銀の鬼神とかわいいお嫁さん

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
4 / 51

思い出したのはお式の前④

 ああ、幼いエミリアが歩いている。
 駆け寄って、抱き上げたい。
 ダメだ、我慢だ、初対面なのだから。
 パイプオルガンの音楽に合わせて、ゆっくり歩くエミリア。当然、軽いざわめき。エミリアはたった一人だからだ。花嫁は父親役のエスコートが着くのが当然なのだが、当の父親は椅子に呑気に座っているからだ。
 だが、前回はもっと酷かった。
 エミリアは古ぼけた白いドレスとベール。ブーケも持たなかった。余計にざわめきが起きた。
 だが、今回は応急措置でブーケを作り、レースのカーテンだがベールをしている。見た目だけはなんとか花嫁だ。ベンが見頃の花で作ってくれたブーケ、短時間でカーテンをベールもどきにしてくれたマギーに感謝しなくては。

 式は厳かな雰囲気で進む。

 ここで、齢10のエミリアと、父親と同い年の30の自分が何故結婚できるか、だ。
 
 法律がそうだから。

 ミュンヘナー王国の結婚に関する法律では、年齢が10を越えたら、結婚オッケー。ただし、貴族だけ。平民がダメな理由は、人身売買の様に売られる幼子が絶えないし、そもそもその年で家族を養えない。貴族の場合は、先に保険として結婚しておいて、実際夫婦になるのは数年後とあらかじめ決める。まあ、ここ半世紀は貴族が義務で通う学校卒業と同時のデビュタントの後に結婚が主で、その年は18。それで問題ないからと、この法律が変わらず残っていたため、エミリアとの結婚となった。

 両親はやっと相手を選んだかと、妥協したのか、変わりに式は準備、バルド伯爵家への支度金支払いなどもろもろ交渉してくれた。
 
「誓いの言葉を」

 ミュンヘナー王国での結婚では、お互いに誓いの言葉を贈り合う。

 前回は「私は君を妻にする」だけだった。うん、殴ってやりたい。
 よし、今回はエミリアが喜ぶような言葉を贈ろう。
 司教に目で促される。

 まずは膝を着く、そう古今東西の恋愛小説にあった。プロポーズとかは鉄板のはず。

 ざわめきが更に起こる。

 少しだけ見上げると、ベールの向こうでエミリアが戸惑っている。
 息が詰まりそうだ。
 エミリアが、いま、生きて、目の前にいる。
 生きている。
 何か込み上げそうだが、飲み込む。

「エミリア嬢、急な結婚で驚かれたでしょう。しかし、私は君を、笑顔にするために、幸せするために、全てを捧げる事を、いまここで誓います。この気持ちに偽りはありません。どうか、私の家族になってください」

 必死に考え、絞り出した言葉。

 ベールの向こうで、戸惑いの顔から驚きに、そして、照れ臭そうな、恥ずかしそうなエミリア。
 ああ、間違ってしまったか? 初対面の男からのこの言葉は、気持ち悪いか?

「はい、私を貴方のお嫁さんにしてください」

 ふわあ、とはにかむように笑うエミリア。
 一気に沸き上がる安堵、良かった、エミリアが笑ってくれた。良かった、エミリアが笑った。
 司教が、小さく咳払い。
 あ、誓いのキスだな。
 これは前回と同じにするべきだ。
 本来なら、口にキスだが、それは直ぐに夫婦になる場合だ。エミリアは10歳。期間を置きますよ、と言う意味で、手の甲にキス。
 小さな手を大切に包み込み、そっとキス。

「ここにバルド・フォン、エミリア・ベルドの婚姻を宣言します」

あなたにおすすめの小説

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

夏の眼差し

通木遼平
恋愛
 伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。  家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。 ※他サイトにも掲載しています

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

最後の婚約破棄

こうやさい
恋愛
 その日、殿下は婚約者である令嬢に皆の前で婚約破棄を言い渡した。  そして予想外の事が起こる。  ……殿下の婚約破棄のというより、語り手が令嬢に対して失恋したという話になってる気が読み返したらしてきたんだけどどうだろう?(おい)  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。

BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。 後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。 新しい兄は最悪だった。 事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。 それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか? 本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。