もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
278 / 876
連載

秋のグーテオークション③

「ミズサワ殿、彼を借りても?」
 ゲストハウスに到着して、サエキ様が私にお願いを。
「ホークさん、をですか?」
 ちらり、と視線を流す。大丈夫です、と返事あり。
 サエキ様がホークさんを連れて少し離れる。なんやろ? 聞いたらダメよね。
 
「さて、よろしいですか? 発言を許します」
「ありがとうございます」
「これから、君にいくつかの確認と注意点を伝えます」
「はい」
 ホークは緊張した面持ちで、サエキの問いに答える。今は引退したが、ダイチ・サエキの冒険者ランクはSS。この冒険者ランクを得たのはこの大陸の歴史上たった3人。ユリ・サエキと行動を共にしていた剣聖、冒険者ギルドの基礎を築いたエルフの魔法剣士。そしてたった1人、SSSランクは、初代冒険者ギルドマスターを勤めた勇者だ。勇者は剣聖や聖女、大賢者達と共に、まとまりのなかった冒険者ギルドをまとめあげた。その勇者達との面識を持ち、優れた冒険者であったダイチ・サエキは、元にはなるが、唯一生存しているSSランクの冒険者で、ホークにしたら雲の上の人だ。
 緊張する。
「対人戦の経験は?」
「あります。見習い以外は全員」
「相手に躊躇う理由は?」
「ありません」
 ホークははっきり答える。冒険者が魔物だけを相手にしているわけではない。盗賊や追い剥ぎ、少なくないが接触している。その時、嫌と言うほど身に染みた。やつらを許すな、逃がすな、情をかけるな、と。やつらがいままでしでかした事は、必ず血が流れ、力ない人達の命が奪われ、無慈悲さに涙を流す。
 見てきた、そうやって力なく失われていく命を。
「そうですか、ならよろしいでしょう」
 ホークの面構えに、サエキは安心する。
「おそらくフェリアレーナ様の護衛として合流すれば、対人戦は避けられない。彼女がそれに耐えきるものだと思いますか?」
「いいえ」
 ホークは首を振る。
「ユイさん、主人の性格なら、襲撃犯でも救命するために尽力しそうです。その前に、人に襲われたら、主人は自身を守るための対応ができるかと言われたらですが、微妙です。もし、誰かが倒れていたら、その誰かを守りに走りそうです。そして目の前で、誰かが命を落としたら、一生主人は己を責めて、立ち上がれない可能性もあります」
 優衣は、ホークとエマを救おうとして、中毒死寸前まで自分を追い詰めた。あの時、晃太の支援、チュアンの迅速な処置と解毒魔法、そして時空神による中和がなければ、命を落としていたはずだ。優衣はそこまでしてホークとエマを助けた。理由はなんてことない、優衣は言った、知らん顔できなかったと。ただ、それだけ。優衣は目の前で命が故意に消えそうになっていれば、絶対にどうにかしようとするはず。対人戦は故意に命が消えていく、以前聞いた優衣が勤めていた治療院のように死を迎え入れるとは訳が違う。その治療院では最後の時を家族が受け入れられるように、環境を整えるのが仕事の一つだと聞いた。それだけ消えていく命に対して大切に、そして真摯に対応していたと感じたホークは、優衣が今回おそらく遭遇する対人戦で、ショックを受けないか心配している。そして、同行するはずの晃太もだ。晃太に関してはまだホークは掴みかねているが、とにかく真面目な男だと言うことだ。ゴブリンの巣の後、熱心に訓練している姿を見ているからだ。あの時、ヒスイとコハクを助けに走れず、結局元気に任せるしかなかった。晃太は何も語らないが悔いているのを、ホークは分かっている。それは姉の優衣もだ。それに、優衣の弟だ、命に対しては同じ様に考えている可能性がある。
 優衣が義理固いことは、ギルドでリティアとの会話で、すでに理解している。ギルドの都合で、冷蔵庫ダンジョンに何階から挑むか決めていたのを見て。
「そうですか」
 サエキはため息をつく。
