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連載
デート?②
カンカンカン
鍋底をお玉で叩いたような音。
「なんやろ?」
「魚が届いた合図です」
ブエルさんが教えてくれる。
来た来た、魚、魚。
「ブエルさん、オススメのお店は?」
「母から聞いてきました。こちらです」
食堂を経営しているなら、きっと信頼できる。
「晃太、ビアンカ、ルージュ、行くよー」
「ん」
『わかったのです』
『今行くわ』
ぞろぞろと移動。
「この時間から、料理を出す屋台が増えるんですよ」
そうみたい。テーブルや椅子の準備が始まっているし。
「ビアンカ、ルージュ、大人しくね」
釘を刺す。
だけど、本人達はキョロキョロ。
『あ、わかっているのです』
『ええ、わかっているわ』
視線が合わない。上の空だよ。
「ならその涎はなんやろうね? まあ、いいにおいしてきたから仕方ないか」
マルシェを進むと、次々に魚が並べられ、威勢のよい声が響く。うん、活気があっていいなあ。
店主は女性が多い。基本的に魚を扱う屋台は、夫が漁師で、その夫が採ってきた魚を奥さんが売るのがほとんどだと。中には漁を終えた後は調理員として屋台に入る旦那さんがいるが、うん、あそこ奥さんが顎で使っている。
「おやおや、ブエルの坊やじゃないかい? 久しぶりだね」
がっちりした中高年女性。まさにおかみさんだ。ブエルさんと知り合いみたいだね。
「やめてよ。ミズサワ様、こちらの屋台がオススメです」
「どうも」
屋台の上には魚が並ぶ。うわあ、圧巻。1mを超す鱒が並ぶ。それと鮮やかな赤い鱗。あれ、鯛や。こっちもでっかい。優勝記念に力士が持つやつや。皆首もと付近に穴が一つ。
「うちはね、旦那が銛で仕留めて血抜きまでしてあるから、臭みが全然違うんだよ」
「こんなに大きな魚を銛で?」
「そうだよ。うちの旦那は漁師の腕はいいんだからっ」
そう言って、ボリュームのある胸を張るおかみさん。
『ねえ、ユイ、一匹食べてみたいわ』
後ろからルージュが顔を出し、おかみさんが、ひぃ、となる。
『私も食べてみたいのです』
ビアンカまで顔を出す。
「ちょっと待ってん。あの生で食べれます?」
「生で? そりゃきちんと処理したらいいけど」
こちらではあまり刺身では食べない。白ワインや酢を入れた真水に漬け込んでからでないと食べれないと。手間とお金がかかる。寄生虫の問題があり、浄化魔法をかけるか、手っ取り早く熱を通すのが普通だそうだ。
『ユイ、私達なら大丈夫なのです』
『そうよ、そんなのでどうにかならないわ』
「うーん。いや、念のためや、やめとこ」
帰って父の鑑定待ちや。おかみさんに、焼き魚を売っている屋台があると教えてもらい、2人には我慢してもらう。
「今が旬のクレイ鱒は、脂がのって塩焼きでもムニエルでも旨いよ。こっちのアップルシーブルーブは鱗は硬いが、クレイ港で獲れる白身魚の中では最高だね」
「うーん、美味しそう。よし、全部ください」
「気前がいいねっ、毎度ありっ」
頭を落として、鱗取り、三枚下ろしをお願いする。
「時間かかるから、他の屋台でも見てきておくれ。あんた、仕事だよ」
足元から、ごつい男性が出てきて、手際よく捌いていく。うわあ、職人芸だよ。
私達はそれから別の屋台を覗く。やはりブエルさんがオススメしただけあるのか、あの屋台にあるのより大きなクレイ鱒やアップルシーブルーブはなかった。
それでも何匹か確保する。鱸みたいな魚、小ぶりな貝柱も購入した。エビはロブスターみたいだ。ルージュが熱望したのであるだけ購入した。
『ユイ、いいにおいなのです』
『あっちよ、あっち』
匂いに釣られてビアンカとルージュがふらふら。
「「ひーっ」」
左右に分かれて、ふらふら行くので、悲鳴が上がる。
「ちょっと待ってん2人ともーっ」
ルージュには晃太が走り、私はビアンカに。
屋台に顔を突っ込んでる。
「ちょっとビアンカやめてん、並んどる人が先や」
『ダメなのです?』
「当たり前やろ、並ばんとダメ。すみません」
店主の男性ガタガタしてる。
並んでいる人にもすみません。
最後尾に並ぶ。晃太の方も最後尾に移動している。
程なくして順番が来る。
野菜と魚の切り身を焼いているだけだけど、すごくいい匂い。
「何の魚ですか?」
さっきガタガタしていた男性が、落ち着いている。
「クレイ鱒です。季節の野菜とうちの独自配合ハーブで、焼いています」
いい匂いや。
後ろを見ると誰もいない。
「全部ください」
