261 / 876
連載
受けるべき③
25階でもちゅどん、どかん、バキバキ。堆肥になる木葉や、石鹸やオイルになるオリーブ、高級家具や魔法使いの杖に使用される木材沢山ゲット。宝箱も出てきたが、ポーション類がズラリと並んでいたので引き取る。武器以外にも欲しいものができた。マジックバッグだ。現在鷹の目の皆さんでアイテムボックスを保有しているのは、ホークさん、マデリーンさん、テオ君、エマちゃんだ。ただ、サイズが小さいし非常時のポーションや飲料水、非常食、日用品などで一杯一杯だ。出来れば保有していないチュアンさんとミゲル君にはもって欲しい。ないとは思いたいがはぐれたりしたら、食糧とか心配だしね。後は予備の武器類もいる。もし、魔物の体に刺さったまま抜けなかったら、笑えないね。
よし、忘れ物なか。
「さあ、これでよかね。今回はこれで帰るよ」
『ぶーなのです』
『ぶー短いわ』
「ブルブルッ」
「ダメよ。直近の依頼期限があるんやから」
休憩して、出てきた脱出用魔法陣で、ダンジョンを脱出する。
ふう、暑か。
小屋から出ると、警備の人が出迎えてくれる。
「お帰りなさいテイマーさん。お怪我は?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
いい人や。
『ユイ、来るのです』
『いつもの雌よ』
呆れたようなビアンカとルージュ。
「リティアさんたい。もう、リティアさんに色々お世話になっとるんよ」
『あの雌はある意味、根性があるのですが』
『たまに引くような貪欲さがあるのよね』
「こらこら」
そこにリティアさんが華麗にすっ飛んでくる。こんな暑い中お疲れ様です。
「お帰りなさいませ、ミズサワ様」
「はい、今帰りました。一旦子供達をパーティーハウスに戻しても?」
「もちろんでございます」
晃太だけ先にギルドに向かう。チュアンさんとミゲル君が同行する。
私達はぞろぞろとパーティーハウスへ。
母が出迎えてくれる。
「お帰り」
「くうん、くうん、くうーん」
花が私の足元でローリング。あはははん、かわいか、ぽちゃぽちゃボディのかわいかこと。私の手もはみはみ、あはははん、牙の小さかこと。ビアンカのなん十分の1やろうか。
仔達は母にもふもふされてから、パーティーハウスへ。うん、空調効いて涼しい。
「お帰り、どうやったね」
本日休みの父がソファーで駆け寄ってきたルリとクリスを撫で回す。
「大丈夫よ。で、お父さん、鑑定ばして。私、もう大丈夫かね?」
「ちょっと待ってな…………大丈夫や。中毒症完治しとるよ」
「そうね、良かった」
これで問題なくサインと魔力を流せる。晃太とチュアンさんのおかげやね。私はルームを奥の寝室で開けっ放しにして、ビアンカとホークさんでギルドに戻る。
ギルドに入るとルーティーンの様にいつもの応接室に案内される。ドアの外にはチュアンさんとミゲル君が待機している。
応接室にはすでにタージェルさんが、熱心に装飾品を見ている。晃太はアイスティーを飲んでる。ホークさんだけ一緒に入り、ソファーの後ろに立つ。
「ああ、ミズサワ様、お帰りなさいませ。いやあ、いつもいつもミズサワ様がお持ちいただく宝飾品には、心躍らされます」
ニコニコ笑うタージェルさん。
私はソファーに腰かける。
「いつも鑑定ありがとうございます。タージェルさん、実はご相談したいことが」
「お聞きしています。秋のグーテオークションの寄贈でございましたね。このタージェル、老いぼれの目でございますが、マーファ商人ギルドの名に恥じぬ物を選出させていただきます」
「お願いします」
「寄贈は何品までお考えですか? 予算は?」
「そうですね」
うーん。秋のグーテオークションはチャリティー。売り上げは孤児院や無料教室の運転資金になる。出来るだけ提出しよう。だけど、多少は商人ギルドの買い取りに回さないとね。お世話になってるし。
「では、5品、選んで頂けます? 予算とか考えてませんので、タージェルさんのお眼鏡にかなったものをお願いします。おそらくまた上層階に行くので、その時に出た物も、選んで頂けますか?」
「はい、もちろんでございます。ではまずは、こちらのサファイアとダイヤモンドの指輪とピアスを。サファイアの質がかなり上質です。それに品のいいデザインでございます。こちらをまず推させて頂きます」
はい。
次にタージェルさんが選んだのは21階インペリアル・ジェダイトのネクタイピンとカフスのセット。大粒の真珠5粒のセット。23階で出たダイヤモンド。25階で出た真珠のネックレス、ペンダント、指輪、ピアスのセットだ。
「これらは初夏のグーテオークションに出品されても遜色ございません。初夏に参加出来なかった豪商や貴族たちがこぞって求めるでしょう」
そ、そうなの?
