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連載
ファンタジー的な②
ゲストハウスを出て、いざギルドに向かうと、オスヴァルトさんがわざわざ付いてくれた。どうやら、私に話があったようだ。
「実はご意見番から、少し話の場を設けていただけないかと」
「はい、大丈夫です。私も一度ご挨拶したかったので」
良かった。後見人になってくれたし、マーファのスラム街騒動で名前も出したし、お礼を言いたかった。お忙しいから、どうしようか悩んでいたから、私にとっては渡りに船だ。
「では、明後日の17時にゲストハウスで」
「はい、お待ちしてます」
オスヴァルトさんともう一人若い赤騎士団の人が同行し、ギルドに問題なく到着。
まず、担架を商人ギルドに返却。対応してくれたリーバクさんが、凄まじい顔をする。ホークさんとエマちゃんが回復していることに驚いているようだ。私はそのまま、例の依頼書の話をすると、すぐに対応してくれた。
せっかくの虎の威を借る狐作戦が。
書類を出すまでの間に、冒険者ギルドで手続きをする。一旦、私と鷹の目の皆さんの冒険者ギルドカードを預けて、作業後、魔力を流す。父から、少しだけと釘を刺されていたので、少しだけ。だけと、流した途端に、私は目眩を起こしてしまう。なんとか踏ん張ったが、ビアンカとルージュが気がついた様で、カウンターにいた私に勢いよく来たので、ちょっと騒動になる。
自分ではずいぶんいいと思ったけど、やっぱりまだ中毒から離脱してないんやね。異世界への扉がいまだに使えないから、ちょっと不便を感じはじめている。卵が今日の朝御飯の味噌汁で底をついた。まだ、晃太や母のアイテムボックスやルームの冷蔵庫には食材はまだあるが、いつまで使えないのがわからないから不安だ。野菜とかなら、こちらで買ってもいいけど、やはり米や卵、調味料は異世界への扉で調達したい。神様へのお供えもあるし。
どうしたものか?
「ユイさん、大丈夫?」
「ん? 大丈夫よ、エマちゃん」
ギルドの椅子で腰かけて、リーバクさんを待ちながら悩む。
待ちながら、武装一式が揃う店を教えてもらう。
ギルド近くにある『ワーグ商店』が、品揃えと品質が一番だと。
よし、ギルドの後はそのワーグ商店やね。
「にゃあ、にゃあ」
ヒスイが私の足に、自分の前足をかける。かわいかね、はい、かいかい。
元気は触りたそうな顔をしている冒険者の人に向かって、後ろ足で立っているが、ビアンカがリードを咥えてびくともしない。ルリとクリスはビアンカにぴったり張り付き。コハクは大人しくルージュの側に。
『ユイ』
『妙な奴が来るわ』
ヒスイをかいかいしていると、ビアンカとルージュが警告してきた。
「え? どんな感じ?」
『なんだか、敵意や害意はないのですが』
『傲慢、かしら? 碌な奴ではないわ。でも、大丈夫よ、問題なく止められるわ』
「だから何を? 息の根?」
思わずポロリ。途端に周りの空気が凍りつく。しまった。
「ユイさん、どうしました?」
ホークさんが確認するように聞いてくる。
「いや、あの。変な人が来るって、ビアンカとルージュが」
「ミズサワ殿、詳しく分かりますか?」
オスヴァルトさんまで聞いてくるが、私はよく分からない。
「ねえ、ビアンカ、ルージュ、来るのは何人?」
『うーん、妙な奴は一匹なのですが』
『他にもいるけど、そいつらは混乱と戸惑いと恐怖ね。めんどくさそうなのは一匹だけよ』
「そう」
私はそのまま、オスヴァルトさんに説明する。
「そうですか。あらかたの予想は付きました」
「え?」
「アルティーナ帝国の大使ですよ。実は貴女に接見したいとゲストハウスにおしかけようとして、我々が防いでいました」
なんじゃそりゃ。
晃太を振り返る。
