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第六章
キョートでの対決
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俺の命だと?
「お前は・・誰だ?」
「私はウォルター・ムスラン。『蒼狼の会』のものだ。」
「『蒼狼の会』だと!?」
「そうだ。今までの戦いでお前、ユージ・ミカヅチがことごとく我々の邪魔をしている。『蒼狼の会』ではお前を重要対象の一人として認識することになったのだ。」
「俺が重要対象・・?」
「既にお前の弱点はわかっている。私が差し向けられたのもその理由だ。」
「ああ?てめぇは何を言ってやがんだ?」
ダースがウォルターに食いつく。
俺達は念のため武器を保有している。ダースも剣を保有している。
「『蒼狼の会』なら手加減はいらねぇなぁ!喰らえ!」
「ダース!やめろ!」
俺の静止を振り切ってダースがウォルターに切りかかる。肩口から一気に切り下げた。
・・だが、ウォルターはその衣服を脱ぐとダースの剣をそのまま受けた。ぐにゃり。ウォルターの体が変形する。ダースはたたらを踏んで前につんのめった。
「な・・なんだてめぇはぁ?」
「私の体は水分でできている。物理攻撃は通用しない。」
「水分だと?」
「ダース!下がれ!」
「遅い!水刃!」
ウォルターの手から水の刃が放たれる。ダースの腹部を切り裂いた。
「ダース!」
俺の声も空しくダースは崩れ落ちた。
「皆下がれ!アイリスはダースにヒールを!サンダユウ!ポールとハウストを安全な場所へ!」
「わかったよ!」
「かしこまりました!」
唖然としているポールとハウストを抱えてサンダユウが距離を取る。
「他の奴らはどうでもよい。今回の目的はお前だ。ユージ・ミカヅチ。」
「・・ならかかってこい!」
「いくぞ!水刃!」
ウォルターの手から水が固形物となって放たれる。
「コール!宮本武蔵!」
俺はそれを間一髪、叩き落とした。
「ふふ・・そうでなくてはな・・ではこれはどうだ。液体変化!」
ウォルターの体がぐにゃりと変形する。まずでスライムの様だ。
「いくぞ!貴様の剣では私は切れまい!」
ウォルターは液体となった体で俺に襲い掛かってきた。
俺はウォルターの体を切り刻むが・・手ごたえがない。
そのままウォルターの体は俺の体内に侵入してきた。
「ぐ・・ぐぼぉっ!」
「そのまま窒息死するがいい。地上での溺死もなかなかおつなものであろう?」
これは・・俺ではどうしようもない。アカネの炎やアイズの氷ならなんとかなるかもしれないが・・
「く・・くそぉ!」
ウォルターの液体は俺の体内に完全に侵入し、俺の口、喉、肺にまで侵入してきた。
だめだ・・意識が遠のく・・
「そうはさせないよ!セレクテッド・ヒール!」
アイリスが魔法を唱える。
半ば強引に俺の体内から液体を取り出そうとする。
「む・・中々のヒーラーがいるようだな・・だがもう遅い!」
ウォルターの水は俺の体に侵入し、自由を奪っていく。
「く・・くそ!」
俺はホーンテッドでウォルターの首を切り落とす・・だが切り落としたはずの首がまるで水を切ったかのようにぐにゃりと変形し、すぐに元通りになる。
「て・・てめぇ!」
後ろに下がっていたポールが槍を、ハウストがナイフを持って切りつける。
「だ・・だめだ・・ポール、ハウスト・・」
ポールハウストの攻撃のことごとくがウォルターの体をすり抜ける・・いやすり抜けるというよりなんの痛痒も与えていない。
だ・・だめだ・・意識が・・
「炎弾!」
サンダユウが隠し持っていたシノビ武器をウォルターに投げつける。
「む・・炎か!」
「炎壁!」
サンダユウは更にウォルターの周りに油をまき炎の術で取り囲んだ。
「皆さん今のうちに!今は逃げの一手です!」
アイリスのヒールでなんとか立ち上がれるようになったダースを、サンダユウが肩を貸して走り出す。俺の体はポールとハスウトに抱えられ、運ばれた。その間にもアイリスのヒールが俺の体から液体を抽出する。
「ぐ・・ぶはぁっ!」
俺はなんとか水を吐き出した。