「売れます?」
「ギルドの予算を使ってでも競り落としたいくらいですよ。特にダイヤモンドと、このサファイアとダイヤモンドの指輪とピアスは素晴らしいものです」
うっとりと見ているタージェルさん。
「ソウデスカ」
なら、いいや。
「残りは買い取りでよろしいですか?」
「はい、もちろん」
査定は明後日出ると。暑いのに、焼き芋みたいにほくほくとしているタージェルさんが一旦退室して、リティアさんが書類の束を持ちやって来た。なんか、書類、増えてない?
リティアさんが、おほほ。
『相変わらず、見上げた根性なのです』
しー。リティアさんは仕事熱心なだけや。それで、私は依頼を何のトラブルなく受けれているんやから。
「ミズサワ様、いつもいつもありがとうございます。ミズサワ様のおかげで高ランク依頼を捌けます」
「いえいえ。リティアさんにはこちらがお世話になっていますから」
私はベルトコンベアの様に出される書類にサインと魔力を流す。1枚目はリンデン工房だ。
サイン、魔力、サイン、魔力、サイン、魔力。せっせと作業。流れ作業。
私は出された書類にサインをしようとして、止まる。
「ミズサワ様? どうされましたか?」
「あ、いえ、ちょっと」
その依頼書の下には依頼主の名前がある。例えばさっきのリンデン工房なら、リンデン工房 工房主リンデン、みたいな感じね。この書類の依頼主は、サロン・ラファール ナージサ侯爵当主、と。ナージサってあれでしょ、あのおかっぱの家よね? うわあ、どうしよう。サイン躊躇うなあ。でも、頭に浮かんだのはやはり綺麗なエレオノーラ様だ。ご実家が営んでるサロンってことよね? うわあ、どうしよう。それにこのサロンで働いている人達は全く関係ないだろうし。受けなかったら困るだろうし、リティアさんにも申し訳ないし。仕方ない、サイン、するか。気がのらないけど、リティアさんにはお世話になっているし、なんて思っていると、さっ、と書類が引き上げられる。
「申し訳ございません。こちらの配慮が足らずに」
本当に申し訳なさそうなリティアさん。
『嘘ではないのですよ』
分かっておるがな。
「いえ、それサインしますよ」
「ミズサワ様、受理したくない依頼はお断りしていただいても問題はございません」
本来なら何々が欲しいと言う依頼を冒険者が受けて、対応する。中には達成できない時には違約金が発生するが、私の場合はない。
なんせ、大量のドロップ品の中から、依頼が出ている品物と数をギルドがピックアップ。たまにある、依頼が出ているのに、知らずに持ち込む冒険者の為にギルドが柔軟に対応している。私の場合は常にそれをしている状態。なので書類にサインと魔力さえ流さなければ依頼を受けたことにもならず、違約金すら発生しない。
「でも、せっかく選んでもらった依頼ですし」
「ミズサワ様、なんの問題もございません。それにこれは至急の依頼ではございませんし、他の中堅冒険者でも十分対応可能依頼ですので」
あ、そうなの? なら、次回でもいいかな? 大人げないけど、今回見送って、次回でもいいかな?
