人ギルドに返却。対応してくれたリーバクさんが、凄まじい顔をする。ホークさんとエマちゃんが回復していることに驚いているようだ。私はそのまま、例の依頼書の話をすると、すぐに対応してくれた。
せっかくの虎の威を借る狐作戦が。
書類を出すまでの間に、冒険者ギルドで手続きをする。一旦、私と鷹の目の皆さんの冒険者ギルドカードを預けて、作業後、魔力を流す。父から、少しだけと釘を刺されていたので、少しだけ。だけと、流した途端に、私は目眩を起こしてしまう。なんとか踏ん張ったが、ビアンカとルージュが気がついた様で、カウンターにいた私に勢いよく来たので、ちょっと騒動になる。
自分ではずいぶんいいと思ったけど、やっぱりまだ中毒から離脱してないんやね。異世界への扉がいまだに使えないから、ちょっと不便を感じはじめている。卵が今日の朝御飯の味噌汁で底をついた。まだ、晃太や母のアイテムボックスやルームの冷蔵庫には食材はまだあるが、いつまで使えないのがわからないから不安だ。野菜とかなら、こちらで買ってもいいけど、やはり米や卵、調味料は異世界への扉で調達したい。神様へのお供えもあるし。
どうしたものか?
「ユイさん、大丈夫?」
「ん? 大丈夫よ、エマちゃん」
ギルドの椅子で腰かけて、リーバクさんを待ちながら悩む。
待ちながら、武装一式が揃う店を教えてもらう。
ギルド近くにある『ワーグ商店』が、品揃えと品質が一番だと。
よし、ギルドの後はそのワーグ商店やね。
「にゃあ、にゃあ」
ヒスイが私の足に、自分の前足をかける。かわいかね、はい、かいかい。
元気は触りたそうな顔をしている冒険者の人に向かって、後ろ足で立っているが、ビアンカがリードを咥えてびくともしない。ルリとクリスはビアンカにぴったり張り付き。コハクは大人しくルージュの側に。
『ユイ』
『妙な奴が来るわ』
ヒスイをかいかいしていると、ビアンカとルージュが警告してきた。
「え? どんな感じ?」
『なんだか、敵意や害意はないのですが』
『傲慢、かしら? 碌な奴ではないわ。でも、大丈夫よ、問題なく止められるわ』
「だから何を? 息の根?」
思わずポロリ。途端に周りの空気が凍りつく。しまった。
「ユイさん、どうしました?」
ホークさんが確認するように聞いてくる。
「いや、あの。変な人が来るって、ビアンカとルージュが」
「ミズサワ殿、詳しく分かりますか?」
オスヴァルトさんまで聞いてくるが、私はよく分からない。
「ねえ、ビアンカ、ルージュ、来るのは何人?」
『うーん、妙な奴は一匹なのですが』
『他にもいるけど、そいつらは混乱と戸惑いと恐怖ね。めんどくさそうなのは一匹だけよ』
「そう」
私はそのまま、オスヴァルトさんに説明する。
「そうですか。あらかたの予想は付きました」
「え?」
「アルティーナ帝国の大使ですよ。実は貴女に接見したいとゲストハウスにおしかけようとして、我々が防いでいました」
なんじゃそりゃ。
晃太を振り返る。
「姉ちゃん、体調悪かったから全部断ったんよ。心配させるだけやと思って黙っといたんよ。どうせ、目的は分かっとるし」
ビアンカとルージュ、5匹の仔達やね。
「ご心配なく、我々がお守りしますので」
おお、オスヴァルトさん、格好いい。だけど、ここはオスヴァルトさんに任せた方が良さそう。よく分からないけど、国際問題とかにならないか心配だしね。
「よろしくお願いします」
私はがっちり、ホークさんとチュアンさんにガードされ、その前にオスヴァルトさん。晃太、ビアンカとルージュ、仔達には若い赤騎士団さんと、マデリーンさんが張り付く。
『ユイ、来るのです』
『いいの? 撃退しなくて?』
「やめて、大惨事になるけん。唸るだけよ、頼むけん、唸るだけよ。それもちょっとよ」
私は釘を刺す。
ギルド内は、私達の話の内容を察知して、退避するか、ギルドのお偉いさんを呼びに行っているようだ。
そうこうしていると、ギルドの扉が乱暴に開け放たれる。
そこには、過度に装飾されたギラギラスーツを着た若い男性。うわあ、典型的な嫌な奴の雰囲気が溢れでている。