「彼女のこれまでの行動を聞いていると、そうではないかと思いましたが。対人戦となれば、はっきり言って足手まといですね。従魔だけで、援護に行かせるような事になりませんか?」
 ホークは考える。
「おそらく怪我人がいる可能性があると、付いてくると思います。自分からも残るように言ってみますが。責任感のある人です。今回はサエキ様からのお願いですし、何より恩義を感じているハルスフォン様に恩を返せますし、エレオノーラ様自身から直接お願いされています。ビアンカさんとルージュさんだけ先に行かせたとしても、後から付いてくると思います」
 今回の件で、ホークは優衣と話をした。対人戦の時は、安全地帯で待機できないか、と。だが、優衣はホークが言ったようにサエキやエレオノーラから依頼されたこと、おそらく怪我人が出るのに、何もしないわけにはいかないと答えている。それに、ビアンカとルージュを行かせるなら、主人である自分が行かないと後々トラブルにならないか心配している。ダンジョン内やゴブリンの巣の場合とは違うからと。
「うむ、そうですか。頼んだ手前もありますが、彼女がショックを受けて今後に支障がないか心配しているんですがね。本来の冒険者なら、必ず遭遇し、乗り越えなければならない問題ですが、彼女はそうではありませんし。一番は、彼女が君の忠告を聞いて、後方に控えてくれることですが。もし、無理なら、確か彼女の弟は支援魔法が使えましたね?」
「はい」
「もし、闇魔法の支援が使えるなら、限界ギリギリまで支援をするように伝えてください。多少はまし、ないよりましになるはず」
「分かりました」
 ふう、とサエキは息をつく。
「それでもトラウマになる可能性が高い。ですから、君もフォローしてください。身近にいて、彼女を理解し、言葉でフォローできるのは君でしょうから」
「できる限りの事はします」
「頼みますね。後、もう一つ、これはおそらく接触しないでしょうが」
 含みを持たせてサエキが続ける。
「マーファで、貴族籍の女性達に絡まれましたね」
「はい」
「うち、一人が暴走しています」
 サエキはため息。
「闇ギルドに彼女を強姦するように依頼しました」
 音を立てて、ホークの額に青筋が浮かぶ。
「まあ、闇ギルドもバカではありません。相手にもしなかった。もともと浮気調査や身辺調査を主にしていた闇ギルド。彼女があの従魔を従えたテイマーだからではない、誰かを故意に傷つけるのは、自分達のポリシーではないと、ね。それで諦めたら良かったのですが」
 更にため息をつき続けるサエキ。闇ギルドと言ってもぴんきり。サエキの言うように、浮気調査や身辺調査等ちょっと頼みにくい事をこなす所もあれば、金さえ払えば、何でもやる所もある。
「悪いことに、別の手段を考えていたのを、質の悪い別の闇ギルドが目をつけたんです」
「その手段とは?」
 ホークの声が落ち着いているようで、地を這うように低い。
「彼女の両親を殺せ、と」
 マーファに残っているのは、還暦を越えた優衣の両親。自分達を温かく受け入れてくれ、エマとテオをまるで孫のように可愛がってくれる龍太と景子。優しい優衣と真面目な晃太を生み育んだ両親。その両親に何かあれば、優衣と晃太は対人戦どころのショックではないはず。冷静を保っていたつもりのホークの形相が、サエキを前にしても変わる。
「こちらも黙っていません。これを機にその闇ギルドを叩きます。今まで尻尾を掴めなかったのですがね、暴走した一人のお陰でボロが出ました。もちろん、彼女の両親の護衛に信頼できる冒険者をマーファに向かわせました。今頃御用聞きとして、周囲を探っているはず。彼女がマーファに帰る前には始末しているでしょう。彼女の両親に、悟られることなく。ですから、君には情報だけ流します。くれぐれも彼女に悟られないように」
「承知しました」
 サエキの話で、ホークの表情が落ち着いてくる。
「その護衛には、君の事だけ伝えています。すべて終わっていれば接触してきます。暗号とかはありませんが、勘づいてください」
「はい。その冒険者とはどなたですか?」
「ああ、それは………」

