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2巻
2-2
高いが、背に腹はかえられぬ。花と五匹の仔達が走り回れる庭付きがいい。
必死にジャンプする元気を晃太が抱える。
「重かあ」
しかも、じたばたしてるから大変そうだ。だが、頼むばい。私じゃ元気は無理。ヒスイでも重かもん。元気は晃太をペロペロしている。
「お願いします」
「では、こちらの木札をお持ちください。係の者に案内させます」
おばあちゃんから木札を受け取り、外に出る。出る前に、おばあちゃんがちょっとヒスイを触りたそうにしていたから、勧めると嬉しそうに笑う。
優しく背中を触るおばあちゃん。
「本当にかわいらしい。こんなにかわいい仔、初めて見ました。なんて綺麗な目なんでしょう」
「ヒスイっていいます」
私も鼻が高い。
「みゃあ」
「ふふ、素敵な名前ですね」
私はますます嬉しくなった。おばあちゃんにお礼を言って案内所を出る。
案内係の人は、若い女性、いや女の子だ。ビアンカとルージュに引いていたが、しっかり案内してくれた。
コテージを管理している宿に木札を出すと、今度は宿の人が案内してくれる。案の定、ビアンカとルージュに引いていたが、冷や汗を流しながらも案内してくれた。
うん、ログハウスだ。
一階が広く、トイレと台所あり。シャワーブースのみでお風呂はないが、近所に公衆浴場があると教えてくれた。あとは寝室、二階にはロフト。庭は広く、周囲は背の高い柵でしっかり囲まれている。
「宿泊を延長したい場合はどうしたらいいですか?」
「最終日のお昼までに受付に申し出ていただければ大丈夫です。ここは今月いっぱい予約が入っていませんので」
「ありがとうございます」
二泊分は支払い済み。
さて、今から緊急家族会議や。
庭を見て興奮した我が家の愛犬――花が、母の腕から降りて走り回る。元気、ルリ、クリス、コハク、ヒスイも。うんうん、かわいかね。
「さて、これからのことを話そうかね」
私は外から見られない位置にある居間で、私だけが持つスキル『ルーム』を開けることにする。
ルームの出入口となる扉は亜空間に繋がり、スキル保有者である私にしか開閉できない。ルームの中は外界の影響を受けないし、生命体を入れたまま移動することも可能だ。ルームの扉を閉めた状態で私が移動すれば、ルームごと中に入っている人達も移動する。だから私達はディレナスから逃げてこられた。私達は黒髪黒目で、この世界では決して珍しくないが、小型犬の花の存在は目につきやすい。そのため、『ルーム』を使用してディレナスを脱出することとなった。
スキル『ルーム』を発動させようとしたら、ルージュが待ったをかけた。
『待って、こちらを窺う気配があるわ』
「え、本当?」
『間違いないわ』
『ええ、私も感じるのです』
さすが野生。
なんでもルージュにはこういった気配をキャッチするスキルがあるらしい。もちろんビアンカにもあるが、ルージュはより精度が高いとか。
『体調が良ければ、この街の倍くらいの範囲で気配の把握ができるわよ』
「あ、そうなん、すごかね」
よくわからないけど、きっとすごかね、だよね。
「どうしようか?」
『マスター、消してきましょうか?』
消すってなに? 息の根?
「やめて。こちらになにかしてこない限り、手を出したらダメやからね」
こういったことも話し合っておかないとね。
さて、どうしよう。ルームを開いている間に、ログハウスに侵入されたらやだなあ。
『見られたくないのよね?』
「そうやね。誰かこっちに残って」
『必要ないわ。ちょっと待って』
ルージュが庭に出る。
「なんばしようと?」
『防御魔法なのです』
ビアンカが説明してくれる。
そういえば夜営地でも、光魔法を使っていたけど。
「ビアンカも魔法を使えたりする?」
『使えるのです。ただ、私は攻撃系が得意なのです。ルージュはこういった防御系が得意なのです。もちろんルージュも攻撃魔法を使えるのですけど。ルージュは防御系の種類や手段が上なのです』
「へえ」
ルージュが顔を上げると、ログハウスを薄くて黒いカーテンのようなものが覆う。
おお、すごか。
成り行きを見守っていた父も母も、晃太も口を揃えて、「すごかあ」です。
『ふう、さすがにちょっときついわね。でも、これでしばらく侵入されないし、声も漏れないわ』
「だ、大丈夫ね? 休むね?」
そうだ、ルージュはまだ衰弱状態なんだ。
『大丈夫よ』
ルージュがトコトコ戻ってくる。
一度庭に出たので、母がルージュの足を拭いている。
とりあえず安全みたいなので、ルームのドアを、幅の広いビアンカでも入れるサイズにして開ける。
「さ、どうぞ」
『元気、ルリ、クリス来るのです』
『いらっしゃい、コハク、ヒスイ』
元気以外はすぐに来た。花は晃太が捕獲。
走り回る元気を食パンで誘導。
全員、無事にルームに入った。
【従魔の入室確認。従魔の部屋、追加されます。それに伴いスキルが追加されます】
なにかが増えた。
ぼよん、と音がして、新しく部屋ができる。
