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連載
覚醒②
戦闘しています、ご注意ください。
私はダイニングキッチンに駆け込む。
頭の中には、初めてビアンカとルージュに出会った時の、熊に襲われ、脚を食いちぎられた小さなヒスイの姿が浮かび上がる。
私は何をしているんや。私はビアンカやルージュ、仔達、ノワールの主人なんや、何を安全地帯でのほほんと見ているや。私は鷹の目の皆さんの主人なのに、未成年のエマちゃんとテオ君がナイフ振り回して戦っているのに。主人の私が、遠くから見ているだけなんて、いかんやろう。
私が主人なんや、私が皆ば守らんと。
私が、守らんと。私が。私が。私が。私が。
手にしたそれを握り締め、私は飛び出そうとすると、時空神様が立ちはだかる。
「よせ」
「時空神様、私が皆を守らんとッ」
「今のお前は足手まといだ。よせ、そんなに震えて何を言ってる」
そう言って時空神様は私の手にした包丁を取り上げる。
「ヒスイは、ヒスイは、まだ、魔法も使えないんです。まだ、小さいんです」
そう、ヒスイは仔達の中でも初めから小さかった。世話を始めた当初は皿の子猫用のミルクもうまく飲めず、よこからコハクに押し出されていることだってあった。ルリとクリスはすぐに上手に飲めるようになったけど、ヒスイはなかなかうまく行かなかった。そっとコハクを抱えて、ヒスイがゆっくり飲めるようにしたり、栄養ゼリーを多めに舐めさせたり、寒い時は母が襟巻きを真っ先に作ったりした。
ルージュが何よりも心配していた。生後半年の生存率が低い上位魔物であるクリムゾンジャガー。ルージュ自身、他の兄弟達が死んでいるなか、かろうじて生きていた。それをビアンカを産んだ母親が見つけなければそのまま死んでいた。それを身にしみて分かっていたのだ、ヒスイが半年のボーダーを越えた時、ルージュがどれだけ安堵していたか。それでも、いまでも仔達の中では小さい、そして今でもヒスイだけが、属性魔法が覚醒していない。もう、覚醒してもおかしくないのだけど、未だに分かっていない。
時空神様は、困ったやつだな、みたいな顔だ。
「あれから一年が過ぎている。お前はあの2体を信じているのだろう? なら、その娘を信じてやれ」
諭すように言われる。なんだか、時空神様の声が、染み込んでいく。私はやっと冷静になる。包丁を握っていた手の震えがやっと治まる。
窓の外、緑の巣の中も変化が。
ぽこぽこ湧いていたGがぱたりと出なくなる。クイーンの魔力が尽きたか、ビアンカかルージュが仕留めたか。
警戒しているヒスイに向かって、Gがにじりよる。
鷹の目の皆さんは逃げ惑うGを取りこぼしがないようにしている。弓を引いていたホークさんは剣に持ち変えている。逃げ惑うGの対応しているため、コハクとヒスイまでに手が回らない。マデリーンさんは魔力回復ポーションをチュアンさんの影で一気飲み。
晃太は血相を変えてフライパン片手にコハクとヒスイの方に向かう。ミゲル君とエマちゃんとテオ君がフォローに回るが、逃げようとするGになかなか進まない。光のリンゴもどんどん小さくなり、最後の1つが消える。
私はルームから飛び出したいが、時空神様に肩を掴まれ動けない。
ふと、視界の端で、ビアンカとルージュが晃太達を見ている。そう、見ているだけ。なんで?
「これは試練だ」
時空神様が私に諭すように言う。
「あいつらが通り、そして今、あの子供達が通らなくてはならない試練だ」
「試練って、まだ、皆成体にもなっていないのに」
「それだけ厳しいんだ。魔物の世界はな」
人は窮地に立たされた時でも躊躇(ためら)うことがある、そして情がある。例え血生臭い世界とはいえ。相手が小さい子供だったりすると特に。それで痛い目みたりするんだが、魔物はそんなことはない。相手が誰だろうが一切手加減しない。そうしないと生き残れないからだ。それはビアンカもルージュも分かっている。
「だから、今のこの状況を打破するだけの力を身に付けなくてはならない。まあ、見てろ」
視線を戻すと、光のリンゴが2つ、晃太の周りに出現。
Gににじりよられたヒスイは、フシャーッ、となったままだ。
そして、フシャーッ、を連発。
え?
Gの腕が千切れ飛んだ。
え?
G達が次々に体のあちこちが切り裂かれ、悲鳴を上げる。
え?