「ありがとうございますっ」
紙皿を出そうとしたが、私はこんなこともあろうかと、自分のアイテムボックスを空にしてきた。大皿を取り出し、差し出す。
「これに入れてください。もう今日はこれで最後ですか?」
「いえ、まだ、焼きます」
「では後でまた来ます」
「お待ちしてます」
「さ、ビアンカ、行くよ」
おらんやん。
「ユイさん、あそこ」
エマちゃんが示したのは、別の屋台。
「ひーっ」
「あっ、またっ。すみません、お願いしますっ」
慌てて追いかける。
そこはピタパンサンドの屋台だ。ビアンカは顔を突っ込んでいる。
「ビアンカッ、ダメやってッ。すみません、すみません」
私は店主に平謝り。
「すみません、すみません」
向こうでは晃太が平謝り。ルージュもかい。
『食べたいのです』
「だからって、顔は突っ込まないの。お店の人がびっくりするやろ? ここはマーファみたいに、お店の人が慣れてないんやから」
そう、マーファでは、はじめは、ひーっ、とされた。だけど、慣れってすごい。今では、2人が顔を突っ込んでも、
「いらっしゃいませビアンカ様、ルージュ様。テイマーさーん、こっちこっちー。さ、お二人とも味見してくださーい」
だもんね。
味見って弱いんだよね、味見したら、何故か買わなきゃって思うのよ。皆さん商売上手。
「すみません、あのこれは?」
ビアンカを後ろに下げて聞く。
「あ、ああ、ブラックツナのトマト煮込みを入れています」
「ブラックツナ………………」
…………………黒鮪ッ。
「あの、これの、脂ののった部分は?」
大トロ、中トロ、中落ち。父が大好き。晃太も大好き。一回だけ時価の大トロ食べたら、もう口の中でとろけてなくなった。
「生食のやつですね。あんなのこんなマルシェで出回らないですよ」
店主の説明はこうだ。
このブラックツナ、魔物。しかも、そこそこ強い。さっきのブエルさんオススメ屋台のご主人の様に銛で突いて、なんては無理。大きな船で、丈夫な網を張って追い込んで、上から総攻撃。海の中でなんて、攻撃できないし、まず追い付けないそうだ。そりゃそうだわな。で、このブラックツナ、やはり鮪だから大トロみたいな所はあるが、高級品で、こんな庶民的なマルシェには並ばない。高級店やお貴族様が確保すると。脂のない安価の部分しか、こちらに来ないそうだ。
「ギルドに依頼とか出さないんですか?」
「こんな小さな店では、依頼をしてまでしても採算取れないし、もっと高値で出す所の方に、冒険者は卸しますよ。まあ、ブラックツナを仕留める冒険者には、独自ルートがありますからね」
「なるほど。あ、全部ください」
「どうも」
私が出した皿にピタパンサンドが並ぶ。
『ユイ、食べたいのです』
「はいはい。ルージュもいるから。エマちゃん、テオ君、一個食べる?」
私、ちょっと小腹空いてきた。
「食べますっ」
「はいっ」
「こら、エマ、テオ」
ホークさんのお馴染み、こら、が飛ぶ。
「まぁまぁ、ホークさんもどうぞ。一人だけ食べさせないのは、私が心苦しいので、食べてください」
そう言ってピタパンサンドを渡す。
赤騎士団の人にも念のため声をかけるが、お仕事中だからね。お留守番してくれているチュアンさん達の分も十分だ。
ビアンカとルージュは一口でペロリ。
小ぶりのピタパンサンドは、酸味のあるトマトソースだけど、うん、美味しい。ツナはここでもツナだ。他にもパプリカなどの野菜が挟まってて美味しい。
『足りないのです』
『もう一口食べたいわ』
「なんば言いようと。がっちりリバウンドしてるのに」
『『ぶーぶー』』
それからも、あちこちで買い物。
で、あちこちで、ひーっ、と悲鳴が上がる。
本当に勘弁して。会計している間に、いなくなる。しかも二人とも別々に屋台に顔を突っ込んでる。ブエルさんやもう一人の赤騎士団も付いていってるが、どうしていいか分からない。まさか、ビアンカとルージュの前に立てることはない。私達は慣れてるが、他の人にしたら、恐怖だよ。周りの人に大丈夫ですよー、と声をかけるくらいだ。
あっちチョロチョロ、こっちチョロチョロするビアンカとルージュ。小さな子供ならまだしも、ウン百キロもある巨体がチョロチョロ。いや、のしのし。もう、屋台、人が並んどるやん。たまりかねて私が叫ぶ。
「ビアンカッ、ルージュッ、いい加減にせんと、今日の夕御飯糖質カットのロールパン一個よッ。ちゃんと並ばんねッ」
途端に、顔を突っ込んでいたビアンカとルージュが、大人しく列の最後尾に。
(移動したーッ)
(何、何、何の魔法?)