かなり広いけれど、ドアはなく、柵のみで丸見え状態だ。水飲み場もある。柵はあれだ、子供用の侵入防止の柵だ。壁には小ぶりの液晶画面が張り付いている。
液晶画面をチェックする。
従魔の部屋
残金 19193
ルーム・スキル パッシブ 換気 上水道 下水道
アクティブ 清掃
残金は、ルーム本体の残金と連動してるみたい。
『これがルームなのですね』
『不思議ね。ここから外の気配はわかるのに、外から中の気配がわからないなんて』
ビアンカとルージュがキョロキョロしている。
「わんわんっ」
花が吠える吠える。
ルームに置いていた花のおもちゃが、あっという間に元気達に持っていかれる。
花のおもちゃは基本的に音が鳴るため、一斉にピポピポと奏でられて賑やかだ。
「花ちゃん、新しいおもちゃ買うけんね、ちょっと我慢しい」
吠える花に晃太がすりすり頬擦りしている。
ビアンカもルージュもルーム内の匂いをあちこち嗅いでいる。
「お母さん、まず、ご飯にしようか」
「そうやね」
大騒ぎの夕食を済ませた頃には、ぐったり。
台所にビアンカとルージュが入ってくるわ、元気とコハクは走り回るわ、ヒスイは私の足をよじ登ろうとするわ、花は吠えるわ。ルリとクリスも、うちの母の足元に陣取っている。
新しくできた従魔の部屋に五匹の仔達を入れる。鳴く鳴く、吠える。ごめんよ、台所は危ないんだよ。包丁でも落としたら大惨事だよ。
従魔の部屋の柵はビアンカとルージュには効果なし。まるで柵なんてないかのように出てきた。高さ的に簡単に飛び越えられるよね。
私達がご飯を食べる時も、ビアンカとルージュが迫ってきて大変だった。脚の低いテーブルだとつまみ食いされそうになることがわかったけれど、ダイニングテーブルを揃える予算がない。
バタバタの夕食後、お腹ぽっこりの五匹の仔が転がっている。
私はスマートホンをかざしてカシャカシャ。そう、私はスマホを持っている。もちろん圏外だし、電池切れしていたが、スキル『異世界への扉』でスーパーのディレックスに行って無事に充電器をゲット。
カシャカシャ、カシャカシャ。
あははーん、かわいかあ。
元気とコハクは天井を向いて脚は全開。あははーん、男の子全開。かわいかあ。カシャカシャ。ルリとクリス、ヒスイは仲良く並んでうつ伏せ。あははーん、お尻がプリっとしてかわいかあ。カシャカシャ。
十分カシャカシャした。
おねむモードになった花も、カシャカシャ。
それから、家族会議を開く。
「さあ、始めるよ。ビアンカ、ルージュ、来てん」
『マスター、なにを始めるのです?』
「まず、そのマスターからどうにかせんとねえ」
首を傾げるビアンカとルージュ。
『マスターはダメなのですか?』
『母が、従魔になったらマスターと呼ぶようにって』
「うん、そうかもしれんけど、私は嫌やね。名前で呼んで、優衣でよかけん」
ビアンカとルージュは顔を見合わせる。
『マスターがいいなら、そうするのです』
『そうね』
父は「お父さん」、母は「お母さん」、晃太は「晃太」と呼ぶことに決まる。
まず、第一の議題終了。
「では、次やね」
リーダーさん達が心配していたことだ。
「これからビアンカとルージュを狙って、変な連中が絡んでくるかもしれないってことやね」
晃太が花を膝に抱える。
『心配ないのです。すべて排除するのです』
『そうね。私の気配感知に引っかからずに近づくことはできないわ』
頼もしいけどさ。
「あのさ、できるだけ穏便にお願い」
ルージュの気配感知は、向けられる害意とかがわかるらしい。ビアンカも近距離ならわかるとのこと。近距離といっても半径百メートルは確実にわかるようだ。よくわからないけど、すごいんだろうなあ。スナイパーも真っ青なのかな。
「向こうがこちらに明確に手を出してきた時に守ってくれたらいいけん。あくまで防御よ、絶対に殺したらいかんけんね」
むー、みたいな顔をするビアンカとルージュ。
『人限定なのですか?』
『魔物は?』
「魔物? あの熊とかゴブリンやね。あれは、いいかなあ。向こうが仕掛けてきたら迎撃オッケーよ」
にまあ、と笑う二匹。怖かあ。
「次は冒険者ギルドやね。私はみんなのために登録するけん、晃太も登録してん」
「え、嫌や」
逃さんよ。
「私一人は嫌よ。身分証代わりに登録してよ」
「えー」
結局、父と母が晃太を説得。しぶしぶ了承。
第二の議題も終了。
「あとはこれからのことや。ねえ、お兄さんのいる場所って遠い?」
そう、以前ビアンカとルージュにこれからどうするか聞いた時、東にいるお兄さんを頼るつもりだと言っていた。
『なんのことなのです?』
「いやいや、東にいるお兄さんを頼るって」
『あ、もういいのです』
軽っ。ビアンカがあっさり言う。
『そうね、もういいわね』
ルージュまで。
「いやいや、お兄さんだよね?」
『まあ、仕方なく頼ろうとしていただけなのです。ユイの従魔になったからもう大丈夫なのです。もう少しでお乳も出そうなのです』
あ、良かった。
『そうねえ、お乳のためと子供達を守るために仕方なく移動していただけなの』
どんなお兄さんなんだろう?
