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カルーラへ⑥
ご指摘ありがとうございます
マデリーンさんに上半身を預けてじっとしている女性騎士に駆け寄る。早速父が鑑定を始める。
「脊髄かね?」
「そうやな。ここらへんの脊髄がダメになっとる。他の骨折は治っとるし、内臓の損傷も軽微や。安静にして自然回復に任せてもよかろうが、もう歩行不能や」
さあ、再び女性騎士の顔に絶望が浮かぶ。
「エリクサーならなんとなるよね?」
私はアイテムボックスから下級エリクサーを取り出す。現状最も簡単で確実な治療だろう。
「そうやな。それなら一発でどうにかなるな」
鑑定SSSのお墨付きあり。
女性騎士は私と父の会話にやや付いていけてない。
私は女性騎士と向き合う。
「これは下級エリクサーです」
エリクサーと呟く女性騎士が、ごくりと喉を鳴らす。だが、直ぐに顔を横に降る。
「とても私の蓄えではお支払いできる物じゃありません」
あ、やっぱり。下級エリクサー、下取り価格600万。販売価格はもっとするはず。600万。マーファなら小さな部屋を借りて、公衆浴場に通い、私1人なら働かず、3年は生きていける額。
女性騎士の目に、涙が浮かびそう。近くにいた若い騎士も心配そうだ。
「では、次の手段を考えましょう。お父さん、何かない? 治療法」
「そうやなあ……………再生魔法か、ドラゴンの骨のポーションやなあ」
「どっちも無理ですっ」
悲鳴のような声を上げる女性。再生魔法って確か首都でお会いした、枢機卿と極右派の聖女のみで、こちらも高額。ドラゴンのポーション。最後に獲たのはレッサードラゴンで、おそらくそれで出来たポーションはすでに販売されて残っていないはず。どっちも高級なはず。まだ、ドラゴンのポーションの方が手に入れやすい額だろうが、ものがない。
父はうんうん唸りながら鑑定している。
「ねえ、お父さん」
「ん?」
私はある可能性を示す。
「チュアンさんの治療魔法でどうにかならん?」
聞いて一番びっくりはチュアンさん。珍しく動揺している。
「無理やな、チュアンさんの治療魔法レベルやと無理やな」
ばっさり。言われたチュアンさんは安心したような、がっかりしたような顔。
「もしよ。晃太が限界ギリギリまで支援して、晃太のイヤーカフを着けて、お父さんの鑑定を使いながら、局所的に治療魔法をかけたら、どう?」
そう、薬は使い方次第のように、魔法も使い方次第のはず。大きなキズをカバーするように治療魔法をかけるのでなく、一点、それも損傷箇所のみに、精度を上げた治療魔法をかけたら、と、思って。
父が難しい顔。
「……………そうやな、チュアンさんの魔力と集中力次第やな」
「その役目、どうか私にやらせてください」
チュアンさんが進み出る。さっきまでのなんともどっち付かずの顔やったのに、気合いが漲っている。
「どうされます。今、私が提供できるのはこの下級エリクサー。そして、彼の治療魔法です」
勿論、父の鑑定と晃太の支援がないと無理だけど。
「……………………治療魔法をお願いします」
「分かりました。チュアンさんの魔力の回復具合で直ぐにしましょう。晃太、あんたも魔力回復させて、ギリギリまで支援よ」
「ん」
晃太が魔力回復ポーションを飲む間に、流れを説明する。
まずは晃太が支援魔法をギリギリまでかけてから、チュアンさんにイヤーカフと、魔力消費軽減の指輪を渡す。それから治療開始や。父にはピンポイントに魔法がいくように常に指示を出してもらう。
チュアンさんにはビアンカの魔力回復の指輪も持たせる。これでかなり回復するはず。
よし、今、出来ることや。
回復の間、走り回ったビアンカやルージュ、ノワール、仔達に水分補給させる。
結局、母が馬車から降りてる。仔達のばあば攻撃に耐えきれずに。
「よしよし、頑張ったね~」
「わうん、わうん」
「がうぅ」
『ばあば~』
『るり、おなかへっちゃ~』
『くりちゅも、ばーば~』
よしよし。花は母の抱っこひものなかだ。
『ユイ、私も頑張ったのですぅ~』
『エビ~』
「はいはい、分かっとるよ。今日は無理やけど、明日たっぷりね」
おそらく今日、カルーラの街に入れないと思うし。これから治療して移動するなら、皆さんの体力がもたないはず。なら、途中で夜営するはず。ホークさんに聞いたら、おそらくそうなるでしょうと。私は迫るデカイ鼻面を押し返す。
「明日なら、たっぷりケーキも付けるよ」
『なら我慢するのです。果実がたっぷり乗ったやつなのですよ』
『私はパリパリの皮に果実を包んだのね』
「はいはい」
さて、そろそろいいかな?