(なんだ、トーシツカットって?)
(ひーっ、鼻息かかるーっ)
(後ろに立たれると、逆に怖いっ)
(へえ、あれがテイマーかあ)
(この2体が言うこと聞いたぞ)
(鼻息ーっ)
「すみません」
「「「「いえいえ」」」」
それから買い物を終え、魚を受け取りに行く。
帰り際、ブエルさんに気になっていることを聞いてみる。
「ブエルさん、ブラックツナは冒険者が確保するみたいですが、私達でも獲れたりします?」
父と晃太が大好きな黒鮪。何とかして手に入れられないかと思って。
「出来ますよ、ミズサワ様達なら。確か、クレイ港でギルド所有の船が定期的に出ますから。それに乗れば」
「そうですか。クレイ港にもギルドがあるんですね」
「はい」
なんでも、クレイ港の方が定住している冒険者が多い。家賃とかの関係と、海の恵みに関連した依頼が多いこともある。それにこちらまで、徒歩で1時間で来れる事と、安価な定期バスならぬ定期馬車があり、気軽にこちらに通うそうだ。
「ミズサワ様がブラックツナを獲りに行くって言ったら、船を出しますよ」
「そこまでしてもらう訳には」
『ユイ、体が鈍りそうなのです、行きたいのです』
『そうね。ちょっと運動したいわ』
「しー。こちらのギルドで船の出港とか分かります?」
「はい」
よし、ならば、聞いて帰ろう。どちらにしても付与が終わるまではこちらにいる予定だし。
ギルドに寄ると、明明後日に出ると。ちょうどいいや。私がそれに乗りたい旨を伝えると、了承してくれ、向こうに連絡してくれると。
よし、黒鮪ゲットや。
鍋底をお玉で叩いたような音。
「なんやろ?」
「魚が届いた合図です」
ブエルさんが教えてくれる。
来た来た、魚、魚。
「ブエルさん、オススメのお店は?」
「母から聞いてきました。こちらです」
食堂を経営しているなら、きっと信頼できる。
「晃太、ビアンカ、ルージュ、行くよー」
「ん」
『わかったのです』
『今行くわ』
ぞろぞろと移動。
「この時間から、料理を出す屋台が増えるんですよ」
そうみたい。テーブルや椅子の準備が始まっているし。
「ビアンカ、ルージュ、大人しくね」
釘を刺す。
だけど、本人達はキョロキョロ。
『あ、わかっているのです』
『ええ、わかっているわ』
視線が合わない。上の空だよ。
「ならその涎はなんやろうね? まあ、いいにおいしてきたから仕方ないか」
マルシェを進むと、次々に魚が並べられ、威勢のよい声が響く。うん、活気があっていいなあ。
店主は女性が多い。基本的に魚を扱う屋台は、夫が漁師で、その夫が採ってきた魚を奥さんが売るのがほとんどだと。中には漁を終えた後は調理員として屋台に入る旦那さんがいるが、うん、あそこ奥さんが顎で使っている。
「おやおや、ブエルの坊やじゃないかい? 久しぶりだね」
がっちりした中高年女性。まさにおかみさんだ。ブエルさんと知り合いみたいだね。
「やめてよ。ミズサワ様、こちらの屋台がオススメです」
「どうも」
屋台の上には魚が並ぶ。うわあ、圧巻。1mを超す鱒が並ぶ。それと鮮やかな赤い鱗。あれ、鯛や。こっちもでっかい。優勝記念に力士が持つやつや。皆首もと付近に穴が一つ。
「うちはね、旦那が銛で仕留めて血抜きまでしてあるから、臭みが全然違うんだよ」
「こんなに大きな魚を銛で?」
「そうだよ。うちの旦那は漁師の腕はいいんだからっ」
そう言って、ボリュームのある胸を張るおかみさん。
『ねえ、ユイ、一匹食べてみたいわ』
後ろからルージュが顔を出し、おかみさんが、ひぃ、となる。
『私も食べてみたいのです』
ビアンカまで顔を出す。
「ちょっと待ってん。あの生で食べれます?」
「生で? そりゃきちんと処理したらいいけど」
こちらではあまり刺身では食べない。白ワインや酢を入れた真水に漬け込んでからでないと食べれないと。手間とお金がかかる。寄生虫の問題があり、浄化魔法をかけるか、手っ取り早く熱を通すのが普通だそうだ。
『ユイ、私達なら大丈夫なのです』
『そうよ、そんなのでどうにかならないわ』