「ちなみにお兄さんはウルフ? ジャガー?」
『私と同じフォレストガーディアンウルフなのです』
きっとビアンカより大きなもふもふに違いない。
「一応、行ってみん? 私もご挨拶とか必要じゃないかね?」
『まあ、そのうち、行ってみてもいいかもしれないのです』
あまり乗り気じゃないビアンカ。
「姉ちゃん、それは今度にしよう。別の問題があるやん」
「そうやね。なら、最大の問題や」
そう、路銀だ。
「あの熊、いくらになるかやねえ」
ビアンカとルージュと出会った時に倒した巨大熊を思い出しながら、うーんと腕組み。
『私が傷を付けた、あの四角の木の塊のせいなのですか?』
ビアンカが心配そうに聞く。いや馬車の傷だけの問題やなかったしね。それを理由にあの感じの悪いギルド職員がかわいか仔達を巻き上げようとしたから、対抗しただけ。後悔してないし。
「大丈夫よ、心配せんでも。熊がお金になるしね。ただね、次からは驚いてもやめてね。特に他人のものに傷をつけたり、壊したりは。先に私に聞いてね」
『わかったのです』
『わかったわ。でも、人間の世界では、生きるためにお金が必要、だったわね』
「まあ、そうね。自給自足とか物々交換とかあるけど、基本的にお金が必要やね。元気達のミルクを買ったり、私達のご飯の材料を買ったりするのに、どうしても必要やね」
スキル『異世界への扉』は、ルーム内にある液晶画面に表示されている行き先に触れると扉が現れる。その扉は画面に表示された行き先――日本にいた時に利用していたスーパーや手芸屋さんに繋がっていて、そこでの購入品が私達の生活を支えてくれている。ただし、『異世界への扉』を使用する際、私は魔力を消費するし、そこでの買い物にはこちらの世界での現金が必要だ。
すると、ビアンカとルージュがいいことを思いついたように言う。
『なら、お金になる魔物を狩るのです』
『そうね。あの熊がお金に替わるなら』
「待って、衰弱者がなんば言いようと、ダメよダメ。二人になにかあったら元気達はどうするん?」
ちらっと元気を見ると、ピンクの舌をちょこっと出したり、引っ込めたりして寝ている。
あ、動画撮れば良かった。
『でも、必要でしょう?』
「それはそうだけど」
『体調はかなりいいのです。今ならあの熊くらいなら後れは取らないのです。元気達のミルクのためなのです』
狩りをすると主張するビアンカとルージュ、危険なことはさせたくない私達。
押し問答の末、明日の熊の買い取り価格次第で、どうするか決めることにした。
熊が高値で売れたなら、このコテージの宿泊を延長し、ビアンカとルージュの体調回復を図る。
もし、低価格なら次の街に移動して、『異世界への扉』を使って手に入れた蜂蜜等をその街の商人ギルドで買い取ってもらう。移動の際は、買い取ったあのSランクの馬車をビアンカが牽いてくれるという。
「姉ちゃんがビアンカに乗って移動すればいいやん」
「張り倒すよ」
晃太はきっと有名な映画のワンシーンをイメージして言っているのだろうが、不可だ不可。私は自信がある。ビアンカの背中に乗っても、ビアンカが発進したら私だけ空中に残され、落下する自信が。うん、バラエティ番組みたいなことになりそうや。
「とにかく、明日、ギルドに行くよ。話はそれからや」
どうか熊が高く売れますように。
次の日、家族総出でギルドに向かう。
登録とかがあるからね。
申し訳ないけれど、元気とコハクにはリードをつけさせてもらった。コハクは念のため、元気は走り回るから必須だ。母が簡易のリードを作成。もちろんビアンカとルージュの許可も貰った。
「急に飛び出したりしたら危ないけんね」
ないとは思いたいが、知らない人に飛びかかって転ばせたら大変。お年寄りや小さな子供だったら大怪我だ。それに、馬車の前に飛び出したりしたら、大惨事だ。
『いいのです。元気は力の使い方がまだわかっていないのです』
『そうね。コハクも急に走り出すから』
元気のリードは晃太、コハクのものは父が持つ。花は母の抱っこ紐の中だ。ルリとクリス、ヒスイはそれぞれ自分の母親にぴったりくっついている。
ビアンカ達と一緒のせいで、ものすごい注目を浴びながらギルドに向かう。とはいえ昨日よりましかな。
やはりリードをしていて良かった。途中で小さな子が「わんわ~」とぽてぽて近寄ってきたものだから、元気が反応。
「わんっ」
全力で飛び出しそうになり、慌てて晃太がリードを引いた。子供は母親が抱える。危な。
子供の母親は平謝りだ。こちらも平謝り。元気の飛び出す力が思ったより強かったのか、晃太が後ろで「肩、肩」と言っている。
そんなこんなでギルド到着。