「姉ちゃん、体調悪かったから全部断ったんよ。心配させるだけやと思って黙っといたんよ。どうせ、目的は分かっとるし」
ビアンカとルージュ、5匹の仔達やね。
「ご心配なく、我々がお守りしますので」
おお、オスヴァルトさん、格好いい。だけど、ここはオスヴァルトさんに任せた方が良さそう。よく分からないけど、国際問題とかにならないか心配だしね。
「よろしくお願いします」
私はがっちり、ホークさんとチュアンさんにガードされ、その前にオスヴァルトさん。晃太、ビアンカとルージュ、仔達には若い赤騎士団さんと、マデリーンさんが張り付く。
『ユイ、来るのです』
『いいの? 撃退しなくて?』
「やめて、大惨事になるけん。唸るだけよ、頼むけん、唸るだけよ。それもちょっとよ」
私は釘を刺す。
ギルド内は、私達の話の内容を察知して、退避するか、ギルドのお偉いさんを呼びに行っているようだ。
そうこうしていると、ギルドの扉が乱暴に開け放たれる。
そこには、過度に装飾されたギラギラスーツを着た若い男性。うわあ、典型的な嫌な奴の雰囲気が溢れでている。
「やっとゲストハウスから出てきたかッ。この私がわざわざ足を運んでやったのに、無礼にも断りおってッ。身分をわきまえない下賤がッ。さっさとその従魔を献上しろッ、何をしているッ、私はアルティーナ帝国7大公爵家筆頭マモーナリ家の大使であるぞッ。全員、膝を突かぬかッ」
カチンッ。
なんやねん、こいつ、いきなり。
後ろに付いている人達の焦った顔、まさに顔面蒼白だよ。
「何をしておるッ、さっさとその従魔を捕らえよッ。我が家が望んでいるのだ、差し出すのが道理であるッ。我が家がそれを飼ってやると言っているのだッ。聞こえぬのかッ」
カチン、カチン、カチーン。
私は武器用のフライパンを出しそうになる。
こいつ、典型的な金持ち、権力持ちの嫌な奴だ。自分の要求は、どんな理不尽なことでも、通って当たり前と信じて疑わない。
ルージュの言うように、まさに傲慢。
『ユイ、腕を食いちぎるのです』
『私は足ね』
今回ばかりは、思わず甘噛みくらいいいよ、と言いたくなるが、堪える。
「おやめ頂けますか大使殿」
オスヴァルトさんが前に出る。ここはオスヴァルトさんに任せよう。私はビアンカとルージュに、小さく首を横に振って、だめの意思を伝える。
ねえね、ねえね。
ん?
「私の前に立つ無礼者がッ」
「若様、お止めください」
後ろにいたお付きの人が、恐る恐る止めに入る。
「ええぃッ、お前も無礼なッ、身分を弁えよッ」
お付きの人は突き飛ばされて尻餅をつく。
大丈夫、あのお付きの人、そこそこのお歳の人だけど、骨、大丈夫? 慌てて別のお付きの人が助け起こしている。
「大使殿、私はユリアレーナ王国赤騎士団所属、オスヴァルト・ウルガー准将でございます。このご婦人に関しては、ユリアレーナ王室より通達があったはず」
丁寧だけど、棘のある話し方だなあ。
「ふんっ、それがなんだ? 先代皇帝の慈悲で生き延びてきた者が、私に指図などするとはなんとおこがましい。この国は………」
「若様ッ、なりませんッ」
突き飛ばされたお歳の男性が、必死に腕にすがりつく。もう一人もだ。
「何をするッ、無礼者ッ」
あーあーあーあー。
しっちゃかめっちゃか。
ギラギラスーツの大使は手のつけれない子供のようにわめき散らし、暴言を吐き、暴れる。
あれだ、自分は大使だ、公爵だ、アルティーナ帝国に楯突くのか、膝をつけだ、従魔を渡せだ、ユリアレーナの分際で指図するな、キリがない。私は怒りを通り越えて、あきれ返る。
大使の仕事ってよく分からんけど、国同士が円滑に、仲良く出きるように橋渡しをする人じゃないの? その国の代表者みたいな人が、こんなのが大使なら、アルティーナ帝国の品位が問われるんやない? よくもまあ、こんなのを大使にしたね。
ねえね、ねえね。
ん?