「やっとゲストハウスから出てきたかッ。この私がわざわざ足を運んでやったのに、無礼にも断りおってッ。身分をわきまえない下賤がッ。さっさとその従魔を献上しろッ、何をしているッ、私はアルティーナ帝国7大公爵家筆頭マモーナリ家の大使であるぞッ。全員、膝を突かぬかッ」
カチンッ。
なんやねん、こいつ、いきなり。
後ろに付いている人達の焦った顔、まさに顔面蒼白だよ。
「何をしておるッ、さっさとその従魔を捕らえよッ。我が家が望んでいるのだ、差し出すのが道理であるッ。我が家がそれを飼ってやると言っているのだッ。聞こえぬのかッ」
カチン、カチン、カチーン。
私は武器用のフライパンを出しそうになる。
こいつ、典型的な金持ち、権力持ちの嫌な奴だ。自分の要求は、どんな理不尽なことでも、通って当たり前と信じて疑わない。
ルージュの言うように、まさに傲慢。
『ユイ、腕を食いちぎるのです』
『私は足ね』
今回ばかりは、思わず甘噛みくらいいいよ、と言いたくなるが、堪える。
「おやめ頂けますか大使殿」
オスヴァルトさんが前に出る。ここはオスヴァルトさんに任せよう。私はビアンカとルージュに、小さく首を横に振って、だめの意思を伝える。
ねえね、ねえね。
ん?
「私の前に立つ無礼者がッ」
「若様、お止めください」
後ろにいたお付きの人が、恐る恐る止めに入る。
「ええぃッ、お前も無礼なッ、身分を弁えよッ」
お付きの人は突き飛ばされて尻餅をつく。
大丈夫、あのお付きの人、そこそこのお歳の人だけど、骨、大丈夫? 慌てて別のお付きの人が助け起こしている。
「大使殿、私はユリアレーナ王国赤騎士団所属、オスヴァルト・ウルガー准将でございます。このご婦人に関しては、ユリアレーナ王室より通達があったはず」
丁寧だけど、棘のある話し方だなあ。
「ふんっ、それがなんだ? 先代皇帝の慈悲で生き延びてきた者が、私に指図などするとはなんとおこがましい。この国は………」
「若様ッ、なりませんッ」
突き飛ばされたお歳の男性が、必死に腕にすがりつく。もう一人もだ。
「何をするッ、無礼者ッ」
あーあーあーあー。
しっちゃかめっちゃか。
ギラギラスーツの大使は手のつけれない子供のようにわめき散らし、暴言を吐き、暴れる。
あれだ、自分は大使だ、公爵だ、アルティーナ帝国に楯突くのか、膝をつけだ、従魔を渡せだ、ユリアレーナの分際で指図するな、キリがない。私は怒りを通り越えて、あきれ返る。
大使の仕事ってよく分からんけど、国同士が円滑に、仲良く出きるように橋渡しをする人じゃないの? その国の代表者みたいな人が、こんなのが大使なら、アルティーナ帝国の品位が問われるんやない? よくもまあ、こんなのを大使にしたね。
ねえね、ねえね。
ん?
さっきから、かわいい声が何処からか。
「そこのテイマー女ッ」
は? 私?
「最後の慈悲だっ、我が祖父の愛人に召し抱えてもらうよう取り計らってやるッ。従魔を差し出せッ」
「嫌よ」
私は反射的に返事をする。
ギラギラスーツの大使の顔が、真っ赤に染まる。
「この無礼者ーッ」
ギラギラスーツの大使は、腰のこれまた派手な装飾の剣を引き抜く。
が。
『ふんっ』
ビアンカの鼻息が炸裂。剣は真ん中から、ぱきん、と折れる。ふふん、うちのビアンカの鼻息は、半端ないんよ。
ぱきん、と折れた剣を、わなわな震えながら見るギラギラスーツの大使。
「大使殿。ここが何処だかお分かりですか? ユリアレーナ王国、ギルド本部でございますよ」
オスヴァルトさんの口調は変わらないが、周りの傍観者は、あーあー、やっちゃったよ、みたいな顔だ。
「抜刀されましたな、アルティーナ帝国大使殿」
そこに、2人の人物が現れる。1人はいかにもできる会社役員みたいな男性と、もう1人は大柄の獣人さん。今までみた中で最高に大柄の人だ。丸耳がついててかわいか。
「ご自分の立場、ご理解を?」
会社役員さんは眼鏡を押し上げて聞く。
「ふんッ、その女が無礼だから、不敬として斬り捨てるのだッ、邪魔をするでないッ」
「ここはギルドでございます。その様なこと、我らが許すとでも? そもそも大使殿、こちらに来られると報せがございませんでしたが?」
丸耳の獣人さんも、静かに言い放つ。
それから再び始まる舌戦。
まあ、明らかに向こうが非常識なことをしているようだ。めんどくさ、早く帰りたか。
ねえね、ねえね。
ん? ん? ん?