私と晃太は冒険者登録をするため、二人で相談窓口に。父と母は待ち合い室みたいなところで、待ってもらう。
「あの、すみません。冒険者登録をしたいのですが」
窓口の女性はスマイル炸裂。でも、脂汗が浮かんでますよ、お姉さん。プロやね、プロだ。
「お待ちしておりました、ミズサワ様」
さっと書類を出す。
「まず、こちらにお名前を」
お姉さんが丁寧に説明してくれる。
私達のように身分証がない人間が、冒険者になることは少なくない。ただ、ギルドに登録し身分を保証されると同時に人頭税を払う義務が発生するため、冒険者登録をした国に、自動的に所属することになる。つまり、ここアルブレンはユリアレーナ国内なので、私と晃太はユリアレーナ国民となる。
冒険者ギルドに所属すると、カードが発行される。発行には二千Gが必要。もし紛失したら再発行には一万G取られる。
ランクはHからSSSまで。ランクによって、最低限、依頼を受けなければいけない期間と回数がある。Hは一ヶ月に一回以上。Gは二ヶ月。Fは三ヶ月。Eは四ヶ月。Dは半年。Cは一年。Bは二年。Aからはその決まりがなくなる。本当に身分証だけのために登録することを避けるためらしい。
ランクが低い人や身分証が欲しくて登録する人は、薬草を摘んだり、町の雑用したりして義務を果たす。ちなみに依頼を受けないまま期間を過ぎると、ギルドカードが失効となり、再登録料は三千G。これはどんな理由があっても例外はない。
パーティを組むには、Fランク以上の人が最低一人はメンバーに必要。本人の同意なくパーティに組み込むことは禁止、無理な引き抜きは禁止。パーティ間のトラブルにギルドは関与しない。もし一方的な言いがかりをつけられた場合はギルドの相談窓口へ。内容を吟味して対応しています、とのこと。
もし、他人のギルドカードを使って、別人に成り済まして依頼を受けようとしたら、即資格剥奪。パーティで依頼を受ける場合は代表者が依頼料を受け取るか、もしくは取り分を決めてから受け取ること。
ギルドカードにはなんと電子マネーの機能もあり、ギルドが提携している宿や店で使用できる。確かお店に小さな水晶あったな。あの水晶で電子決済をするらしい。
それからギルドカードにはそれぞれの魔力が登録されているので、他人は使えない。だから他人のカードで依頼を受けようとしたり、支払いをしようとしても、すぐにバレるとのこと。安全面はバッチリだ。
「あと、こちらのギルドカードで人頭税も支払えます」
改めてユリアレーナの身分証を取得しないと、ギルドカードから引き落とされるとのこと。人頭税は、前年の冒険者としての収入を基に算出される。引き落としの一ヶ月前にいくら引かれるか通知が来るらしい。もし、ユリアレーナの身分証を取れば、そちらから引かれる。扶養家族がいると、人頭税の額が変わる。両親は晃太の扶養になることに。両親が身分証を取らない場合は、晃太のギルドカードから両親の人頭税が引かれる。
「簡単ですが説明は以上です。もし、わからないことがあれば相談窓口へいらしてください」
「はい」
差し出された書類に必要事項を記入。
「あの、従魔の登録はどうすれば?」
「こちらにご記入ください」
フォレストガーディアンウルフ、その仔三匹。クリムゾンジャガー、その仔二匹。
「ありがとうございます。では、カードを作成するためにお時間をいただきます」
「はい」
「終わりましたらお呼びしますので、待ち合い室でお待ちください」
「はい」
お姉さんはスマイル。
さて、待ち合い室に行こうとすると、昨日、熊の査定をお願いした男性職員さんが声をかけてきた。
「ミズサワ様、ナーダリーグリズリーの査定が終わりました」
「あ、はい。晃太、お父さん呼んできて」
「ん」
両親とビアンカやルージュと、周りの人とは一定の距離がある。
晃太に呼ばれた父がよっこらしょっと立ち上がり、こちらに来る。
買い取り窓口に行くと、さっきの男性職員が座っていた。
必死にジャンプする元気を晃太が抱える。
「重かあ」
しかも、じたばたしてるから大変そうだ。だが、頼むばい。私じゃ元気は無理。ヒスイでも重かもん。元気は晃太をペロペロしている。
「お願いします」
「では、こちらの木札をお持ちください。係の者に案内させます」
おばあちゃんから木札を受け取り、外に出る。出る前に、おばあちゃんがちょっとヒスイを触りたそうにしていたから、勧めると嬉しそうに笑う。
優しく背中を触るおばあちゃん。
「本当にかわいらしい。こんなにかわいい仔、初めて見ました。なんて綺麗な目なんでしょう」
「ヒスイっていいます」
私も鼻が高い。
「みゃあ」