さっきから、かわいい声が何処からか。
「そこのテイマー女ッ」
は? 私?
「最後の慈悲だっ、我が祖父の愛人に召し抱えてもらうよう取り計らってやるッ。従魔を差し出せッ」
「嫌よ」
私は反射的に返事をする。
ギラギラスーツの大使の顔が、真っ赤に染まる。
「この無礼者ーッ」
ギラギラスーツの大使は、腰のこれまた派手な装飾の剣を引き抜く。
が。
『ふんっ』
ビアンカの鼻息が炸裂。剣は真ん中から、ぱきん、と折れる。ふふん、うちのビアンカの鼻息は、半端ないんよ。
ぱきん、と折れた剣を、わなわな震えながら見るギラギラスーツの大使。
「大使殿。ここが何処だかお分かりですか? ユリアレーナ王国、ギルド本部でございますよ」
オスヴァルトさんの口調は変わらないが、周りの傍観者は、あーあー、やっちゃったよ、みたいな顔だ。
「抜刀されましたな、アルティーナ帝国大使殿」
そこに、2人の人物が現れる。1人はいかにもできる会社役員みたいな男性と、もう1人は大柄の獣人さん。今までみた中で最高に大柄の人だ。丸耳がついててかわいか。
「ご自分の立場、ご理解を?」
会社役員さんは眼鏡を押し上げて聞く。
「ふんッ、その女が無礼だから、不敬として斬り捨てるのだッ、邪魔をするでないッ」
「ここはギルドでございます。その様なこと、我らが許すとでも? そもそも大使殿、こちらに来られると報せがございませんでしたが?」
丸耳の獣人さんも、静かに言い放つ。
それから再び始まる舌戦。
まあ、明らかに向こうが非常識なことをしているようだ。めんどくさ、早く帰りたか。
ねえね、ねえね。
ん? ん? ん?
私はキョロキョロ。
ねえね、ゆい、ねえね。
ん? ん? ん?
私の視線の先には、ヒスイが。え、まさか。
「ヒ、ヒスイちゃん?」
私は震える手で手招きする。
「わんもあぷりーず」
『ねえね、ゆい、ねえねっ』
ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ、やっぱりーッ。
ヒスイの声やったーッ。
衝撃や、にゃんにゃん言ってたヒスイがーッ。ねえね言ったよ、衝撃よ、感動よ。あははははははははん、嬉しかあ、かわいかあ。
「ヒスイちゃん、もっかい言ってみてん」
私は唇を尖らせながら、わんもあぷりーず。
『ゆいねえねっ』
「そうよヒスイちゃんっ、ねえねよーっ」
私は人目を憚らずにヒスイを抱き締める。
ギラギラスーツの大使と会社役員と丸耳の獣人さんの舌戦なんて、もうどうでもいい。傍観者さん達は、私を見る目が、危ない奴になってるが、構わない。
「ユイさん。どうしたの?」
エマちゃんがいろんな心配の表情を浮かべている。
「あのね、ヒスイが『ゆいねえね』って言ったんよ」
「え? 声?」
「そうよー」
『ねえね、ねえね』
「なんね、ヒスイちゃん、ねえねよー」
たまらん。頬擦り。頬擦り。
「ヒスイ、わいは?」
晃太が自分を指し示す。
『…………にいに』
晃太が唇尖らせプルプルプルプル。
「…………………………姉ちゃん、お祝いや」
「あ、そうやね。ヒスイのおしゃべり記念や、鷹の目の皆さんの歓迎会もしとらんかったね。今日は盛大にしよう。うん、今日は好きなだけ食べてよかけんねー」
頬擦り。