「では、次回に回します」
「畏まりました。ミズサワ様、確認でございますが、関連の伯爵家からの依頼も次回で?」
「至急のだけ、受けます」
「畏まりました」
リティアさんは、書類の束の中から、ぱぱば、と数枚引き抜く。そんなにあったの? まあ、私が受けなくても大丈夫なら、よかかね。
私は残りの書類にサインと魔力を流した。
数日後。
ギルド所有の宝飾品エリアで、ある工房主が締め出された。と、いうより入れなかった。
ギルドには販売スペースがある。一般人でも気軽に入れるエリアと、ある程度のギルドランクか爵位がなければ入れないエリア、通常宝飾品エリアが。この宝飾品エリアに並ぶ品は、高額な品が多い為、制限をかけられている。そして滅多に開放されない。品数は揃わないと開かれない。高額な品が少ない場合は、ギルドの個室を使用して販売が行われている。なので、滅多に開放されないが、あるテイマーがマーファに来てから数ヶ月おきに開放されるようになった。
「何故ですか? わざわざ首都から来たんですよ」
やや高齢の女性工房主は、馬車に乗りやって来た。宝飾品を手掛ける女性は、自分の品に使用する宝石を自分の目で確認し購入するためにわざわざ来たのだ。あのテイマーがいれば、自分の目にかなう品が手に入る。実際にあのテイマーが回した宝石を人伝に頼んで手にいれたが、すべて上質、いくつの貴婦人達を飾る宝飾品を作ったことか。だから、今回は自分の目で確かめ、納得する物を手にいれたかった。
「申し訳ありませんが、お引き取りください。今回だけはご入場できません」
「理由は? なぜ、私だけ?」
「今回だけですので、次回からご参加ください」
「だから、どうしてっ?」
女性工房主は、いい募る。わざわざ首都から、痛い腰を庇いながら来たのだ。
「本当にお分かりになりませんか?」
対応した職員、タージェルと名乗った男が、穏やか顔をしながら、目には軽蔑の色を浮かべている。
「私は宝飾職人として誇りを持っています。このような扱いを受ける覚えはありません」
女性工房主ははっきりいい放つ。
「確かに、貴女の職人としての技術も、数多くの弟子を独り立ちさせた実績も素晴らしい。ただ、今回だけは、ご入場できません」
タージェルは折れない。そして息をつく。
「少し話を聞かれたらどうですか? お宅のオーナーのご息女に」
一瞬、何の事か分からない様子の女性工房主は、直ぐに思い当たったようで苦虫を噛み潰したような顔になる。
「今回だけですので、どうかご理解ください。次回よりお待ちしております」
丁寧に挨拶をするタージェル。女性工房主は引き下がるしかなかった。
仕方なく宿に引き上げている途中で、シェフの格好した中年男性が、ギルド職人にいい募っている。
「何故ですか、何故うちのサロンの依頼だけ、受理されてもいないんですか? あのテイマーさんが数日前にダンジョンから帰って来ているのは知っているんですよ。いつもなら、すぐに受理してくれるはずなのに」
そのシェフの制服の腕に刺繍された紋章を見て、女性工房主は思い出す。
(オーナーのバカ娘の悪友の家じゃないか? また何かやらかしたんだね)
女性工房主は嫌な予感がした。そこで、女性工房主は女性ギルド職人の口撃に、返す言葉もなく肩を落としたシェフを、ギルドから出た時に捕まえた。
そして聞いた、マーファで起きたテイマーの悪評騒ぎを。その渦中にいる1人が、自分のオーナーのバカ娘だと。
「あのテイマーさんは上層階のドロップ品を回してくれたから助かっていたんだ。どうしても乳製品を切らしたくなくて………」
シェフは肩を落とす。乳製品には消費期限がある。元々上層階の乳製品は手に入りにくい。だが、やはり質は断然に良い。高級サロンとしては、常に切らしたくないものだ。そのサロンのオーナーも渦中にいる1人の家だ。
「やはり怒っているんだな。いまさら虫のいい話だよな。今回だけと、聞いたが、本当にそうだろうか?」
「どうだろうね。私も次回なんて言われたけどね。ああ、困った。どうしてもメインにつかう真珠が欲しかったんだけどねえ」
ため息が同時に出る。
次回と言われたが、いつかは分からない。あのテイマーが次にいつ冷蔵庫ダンジョンに潜るか分からないし、長期になれば1ヶ月以上先になる可能性もある。女性工房主は、そんなにマーファに滞在できない。今回マーファの商人ギルド所有の宝飾品エリア解放に合わせて来たのだ。次回の予定は未定としか聞いてない。
