ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
257 / 338

閑話 テヘロンの侍女 その3

しおりを挟む
 うつら、うつら、うつら。
 ウィンティア嬢がうつら、うつら。
 私が髪の手入れをしていると、よく船を漕いでいる。
 仕事に熱中して、婚期を逃した私には、当然子供はいない。もし、村で結婚していたら、ウィンティア嬢くらいの子供がいてもおかしくない。
 たまに、愛しく感じてしまう。
 ウィンティア嬢は真面目な性格だし、勤勉だ。顔立ちも知的な美しさを持ったティーナ夫人を彷彿とさせる。それに貴族令嬢なのになぜか、厨房でシェフと混じって料理をしていた、テヘロン人からしたら、嫁にしたい要素満載の少女だ。勤勉で家計を守り、厨房で家族の健康を気遣う。しかも味覚が、本職のシェフ顔負けだ。ウィンティア嬢がアイデアを出した料理が、テヘロン大使館のお茶会で大成功を納めてから、シェフ達が必死だ。しかも、スティーシュルラ殿下も、可愛がっている。
 嫁にしたい要素が多すぎ。
 アサーヴ殿下がウィンティア嬢を手に入れたい様子だが、どうも、彼女のアイデアと舌だけではないようだ。理由は私ごとぎでは分からないが、ただ、私は責務を全うするだけ。
 あのティーナ夫人を毒殺に追いやった、キャサリン・ローザが大使館前で騒いだ時、暗殺用のナイフを忍ばせて玄関に向かったが、その前に馬車に押し込められて去っていた。ち、遅かったか。
 私が刺繍したハンカチやワンピースもびっくりしながらも嬉しそうにしている姿を見ただけで、私は達成感に包まれる。
 短い間だけの関係だが、私は、ティーナ夫人との大切な思い出を彷彿とすることが出来た貴重な時間だった。

 あれから少し時が流れた。
 ウィンティア嬢のアイデア、カレーパンが世間を圧倒している。同時に、ウィンティア嬢の専属メイドの父親の名誉を回復させるための裁判が始まった。
 現在、ウィンティア嬢は、ウーヴァ公爵家から通っている。おそらく、ウィンティア嬢の身辺警護の為だろう。仮のはずである婚約者とは、悪くない関係のようだが。シェフが必死にソードになんとかなんとか言って、ソードが非常に困った様子だ。
 あのテヘロン人に敵に回したアデレーナ・グラーフなどどうにでもなればいい。『テヘロンの至宝』と唄われる我らのスティーシュルラ殿下を蔑むような言葉を出した女の末路など、どうでもいい。
 私はスティーシュルラ様の側に着き、しずしずと続く。
 ふいに騒々しい声が。
 とっさにスティーシュルラ殿下を守るように動いた視線の先に、地面に倒れ付したウィンティア嬢が。その小さな肩と背中を、男子学生の足で蹴っている。
 ウィンティア嬢を、明らかに、自分より小柄でしかも女性のウィンティア嬢を、だ。
 飛び出したい、だが、私はスティーシュルラ殿下の護衛なのだ。

『撃て』

 スティーシュルラ殿下の口から初めて鋭い言葉が出る。
 それは、ウィンティア嬢を害なす連中を叩きのめせ、と言うことだと、汲み取る。
 普段から鍛えられた甲斐があり、私はあっという間に二名の男子生徒を叩きのめした。過剰防御かもしれないが、なんとかなるだろうと踏んでいた。
 暴行されていた女子生徒を守ったのだから。仮の婚約者、レオナルド・キーファーも、一応親であるローザ伯爵夫妻も擁護してくれるはず。
 ウィンティア嬢は真っ青な顔をして、言葉を出そうともがいていた。虐待を受けていた彼女には、想像以上の衝撃だったのだろう。
 小刻みに震えるウィンティア嬢を、抱えて、私は医務室に走った。
 本当なら、このままテヘロン大使館の馬車に乗せて帰りたかったのを我慢して。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...