すると、ギラギラスーツと向き合っていたビアンカとルージュがこちらを向く。
『私達も食べていいのですか?』
『ユイ。エビは?』
「今日だけ、よかよー。ヒスイのおしゃべり記念や、私の気が変わらんうちに」
「ふざけるなーッ」
ギラギラスーツの大使が吠える。
「私を無視して、タダで済むと思うなよッ。我がアルティーナ帝国のッ、ぐふうっ」
吠えるギラギラスーツの大使は、とうとうお付きの人が口を塞ぐ。それでも、暴れるギラギラスーツの大使。
「無礼者がっ、従魔だけで済まされたもの、を……………」
ギラギラスーツの大使の言葉が小さくなっていく。
『私のかわいい娘のおしゃべり記念を邪魔する気? 覚悟できているんでしょうね』
ルージュが火炎姫(フレアジャンヌ)になり、低い唸り声をあげている。
『そうなのです。さっきから黙って聞いていたのですが、私達はお前なんかに従わないのです。ユイは噛みつくなって言ったのですが、これ以上言うなら容赦しないのですよ』
ビアンカは風乙女(シルフィリア)で、ジリジリとギラギラスーツの大使に迫る。
私の位置から見えないが、恐ろしい形相で迫っているはず。あれだけ勢いの良かったギラギラスーツの大使が、ガタガタ震えている。
『ユイの気が変わったらどうしてくれるのですかッ』
『命惜しければ、さっさと消えなさいッ』
ビアンカとルージュの咆哮が響き、とうとう大使一行は、ギルドから逃げ出していった。
『ふんなのです』
『情けないわね、ちょっと吠えただけで』
逃げたあとを見ながら、ふと、思う。
国際問題に、ならないかな?
「実はご意見番から、少し話の場を設けていただけないかと」
「はい、大丈夫です。私も一度ご挨拶したかったので」
良かった。後見人になってくれたし、マーファのスラム街騒動で名前も出したし、お礼を言いたかった。お忙しいから、どうしようか悩んでいたから、私にとっては渡りに船だ。
「では、明後日の17時にゲストハウスで」
「はい、お待ちしてます」
オスヴァルトさんともう一人若い赤騎士団の人が同行し、ギルドに問題なく到着。
まず、担架を商人ギルドに返却。対応してくれたリーバクさんが、凄まじい顔をする。ホークさんとエマちゃんが回復していることに驚いているようだ。私はそのまま、例の依頼書の話をすると、すぐに対応してくれた。
せっかくの虎の威を借る狐作戦が。
書類を出すまでの間に、冒険者ギルドで手続きをする。一旦、私と鷹の目の皆さんの冒険者ギルドカードを預けて、作業後、魔力を流す。父から、少しだけと釘を刺されていたので、少しだけ。だけと、流した途端に、私は目眩を起こしてしまう。なんとか踏ん張ったが、ビアンカとルージュが気がついた様で、カウンターにいた私に勢いよく来たので、ちょっと騒動になる。
自分ではずいぶんいいと思ったけど、やっぱりまだ中毒から離脱してないんやね。異世界への扉がいまだに使えないから、ちょっと不便を感じはじめている。卵が今日の朝御飯の味噌汁で底をついた。まだ、晃太や母のアイテムボックスやルームの冷蔵庫には食材はまだあるが、いつまで使えないのがわからないから不安だ。野菜とかなら、こちらで買ってもいいけど、やはり米や卵、調味料は異世界への扉で調達したい。神様へのお供えもあるし。
どうしたものか?