ヒスイが、フシャーッ、となる度に、Gの体に深いキズができる。
「風の属性魔法だな」
あの小さかったヒスイが。
甘えん坊のヒスイが、スライム部屋ではルージュにべったりだったヒスイが。仔達の中でも、いつも一歩遅れて付いてきたヒスイが。
倒れているコハクの前に立って、フシャーッ、を連発。その白い体には薄いが翠のラインが浮かんでいる。
私は涙が浮かびそうだ。
だが、感傷に浸る暇はない。
フシャーッ、を連発していたヒスイの足元がおかしくなる。必死に踏ん張っているけど、ぐらぐらと揺らぎだした。
魔力が枯渇し始めているんやっ。
それでも、ヒスイは、フシャーッを止めない。
何とか駆け付けようとしている晃太達だが、逃げようとするGが邪魔をしてなかなか進まない。
とうとう、ヒスイが足元から崩れ落ちる。
回りのGはほとんど無事な個体はない。だが、傷ついたGは怒りの表情で体を引きずりながら、倒れたヒスイとコハクに近付く。
今から私が飛び出したくらいでは、どうにもならない。
私の腹の奥が、冷えていく。
晃太が視界の中で、叫んでいる。それに応えて、Gの隙間を縫って走るのは元気だ。おそらく支援を受けているのだろう、まるで飛ぶように跳ねて走っている。いつも飛んだり跳ねたりして、それだけの脚力がある元気が、支援で更なるパワーアップしている。まるで陸上のハードル選手のように元気が駆け抜ける。
元気の登場で、G達が戸惑う。
相変わらず、へっへっ言ってる元気は、倒れたコハクとヒスイをクンクンする。
納得したのか、G達に向き直る。
そして、いつもの調子で、わんわん吼える。
吼えると、いつもなら雷が飛び出すのに、今回は違う。
Gの体がズバズバ切り裂かれていく。ヒスイでは胴体まで真っ二つには出来なかったのに、ズバズバ切り裂かれていく。
え? 確か、元気には雷属性しかなかったはずなのに。
あれは風属性魔法? そうか、ビアンカにはたくさん属性魔法があるからか。え、2つ目の属性魔法覚醒したんだ。
元気がわんわんを連発して、Gが次々に斬り飛ばされていく。うわあ、え、えぐいぃ。
一呼吸空けて、元気が再び吼える。次は地面から細い土の錐が飛び出し、Gの体を貫通。
え、えぐいぃ。いや、違う。元気、まさかまさか。土の魔法まで使ってる? え、いきなり2つも属性魔法覚醒したの? え、これが普通なの? 元気は属性魔法の覚醒が早かったから、他の属性も早く覚醒したのかな? よく分からん。後でビアンカとルージュに聞くしかないけど。
晃太達は、元気のわんわんに巻き込まれそうなので、その場でとどまり展開している。
それから、ほどなくしてやっと動いているGがいなくなった。
私は時空神様からようやく解放されて、ルームを飛び出していった。
私はダイニングキッチンに駆け込む。
頭の中には、初めてビアンカとルージュに出会った時の、熊に襲われ、脚を食いちぎられた小さなヒスイの姿が浮かび上がる。
私は何をしているんや。私はビアンカやルージュ、仔達、ノワールの主人なんや、何を安全地帯でのほほんと見ているや。私は鷹の目の皆さんの主人なのに、未成年のエマちゃんとテオ君がナイフ振り回して戦っているのに。主人の私が、遠くから見ているだけなんて、いかんやろう。
私が主人なんや、私が皆ば守らんと。
私が、守らんと。私が。私が。私が。私が。
手にしたそれを握り締め、私は飛び出そうとすると、時空神様が立ちはだかる。
「よせ」
「時空神様、私が皆を守らんとッ」
「今のお前は足手まといだ。よせ、そんなに震えて何を言ってる」
そう言って時空神様は私の手にした包丁を取り上げる。
「ヒスイは、ヒスイは、まだ、魔法も使えないんです。まだ、小さいんです」
そう、ヒスイは仔達の中でも初めから小さかった。世話を始めた当初は皿の子猫用のミルクもうまく飲めず、よこからコハクに押し出されていることだってあった。ルリとクリスはすぐに上手に飲めるようになったけど、ヒスイはなかなかうまく行かなかった。そっとコハクを抱えて、ヒスイがゆっくり飲めるようにしたり、栄養ゼリーを多めに舐めさせたり、寒い時は母が襟巻きを真っ先に作ったりした。
ルージュが何よりも心配していた。生後半年の生存率が低い上位魔物であるクリムゾンジャガー。ルージュ自身、他の兄弟達が死んでいるなか、かろうじて生きていた。それをビアンカを産んだ母親が見つけなければそのまま死んでいた。それを身にしみて分かっていたのだ、ヒスイが半年のボーダーを越えた時、ルージュがどれだけ安堵していたか。それでも、いまでも仔達の中では小さい、そして今でもヒスイだけが、属性魔法が覚醒していない。もう、覚醒してもおかしくないのだけど、未だに分かっていない。
時空神様は、困ったやつだな、みたいな顔だ。
「あれから一年が過ぎている。お前はあの2体を信じているのだろう? なら、その娘を信じてやれ」
諭すように言われる。なんだか、時空神様の声が、染み込んでいく。私はやっと冷静になる。包丁を握っていた手の震えがやっと治まる。
窓の外、緑の巣の中も変化が。
ぽこぽこ湧いていたGがぱたりと出なくなる。クイーンの魔力が尽きたか、ビアンカかルージュが仕留めたか。
警戒しているヒスイに向かって、Gがにじりよる。
鷹の目の皆さんは逃げ惑うGを取りこぼしがないようにしている。弓を引いていたホークさんは剣に持ち変えている。逃げ惑うGの対応しているため、コハクとヒスイまでに手が回らない。マデリーンさんは魔力回復ポーションをチュアンさんの影で一気飲み。
晃太は血相を変えてフライパン片手にコハクとヒスイの方に向かう。ミゲル君とエマちゃんとテオ君がフォローに回るが、逃げようとするGになかなか進まない。光のリンゴもどんどん小さくなり、最後の1つが消える。
私はルームから飛び出したいが、時空神様に肩を掴まれ動けない。
ふと、視界の端で、ビアンカとルージュが晃太達を見ている。そう、見ているだけ。なんで?