ため息が出る。
「どうするんですか?」
シェフが聞いてくる。
「今回は帰るしかない。工房をそんなに空けていられないし」
いくつも出るため息、キリがない。
「だけどオーナーには言わせてもらうよ。あのバカ娘をどうにかしろってね」
「そうですか。良かったら明日首都への転移がされるんです、手紙くらいならうちの荷物に入れられますよ。どうせ、本店に書類をださなきゃならないし」
「それは有難いです。是非ともお願いします」
よし、忘れ物なか。
「さあ、これでよかね。今回はこれで帰るよ」
『ぶーなのです』
『ぶー短いわ』
「ブルブルッ」
「ダメよ。直近の依頼期限があるんやから」
休憩して、出てきた脱出用魔法陣で、ダンジョンを脱出する。
ふう、暑か。
小屋から出ると、警備の人が出迎えてくれる。
「お帰りなさいテイマーさん。お怪我は?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
いい人や。
『ユイ、来るのです』
『いつもの雌よ』
呆れたようなビアンカとルージュ。
「リティアさんたい。もう、リティアさんに色々お世話になっとるんよ」
『あの雌はある意味、根性があるのですが』
『たまに引くような貪欲さがあるのよね』
「こらこら」
そこにリティアさんが華麗にすっ飛んでくる。こんな暑い中お疲れ様です。
「お帰りなさいませ、ミズサワ様」
「はい、今帰りました。一旦子供達をパーティーハウスに戻しても?」
「もちろんでございます」
晃太だけ先にギルドに向かう。チュアンさんとミゲル君が同行する。
私達はぞろぞろとパーティーハウスへ。
母が出迎えてくれる。
「お帰り」
「くうん、くうん、くうーん」
花が私の足元でローリング。あはははん、かわいか、ぽちゃぽちゃボディのかわいかこと。私の手もはみはみ、あはははん、牙の小さかこと。ビアンカのなん十分の1やろうか。
仔達は母にもふもふされてから、パーティーハウスへ。うん、空調効いて涼しい。
「お帰り、どうやったね」
本日休みの父がソファーで駆け寄ってきたルリとクリスを撫で回す。
「大丈夫よ。で、お父さん、鑑定ばして。私、もう大丈夫かね?」
「ちょっと待ってな…………大丈夫や。中毒症完治しとるよ」
「そうね、良かった」
これで問題なくサインと魔力を流せる。晃太とチュアンさんのおかげやね。私はルームを奥の寝室で開けっ放しにして、ビアンカとホークさんでギルドに戻る。
ギルドに入るとルーティーンの様にいつもの応接室に案内される。ドアの外にはチュアンさんとミゲル君が待機している。
応接室にはすでにタージェルさんが、熱心に装飾品を見ている。晃太はアイスティーを飲んでる。ホークさんだけ一緒に入り、ソファーの後ろに立つ。
「ああ、ミズサワ様、お帰りなさいませ。いやあ、いつもいつもミズサワ様がお持ちいただく宝飾品には、心躍らされます」
ニコニコ笑うタージェルさん。
私はソファーに腰かける。
「いつも鑑定ありがとうございます。タージェルさん、実はご相談したいことが」
「お聞きしています。秋のグーテオークションの寄贈でございましたね。このタージェル、老いぼれの目でございますが、マーファ商人ギルドの名に恥じぬ物を選出させていただきます」
「お願いします」
「寄贈は何品までお考えですか? 予算は?」
「そうですね」
うーん。秋のグーテオークションはチャリティー。売り上げは孤児院や無料教室の運転資金になる。出来るだけ提出しよう。だけど、多少は商人ギルドの買い取りに回さないとね。お世話になってるし。
「では、5品、選んで頂けます? 予算とか考えてませんので、タージェルさんのお眼鏡にかなったものをお願いします。おそらくまた上層階に行くので、その時に出た物も、選んで頂けますか?」
「はい、もちろんでございます。ではまずは、こちらのサファイアとダイヤモンドの指輪とピアスを。サファイアの質がかなり上質です。それに品のいいデザインでございます。こちらをまず推させて頂きます」
はい。
次にタージェルさんが選んだのは21階インペリアル・ジェダイトのネクタイピンとカフスのセット。大粒の真珠5粒のセット。23階で出たダイヤモンド。25階で出た真珠のネックレス、ペンダント、指輪、ピアスのセットだ。
「これらは初夏のグーテオークションに出品されても遜色ございません。初夏に参加出来なかった豪商や貴族たちがこぞって求めるでしょう」
そ、そうなの?