「ふふ、素敵な名前ですね」
私はますます嬉しくなった。おばあちゃんにお礼を言って案内所を出る。
案内係の人は、若い女性、いや女の子だ。ビアンカとルージュに引いていたが、しっかり案内してくれた。
コテージを管理している宿に木札を出すと、今度は宿の人が案内してくれる。案の定、ビアンカとルージュに引いていたが、冷や汗を流しながらも案内してくれた。
うん、ログハウスだ。
一階が広く、トイレと台所あり。シャワーブースのみでお風呂はないが、近所に公衆浴場があると教えてくれた。あとは寝室、二階にはロフト。庭は広く、周囲は背の高い柵でしっかり囲まれている。
「宿泊を延長したい場合はどうしたらいいですか?」
「最終日のお昼までに受付に申し出ていただければ大丈夫です。ここは今月いっぱい予約が入っていませんので」
「ありがとうございます」
二泊分は支払い済み。
さて、今から緊急家族会議や。
庭を見て興奮した我が家の愛犬――花が、母の腕から降りて走り回る。元気、ルリ、クリス、コハク、ヒスイも。うんうん、かわいかね。
「さて、これからのことを話そうかね」
私は外から見られない位置にある居間で、私だけが持つスキル『ルーム』を開けることにする。
ルームの出入口となる扉は亜空間に繋がり、スキル保有者である私にしか開閉できない。ルームの中は外界の影響を受けないし、生命体を入れたまま移動することも可能だ。ルームの扉を閉めた状態で私が移動すれば、ルームごと中に入っている人達も移動する。だから私達はディレナスから逃げてこられた。私達は黒髪黒目で、この世界では決して珍しくないが、小型犬の花の存在は目につきやすい。そのため、『ルーム』を使用してディレナスを脱出することとなった。
スキル『ルーム』を発動させようとしたら、ルージュが待ったをかけた。
『待って、こちらを窺う気配があるわ』
「え、本当?」
『間違いないわ』
『ええ、私も感じるのです』
さすが野生。
なんでもルージュにはこういった気配をキャッチするスキルがあるらしい。もちろんビアンカにもあるが、ルージュはより精度が高いとか。
『体調が良ければ、この街の倍くらいの範囲で気配の把握ができるわよ』
「あ、そうなん、すごかね」
よくわからないけど、きっとすごかね、だよね。
「どうしようか?」
『マスター、消してきましょうか?』
消すってなに? 息の根?
「やめて。こちらになにかしてこない限り、手を出したらダメやからね」
こういったことも話し合っておかないとね。
さて、どうしよう。ルームを開いている間に、ログハウスに侵入されたらやだなあ。
『見られたくないのよね?』
「そうやね。誰かこっちに残って」
『必要ないわ。ちょっと待って』
ルージュが庭に出る。
「なんばしようと?」
『防御魔法なのです』
ビアンカが説明してくれる。
そういえば夜営地でも、光魔法を使っていたけど。
「ビアンカも魔法を使えたりする?」
『使えるのです。ただ、私は攻撃系が得意なのです。ルージュはこういった防御系が得意なのです。もちろんルージュも攻撃魔法を使えるのですけど。ルージュは防御系の種類や手段が上なのです』
「へえ」
ルージュが顔を上げると、ログハウスを薄くて黒いカーテンのようなものが覆う。
おお、すごか。
成り行きを見守っていた父も母も、晃太も口を揃えて、「すごかあ」です。
『ふう、さすがにちょっときついわね。でも、これでしばらく侵入されないし、声も漏れないわ』
「だ、大丈夫ね? 休むね?」
そうだ、ルージュはまだ衰弱状態なんだ。
『大丈夫よ』
ルージュがトコトコ戻ってくる。
一度庭に出たので、母がルージュの足を拭いている。
とりあえず安全みたいなので、ルームのドアを、幅の広いビアンカでも入れるサイズにして開ける。
「さ、どうぞ」
『元気、ルリ、クリス来るのです』
『いらっしゃい、コハク、ヒスイ』
元気以外はすぐに来た。花は晃太が捕獲。
走り回る元気を食パンで誘導。
全員、無事にルームに入った。
【従魔の入室確認。従魔の部屋、追加されます。それに伴いスキルが追加されます】
なにかが増えた。
ぼよん、と音がして、新しく部屋ができる。
かなり広いけれど、ドアはなく、柵のみで丸見え状態だ。水飲み場もある。柵はあれだ、子供用の侵入防止の柵だ。壁には小ぶりの液晶画面が張り付いている。
液晶画面をチェックする。
従魔の部屋
残金 19193
ルーム・スキル パッシブ 換気 上水道 下水道
アクティブ 清掃
残金は、ルーム本体の残金と連動してるみたい。
『これがルームなのですね』
『不思議ね。ここから外の気配はわかるのに、外から中の気配がわからないなんて』
