無職メンヘラ男が異世界でなりあがります

ヒゲオヤジ

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第一章

見知らぬ場所

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ガツン!

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・)

まず感覚の衝動があり、それから感情が噴き出す。

(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!)

――――――――

始まりは普通の会話だった。

そのうち、生意気な言葉を吐いてしまい、すぐさま怒りの感情むき出しの敵意をぶつけられ殴られた。
相手は体も大きい。クラスでも目立つ、学校の番格というやつだ。

その凶暴な目が残酷な光に彩られていた。

倒れた自分を蹴る蹴る蹴る。

(もう終わってくれ・・誰か止めてくれ・・誰か代わってくれ・・)

そんな願いもむなしくリンチは続けられ、そして・・・

・・・

完全に心が折れていた。

――――――――

それがすべての始まり。
俺の中学時代は1年の時のリンチから、すっかりいじめられ役に固定されてしまった。

メンバーは一定ではない。

時に不良チームの仲間。
時に見も知らない相手。
また地元の友達というパターンもあった。

一応自分でも対抗するためにキックやパンチの練習などしてみるが、いざとなると体が震えてなにもできずに言いなりになるのみ。

女子の俺を見る目も下等生物を見る目になっていく。

早く学校終われ・・・

そんな思いの中学生活だった。

その後の負け犬人生はこんなことで決まっていったのかもしれないと思ったりする。

高校ではそのビクビクした雰囲気を察するのか、気の強い生徒に脅され、再びいじめられる日々。

成人し、会社生活を送るようになっても尚、
「お前は言い方が異様にむかつくんだよ!」
などと先輩上司から言われるような日々。
自分では普通に話しているつもりなのだが、俺はどうも人を怒らせる才能があるようだ。

心を病むまではそう時間はかからなかった。

就職しては転職の繰り返しで生活は安定せず。結婚など夢のまた夢。
そもそも相手がいない。

どうもこの世は種類はことなるにせよ、ある部分で強いものしか家庭を築くこともできない仕組みらしい。

心を病み、引きこもるようになり、親からは「もっと強くなりなさい」と言われそのたびに立ち上がろうとするものの、社会の壁というやつは、コミュ障のメンヘラ弱者にはなかなかに厳しく、就職しては出社できなくなるの繰り返し。

そのうち、何もできなくなり、自室にこもり、趣味であった歴史物の小説や、気休めのための就職サイト巡り、ネットサーフィンに時間を費やしていく。

気が付くと世の中でアラフィフと呼ばれる年齢になっていた。

周囲の友人は皆、仕事、家庭を持ち、守るべきもののために戦っている。

俺は自分一人で立つことすらできず、『死』について日々考えるようになっていた。

・・・そんなある日。

いつもの通り部屋の扉外に置かれた食事をとろうと部屋から出るため、扉を開ける。



・・光



・・まばゆい白一色の世界に埋め尽くされていく。
瞬間的にこれはヤバい!と思い慌てて引き返すもそこには自分が出てきたはずの自室の扉がない。

ああ、これは異世界転生か転移か・・ラノベであるパターンか?

しかし、小説で見ている分には楽しいが今のメンヘラ中年男が魔物が跋扈するような世界で生きていけるはずもない。

電気、水道、ネットからウォシュレットに至るまで現代日本にどっぷりつかった俺にはよくある異世界転生でウハウハなどと考えられるわけもなく・・・

しかし、その時は来てしまった。

――――――――

気が付くと辺り一面真っ白の部屋にいた。

そこではいかにもな雰囲気の武器らしきものが目の前にある。

この武器は・・?剣?よくあるパターンでは抜くと強力な力を手に入れたりできるパターンだが・・・剣の形をしているものの、発光色のせいか形が一定していないように見える。