「うーん。いや、念のためや、やめとこ」
帰って父の鑑定待ちや。おかみさんに、焼き魚を売っている屋台があると教えてもらい、2人には我慢してもらう。
「今が旬のクレイ鱒は、脂がのって塩焼きでもムニエルでも旨いよ。こっちのアップルシーブルーブは鱗は硬いが、クレイ港で獲れる白身魚の中では最高だね」
「うーん、美味しそう。よし、全部ください」
「気前がいいねっ、毎度ありっ」
頭を落として、鱗取り、三枚下ろしをお願いする。
「時間かかるから、他の屋台でも見てきておくれ。あんた、仕事だよ」
足元から、ごつい男性が出てきて、手際よく捌いていく。うわあ、職人芸だよ。
私達はそれから別の屋台を覗く。やはりブエルさんがオススメしただけあるのか、あの屋台にあるのより大きなクレイ鱒やアップルシーブルーブはなかった。
それでも何匹か確保する。鱸みたいな魚、小ぶりな貝柱も購入した。エビはロブスターみたいだ。ルージュが熱望したのであるだけ購入した。
『ユイ、いいにおいなのです』
『あっちよ、あっち』
匂いに釣られてビアンカとルージュがふらふら。
「「ひーっ」」
左右に分かれて、ふらふら行くので、悲鳴が上がる。
「ちょっと待ってん2人ともーっ」
ルージュには晃太が走り、私はビアンカに。
屋台に顔を突っ込んでる。
「ちょっとビアンカやめてん、並んどる人が先や」
『ダメなのです?』
「当たり前やろ、並ばんとダメ。すみません」
店主の男性ガタガタしてる。
並んでいる人にもすみません。
最後尾に並ぶ。晃太の方も最後尾に移動している。
程なくして順番が来る。
野菜と魚の切り身を焼いているだけだけど、すごくいい匂い。
「何の魚ですか?」
さっきガタガタしていた男性が、落ち着いている。
「クレイ鱒です。季節の野菜とうちの独自配合ハーブで、焼いています」
いい匂いや。
後ろを見ると誰もいない。
「全部ください」
「ありがとうございますっ」
紙皿を出そうとしたが、私はこんなこともあろうかと、自分のアイテムボックスを空にしてきた。大皿を取り出し、差し出す。
「これに入れてください。もう今日はこれで最後ですか?」
「いえ、まだ、焼きます」
「では後でまた来ます」
「お待ちしてます」
「さ、ビアンカ、行くよ」
おらんやん。
「ユイさん、あそこ」
エマちゃんが示したのは、別の屋台。
「ひーっ」
「あっ、またっ。すみません、お願いしますっ」
慌てて追いかける。
そこはピタパンサンドの屋台だ。ビアンカは顔を突っ込んでいる。
「ビアンカッ、ダメやってッ。すみません、すみません」
私は店主に平謝り。
「すみません、すみません」
向こうでは晃太が平謝り。ルージュもかい。
『食べたいのです』
「だからって、顔は突っ込まないの。お店の人がびっくりするやろ? ここはマーファみたいに、お店の人が慣れてないんやから」
そう、マーファでは、はじめは、ひーっ、とされた。だけど、慣れってすごい。今では、2人が顔を突っ込んでも、
「いらっしゃいませビアンカ様、ルージュ様。テイマーさーん、こっちこっちー。さ、お二人とも味見してくださーい」
だもんね。
味見って弱いんだよね、味見したら、何故か買わなきゃって思うのよ。皆さん商売上手。
「すみません、あのこれは?」
ビアンカを後ろに下げて聞く。
「あ、ああ、ブラックツナのトマト煮込みを入れています」
「ブラックツナ………………」
…………………黒鮪ッ。
「あの、これの、脂ののった部分は?」
大トロ、中トロ、中落ち。父が大好き。晃太も大好き。一回だけ時価の大トロ食べたら、もう口の中でとろけてなくなった。
「生食のやつですね。あんなのこんなマルシェで出回らないですよ」
店主の説明はこうだ。
このブラックツナ、魔物。しかも、そこそこ強い。さっきのブエルさんオススメ屋台のご主人の様に銛で突いて、なんては無理。大きな船で、丈夫な網を張って追い込んで、上から総攻撃。海の中でなんて、攻撃できないし、まず追い付けないそうだ。そりゃそうだわな。で、このブラックツナ、やはり鮪だから大トロみたいな所はあるが、高級品で、こんな庶民的なマルシェには並ばない。高級店やお貴族様が確保すると。脂のない安価の部分しか、こちらに来ないそうだ。