「チュアンさん、大丈夫ですか?」
「はい」
「すみません、チュアンさんの了承を得ずに治療魔法を使わせることになって」
「いいえ、ユイさん。私はユイさんの戦闘奴隷です。ユイさんの望むことをするのが、私の役割です」
「ありがとうございます」
チュアンさんの気持ちが嬉しい。晃太がギリギリまで支援をしていると、パーヴェルさんが数人を連れてやって来た。
「グラメ、どうなっている?」
パーヴェルさんは付き添っている若い騎士に声をかける。
「パメラさんを今から治療だそうです」
グラメさんは、若い騎士で、パメラさんは女性騎士ね。今さらだ。
「治療?」
パーヴェルさんは首を傾げる。
「ケガは見えんが……………」
「脊髄という骨を損傷しています。これは上級ポーションでは治療不可ですので、別の手段を取ります」
私が説明している間に、晃太は身に付けているイヤーカフと指輪をチュアンさんに渡す。パーヴェルさんは更に首を傾げる。
「お父さん、お願い」
「ん」
父のスタンバイオッケー。
チュアンさんはパメラさんを挟んで座る。私は父の横で向き合う形。
「パメラさん、今から治療を始めます」
「はい」
「チュアンさん。チュアンさんが治すのは、脊髄です。この辺りの」
父がパメラさんのお腹を示す。
「脊髄の果たす役割は?」
「体を支える支柱のようなものです」
チュアンさんが答える。
「そうです。そして役割はまだあります。神経を身体のすみずみまで流すことです」
「しんけい?」
「私達のように脊髄を持つ生き物すべてが当てはまります。神経とは身体の動作の指示を与え、私達はそれで体を動かしています。私達が頭でじっくり考えるよりも早く伝達し、指示を出しています。脊髄はここからここ」
私は自分の顎下から下腹部まで示す。
「パメラさんの場合、馬の下敷きになったことで脊髄にまでダメージがいっています。骨折自体は治っても、神経回路の受けたダメージまではポーションでは回復不可能です。パメラさんはここの脊髄がダメージを受けて、神経が指示を出す回路を損傷している為に、足が動かなくなっています」
チュアンさんはしんけい? と繰り返す。
「チュアンさん。神経とは回路です。血が全身をめぐるように、魔力が全身を回るように。神経もそうなんです。パメラさんはここの脊髄損傷したために流れが遮断されているんです。チュアンさん、チュアンさんの役割は?」
「私は」
聞かれて、チュアンさんは息を吸う、先ほど魔力が全身に回ると言う言葉で、目を見張っていた。
まるで、目から鱗が落ちる、ように。
「遮断された箇所の修復」
「そうです。そうですよ、チュアンさん」
良かった、繋がった。
「では、始めます。パメラさん、触りますよ」
「はい」
チュアンさんが父の指示で、腹部に手を置く。
「チュアンさん、始めは細く細く治療魔法をかけてください。患部を正確に把握してから、本格的に治療です」
「はい」
父の指示に従うチュアンさん。パメラさんの上半身を預かっているマデリーンさんが心配そうだ。
私はチュアンさんのごつい手に、自分の手を重ねる。
「チュアンさん、大丈夫ですよ、神様が見守ってくれています」
本日は闘神様だけど。その言葉は、チュアンさんを奮い立たせたようや。顔つきが、きりっ、と変わる。僅かに含んだ不安が、何処かに消え去っている。
「偉大なる神よ。この傷つきし、汝の娘をその愛で、お救いください」
治療が始まる。
私はチュアンさんのごつい手をずっと握る。父は細かく指示を与える。
「ちょっと強かですよ。もうちょっと深部です」
チュアンさんは慎重に魔力をコントロール。さすが本職。しばらくして、やっと行き着いたよう。
「そこですっ、そこっ。ゆっくり、ゆっくり魔力を流してっ。もっと圧縮っ」
なかなか難しい指示を出す父。だが、チュアンさんは見事にすべてに答えている。私がシュタインさんの治療の時なんて、ずーっと言われていた。やはり、本職は違うなあ。
チュアンさんの後ろでは晃太が回復した魔力を使いながら更に支援魔法をかけている。
時間にしては30分位かな。
「痺れが来ますよっ」
父の声に、パメラさんが呻き声を上げる。
「足がっ、足がっ、痺れてっ」
「神経が繋がったんですよ。チュアンさん、お疲れ様でした」
「は、はい………」
珍しく疲労困憊しているチュアンさん、私もそうだった。休んでもらわんと。