「ユイさん、大丈夫?」
「ん? 大丈夫よ、エマちゃん」
ギルドの椅子で腰かけて、リーバクさんを待ちながら悩む。
待ちながら、武装一式が揃う店を教えてもらう。
ギルド近くにある『ワーグ商店』が、品揃えと品質が一番だと。
よし、ギルドの後はそのワーグ商店やね。
「にゃあ、にゃあ」
ヒスイが私の足に、自分の前足をかける。かわいかね、はい、かいかい。
元気は触りたそうな顔をしている冒険者の人に向かって、後ろ足で立っているが、ビアンカがリードを咥えてびくともしない。ルリとクリスはビアンカにぴったり張り付き。コハクは大人しくルージュの側に。
『ユイ』
『妙な奴が来るわ』
ヒスイをかいかいしていると、ビアンカとルージュが警告してきた。
「え? どんな感じ?」
『なんだか、敵意や害意はないのですが』
『傲慢、かしら? 碌な奴ではないわ。でも、大丈夫よ、問題なく止められるわ』
「だから何を? 息の根?」
思わずポロリ。途端に周りの空気が凍りつく。しまった。
「ユイさん、どうしました?」
ホークさんが確認するように聞いてくる。
「いや、あの。変な人が来るって、ビアンカとルージュが」
「ミズサワ殿、詳しく分かりますか?」
オスヴァルトさんまで聞いてくるが、私はよく分からない。
「ねえ、ビアンカ、ルージュ、来るのは何人?」
『うーん、妙な奴は一匹なのですが』
『他にもいるけど、そいつらは混乱と戸惑いと恐怖ね。めんどくさそうなのは一匹だけよ』
「そう」
私はそのまま、オスヴァルトさんに説明する。
「そうですか。あらかたの予想は付きました」
「え?」
「アルティーナ帝国の大使ですよ。実は貴女に接見したいとゲストハウスにおしかけようとして、我々が防いでいました」
なんじゃそりゃ。
晃太を振り返る。
「姉ちゃん、体調悪かったから全部断ったんよ。心配させるだけやと思って黙っといたんよ。どうせ、目的は分かっとるし」
ビアンカとルージュ、5匹の仔達やね。
「ご心配なく、我々がお守りしますので」
おお、オスヴァルトさん、格好いい。だけど、ここはオスヴァルトさんに任せた方が良さそう。よく分からないけど、国際問題とかにならないか心配だしね。
「よろしくお願いします」
私はがっちり、ホークさんとチュアンさんにガードされ、その前にオスヴァルトさん。晃太、ビアンカとルージュ、仔達には若い赤騎士団さんと、マデリーンさんが張り付く。
『ユイ、来るのです』
『いいの? 撃退しなくて?』
「やめて、大惨事になるけん。唸るだけよ、頼むけん、唸るだけよ。それもちょっとよ」
私は釘を刺す。
ギルド内は、私達の話の内容を察知して、退避するか、ギルドのお偉いさんを呼びに行っているようだ。
そうこうしていると、ギルドの扉が乱暴に開け放たれる。
そこには、過度に装飾されたギラギラスーツを着た若い男性。うわあ、典型的な嫌な奴の雰囲気が溢れでている。
「やっとゲストハウスから出てきたかッ。この私がわざわざ足を運んでやったのに、無礼にも断りおってッ。身分をわきまえない下賤がッ。さっさとその従魔を献上しろッ、何をしているッ、私はアルティーナ帝国7大公爵家筆頭マモーナリ家の大使であるぞッ。全員、膝を突かぬかッ」
カチンッ。
なんやねん、こいつ、いきなり。
後ろに付いている人達の焦った顔、まさに顔面蒼白だよ。
「何をしておるッ、さっさとその従魔を捕らえよッ。我が家が望んでいるのだ、差し出すのが道理であるッ。我が家がそれを飼ってやると言っているのだッ。聞こえぬのかッ」
カチン、カチン、カチーン。
私は武器用のフライパンを出しそうになる。
こいつ、典型的な金持ち、権力持ちの嫌な奴だ。自分の要求は、どんな理不尽なことでも、通って当たり前と信じて疑わない。
ルージュの言うように、まさに傲慢。
『ユイ、腕を食いちぎるのです』
『私は足ね』
今回ばかりは、思わず甘噛みくらいいいよ、と言いたくなるが、堪える。
「おやめ頂けますか大使殿」
オスヴァルトさんが前に出る。ここはオスヴァルトさんに任せよう。私はビアンカとルージュに、小さく首を横に振って、だめの意思を伝える。
ねえね、ねえね。
ん?
