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未来の一つ③

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「『魔了』と言うものは知っていますか?」

「いいえ。聞き覚えはありません」

 あまり、いい響きではないけど。

「簡単に説明すると、『魅了』の上位のものだと思ってください。この『魔了』はもともとこちらの世界で産まれた能力ではありません。異世界から紛れ込んだ魔女により伝わった力です」

「異世界から。もしかしてキャサリンにその力が?」

 なんだか厄介そう。

「この『魔了』は人から人へ伝染します。もちろん普通の流行性の風邪とかではなく、たった一人に伝染します。『魔了』は持ち主の魔女の意思を持ち、選んで次の持ち主へ寄生するのです」

 神様はため息。

「この魔女が厄介で自身の快楽の為に様々な人達へ寄生し、そしてこの『魔了』事態まだ誰も認識できていません。いたずらに人を傷つけ、笑い、焚き付ける。周囲がおかしい、怪しいと思われたら別の宿主へ移動を繰り返しています。そして、気まぐれに寄生主の記憶を抜いたりし、寄生主は自分が何をしたのかわからない、知らない内に罪を犯し、断罪される。それを笑って見ているのです」

 最悪。

「『魅了』と『魔了』の違いは伝染することもありますが、『魔了』の方が洗脳度が高い事です。そして洗脳度が高い者を介して、相手も操ります、症状としては『魅了』そのものですが、『魅了』はそれを持つものが直接接しないと発動しないことです。ただ、『魔了』による犠牲者は後を絶ちません。現在のコクーン修道院にもその被害者が何人も保護されています」

 そう言えば、立ち入ってはいけないエリアがあったけで、まさか。

「ウィンティア・ローザもその犠牲者の一人です」

「え?」

「『魔了』の魔女はある日、ある女に寄生し、ある貴族男性を支配下にしました。その貴族男性を介し、使用人、ピアノ教師まで狂わせたのです」

 ピアノ教師ってまさか。
 咄嗟に額を押さえる。

「そうです。ウィンティア・ローザの祖父ジェフリー・ローザです。『魅了耐性』の訓練を積んでいたジェフリー・ローザはなかなか手の内に落ちなかったのですが、ある日陥落してしまいます。そう、キャサリンがテヘロンで騒ぎを起こした頃にね」

 なんとなく分かった。祖父の行動と行方が分からないのは、これだ。ウィンティアを引き取る為にきつい『魅了耐性』の訓練まで積んでいたのに、なぜ、再びウィンティアを傷つけるような事をしたのか。そして、使用人達も同様だったわけだ。

「あのピアノ教師は『魔了』が効きすぎてああなりましたが。『魔了』の持ち主は各国を転々としています。長い歴史のなかで、『魔了』のせいで起きた戦もあります。当然犠牲者の数は二桁や三桁でありません」

 なんか、やばくない?

「『魅了』はこの世界で産まれた能力。だから、私、神も下手に介入できない。規則としてね。だけど、これ以上、他所から来た『魔了』による犠牲者を出したくない」

 やばくない?

「あの神様、私に何をしろと?」

 私には特別な力はない。その『魔了』の魔女をどうにかなんてできっこない。

「このままキャサリンを社会的に破滅させなさい。『魔了』の魔女は次の寄生主にキャサリンを狙っています。ウィンティアを自殺に追い込んで得たレオナルドを捨てて、アサーヴに走るような短絡的快楽的なキャサリンは、宿主として最適なんです。『魔了』はいつでも力は使えません。どうしても力を使った後の回復期が必要で、今は眠りに着いています」

 そこをどうにかできないの?

「『魔了』を封じるのは高位神官のみ。ルルディではかつてキャサリンに『魅了封じ』を施したあの神官のみです」

 顔知らない。

「いいですか? 彼は滅多なことでは表に出ません。よほどの強い『魅了』持ちが現れない限り。現在ウーヴァ公爵とキャサリンを社会的抹消の為に準備し、いずれ裁判でしょう。『魔了』はおそらくその裁判で力を使い、キャサリンに有益に運び、貴女を死に追いやろうとします。その神官を裁判の傍聴席に引っ張り出すのです」

「どうやって」

「一言でいいのです。誰かに頼りなさい」

「その誰か、あっ」

 分かった、ルルディ王国でも貴族の頂点にいるウーヴァ公爵家。その公爵家が大事にしているレオナルド・キーファーの婚約者は、私だ。実際『魅了』の被害にも合ってる。なら、裁判をいざ起こす時に、その神官を引っ張り出せるには、私が彼らにお願いするしかない。
 なら、いつ、お願いする?
 どうやってお願いする?
 ふと、神様が赤い本の目次を示す。

 事例八 アデレーナ・グラーフ

 字がかなり薄くなってる。
 そうだ、今はこれに集中して、きれいに終わったら、それから改めよう。

「山岸まどかさん、すべてが終わる時、貴女の望みを叶えます。これは変わりません」

 どうか。

 この世界で産まれた命を、『魔了』から救ってください。
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