「これは試練だ」
時空神様が私に諭すように言う。
「あいつらが通り、そして今、あの子供達が通らなくてはならない試練だ」
「試練って、まだ、皆成体にもなっていないのに」
「それだけ厳しいんだ。魔物の世界はな」
人は窮地に立たされた時でも躊躇(ためら)うことがある、そして情がある。例え血生臭い世界とはいえ。相手が小さい子供だったりすると特に。それで痛い目みたりするんだが、魔物はそんなことはない。相手が誰だろうが一切手加減しない。そうしないと生き残れないからだ。それはビアンカもルージュも分かっている。
「だから、今のこの状況を打破するだけの力を身に付けなくてはならない。まあ、見てろ」
視線を戻すと、光のリンゴが2つ、晃太の周りに出現。
Gににじりよられたヒスイは、フシャーッ、となったままだ。
そして、フシャーッ、を連発。
え?
Gの腕が千切れ飛んだ。
え?
G達が次々に体のあちこちが切り裂かれ、悲鳴を上げる。
え?
ヒスイが、フシャーッ、となる度に、Gの体に深いキズができる。
「風の属性魔法だな」
あの小さかったヒスイが。
甘えん坊のヒスイが、スライム部屋ではルージュにべったりだったヒスイが。仔達の中でも、いつも一歩遅れて付いてきたヒスイが。
倒れているコハクの前に立って、フシャーッ、を連発。その白い体には薄いが翠のラインが浮かんでいる。
私は涙が浮かびそうだ。
だが、感傷に浸る暇はない。
フシャーッ、を連発していたヒスイの足元がおかしくなる。必死に踏ん張っているけど、ぐらぐらと揺らぎだした。
魔力が枯渇し始めているんやっ。
それでも、ヒスイは、フシャーッを止めない。
何とか駆け付けようとしている晃太達だが、逃げようとするGが邪魔をしてなかなか進まない。
とうとう、ヒスイが足元から崩れ落ちる。
回りのGはほとんど無事な個体はない。だが、傷ついたGは怒りの表情で体を引きずりながら、倒れたヒスイとコハクに近付く。
今から私が飛び出したくらいでは、どうにもならない。
私の腹の奥が、冷えていく。
晃太が視界の中で、叫んでいる。それに応えて、Gの隙間を縫って走るのは元気だ。おそらく支援を受けているのだろう、まるで飛ぶように跳ねて走っている。いつも飛んだり跳ねたりして、それだけの脚力がある元気が、支援で更なるパワーアップしている。まるで陸上のハードル選手のように元気が駆け抜ける。
元気の登場で、G達が戸惑う。
相変わらず、へっへっ言ってる元気は、倒れたコハクとヒスイをクンクンする。
納得したのか、G達に向き直る。
そして、いつもの調子で、わんわん吼える。
吼えると、いつもなら雷が飛び出すのに、今回は違う。
Gの体がズバズバ切り裂かれていく。ヒスイでは胴体まで真っ二つには出来なかったのに、ズバズバ切り裂かれていく。
え? 確か、元気には雷属性しかなかったはずなのに。
あれは風属性魔法? そうか、ビアンカにはたくさん属性魔法があるからか。え、2つ目の属性魔法覚醒したんだ。
元気がわんわんを連発して、Gが次々に斬り飛ばされていく。うわあ、え、えぐいぃ。
一呼吸空けて、元気が再び吼える。次は地面から細い土の錐が飛び出し、Gの体を貫通。
え、えぐいぃ。いや、違う。元気、まさかまさか。土の魔法まで使ってる? え、いきなり2つも属性魔法覚醒したの? え、これが普通なの? 元気は属性魔法の覚醒が早かったから、他の属性も早く覚醒したのかな? よく分からん。後でビアンカとルージュに聞くしかないけど。
晃太達は、元気のわんわんに巻き込まれそうなので、その場でとどまり展開している。
それから、ほどなくしてやっと動いているGがいなくなった。
私は時空神様からようやく解放されて、ルームを飛び出していった。
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