私はキョロキョロ。
ねえね、ゆい、ねえね。
ん? ん? ん?
私の視線の先には、ヒスイが。え、まさか。
「ヒ、ヒスイちゃん?」
私は震える手で手招きする。
「わんもあぷりーず」
『ねえね、ゆい、ねえねっ』
ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ、やっぱりーッ。
ヒスイの声やったーッ。
衝撃や、にゃんにゃん言ってたヒスイがーッ。ねえね言ったよ、衝撃よ、感動よ。あははははははははん、嬉しかあ、かわいかあ。
「ヒスイちゃん、もっかい言ってみてん」
私は唇を尖らせながら、わんもあぷりーず。
『ゆいねえねっ』
「そうよヒスイちゃんっ、ねえねよーっ」
私は人目を憚らずにヒスイを抱き締める。
ギラギラスーツの大使と会社役員と丸耳の獣人さんの舌戦なんて、もうどうでもいい。傍観者さん達は、私を見る目が、危ない奴になってるが、構わない。
「ユイさん。どうしたの?」
エマちゃんがいろんな心配の表情を浮かべている。
「あのね、ヒスイが『ゆいねえね』って言ったんよ」
「え? 声?」
「そうよー」
『ねえね、ねえね』
「なんね、ヒスイちゃん、ねえねよー」
たまらん。頬擦り。頬擦り。
「ヒスイ、わいは?」
晃太が自分を指し示す。
『…………にいに』
晃太が唇尖らせプルプルプルプル。
「…………………………姉ちゃん、お祝いや」
「あ、そうやね。ヒスイのおしゃべり記念や、鷹の目の皆さんの歓迎会もしとらんかったね。今日は盛大にしよう。うん、今日は好きなだけ食べてよかけんねー」
頬擦り。
すると、ギラギラスーツと向き合っていたビアンカとルージュがこちらを向く。
『私達も食べていいのですか?』
『ユイ。エビは?』
「今日だけ、よかよー。ヒスイのおしゃべり記念や、私の気が変わらんうちに」
「ふざけるなーッ」
ギラギラスーツの大使が吠える。
「私を無視して、タダで済むと思うなよッ。我がアルティーナ帝国のッ、ぐふうっ」
吠えるギラギラスーツの大使は、とうとうお付きの人が口を塞ぐ。それでも、暴れるギラギラスーツの大使。
「無礼者がっ、従魔だけで済まされたもの、を……………」
ギラギラスーツの大使の言葉が小さくなっていく。
『私のかわいい娘のおしゃべり記念を邪魔する気? 覚悟できているんでしょうね』
ルージュが火炎姫(フレアジャンヌ)になり、低い唸り声をあげている。
『そうなのです。さっきから黙って聞いていたのですが、私達はお前なんかに従わないのです。ユイは噛みつくなって言ったのですが、これ以上言うなら容赦しないのですよ』
ビアンカは風乙女(シルフィリア)で、ジリジリとギラギラスーツの大使に迫る。
私の位置から見えないが、恐ろしい形相で迫っているはず。あれだけ勢いの良かったギラギラスーツの大使が、ガタガタ震えている。
『ユイの気が変わったらどうしてくれるのですかッ』
『命惜しければ、さっさと消えなさいッ』
ビアンカとルージュの咆哮が響き、とうとう大使一行は、ギルドから逃げ出していった。
『ふんなのです』
『情けないわね、ちょっと吠えただけで』
逃げたあとを見ながら、ふと、思う。
国際問題に、ならないかな?
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夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。