「私の前に立つ無礼者がッ」
「若様、お止めください」
後ろにいたお付きの人が、恐る恐る止めに入る。
「ええぃッ、お前も無礼なッ、身分を弁えよッ」
お付きの人は突き飛ばされて尻餅をつく。
大丈夫、あのお付きの人、そこそこのお歳の人だけど、骨、大丈夫? 慌てて別のお付きの人が助け起こしている。
「大使殿、私はユリアレーナ王国赤騎士団所属、オスヴァルト・ウルガー准将でございます。このご婦人に関しては、ユリアレーナ王室より通達があったはず」
丁寧だけど、棘のある話し方だなあ。
「ふんっ、それがなんだ? 先代皇帝の慈悲で生き延びてきた者が、私に指図などするとはなんとおこがましい。この国は………」
「若様ッ、なりませんッ」
突き飛ばされたお歳の男性が、必死に腕にすがりつく。もう一人もだ。
「何をするッ、無礼者ッ」
あーあーあーあー。
しっちゃかめっちゃか。
ギラギラスーツの大使は手のつけれない子供のようにわめき散らし、暴言を吐き、暴れる。
あれだ、自分は大使だ、公爵だ、アルティーナ帝国に楯突くのか、膝をつけだ、従魔を渡せだ、ユリアレーナの分際で指図するな、キリがない。私は怒りを通り越えて、あきれ返る。
大使の仕事ってよく分からんけど、国同士が円滑に、仲良く出きるように橋渡しをする人じゃないの? その国の代表者みたいな人が、こんなのが大使なら、アルティーナ帝国の品位が問われるんやない? よくもまあ、こんなのを大使にしたね。
ねえね、ねえね。
ん?
さっきから、かわいい声が何処からか。
「そこのテイマー女ッ」
は? 私?
「最後の慈悲だっ、我が祖父の愛人に召し抱えてもらうよう取り計らってやるッ。従魔を差し出せッ」
「嫌よ」
私は反射的に返事をする。
ギラギラスーツの大使の顔が、真っ赤に染まる。
「この無礼者ーッ」
ギラギラスーツの大使は、腰のこれまた派手な装飾の剣を引き抜く。
が。
『ふんっ』
ビアンカの鼻息が炸裂。剣は真ん中から、ぱきん、と折れる。ふふん、うちのビアンカの鼻息は、半端ないんよ。
ぱきん、と折れた剣を、わなわな震えながら見るギラギラスーツの大使。
「大使殿。ここが何処だかお分かりですか? ユリアレーナ王国、ギルド本部でございますよ」
オスヴァルトさんの口調は変わらないが、周りの傍観者は、あーあー、やっちゃったよ、みたいな顔だ。
「抜刀されましたな、アルティーナ帝国大使殿」
そこに、2人の人物が現れる。1人はいかにもできる会社役員みたいな男性と、もう1人は大柄の獣人さん。今までみた中で最高に大柄の人だ。丸耳がついててかわいか。
「ご自分の立場、ご理解を?」
会社役員さんは眼鏡を押し上げて聞く。
「ふんッ、その女が無礼だから、不敬として斬り捨てるのだッ、邪魔をするでないッ」
「ここはギルドでございます。その様なこと、我らが許すとでも? そもそも大使殿、こちらに来られると報せがございませんでしたが?」
丸耳の獣人さんも、静かに言い放つ。
それから再び始まる舌戦。
まあ、明らかに向こうが非常識なことをしているようだ。めんどくさ、早く帰りたか。
ねえね、ねえね。
ん? ん? ん?
私はキョロキョロ。
ねえね、ゆい、ねえね。
ん? ん? ん?