「ギルドに依頼とか出さないんですか?」
「こんな小さな店では、依頼をしてまでしても採算取れないし、もっと高値で出す所の方に、冒険者は卸しますよ。まあ、ブラックツナを仕留める冒険者には、独自ルートがありますからね」
「なるほど。あ、全部ください」
「どうも」
私が出した皿にピタパンサンドが並ぶ。
『ユイ、食べたいのです』
「はいはい。ルージュもいるから。エマちゃん、テオ君、一個食べる?」
私、ちょっと小腹空いてきた。
「食べますっ」
「はいっ」
「こら、エマ、テオ」
ホークさんのお馴染み、こら、が飛ぶ。
「まぁまぁ、ホークさんもどうぞ。一人だけ食べさせないのは、私が心苦しいので、食べてください」
そう言ってピタパンサンドを渡す。
赤騎士団の人にも念のため声をかけるが、お仕事中だからね。お留守番してくれているチュアンさん達の分も十分だ。
ビアンカとルージュは一口でペロリ。
小ぶりのピタパンサンドは、酸味のあるトマトソースだけど、うん、美味しい。ツナはここでもツナだ。他にもパプリカなどの野菜が挟まってて美味しい。
『足りないのです』
『もう一口食べたいわ』
「なんば言いようと。がっちりリバウンドしてるのに」
『『ぶーぶー』』
それからも、あちこちで買い物。
で、あちこちで、ひーっ、と悲鳴が上がる。
本当に勘弁して。会計している間に、いなくなる。しかも二人とも別々に屋台に顔を突っ込んでる。ブエルさんやもう一人の赤騎士団も付いていってるが、どうしていいか分からない。まさか、ビアンカとルージュの前に立てることはない。私達は慣れてるが、他の人にしたら、恐怖だよ。周りの人に大丈夫ですよー、と声をかけるくらいだ。
あっちチョロチョロ、こっちチョロチョロするビアンカとルージュ。小さな子供ならまだしも、ウン百キロもある巨体がチョロチョロ。いや、のしのし。もう、屋台、人が並んどるやん。たまりかねて私が叫ぶ。
「ビアンカッ、ルージュッ、いい加減にせんと、今日の夕御飯糖質カットのロールパン一個よッ。ちゃんと並ばんねッ」
途端に、顔を突っ込んでいたビアンカとルージュが、大人しく列の最後尾に。
(移動したーッ)
(何、何、何の魔法?)
(なんだ、トーシツカットって?)
(ひーっ、鼻息かかるーっ)
(後ろに立たれると、逆に怖いっ)
(へえ、あれがテイマーかあ)
(この2体が言うこと聞いたぞ)
(鼻息ーっ)
「すみません」
「「「「いえいえ」」」」
それから買い物を終え、魚を受け取りに行く。
帰り際、ブエルさんに気になっていることを聞いてみる。
「ブエルさん、ブラックツナは冒険者が確保するみたいですが、私達でも獲れたりします?」
父と晃太が大好きな黒鮪。何とかして手に入れられないかと思って。
「出来ますよ、ミズサワ様達なら。確か、クレイ港でギルド所有の船が定期的に出ますから。それに乗れば」
「そうですか。クレイ港にもギルドがあるんですね」
「はい」
なんでも、クレイ港の方が定住している冒険者が多い。家賃とかの関係と、海の恵みに関連した依頼が多いこともある。それにこちらまで、徒歩で1時間で来れる事と、安価な定期バスならぬ定期馬車があり、気軽にこちらに通うそうだ。
「ミズサワ様がブラックツナを獲りに行くって言ったら、船を出しますよ」
「そこまでしてもらう訳には」
『ユイ、体が鈍りそうなのです、行きたいのです』
『そうね。ちょっと運動したいわ』
「しー。こちらのギルドで船の出港とか分かります?」
「はい」
よし、ならば、聞いて帰ろう。どちらにしても付与が終わるまではこちらにいる予定だし。
ギルドに寄ると、明明後日に出ると。ちょうどいいや。私がそれに乗りたい旨を伝えると、了承してくれ、向こうに連絡してくれると。
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