あと数秒遅れていたら溺死していたか、脳に障害が残っていたかもしれない。
「逃がさん!」
ウォルターが炎壁を水で消化し、俺達に追いすがる。
「「ユージ!」」
そこに騒ぎを聞きつけてきたアカネとアイズが駆け付けてきた。
「む・・報告にあった氷竜に炎使いか・・私とは相性が悪いな・・致し方ない。今は一度退こう。」
ウォルターはそう言うと黒いフードをかぶりなおし、あっと言う間にどこかへと姿を消していった。
「ユージ!ユージィ!」
アカネが俺を揺さぶる。
「アカネ今はまだだめだよ!肺に水が残ってる。ここは私に任せて!セレクテッド・ヒール!」
アイリスの魔法で俺の体からウォルターの液体が抜けていく。
しかし、ダメージは深刻だった。
俺は立ち上がることができず、そのまま病院に運ばれた。
・・・
俺はベッドに横たわり、アイリスの治療を受けていた。
ダースはすっかり回復し、心配そうに俺を見ている。
「水があんなに恐ろしいものだったなんてよう・・想像もつかなかったぜ・・それにあの水使い・・ユージたちは今まで恐ろしい奴らと戦ってきたんだな・・」
ダースが身震いしたように言う。
「あ・・ああ、ダースたちはできるだけ『蒼狼の会』には関わらない方がいい。あいつらは暗殺集団だ。普通の学生が対処できるもんじゃない・・」
「言われたってもうしねぇよ!初めて死を感じたぜ・・」
俺もテイマーの魔獣の群れに襲われた時はそう感じたっけな・・あの時はサンダユウに助けてもらったんだっけ・・
「ユージ殿。他のものは皆無事です。あのウォルターのいうものですが、手のものに探させましたが、完全に姿をくらましました。」
サンダユウがこっそり報告してきた。
「そうか・・とりあえず他の皆に何もなければいい・・グホッ!・・まだダメージが抜けきってないな・・」
「今はゆっくりお休みください。そのうち体調も復活いたしましょう。」
「ああ、そうさせてもらう・・」
「ユージ君、まだ動いちゃダメだからね?体のあちこちに余分な水分が残ってるから除去するから。」
アイリスがそう言ってヒールをかけてくれる。
段々体が楽になってきた。
しかし水があれほど恐ろしいとは・・刃となって切ることもできるし、体内に入って窒息させることもできる。こちらから攻撃しようにも液体だ。物理攻撃ではどうしようもない。
しかし・・本当にどうしようもないか?
俺はあれこれと考えを巡らせていた。
・・・
結局、修学旅行は散々な結果になった。
俺は途中から宿舎に移動したが、体のダメージが抜けきらず、ベッドに横たわっていた。
サンダユウ、アカネ、アイズが護衛についてくれている。
そして心配そうなアイリス。
「みな、もう大丈夫だ。せっかくの修学旅行だ。観光を楽しんできてくれ。」
「嫌よ!またあいつが現れたらどうするの?」
アカネがぷんぷんした顔で答える。
「僕も離れない。カンコーはいつでもできる。」
アイズも離れる気はないようだ。
「ユージ君。溺れた時のダメージは簡単に判断できないんだよ?もう少し様子を見させてね?」
仕方ない。
「サンダユウ、念のため、生徒の警戒を頼む。俺の事はいいから。」
「今、手のものに探らせております。どうやら、あのウォルターという男、いったん完全に姿をくらましたようです。狙いは本当にユージ殿だけだったようですね。」
ついに『蒼狼の会』が俺に照準を定めてきたか・・今後が思いやられるな。
「ダースの具合はどうなんだ?」
「ダースはもう完全に復活して観光を楽しんでるわよ。」
アカネが答える。
そうか。それなら良かった。あの水刃を喰らったのにな。アイリスのヒールのおかげだな。
しかし・・前回のスライムといい、ウォルターといい、どうも水属性の敵には相性が悪いな。一応対応策として考えていることはあるが果たして実現できるものか・・
・・・
俺は最終日には出かけられるようになった。
護衛としてアカネとアイズがついて来てくれている。
「ちょっと行ってみたいところがあるんだ。」
「いいわよ。どこでもついていくわ。」
「僕も。」
俺は源光庵を模された場所に向かっていた。