「売れます?」
「ギルドの予算を使ってでも競り落としたいくらいですよ。特にダイヤモンドと、このサファイアとダイヤモンドの指輪とピアスは素晴らしいものです」
うっとりと見ているタージェルさん。
「ソウデスカ」
なら、いいや。
「残りは買い取りでよろしいですか?」
「はい、もちろん」
査定は明後日出ると。暑いのに、焼き芋みたいにほくほくとしているタージェルさんが一旦退室して、リティアさんが書類の束を持ちやって来た。なんか、書類、増えてない?
リティアさんが、おほほ。
『相変わらず、見上げた根性なのです』
しー。リティアさんは仕事熱心なだけや。それで、私は依頼を何のトラブルなく受けれているんやから。
「ミズサワ様、いつもいつもありがとうございます。ミズサワ様のおかげで高ランク依頼を捌けます」
「いえいえ。リティアさんにはこちらがお世話になっていますから」
私はベルトコンベアの様に出される書類にサインと魔力を流す。1枚目はリンデン工房だ。
サイン、魔力、サイン、魔力、サイン、魔力。せっせと作業。流れ作業。
私は出された書類にサインをしようとして、止まる。
「ミズサワ様? どうされましたか?」
「あ、いえ、ちょっと」
その依頼書の下には依頼主の名前がある。例えばさっきのリンデン工房なら、リンデン工房 工房主リンデン、みたいな感じね。この書類の依頼主は、サロン・ラファール ナージサ侯爵当主、と。ナージサってあれでしょ、あのおかっぱの家よね? うわあ、どうしよう。サイン躊躇うなあ。でも、頭に浮かんだのはやはり綺麗なエレオノーラ様だ。ご実家が営んでるサロンってことよね? うわあ、どうしよう。それにこのサロンで働いている人達は全く関係ないだろうし。受けなかったら困るだろうし、リティアさんにも申し訳ないし。仕方ない、サイン、するか。気がのらないけど、リティアさんにはお世話になっているし、なんて思っていると、さっ、と書類が引き上げられる。
「申し訳ございません。こちらの配慮が足らずに」
本当に申し訳なさそうなリティアさん。
『嘘ではないのですよ』
分かっておるがな。
「いえ、それサインしますよ」
「ミズサワ様、受理したくない依頼はお断りしていただいても問題はございません」
本来なら何々が欲しいと言う依頼を冒険者が受けて、対応する。中には達成できない時には違約金が発生するが、私の場合はない。
なんせ、大量のドロップ品の中から、依頼が出ている品物と数をギルドがピックアップ。たまにある、依頼が出ているのに、知らずに持ち込む冒険者の為にギルドが柔軟に対応している。私の場合は常にそれをしている状態。なので書類にサインと魔力さえ流さなければ依頼を受けたことにもならず、違約金すら発生しない。
「でも、せっかく選んでもらった依頼ですし」
「ミズサワ様、なんの問題もございません。それにこれは至急の依頼ではございませんし、他の中堅冒険者でも十分対応可能依頼ですので」
あ、そうなの? なら、次回でもいいかな? 大人げないけど、今回見送って、次回でもいいかな?