私の視線の先には、ヒスイが。え、まさか。
「ヒ、ヒスイちゃん?」
私は震える手で手招きする。
「わんもあぷりーず」
『ねえね、ゆい、ねえねっ』
ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ、やっぱりーッ。
ヒスイの声やったーッ。
衝撃や、にゃんにゃん言ってたヒスイがーッ。ねえね言ったよ、衝撃よ、感動よ。あははははははははん、嬉しかあ、かわいかあ。
「ヒスイちゃん、もっかい言ってみてん」
私は唇を尖らせながら、わんもあぷりーず。
『ゆいねえねっ』
「そうよヒスイちゃんっ、ねえねよーっ」
私は人目を憚らずにヒスイを抱き締める。
ギラギラスーツの大使と会社役員と丸耳の獣人さんの舌戦なんて、もうどうでもいい。傍観者さん達は、私を見る目が、危ない奴になってるが、構わない。
「ユイさん。どうしたの?」
エマちゃんがいろんな心配の表情を浮かべている。
「あのね、ヒスイが『ゆいねえね』って言ったんよ」
「え? 声?」
「そうよー」
『ねえね、ねえね』
「なんね、ヒスイちゃん、ねえねよー」
たまらん。頬擦り。頬擦り。
「ヒスイ、わいは?」
晃太が自分を指し示す。
『…………にいに』
晃太が唇尖らせプルプルプルプル。
「…………………………姉ちゃん、お祝いや」
「あ、そうやね。ヒスイのおしゃべり記念や、鷹の目の皆さんの歓迎会もしとらんかったね。今日は盛大にしよう。うん、今日は好きなだけ食べてよかけんねー」
頬擦り。
すると、ギラギラスーツと向き合っていたビアンカとルージュがこちらを向く。
『私達も食べていいのですか?』
『ユイ。エビは?』
「今日だけ、よかよー。ヒスイのおしゃべり記念や、私の気が変わらんうちに」
「ふざけるなーッ」
ギラギラスーツの大使が吠える。
「私を無視して、タダで済むと思うなよッ。我がアルティーナ帝国のッ、ぐふうっ」
吠えるギラギラスーツの大使は、とうとうお付きの人が口を塞ぐ。それでも、暴れるギラギラスーツの大使。
「無礼者がっ、従魔だけで済まされたもの、を……………」
ギラギラスーツの大使の言葉が小さくなっていく。
『私のかわいい娘のおしゃべり記念を邪魔する気? 覚悟できているんでしょうね』
ルージュが火炎姫(フレアジャンヌ)になり、低い唸り声をあげている。
『そうなのです。さっきから黙って聞いていたのですが、私達はお前なんかに従わないのです。ユイは噛みつくなって言ったのですが、これ以上言うなら容赦しないのですよ』
ビアンカは風乙女(シルフィリア)で、ジリジリとギラギラスーツの大使に迫る。
私の位置から見えないが、恐ろしい形相で迫っているはず。あれだけ勢いの良かったギラギラスーツの大使が、ガタガタ震えている。
『ユイの気が変わったらどうしてくれるのですかッ』
『命惜しければ、さっさと消えなさいッ』
ビアンカとルージュの咆哮が響き、とうとう大使一行は、ギルドから逃げ出していった。
『ふんなのです』
『情けないわね、ちょっと吠えただけで』
逃げたあとを見ながら、ふと、思う。
国際問題に、ならないかな?
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そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
聖女って無給で無休なんですか?じゃあやらないです
こじまき異世界に聖女として召喚されたイラストレーターのチヒロ。しかし聖女には給料も休みもないことを知って「じゃあやらないです」と聖女就任を断る。
「国と人を救う崇高な仕事には、私どもからの感謝を捧げよう」
「心底いらないです」
異世界でまで、やりがい搾取されてたまるかよ。
※小説家になろうにも投稿しています
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまうリリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、悪役令嬢として断罪された少女が、「誰かの物語の脇役」ではなく、自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
妹を踏みにじった奴らに、復讐の花束を
楠ノ木雫 妹を傷つけたやつは誰だ。
隣国に嫁いだこの国の王女であり双子の妹でもあるクラリスが2年後に亡き人となって帰ってきた。死因すら伝えられず嫁ぎ先の墓にも入れてもらえずに隣国の使者が連れてきた。
この事実に信じられずにいると、クラリスが帰ってくる半年前に戻っていた。
一体隣国でクラリスの身に何があったのか。
絶対に、もうクラリスのあんな姿を見たくない。堅く決意し使節団の使者として隣国に乗りこむ事になった。
※一話で過激なシーンがあります。
【第1回新エンタメ小説大賞】にエントリー中です。
【完結済】ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!