「源光庵」の見どころは、仏教の概念が込められた「迷いの窓」と「悟りの窓」。四角い形の「迷いの窓」は人間の生涯を象徴しており、生を受けた時から逃れることのできない様々な苦悩「釈迦の四苦」を表しているといわれている。それに対し、大宇宙を表現した丸い形の「悟りの窓」は「禅と円通」の心を表しているそうだ。
まず「迷いの窓」を見て自問自答したら、「悟りの窓」の前に座って自分自身を見つめ直すことで本来の自分に変わることができるといわれている。窓から見える風景は季節によって異なり、春夏は緑、秋は紅葉、冬は雪と変わっていくのが魅力だ。
俺はまずは「迷いの窓」に向かい自問自答した。
キョートにきてからの自分。ロビンとアカネを見てもやもやした気持ちで戦いに及んだ自分。そして負けた自分・・
「なぁアカネ。」
「何?」
「俺はヤキモチをやいていたんだ。」
「はぁ?何言ってるの?」
「アカネとロビンの事だ。親し気にしている二人を見て、心のもやもやが晴れなかった。」
「馬鹿ね・・」
「アカネの肩に手を触れたり、腰に手を回したりしているのを偶然見た。それで一層自分を失ってしまったんだ。」
「・・ホント変なところだけ見てたのね。あれは肩にゴミがついてたのを払ってくれたのと、慣れない道で転びそうになってたのを支えてくれたのよ。」
「そうだったのか?」
「そうよ。」
アイズもいるし、俺達はそのまま無言で窓を見つめていた。
俺は次に「悟りの窓」に向かってみた。
丸い窓、自分自身を見つめ直すことで本来の自分に変わることができる・・俺はホーンテッドを握りしめた。
(ホーンテッド・・今一度お前の力を貸してくれ・・)
少しホーンテッドが光った気がした。
「アイズ、少しアカネと二人にしてくれるか?」
「うーん、心配だけど。わかった。僕あっちを見てくる。」
アイズが去った後、俺はアカネに言った。
「アカネ、俺はアカネが大事だ。」
「!」
「今回の事でよくわかった。俺はアカネをとても大切に思っている。」
「ホント馬鹿ね・・いまさらって感じよ。私のユージへの想いは伝えたでしょう?」
「それが信じられなくなっていたんだ。今回は戦いの相性もさることながら俺の心の迷いも出ていたように思う。」
「心配しなくても私は誰のもとにもいかないわ。」
「それを聞いて安心した。次は迷いなく戦いに臨めそうだ。」
「男の子ってそんなことで迷いが出るの?」
「本気で大切な人ができるとそうなるんだと思う。俺は中身はいい年したおっさんだけど・・年齢は関係ないってわかったよ。」
「それだけ私を想ってくれてるってことね。なんだか嬉しいわ。」
アカネは晴れやかな顔で笑った。
しばらくしてアイズが戻ってきた。
「話は終わった?」
「ああ、もう言いたいことは伝えた。迷いがなくなったよ。」
「そう。ならいい。」
俺達は次に清水寺を模した場所に向かった。
ここもオリジナルの清水寺と同じく高い舞台が作られていた。
「俺の国では何かを決心してやるときに、『清水の舞台から飛び降りる気持ちで』と言うんだ。」
「へぇ・・?なるほどね・・こんな高い場所から飛び降りるほど必死な気持ちってわけね。」
「僕なら飛べるけど。」
俺達はそんなことを話しあっていると向こうからロビンがやってくるのが見えた。
「やぁアカネ君。それにユージ君、アイズ君だったかな?」
「初めまして、かな。ユージだ。」
「どうしたの?ロビン君。」
「アイズ君、ちょっと外してくれるかな?」
「ええ~また?」
「アイズ、俺からも頼む。」
「仕方ない。じゃあ僕はこの先に行ってる。」
アイズが先に歩いていく。
「この美しい景観で君らに伝えておきたかったんだ。僕はアカネ君を愛している。」
「!」
アカネが目を見開いて驚いている。まさかこんな場所で告白されるとは思っていなかったのだろう。
しかし、俺は比較的冷静だった。
「そして簡単に諦めるつもりもない。今日はそれを君らに言っておきたかった。」
「ロビン君、私は好きな人がいるの。」
「わかってる。そこのユージ君だろう?でも僕は諦めない。振り向いてもらうまで何度でもアタックするつもりだ。」
それだけ言うとロビンは去っていった。
「アカネ・・どうするんだ?」
「どうもこうもないわよ。どうしようもないでしょう?」