ビアンカとルージュがキョロキョロしている。
「わんわんっ」
花が吠える吠える。
ルームに置いていた花のおもちゃが、あっという間に元気達に持っていかれる。
花のおもちゃは基本的に音が鳴るため、一斉にピポピポと奏でられて賑やかだ。
「花ちゃん、新しいおもちゃ買うけんね、ちょっと我慢しい」
吠える花に晃太がすりすり頬擦りしている。
ビアンカもルージュもルーム内の匂いをあちこち嗅いでいる。
「お母さん、まず、ご飯にしようか」
「そうやね」
大騒ぎの夕食を済ませた頃には、ぐったり。
台所にビアンカとルージュが入ってくるわ、元気とコハクは走り回るわ、ヒスイは私の足をよじ登ろうとするわ、花は吠えるわ。ルリとクリスも、うちの母の足元に陣取っている。
新しくできた従魔の部屋に五匹の仔達を入れる。鳴く鳴く、吠える。ごめんよ、台所は危ないんだよ。包丁でも落としたら大惨事だよ。
従魔の部屋の柵はビアンカとルージュには効果なし。まるで柵なんてないかのように出てきた。高さ的に簡単に飛び越えられるよね。
私達がご飯を食べる時も、ビアンカとルージュが迫ってきて大変だった。脚の低いテーブルだとつまみ食いされそうになることがわかったけれど、ダイニングテーブルを揃える予算がない。
バタバタの夕食後、お腹ぽっこりの五匹の仔が転がっている。
私はスマートホンをかざしてカシャカシャ。そう、私はスマホを持っている。もちろん圏外だし、電池切れしていたが、スキル『異世界への扉』でスーパーのディレックスに行って無事に充電器をゲット。
カシャカシャ、カシャカシャ。
あははーん、かわいかあ。
元気とコハクは天井を向いて脚は全開。あははーん、男の子全開。かわいかあ。カシャカシャ。ルリとクリス、ヒスイは仲良く並んでうつ伏せ。あははーん、お尻がプリっとしてかわいかあ。カシャカシャ。
十分カシャカシャした。
おねむモードになった花も、カシャカシャ。
それから、家族会議を開く。
「さあ、始めるよ。ビアンカ、ルージュ、来てん」
『マスター、なにを始めるのです?』
「まず、そのマスターからどうにかせんとねえ」
首を傾げるビアンカとルージュ。
『マスターはダメなのですか?』
『母が、従魔になったらマスターと呼ぶようにって』
「うん、そうかもしれんけど、私は嫌やね。名前で呼んで、優衣でよかけん」
ビアンカとルージュは顔を見合わせる。
『マスターがいいなら、そうするのです』
『そうね』
父は「お父さん」、母は「お母さん」、晃太は「晃太」と呼ぶことに決まる。
まず、第一の議題終了。
「では、次やね」
リーダーさん達が心配していたことだ。
「これからビアンカとルージュを狙って、変な連中が絡んでくるかもしれないってことやね」
晃太が花を膝に抱える。
『心配ないのです。すべて排除するのです』
『そうね。私の気配感知に引っかからずに近づくことはできないわ』
頼もしいけどさ。
「あのさ、できるだけ穏便にお願い」
ルージュの気配感知は、向けられる害意とかがわかるらしい。ビアンカも近距離ならわかるとのこと。近距離といっても半径百メートルは確実にわかるようだ。よくわからないけど、すごいんだろうなあ。スナイパーも真っ青なのかな。
「向こうがこちらに明確に手を出してきた時に守ってくれたらいいけん。あくまで防御よ、絶対に殺したらいかんけんね」
むー、みたいな顔をするビアンカとルージュ。
『人限定なのですか?』
『魔物は?』
「魔物? あの熊とかゴブリンやね。あれは、いいかなあ。向こうが仕掛けてきたら迎撃オッケーよ」
にまあ、と笑う二匹。怖かあ。
「次は冒険者ギルドやね。私はみんなのために登録するけん、晃太も登録してん」
「え、嫌や」
逃さんよ。
「私一人は嫌よ。身分証代わりに登録してよ」
「えー」
結局、父と母が晃太を説得。しぶしぶ了承。
第二の議題も終了。
「あとはこれからのことや。ねえ、お兄さんのいる場所って遠い?」
そう、以前ビアンカとルージュにこれからどうするか聞いた時、東にいるお兄さんを頼るつもりだと言っていた。
『なんのことなのです?』
「いやいや、東にいるお兄さんを頼るって」
『あ、もういいのです』
軽っ。ビアンカがあっさり言う。
『そうね、もういいわね』
ルージュまで。
「いやいや、お兄さんだよね?」
『まあ、仕方なく頼ろうとしていただけなのです。ユイの従魔になったからもう大丈夫なのです。もう少しでお乳も出そうなのです』
あ、良かった。
『そうねえ、お乳のためと子供達を守るために仕方なく移動していただけなの』
どんなお兄さんなんだろう?