「では、次回に回します」
「畏まりました。ミズサワ様、確認でございますが、関連の伯爵家からの依頼も次回で?」
「至急のだけ、受けます」
「畏まりました」
リティアさんは、書類の束の中から、ぱぱば、と数枚引き抜く。そんなにあったの? まあ、私が受けなくても大丈夫なら、よかかね。
私は残りの書類にサインと魔力を流した。
数日後。
ギルド所有の宝飾品エリアで、ある工房主が締め出された。と、いうより入れなかった。
ギルドには販売スペースがある。一般人でも気軽に入れるエリアと、ある程度のギルドランクか爵位がなければ入れないエリア、通常宝飾品エリアが。この宝飾品エリアに並ぶ品は、高額な品が多い為、制限をかけられている。そして滅多に開放されない。品数は揃わないと開かれない。高額な品が少ない場合は、ギルドの個室を使用して販売が行われている。なので、滅多に開放されないが、あるテイマーがマーファに来てから数ヶ月おきに開放されるようになった。
「何故ですか? わざわざ首都から来たんですよ」
やや高齢の女性工房主は、馬車に乗りやって来た。宝飾品を手掛ける女性は、自分の品に使用する宝石を自分の目で確認し購入するためにわざわざ来たのだ。あのテイマーがいれば、自分の目にかなう品が手に入る。実際にあのテイマーが回した宝石を人伝に頼んで手にいれたが、すべて上質、いくつの貴婦人達を飾る宝飾品を作ったことか。だから、今回は自分の目で確かめ、納得する物を手にいれたかった。
「申し訳ありませんが、お引き取りください。今回だけはご入場できません」
「理由は? なぜ、私だけ?」
「今回だけですので、次回からご参加ください」
「だから、どうしてっ?」
女性工房主は、いい募る。わざわざ首都から、痛い腰を庇いながら来たのだ。
「本当にお分かりになりませんか?」
対応した職員、タージェルと名乗った男が、穏やか顔をしながら、目には軽蔑の色を浮かべている。
「私は宝飾職人として誇りを持っています。このような扱いを受ける覚えはありません」
女性工房主ははっきりいい放つ。
「確かに、貴女の職人としての技術も、数多くの弟子を独り立ちさせた実績も素晴らしい。ただ、今回だけは、ご入場できません」
タージェルは折れない。そして息をつく。
「少し話を聞かれたらどうですか? お宅のオーナーのご息女に」
一瞬、何の事か分からない様子の女性工房主は、直ぐに思い当たったようで苦虫を噛み潰したような顔になる。
「今回だけですので、どうかご理解ください。次回よりお待ちしております」
丁寧に挨拶をするタージェル。女性工房主は引き下がるしかなかった。
仕方なく宿に引き上げている途中で、シェフの格好した中年男性が、ギルド職人にいい募っている。
「何故ですか、何故うちのサロンの依頼だけ、受理されてもいないんですか? あのテイマーさんが数日前にダンジョンから帰って来ているのは知っているんですよ。いつもなら、すぐに受理してくれるはずなのに」
そのシェフの制服の腕に刺繍された紋章を見て、女性工房主は思い出す。
(オーナーのバカ娘の悪友の家じゃないか? また何かやらかしたんだね)
女性工房主は嫌な予感がした。そこで、女性工房主は女性ギルド職人の口撃に、返す言葉もなく肩を落としたシェフを、ギルドから出た時に捕まえた。
そして聞いた、マーファで起きたテイマーの悪評騒ぎを。その渦中にいる1人が、自分のオーナーのバカ娘だと。
「あのテイマーさんは上層階のドロップ品を回してくれたから助かっていたんだ。どうしても乳製品を切らしたくなくて………」
シェフは肩を落とす。乳製品には消費期限がある。元々上層階の乳製品は手に入りにくい。だが、やはり質は断然に良い。高級サロンとしては、常に切らしたくないものだ。そのサロンのオーナーも渦中にいる1人の家だ。
「やはり怒っているんだな。いまさら虫のいい話だよな。今回だけと、聞いたが、本当にそうだろうか?」
「どうだろうね。私も次回なんて言われたけどね。ああ、困った。どうしてもメインにつかう真珠が欲しかったんだけどねえ」
ため息が同時に出る。
次回と言われたが、いつかは分からない。あのテイマーが次にいつ冷蔵庫ダンジョンに潜るか分からないし、長期になれば1ヶ月以上先になる可能性もある。女性工房主は、そんなにマーファに滞在できない。今回マーファの商人ギルド所有の宝飾品エリア解放に合わせて来たのだ。次回の予定は未定としか聞いてない。