もはや引き返せないところにきている予感を感じつつ、そのものに手を伸ばす。
するとその発光体は突然話しかけてきた。

『そこのもの、何を望むか?』

少々驚いた。が、すぐに気を取り直し、反射的にこう答える。

「故郷に帰ることです!」

「その願いは現在ではかなえられぬ。ほかに望みはないのか?」

「では・・つ・・強くなりたい!歴史に名を遺した英雄たちのように!!」

発光体はそのまま光り続け・・やがてその光を収めて行き・・

『ならば我を取るがいい』

と、発光体は剣の形に収縮していき、やがて光も徐々に消えていく。

しまった!単純に最強になりたい、とかのほうが良かったか?
と思ったが時すでに遅し。

とりあえずその剣らしきものを手に取ってみる。

・・・想像より重い。

一度振ってみると重さに体がもっていかれそうになる。

とりあえずは現状把握だな。後ろの出口らしきところから外に出てみよう。

――――――――

外に出てみるとそこは爽やかな風が吹く丘陵の上のようだった。
出てきた建物を見ると丁度小型のピラミッドのような形をしている。

と、そのピラミッドの上部が光ったかと思うと徐々にその光を下部にまで広げていき・・・

消えてしまった。

「何だったんだ・・?」
まずはここがスタート地点ということか。
しかし、メンヘラ中年男がたとえ剣と魔法の世界に放り出されたところで何かできるのだろうか?

まずは日本に帰ることを考え、その可能性について考える。

通常のパターンでは異世界からの帰還は難しいが主人公が諦めて新たな世界で無双したりしつつそれなりに楽しくやるのが基本だ。

だが、俺は日本に帰りたい。方法があるかどうかわからないが模索することは無駄だとしてもやるつもりでいた。

あのくそったれな世界でも故郷は故郷だ。

さて、まずはもう少し周辺を見て回るか・・・

――――――――

近辺を探索しているうちに美しい渓流をみつけた。

何よりもまず飲み物だよな・・どこかで聞きかじった知識を思い出しながら、喉が激しく乾いていることに気づく。

厳密には生水には悪さをする菌などがいる可能性があるので煮沸消毒などをしたほうが良いのだろうが・・渇きに耐えられず一口すすって飲んでみる。

大丈夫・・のようだ。冷たくひんやりとしたものが喉を通り過ぎていく。

次にふと波が収まった川面をのぞいてみると・・

「誰だこれ?」

年のころ中学生くらいの少年が映し出されていた。

転生(転移?)で体が若くなったのか。

メタボ体形の体が、痩せぎすだった少年時代の姿になっている。

なるほど。剣の重さを想像以上に感じたのもこういうことか。手の大きさなどで気づきそうなものだが意外と気づかないものだ。

しばし丘周辺を散策してみると村落らしきものが遠くに見えた。

人がいるのか?
もしくはエルフとか・・・ドワーフとか・・・魔族とかだったらどうしよう。

とまれとりあえずここで一人でいるわけにもいかずその村を目指していくことにする。

――――――――

丘周辺は意外と森が広がっており、しばらく草をかき分け、木々をかわしつつ歩くので想定以上に疲れる。

ようやく村が見えてきた。

――――――――

村はよくある中世風の小さな村落といった風情だった。

木の柵が周りを囲んでおり、小さな門が見える。
とりあえずはその門を目指して進んでみることにする。

日時は夕方といったところか。
光の部屋から出て周囲の探索、森を抜けるなどしたのでなかなか時間を使ってしまった。

門で門衛らしき人が立っているのが見える。
とりあえずは人の村なのか?

まずは話しかけてみる。

「あのぅ・・丘の上から来たのですが・・・」

・・!

一目で顔色が変わったのが分かった。
まずい、何か言ってはいけないことを言ったか?

「おい、丘の上といったな。お前は丘の上の建物から出てきたのか?」

ここで嘘をついても始まるまい。

「え・・はい。丘の上のピラミッドから出てきました。もっとも建物は消えてしまいましたが・・」

「ちょっとここで待て!」

衛士はそう言い残して村の奥へかけていく。

しばし待ちつつ周囲を見ていると蝶のようなものや蜂のようなものが飛んでいるのがわかる。
生態系は地球とさほど変わらないのだろうか?

と、ここでふと会話が普通にできていることに気づく。
これは異世界転移のボーナスなのか?もともと言葉が共通なのかはわからない。

ただ、門に書いてある村名らしきものはわからないので読解は無理のようだ。ということはやはり異世界ボーナスで会話だけはできるようになっているのか。

待つこと暫し・・

やがて先ほどの衛士が白いひげを伸ばした老人を伴って戻ってきた。

「今後、こちらの賢者さまがおぬしの審問を行う」
は?賢者?

賢者といえばあらゆる魔法に通じ知らぬことなどない、というようなイメージなんだが・・。
こんな小さな村に住んでいるものなんだろうか?
それとも引退して住んでいるだけなのか。

それでも、まぁ、これで状況がまわるかもしれない。
お話をさせていただこう。
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