「ちなみにお兄さんはウルフ? ジャガー?」
『私と同じフォレストガーディアンウルフなのです』
きっとビアンカより大きなもふもふに違いない。
「一応、行ってみん? 私もご挨拶とか必要じゃないかね?」
『まあ、そのうち、行ってみてもいいかもしれないのです』
あまり乗り気じゃないビアンカ。
「姉ちゃん、それは今度にしよう。別の問題があるやん」
「そうやね。なら、最大の問題や」
そう、路銀だ。
「あの熊、いくらになるかやねえ」
ビアンカとルージュと出会った時に倒した巨大熊を思い出しながら、うーんと腕組み。
『私が傷を付けた、あの四角の木の塊のせいなのですか?』
ビアンカが心配そうに聞く。いや馬車の傷だけの問題やなかったしね。それを理由にあの感じの悪いギルド職員がかわいか仔達を巻き上げようとしたから、対抗しただけ。後悔してないし。
「大丈夫よ、心配せんでも。熊がお金になるしね。ただね、次からは驚いてもやめてね。特に他人のものに傷をつけたり、壊したりは。先に私に聞いてね」
『わかったのです』
『わかったわ。でも、人間の世界では、生きるためにお金が必要、だったわね』
「まあ、そうね。自給自足とか物々交換とかあるけど、基本的にお金が必要やね。元気達のミルクを買ったり、私達のご飯の材料を買ったりするのに、どうしても必要やね」
スキル『異世界への扉』は、ルーム内にある液晶画面に表示されている行き先に触れると扉が現れる。その扉は画面に表示された行き先――日本にいた時に利用していたスーパーや手芸屋さんに繋がっていて、そこでの購入品が私達の生活を支えてくれている。ただし、『異世界への扉』を使用する際、私は魔力を消費するし、そこでの買い物にはこちらの世界での現金が必要だ。
すると、ビアンカとルージュがいいことを思いついたように言う。
『なら、お金になる魔物を狩るのです』
『そうね。あの熊がお金に替わるなら』
「待って、衰弱者がなんば言いようと、ダメよダメ。二人になにかあったら元気達はどうするん?」
ちらっと元気を見ると、ピンクの舌をちょこっと出したり、引っ込めたりして寝ている。
あ、動画撮れば良かった。
『でも、必要でしょう?』
「それはそうだけど」
『体調はかなりいいのです。今ならあの熊くらいなら後れは取らないのです。元気達のミルクのためなのです』
狩りをすると主張するビアンカとルージュ、危険なことはさせたくない私達。
押し問答の末、明日の熊の買い取り価格次第で、どうするか決めることにした。
熊が高値で売れたなら、このコテージの宿泊を延長し、ビアンカとルージュの体調回復を図る。
もし、低価格なら次の街に移動して、『異世界への扉』を使って手に入れた蜂蜜等をその街の商人ギルドで買い取ってもらう。移動の際は、買い取ったあのSランクの馬車をビアンカが牽いてくれるという。
「姉ちゃんがビアンカに乗って移動すればいいやん」
「張り倒すよ」
晃太はきっと有名な映画のワンシーンをイメージして言っているのだろうが、不可だ不可。私は自信がある。ビアンカの背中に乗っても、ビアンカが発進したら私だけ空中に残され、落下する自信が。うん、バラエティ番組みたいなことになりそうや。
「とにかく、明日、ギルドに行くよ。話はそれからや」
どうか熊が高く売れますように。
次の日、家族総出でギルドに向かう。
登録とかがあるからね。
申し訳ないけれど、元気とコハクにはリードをつけさせてもらった。コハクは念のため、元気は走り回るから必須だ。母が簡易のリードを作成。もちろんビアンカとルージュの許可も貰った。
「急に飛び出したりしたら危ないけんね」
ないとは思いたいが、知らない人に飛びかかって転ばせたら大変。お年寄りや小さな子供だったら大怪我だ。それに、馬車の前に飛び出したりしたら、大惨事だ。
『いいのです。元気は力の使い方がまだわかっていないのです』
『そうね。コハクも急に走り出すから』
元気のリードは晃太、コハクのものは父が持つ。花は母の抱っこ紐の中だ。ルリとクリス、ヒスイはそれぞれ自分の母親にぴったりくっついている。
ビアンカ達と一緒のせいで、ものすごい注目を浴びながらギルドに向かう。とはいえ昨日よりましかな。
やはりリードをしていて良かった。途中で小さな子が「わんわ~」とぽてぽて近寄ってきたものだから、元気が反応。
「わんっ」