「ああ、そうだな。アカネははっきり断ってくれたのに、諦めない、と言ったのは奴だ。」
「はぁ・・なんでこんなことになっちゃったのかしら。」
「モテる女の宿命だな。」
「もうユージ!からかってるでしょう?」
「いや、からかっていない。よくよく考えたらアカネほどの女性だ。アカネを本気で想う奴の一人や二人いても不思議じゃないとようやくわかったのさ。」
「そうかしら・・」
アカネは今一つ自分の魅力がわかってない部分があるな。
そして・・俺は次の戦いへと頭を切り替えていた。
「お前は・・誰だ?」
「私はウォルター・ムスラン。『蒼狼の会』のものだ。」
「『蒼狼の会』だと!?」
「そうだ。今までの戦いでお前、ユージ・ミカヅチがことごとく我々の邪魔をしている。『蒼狼の会』ではお前を重要対象の一人として認識することになったのだ。」
「俺が重要対象・・?」
「既にお前の弱点はわかっている。私が差し向けられたのもその理由だ。」
「ああ?てめぇは何を言ってやがんだ?」
ダースがウォルターに食いつく。
俺達は念のため武器を保有している。ダースも剣を保有している。
「『蒼狼の会』なら手加減はいらねぇなぁ!喰らえ!」
「ダース!やめろ!」
俺の静止を振り切ってダースがウォルターに切りかかる。肩口から一気に切り下げた。
・・だが、ウォルターはその衣服を脱ぐとダースの剣をそのまま受けた。ぐにゃり。ウォルターの体が変形する。ダースはたたらを踏んで前につんのめった。
「な・・なんだてめぇはぁ?」
「私の体は水分でできている。物理攻撃は通用しない。」
「水分だと?」
「ダース!下がれ!」
「遅い!水刃!」
ウォルターの手から水の刃が放たれる。ダースの腹部を切り裂いた。
「ダース!」
俺の声も空しくダースは崩れ落ちた。
「皆下がれ!アイリスはダースにヒールを!サンダユウ!ポールとハウストを安全な場所へ!」
「わかったよ!」
「かしこまりました!」
唖然としているポールとハウストを抱えてサンダユウが距離を取る。
「他の奴らはどうでもよい。今回の目的はお前だ。ユージ・ミカヅチ。」
「・・ならかかってこい!」
「いくぞ!水刃!」
ウォルターの手から水が固形物となって放たれる。
「コール!宮本武蔵!」
俺はそれを間一髪、叩き落とした。
「ふふ・・そうでなくてはな・・ではこれはどうだ。液体変化!」
ウォルターの体がぐにゃりと変形する。まずでスライムの様だ。
「いくぞ!貴様の剣では私は切れまい!」
ウォルターは液体となった体で俺に襲い掛かってきた。
俺はウォルターの体を切り刻むが・・手ごたえがない。
そのままウォルターの体は俺の体内に侵入してきた。
「ぐ・・ぐぼぉっ!」
「そのまま窒息死するがいい。地上での溺死もなかなかおつなものであろう?」
これは・・俺ではどうしようもない。アカネの炎やアイズの氷ならなんとかなるかもしれないが・・
「く・・くそぉ!」
ウォルターの液体は俺の体内に完全に侵入し、俺の口、喉、肺にまで侵入してきた。
だめだ・・意識が遠のく・・
「そうはさせないよ!セレクテッド・ヒール!」
アイリスが魔法を唱える。
半ば強引に俺の体内から液体を取り出そうとする。
「む・・中々のヒーラーがいるようだな・・だがもう遅い!」
ウォルターの水は俺の体に侵入し、自由を奪っていく。
「く・・くそ!」
俺はホーンテッドでウォルターの首を切り落とす・・だが切り落としたはずの首がまるで水を切ったかのようにぐにゃりと変形し、すぐに元通りになる。
「て・・てめぇ!」
後ろに下がっていたポールが槍を、ハウストがナイフを持って切りつける。
「だ・・だめだ・・ポール、ハウスト・・」
ポールハウストの攻撃のことごとくがウォルターの体をすり抜ける・・いやすり抜けるというよりなんの痛痒も与えていない。
だ・・だめだ・・意識が・・
「炎弾!」
サンダユウが隠し持っていたシノビ武器をウォルターに投げつける。
「む・・炎か!」
「炎壁!」
サンダユウは更にウォルターの周りに油をまき炎の術で取り囲んだ。
「皆さん今のうちに!今は逃げの一手です!」