 優衣達が首都に出発して、数日後、御用聞きが交代した。
 初日、挨拶に来たのは以前も御用聞きをした『ルベル・アケル』だった。
「今日から御用聞きの『ルベル・アケル』です」
 フォリアが共に来たセーシャと挨拶する。顔見知りが御用聞きになり、安心した様子の龍太と景子。だが、景子の足元をすり抜けた花が、けたたましく吠える。
「こら、花」
 景子が花を抱える。花は鼻からふしゅふしゅと鼻息を出す。
「リュウタさん、ケイコさん。今回、御用聞きを共にされる方です」
 フォリアが後ろにいた人物に合図を送る。
「お初にお目にかかります」
 そう言って進み出たのは、背の高い、金属の鎧を纏った男性。
「この度、御用聞きをさせていただきます、フェリクスと申します」
 胸に手を当て、丁寧に会釈した。
 花が再びけたたましく吠えた。
感想 851

あなたにおすすめの小説

「三番以下を取りなさい」と五年言われ続けたので、公開試験で本気を出しました

歩人
ファンタジー
王立魔法学院、入学時首席のリュシエンヌは、婚約者レイナルト公爵令息から五年間「女は三番以下を取れ」と命じられてきた。学院の序列は国家序列の縮図。レイナルトは常に一位に居続けた。婚約披露を控えた十九歳の春、レイナルトが新しい婚約者を連れて告げる。「お前では並び立てぬ。学力も身分も、足りなすぎる」——リュシエンヌは微笑んで、その翌日の年次公開試験で、五年封じてきた本気を出した。国王臨席の場で、史上最高点。魔法局長官が教授陣に命じる。「過去五年間の彼女の実測点と、もし本気で受けていたら出せた推計点を、公表したまえ」。教授陣は震える手で数字を並べた。レイナルトの「首席」は、全て彼女が譲った場所だった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

夫の不倫相手に「妻の座を譲れ」と言われたので、譲る代わりに全部置いていきます 〜行き先は老舗旅館。追いかけてきても、もう遅いです〜 

なつめ
恋愛
夫の愛人に「妻の座を譲れ」と言い渡された主人公は、怒鳴り返すこともしがみつくこともせず、ただ静かに頷いた。 家のこと、食事のこと、社交のこと、義実家のこと、会社の裏方のこと。 誰も価値を知らなかった“妻の座”の中身を、そっくりそのまま置いて家を出る。 向かった先は、かつて傷ついた自分を受け入れてくれた老舗旅館。 再建に奔走する若旦那とともに働く中で、主人公は初めて「役に立つから愛される」のではなく、「あなた自身がいてほしい」と言われる温かさを知っていく。 一方、主人公を軽んじた元夫の家では、生活も体裁も仕事もじわじわと崩壊を始める。 これは、何も持たずに出ていったはずの女が、自分の人生を取り戻し、最後には新しい恋と居場所を手に入れる再生の物語。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

夫が私にそっくりな下の娘ばかりをかわいがるのですけど!

山科ひさき
恋愛
「子供達をお願い」 そう言い残して、私はこの世を去った。愛する夫が子供達に私の分も愛情を注いでくれると信じていたから、不安はなかった。けれど死後の世界から見ている夫は下の娘ばかりをかわいがり、上の娘をないがしろにしている。許せない。そんな時、私に不思議な声が呼びかけてきて……。

「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」と追放された令嬢——王宮の食器が一枚も焼けなくなった

歩人
ファンタジー
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」——王宮御用達の食器を焼く伯爵令嬢エルザは、婚約者の第二王子に手の荒れを嗤われて追放された。十二歳から十年間、王宮の全ての食器を手ずから焼いてきた。彼女の食器は特殊な土と焼成技術で魔力を通し、毒に触れると色が変わる。料理の温度も保つ。追放から三ヶ月後、晩餐会で新しい食器を使ったところ、毒が検知されず隣国の大使が倒れた。外交問題に発展する中、第二王子が「食器くらい誰でも焼ける」と窯に立った結果、出来上がったのは歪んだ灰色の皿だった。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。