「ホークさん、チュアンさんを馬車に」
「はい、ユイさん」
ホークさんがチュアンさんに肩を貸して歩かせるが、よろけている。危ないと思ったら、なんとパーヴェルさんが片方を支えてくれる。体重100キロ越えのチュアンさんを2人で支えてくれ、無事馬車に。母が心配して付き添う。
さあ、パメラさんをみらんと。
「パメラさん、どうです」
「足が痺れて、痛いというか、痒いと言うか…………」
あー、長い時間正座したらなるやつね。
「どう、お父さん?」
「痺れは暫くしたら収まるようや。脊髄はほぼくっついとる。歩けますよ」
「ほ、本当ですかっ」
一気に声に力が入るパメラさん。
「ただし」
そんなパメラさんに父は釘を刺す。
「日常生活は支障はないでしょうが、半年は安静にしてください。運動、ストレッチ、訓練はダメです。1時間以上の長時間歩行、そして馬なんてもっての他」
「そんな……………」
「半年は我慢してください。半年経てば徐々にカラダを慣らし、馬に乗れるのは1年後です」
おそらく治ったとはいえ、まだ、傷つきやすい状態なんやろう。半年は休職やなあ。結構大変なことやけど。
がくり、と肩を落としたが、パメラさんは復活が早い。
「歩けるようにしていただいたのに、お礼申し上げるのが遅くなり申し訳ありません。このご恩、一生忘れません。あの、彼にもお礼申し上げたいのですが、後程機会を頂けないでしょうか?」
律儀な方や。もちろんチュアンさんが回復したらいつでもオッケー。
パメラさんはグラメさんの手を借りてきちんと座る。解放されたマデリーンさんはチュアンさんが心配なようで、私に断りを入れてから馬車に乗り込む。
さて、次は。
あちこち転がるオルクやハイエナの死体。騎士団に死者はいないが、パメラさんの馬だけが、助からなかった。埋葬し、皆でお祈り。
晃太が疲れた体で魔石のあるオルクだけ回収。後はビアンカの魔法で、ちょいと埋める。
辺りはもう薄暗いが、ここで夜営はいやや。
ちょっと移動して、カルーラの騎士団の皆さんと夜営することになった。
マデリーンさんに上半身を預けてじっとしている女性騎士に駆け寄る。早速父が鑑定を始める。
「脊髄かね?」
「そうやな。ここらへんの脊髄がダメになっとる。他の骨折は治っとるし、内臓の損傷も軽微や。安静にして自然回復に任せてもよかろうが、もう歩行不能や」
さあ、再び女性騎士の顔に絶望が浮かぶ。
「エリクサーならなんとなるよね?」
私はアイテムボックスから下級エリクサーを取り出す。現状最も簡単で確実な治療だろう。
「そうやな。それなら一発でどうにかなるな」
鑑定SSSのお墨付きあり。
女性騎士は私と父の会話にやや付いていけてない。
私は女性騎士と向き合う。
「これは下級エリクサーです」
エリクサーと呟く女性騎士が、ごくりと喉を鳴らす。だが、直ぐに顔を横に降る。
「とても私の蓄えではお支払いできる物じゃありません」
あ、やっぱり。下級エリクサー、下取り価格600万。販売価格はもっとするはず。600万。マーファなら小さな部屋を借りて、公衆浴場に通い、私1人なら働かず、3年は生きていける額。
女性騎士の目に、涙が浮かびそう。近くにいた若い騎士も心配そうだ。
「では、次の手段を考えましょう。お父さん、何かない? 治療法」
「そうやなあ……………再生魔法か、ドラゴンの骨のポーションやなあ」
「どっちも無理ですっ」
悲鳴のような声を上げる女性。再生魔法って確か首都でお会いした、枢機卿と極右派の聖女のみで、こちらも高額。ドラゴンのポーション。最後に獲たのはレッサードラゴンで、おそらくそれで出来たポーションはすでに販売されて残っていないはず。どっちも高級なはず。まだ、ドラゴンのポーションの方が手に入れやすい額だろうが、ものがない。
父はうんうん唸りながら鑑定している。
「ねえ、お父さん」
「ん?」
私はある可能性を示す。
「チュアンさんの治療魔法でどうにかならん?」
聞いて一番びっくりはチュアンさん。珍しく動揺している。
「無理やな、チュアンさんの治療魔法レベルやと無理やな」
ばっさり。言われたチュアンさんは安心したような、がっかりしたような顔。
「もしよ。晃太が限界ギリギリまで支援して、晃太のイヤーカフを着けて、お父さんの鑑定を使いながら、局所的に治療魔法をかけたら、どう?」
