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行方不明⑥ ※注意

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 暴力表現続きます、ご注意ください



 ダグラスは手が空いている教員や補助員をかき集めて、学園内を捜索。生徒数が軽く千人を越すマンモス校であるユミル学園は広大だ。しかも朝からの雨は降り続いている。どこかの倉庫に押し込まれていないか、手分けして探していく。広大で歴史あるユミル学園には、地下の反省室の様に使われず封鎖された倉庫も少なくない。
 ディミアとメリィーラがウィンティアを地下の反省室から連れ出したが、所詮少女の力だ、そう遠くまで連れ出していないはず。制服も濡れていたが、ずぶ濡れ出はなかった。

 口を割らない二人の保護者が来た。先に来たのは、メリィーラの母親、義母だった。だが、メリィーラは更に貝のように口を開かない。

「いい加減にしなさいっ。その人はどこにいるのっ。こんな雨の中、濡れているのなら、寒い思いをしているでしょうっ」

 ふんっ、と、そっぽを向くメリィーラ。

「言いなさいメリィーラッ」

「うるさいわねっ、母親でもないくせにっ」

 義母はぐっ、と言葉に詰まるが、冷静に続ける。

「その人はどこなの?」

「ふんっ、知らないわよっ、私には関係ないわっ」

 パンッ

 平手打ちが飛ぶ。
 まさか叩かれると思っていなかった。呆然と義母を見上げるメリィーラは、徐々に怒りを沸き上がらせる。

「母親でもないくせにっ、あんたなんて他人のくせにっ」

 パンッ

 再び平手打ちが飛ぶ。先程より強い力で。
 義母は反論する前に、もう一発平手打ちを打つ。

「その人はどこなの? 答えなさい、メリィーラ」

 メリィーラはずれたメガネを戻し、義母を睨み付けた。
 ウィンティアは大好きな母親を奪った憎い相手だ。そして母親がいなくなった後に、父親を騙してそのとなりに入り込んできた義母も、受け入れがたい存在だ。
 メリィーラにしては、これは正義の戦いだった。
 母親の敵を討ち、赤の他人の義母を自分が決して受け入れないと示す為の。
 ふんっ、と顔を背けたメリィーラを、義母の平手打ちを打った。

 別の反省室。
 そこはディミア・ペルクが拘束されていた。事情を聞いて学園に駆けつけたのは次兄だ。事情を聞いた次兄は怒鳴り声を上げる。

「ディミアッ、自分が何をしたか分かっているのかっ」

「知りませんわっ、謝らない向こうが悪いんですっ、あのキズ女のせいで、マルク様はっ」

「身から出た錆だろうっ、ローザ嬢はどこだっ」

 ふんっ、とそっぽを向くディミア。

「どこかの男の部屋ではありません? あのキズ女の姉はだらしないのですから、あのキズ女もそうに決まってますわっ」

 次兄は肩を震わせて、妹の肩を乱暴に掴む。

「お前は約束したな? ウィンティア・ローザには、接しないと? 約束したな?」

「知りません、私は知りませんっ」

「そんなわけないでしょう」

 同席していたマクガレルが告げる。

「ウィンティア・ローザは激しくムチ打ちを受け、手当てもされず、暗い地下に二日も監禁された。まともな食事もなかったはず。弱っているとは言え、人一人を運ぶには、あの寮管生だけで短時間でできるわけない。共犯者がいるはず。つまり、地下の鍵を隠し持っていたあなたとなります」

「私は関係ありませんっ、だいたい反省室の鍵はメリィーラが持っていたのよっ」

「反省室の鍵とは言っていませんが」

 冷たい声を放つマクガレルに、ディミアは睨み付ける。

「私を誰だと思っているのっ、私はペルク侯爵家の娘よっ」

「いい加減にしろっ、ローザ嬢はどこだっ」

「ふんっ、知りませんわっ、いい気味よっ」

 歪んだ嘲笑を浮かべるディミア。次兄は、一瞬、無表情になる。次の瞬間。

 バチンッ

 強烈な平手打ちが飛ぶ。
 弾みでディミアは床に転がる。突然の事で、呆然と次兄を見上げる。次兄の顔には今まで見たことがないほどの静かな怒りを浮かべていた。
 次兄はディミアの胸ぐらを掴み、強引に立たせる。初めての事で、ディミアは怯む。