ため息が出る。
「どうするんですか?」
シェフが聞いてくる。
「今回は帰るしかない。工房をそんなに空けていられないし」
いくつも出るため息、キリがない。
「だけどオーナーには言わせてもらうよ。あのバカ娘をどうにかしろってね」
「そうですか。良かったら明日首都への転移がされるんです、手紙くらいならうちの荷物に入れられますよ。どうせ、本店に書類をださなきゃならないし」
「それは有難いです。是非ともお願いします」
あなたにおすすめの小説
「三番以下を取りなさい」と五年言われ続けたので、公開試験で本気を出しました
歩人
ファンタジー
王立魔法学院、入学時首席のリュシエンヌは、婚約者レイナルト公爵令息から五年間「女は三番以下を取れ」と命じられてきた。学院の序列は国家序列の縮図。レイナルトは常に一位に居続けた。婚約披露を控えた十九歳の春、レイナルトが新しい婚約者を連れて告げる。「お前では並び立てぬ。学力も身分も、足りなすぎる」——リュシエンヌは微笑んで、その翌日の年次公開試験で、五年封じてきた本気を出した。国王臨席の場で、史上最高点。魔法局長官が教授陣に命じる。「過去五年間の彼女の実測点と、もし本気で受けていたら出せた推計点を、公表したまえ」。教授陣は震える手で数字を並べた。レイナルトの「首席」は、全て彼女が譲った場所だった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
夫の不倫相手に「妻の座を譲れ」と言われたので、譲る代わりに全部置いていきます 〜行き先は老舗旅館。追いかけてきても、もう遅いです〜
なつめ
恋愛
夫の愛人に「妻の座を譲れ」と言い渡された主人公は、怒鳴り返すこともしがみつくこともせず、ただ静かに頷いた。
家のこと、食事のこと、社交のこと、義実家のこと、会社の裏方のこと。 誰も価値を知らなかった“妻の座”の中身を、そっくりそのまま置いて家を出る。
向かった先は、かつて傷ついた自分を受け入れてくれた老舗旅館。 再建に奔走する若旦那とともに働く中で、主人公は初めて「役に立つから愛される」のではなく、「あなた自身がいてほしい」と言われる温かさを知っていく。
一方、主人公を軽んじた元夫の家では、生活も体裁も仕事もじわじわと崩壊を始める。 これは、何も持たずに出ていったはずの女が、自分の人生を取り戻し、最後には新しい恋と居場所を手に入れる再生の物語。
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
夫が私にそっくりな下の娘ばかりをかわいがるのですけど!
山科ひさき
恋愛
「子供達をお願い」 そう言い残して、私はこの世を去った。愛する夫が子供達に私の分も愛情を注いでくれると信じていたから、不安はなかった。けれど死後の世界から見ている夫は下の娘ばかりをかわいがり、上の娘をないがしろにしている。許せない。そんな時、私に不思議な声が呼びかけてきて……。
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」と追放された令嬢——王宮の食器が一枚も焼けなくなった
歩人
ファンタジー
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」——王宮御用達の食器を焼く伯爵令嬢エルザは、婚約者の第二王子に手の荒れを嗤われて追放された。十二歳から十年間、王宮の全ての食器を手ずから焼いてきた。彼女の食器は特殊な土と焼成技術で魔力を通し、毒に触れると色が変わる。料理の温度も保つ。追放から三ヶ月後、晩餐会で新しい食器を使ったところ、毒が検知されず隣国の大使が倒れた。外交問題に発展する中、第二王子が「食器くらい誰でも焼ける」と窯に立った結果、出来上がったのは歪んだ灰色の皿だった。
元の世界に帰らせていただきます!
にゃみ3
恋愛
淡い夢物語のように、望む全てが叶うとは限らない。
そう分かっていたとしても、私は敵ばかりの世界で妬まれ、嫌われ、疎まれることに、耐えられなかったの。
「ごめんね、バイバイ……」
限界なので、元いた世界に帰らせていただきます。
・・・
数話で完結します、ハピエン!
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※