そう、薬は使い方次第のように、魔法も使い方次第のはず。大きなキズをカバーするように治療魔法をかけるのでなく、一点、それも損傷箇所のみに、精度を上げた治療魔法をかけたら、と、思って。
父が難しい顔。
「……………そうやな、チュアンさんの魔力と集中力次第やな」
「その役目、どうか私にやらせてください」
チュアンさんが進み出る。さっきまでのなんともどっち付かずの顔やったのに、気合いが漲っている。
「どうされます。今、私が提供できるのはこの下級エリクサー。そして、彼の治療魔法です」
勿論、父の鑑定と晃太の支援がないと無理だけど。
「……………………治療魔法をお願いします」
「分かりました。チュアンさんの魔力の回復具合で直ぐにしましょう。晃太、あんたも魔力回復させて、ギリギリまで支援よ」
「ん」
晃太が魔力回復ポーションを飲む間に、流れを説明する。
まずは晃太が支援魔法をギリギリまでかけてから、チュアンさんにイヤーカフと、魔力消費軽減の指輪を渡す。それから治療開始や。父にはピンポイントに魔法がいくように常に指示を出してもらう。
チュアンさんにはビアンカの魔力回復の指輪も持たせる。これでかなり回復するはず。
よし、今、出来ることや。
回復の間、走り回ったビアンカやルージュ、ノワール、仔達に水分補給させる。
結局、母が馬車から降りてる。仔達のばあば攻撃に耐えきれずに。
「よしよし、頑張ったね~」
「わうん、わうん」
「がうぅ」
『ばあば~』
『るり、おなかへっちゃ~』
『くりちゅも、ばーば~』
よしよし。花は母の抱っこひものなかだ。
『ユイ、私も頑張ったのですぅ~』
『エビ~』
「はいはい、分かっとるよ。今日は無理やけど、明日たっぷりね」
おそらく今日、カルーラの街に入れないと思うし。これから治療して移動するなら、皆さんの体力がもたないはず。なら、途中で夜営するはず。ホークさんに聞いたら、おそらくそうなるでしょうと。私は迫るデカイ鼻面を押し返す。
「明日なら、たっぷりケーキも付けるよ」
『なら我慢するのです。果実がたっぷり乗ったやつなのですよ』
『私はパリパリの皮に果実を包んだのね』
「はいはい」
さて、そろそろいいかな?
「チュアンさん、大丈夫ですか?」
「はい」
「すみません、チュアンさんの了承を得ずに治療魔法を使わせることになって」
「いいえ、ユイさん。私はユイさんの戦闘奴隷です。ユイさんの望むことをするのが、私の役割です」
「ありがとうございます」
チュアンさんの気持ちが嬉しい。晃太がギリギリまで支援をしていると、パーヴェルさんが数人を連れてやって来た。
「グラメ、どうなっている?」
パーヴェルさんは付き添っている若い騎士に声をかける。
「パメラさんを今から治療だそうです」
グラメさんは、若い騎士で、パメラさんは女性騎士ね。今さらだ。
「治療?」
パーヴェルさんは首を傾げる。
「ケガは見えんが……………」
「脊髄という骨を損傷しています。これは上級ポーションでは治療不可ですので、別の手段を取ります」
私が説明している間に、晃太は身に付けているイヤーカフと指輪をチュアンさんに渡す。パーヴェルさんは更に首を傾げる。
「お父さん、お願い」
「ん」
父のスタンバイオッケー。
チュアンさんはパメラさんを挟んで座る。私は父の横で向き合う形。
「パメラさん、今から治療を始めます」
「はい」
「チュアンさん。チュアンさんが治すのは、脊髄です。この辺りの」
父がパメラさんのお腹を示す。
「脊髄の果たす役割は?」
「体を支える支柱のようなものです」
チュアンさんが答える。
「そうです。そして役割はまだあります。神経を身体のすみずみまで流すことです」
「しんけい?」
「私達のように脊髄を持つ生き物すべてが当てはまります。神経とは身体の動作の指示を与え、私達はそれで体を動かしています。私達が頭でじっくり考えるよりも早く伝達し、指示を出しています。脊髄はここからここ」
私は自分の顎下から下腹部まで示す。
「パメラさんの場合、馬の下敷きになったことで脊髄にまでダメージがいっています。骨折自体は治っても、神経回路の受けたダメージまではポーションでは回復不可能です。パメラさんはここの脊髄がダメージを受けて、神経が指示を出す回路を損傷している為に、足が動かなくなっています」
チュアンさんはしんけい? と繰り返す。