「ウィンティア・ローザはどこだ?」

 ディミアは意地になっていた。あの入学式で、ウィンティアは頭を下げて自分に謝罪されすれば、何もかもうまく行ったはずなのに。マルクだって今でも自分の隣にいたはずなのに。
 ディミアは意地になっていた。

「だから、知りませんわっ。どこかの男子の部屋にでも」

 ガツンッ

 ディミアは殴られた。
 平手打ちではない、拳で、実の兄に。
 衝撃とともに激しいショックを受ける。痛みが広がり、鼻血が流れ落ちる。

「ウィンティア・ローザはどこだ?」

 ここまでになっても、意地になっていたディミアは、鼻血を流しながらも抵抗。

「知りませんっ、私は、知りませんっ」

 バチンッ

 強い力で平手打ち。メリィーラの義母はわずかに遠慮があったが、ディミアの次兄は容赦しない。
 さすがに止めに入ろうとしたマクガレルを振り切り、次兄はディミアの返事を待たずに二度、三度と強い平手打ち。胸ぐらを掴み逃げられないようにして殴打する。
 それでも知らないと繰り返すディミア。次兄はディミアを突飛ばし、椅子を蹴り飛ばす。音を立て椅子の脚が、はディミアの背中にあたる。床に踞るディミアを見下ろし、次兄は告げる。

「ディミア、覚悟はあるんだろうな? もう、お前を庇ってくれるお祖父様とお祖母様は助けてくれないぞ」

 びくり、と震えるディミア。
 末っ子のディミアは、忙しい両親に代わり、祖父母に可愛がられ育った。他の兄弟もそうだったが、ディミアは特に可愛がられた。前回のウィンティアの件でも、ディミアを庇い続けた。祖父母は首都から少し離れた療養地にいるから、すぐに飛んできてくれた。
 だから、ディミアは強気にいられた。必ず、祖父母が庇ってくれる、と。

「な、なんで…………」

「当たり前だろうが。あんな騒ぎを起こしておいて、反省を促さないような人達をお前の近くに置くわけないだろう。父上が領地に引き上げさせた。お前のそのまがった思想を生ませたのは、あの人達が無責任にお前を好きにさせたからだからな」

 次兄は、震えだしたディミアの胸ぐらを掴む。
 ディミアは絶対的な味方がいなくなってしまったことに、混乱を始める。そして眼前にいる次兄に、やっと恐怖を覚え始めた。

「ウィンティア・ローザはどこだ?」

 次兄は手を振り上げる。
 
 叩かれる。

 もう、次兄をしかってくれるお祖父様もお祖母様もいない。

「西っ、西門っ」

 鼻血を流しながら、ディミアは叫ぶ。

「寮の奥のっ、林の向こうの西門っ」

「鍵はどうしたのですかっ」

 マクガレルは叫ぶ。

「さ、錆びて、少し開いたんですっ。隙間から、ウィンティア・ローザを捨てましたっ」

 聞いたマクガレルは反論室を飛び出した。
 雨の中、ダグラスと合流し、ディミアの言った西門。正解には第三西門に向かう。確かに鍵が錆び壊れ、微妙に開くが、細身のものでないと通れない。
 だが、西門の付近には、目視範囲にウィンティア・ローザの姿がない。
 ダグラスが別の門から出て付近を探すが見つからない。
 側溝に引っ掛かった片方の白い靴。サイズは女性もの。汚れていたが、よく見たらオーダーメイドの靴だ。
 学園の裏側になり、普段から人通りがまばらな所に、何故、オーダーメイドの靴が。
 ダグラスは駆けつけて来たローザ伯爵当主に見せると、伯爵は顔面蒼白で呟く。

「娘の、ウィンティアの靴です。私が、私が作らせたものです……………」
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