全力で飛び出しそうになり、慌てて晃太がリードを引いた。子供は母親が抱える。危な。
子供の母親は平謝りだ。こちらも平謝り。元気の飛び出す力が思ったより強かったのか、晃太が後ろで「肩、肩」と言っている。
そんなこんなでギルド到着。
私と晃太は冒険者登録をするため、二人で相談窓口に。父と母は待ち合い室みたいなところで、待ってもらう。
「あの、すみません。冒険者登録をしたいのですが」
窓口の女性はスマイル炸裂。でも、脂汗が浮かんでますよ、お姉さん。プロやね、プロだ。
「お待ちしておりました、ミズサワ様」
さっと書類を出す。
「まず、こちらにお名前を」
お姉さんが丁寧に説明してくれる。
私達のように身分証がない人間が、冒険者になることは少なくない。ただ、ギルドに登録し身分を保証されると同時に人頭税を払う義務が発生するため、冒険者登録をした国に、自動的に所属することになる。つまり、ここアルブレンはユリアレーナ国内なので、私と晃太はユリアレーナ国民となる。
冒険者ギルドに所属すると、カードが発行される。発行には二千Gが必要。もし紛失したら再発行には一万G取られる。
ランクはHからSSSまで。ランクによって、最低限、依頼を受けなければいけない期間と回数がある。Hは一ヶ月に一回以上。Gは二ヶ月。Fは三ヶ月。Eは四ヶ月。Dは半年。Cは一年。Bは二年。Aからはその決まりがなくなる。本当に身分証だけのために登録することを避けるためらしい。
ランクが低い人や身分証が欲しくて登録する人は、薬草を摘んだり、町の雑用したりして義務を果たす。ちなみに依頼を受けないまま期間を過ぎると、ギルドカードが失効となり、再登録料は三千G。これはどんな理由があっても例外はない。
パーティを組むには、Fランク以上の人が最低一人はメンバーに必要。本人の同意なくパーティに組み込むことは禁止、無理な引き抜きは禁止。パーティ間のトラブルにギルドは関与しない。もし一方的な言いがかりをつけられた場合はギルドの相談窓口へ。内容を吟味して対応しています、とのこと。
もし、他人のギルドカードを使って、別人に成り済まして依頼を受けようとしたら、即資格剥奪。パーティで依頼を受ける場合は代表者が依頼料を受け取るか、もしくは取り分を決めてから受け取ること。
ギルドカードにはなんと電子マネーの機能もあり、ギルドが提携している宿や店で使用できる。確かお店に小さな水晶あったな。あの水晶で電子決済をするらしい。
それからギルドカードにはそれぞれの魔力が登録されているので、他人は使えない。だから他人のカードで依頼を受けようとしたり、支払いをしようとしても、すぐにバレるとのこと。安全面はバッチリだ。
「あと、こちらのギルドカードで人頭税も支払えます」
改めてユリアレーナの身分証を取得しないと、ギルドカードから引き落とされるとのこと。人頭税は、前年の冒険者としての収入を基に算出される。引き落としの一ヶ月前にいくら引かれるか通知が来るらしい。もし、ユリアレーナの身分証を取れば、そちらから引かれる。扶養家族がいると、人頭税の額が変わる。両親は晃太の扶養になることに。両親が身分証を取らない場合は、晃太のギルドカードから両親の人頭税が引かれる。
「簡単ですが説明は以上です。もし、わからないことがあれば相談窓口へいらしてください」
「はい」
差し出された書類に必要事項を記入。
「あの、従魔の登録はどうすれば?」
「こちらにご記入ください」
フォレストガーディアンウルフ、その仔三匹。クリムゾンジャガー、その仔二匹。
「ありがとうございます。では、カードを作成するためにお時間をいただきます」
「はい」
「終わりましたらお呼びしますので、待ち合い室でお待ちください」
「はい」
お姉さんはスマイル。
さて、待ち合い室に行こうとすると、昨日、熊の査定をお願いした男性職員さんが声をかけてきた。
「ミズサワ様、ナーダリーグリズリーの査定が終わりました」
「あ、はい。晃太、お父さん呼んできて」
「ん」
両親とビアンカやルージュと、周りの人とは一定の距離がある。
晃太に呼ばれた父がよっこらしょっと立ち上がり、こちらに来る。
買い取り窓口に行くと、さっきの男性職員が座っていた。
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