「チュアンさん。神経とは回路です。血が全身をめぐるように、魔力が全身を回るように。神経もそうなんです。パメラさんはここの脊髄損傷したために流れが遮断されているんです。チュアンさん、チュアンさんの役割は?」
「私は」
聞かれて、チュアンさんは息を吸う、先ほど魔力が全身に回ると言う言葉で、目を見張っていた。
まるで、目から鱗が落ちる、ように。
「遮断された箇所の修復」
「そうです。そうですよ、チュアンさん」
良かった、繋がった。
「では、始めます。パメラさん、触りますよ」
「はい」
チュアンさんが父の指示で、腹部に手を置く。
「チュアンさん、始めは細く細く治療魔法をかけてください。患部を正確に把握してから、本格的に治療です」
「はい」
父の指示に従うチュアンさん。パメラさんの上半身を預かっているマデリーンさんが心配そうだ。
私はチュアンさんのごつい手に、自分の手を重ねる。
「チュアンさん、大丈夫ですよ、神様が見守ってくれています」
本日は闘神様だけど。その言葉は、チュアンさんを奮い立たせたようや。顔つきが、きりっ、と変わる。僅かに含んだ不安が、何処かに消え去っている。
「偉大なる神よ。この傷つきし、汝の娘をその愛で、お救いください」
治療が始まる。
私はチュアンさんのごつい手をずっと握る。父は細かく指示を与える。
「ちょっと強かですよ。もうちょっと深部です」
チュアンさんは慎重に魔力をコントロール。さすが本職。しばらくして、やっと行き着いたよう。
「そこですっ、そこっ。ゆっくり、ゆっくり魔力を流してっ。もっと圧縮っ」
なかなか難しい指示を出す父。だが、チュアンさんは見事にすべてに答えている。私がシュタインさんの治療の時なんて、ずーっと言われていた。やはり、本職は違うなあ。
チュアンさんの後ろでは晃太が回復した魔力を使いながら更に支援魔法をかけている。
時間にしては30分位かな。
「痺れが来ますよっ」
父の声に、パメラさんが呻き声を上げる。
「足がっ、足がっ、痺れてっ」
「神経が繋がったんですよ。チュアンさん、お疲れ様でした」
「は、はい………」
珍しく疲労困憊しているチュアンさん、私もそうだった。休んでもらわんと。
「ホークさん、チュアンさんを馬車に」
「はい、ユイさん」
ホークさんがチュアンさんに肩を貸して歩かせるが、よろけている。危ないと思ったら、なんとパーヴェルさんが片方を支えてくれる。体重100キロ越えのチュアンさんを2人で支えてくれ、無事馬車に。母が心配して付き添う。
さあ、パメラさんをみらんと。
「パメラさん、どうです」
「足が痺れて、痛いというか、痒いと言うか…………」
あー、長い時間正座したらなるやつね。
「どう、お父さん?」
「痺れは暫くしたら収まるようや。脊髄はほぼくっついとる。歩けますよ」
「ほ、本当ですかっ」
一気に声に力が入るパメラさん。
「ただし」
そんなパメラさんに父は釘を刺す。
「日常生活は支障はないでしょうが、半年は安静にしてください。運動、ストレッチ、訓練はダメです。1時間以上の長時間歩行、そして馬なんてもっての他」
「そんな……………」
「半年は我慢してください。半年経てば徐々にカラダを慣らし、馬に乗れるのは1年後です」
おそらく治ったとはいえ、まだ、傷つきやすい状態なんやろう。半年は休職やなあ。結構大変なことやけど。
がくり、と肩を落としたが、パメラさんは復活が早い。
「歩けるようにしていただいたのに、お礼申し上げるのが遅くなり申し訳ありません。このご恩、一生忘れません。あの、彼にもお礼申し上げたいのですが、後程機会を頂けないでしょうか?」
律儀な方や。もちろんチュアンさんが回復したらいつでもオッケー。
パメラさんはグラメさんの手を借りてきちんと座る。解放されたマデリーンさんはチュアンさんが心配なようで、私に断りを入れてから馬車に乗り込む。
さて、次は。
あちこち転がるオルクやハイエナの死体。騎士団に死者はいないが、パメラさんの馬だけが、助からなかった。埋葬し、皆でお祈り。
晃太が疲れた体で魔石のあるオルクだけ回収。後はビアンカの魔法で、ちょいと埋める。
辺りはもう薄暗いが、ここで夜営はいやや。
ちょっと移動して、カルーラの騎士団の皆さんと夜営することになった。
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