アイリスのヒールでなんとか立ち上がれるようになったダースを、サンダユウが肩を貸して走り出す。俺の体はポールとハスウトに抱えられ、運ばれた。その間にもアイリスのヒールが俺の体から液体を抽出する。
「ぐ・・ぶはぁっ!」
俺はなんとか水を吐き出した。
あと数秒遅れていたら溺死していたか、脳に障害が残っていたかもしれない。
「逃がさん!」
ウォルターが炎壁を水で消化し、俺達に追いすがる。
「「ユージ!」」
そこに騒ぎを聞きつけてきたアカネとアイズが駆け付けてきた。
「む・・報告にあった氷竜に炎使いか・・私とは相性が悪いな・・致し方ない。今は一度退こう。」
ウォルターはそう言うと黒いフードをかぶりなおし、あっと言う間にどこかへと姿を消していった。
「ユージ!ユージィ!」
アカネが俺を揺さぶる。
「アカネ今はまだだめだよ!肺に水が残ってる。ここは私に任せて!セレクテッド・ヒール!」
アイリスの魔法で俺の体からウォルターの液体が抜けていく。
しかし、ダメージは深刻だった。
俺は立ち上がることができず、そのまま病院に運ばれた。
・・・
俺はベッドに横たわり、アイリスの治療を受けていた。
ダースはすっかり回復し、心配そうに俺を見ている。
「水があんなに恐ろしいものだったなんてよう・・想像もつかなかったぜ・・それにあの水使い・・ユージたちは今まで恐ろしい奴らと戦ってきたんだな・・」
ダースが身震いしたように言う。
「あ・・ああ、ダースたちはできるだけ『蒼狼の会』には関わらない方がいい。あいつらは暗殺集団だ。普通の学生が対処できるもんじゃない・・」
「言われたってもうしねぇよ!初めて死を感じたぜ・・」
俺もテイマーの魔獣の群れに襲われた時はそう感じたっけな・・あの時はサンダユウに助けてもらったんだっけ・・
「ユージ殿。他のものは皆無事です。あのウォルターのいうものですが、手のものに探させましたが、完全に姿をくらましました。」
サンダユウがこっそり報告してきた。
「そうか・・とりあえず他の皆に何もなければいい・・グホッ!・・まだダメージが抜けきってないな・・」
「今はゆっくりお休みください。そのうち体調も復活いたしましょう。」
「ああ、そうさせてもらう・・」
「ユージ君、まだ動いちゃダメだからね?体のあちこちに余分な水分が残ってるから除去するから。」
アイリスがそう言ってヒールをかけてくれる。
段々体が楽になってきた。
しかし水があれほど恐ろしいとは・・刃となって切ることもできるし、体内に入って窒息させることもできる。こちらから攻撃しようにも液体だ。物理攻撃ではどうしようもない。
しかし・・本当にどうしようもないか?
俺はあれこれと考えを巡らせていた。
・・・
結局、修学旅行は散々な結果になった。
俺は途中から宿舎に移動したが、体のダメージが抜けきらず、ベッドに横たわっていた。
サンダユウ、アカネ、アイズが護衛についてくれている。
そして心配そうなアイリス。
「みな、もう大丈夫だ。せっかくの修学旅行だ。観光を楽しんできてくれ。」
「嫌よ!またあいつが現れたらどうするの?」
アカネがぷんぷんした顔で答える。
「僕も離れない。カンコーはいつでもできる。」
アイズも離れる気はないようだ。
「ユージ君。溺れた時のダメージは簡単に判断できないんだよ?もう少し様子を見させてね?」
仕方ない。
「サンダユウ、念のため、生徒の警戒を頼む。俺の事はいいから。」
「今、手のものに探らせております。どうやら、あのウォルターという男、いったん完全に姿をくらましたようです。狙いは本当にユージ殿だけだったようですね。」
ついに『蒼狼の会』が俺に照準を定めてきたか・・今後が思いやられるな。
「ダースの具合はどうなんだ?」
「ダースはもう完全に復活して観光を楽しんでるわよ。」
アカネが答える。
そうか。それなら良かった。あの水刃を喰らったのにな。アイリスのヒールのおかげだな。
しかし・・前回のスライムといい、ウォルターといい、どうも水属性の敵には相性が悪いな。一応対応策として考えていることはあるが果たして実現できるものか・・
・・・
俺は最終日には出かけられるようになった。
護衛としてアカネとアイズがついて来てくれている。
「ちょっと行ってみたいところがあるんだ。」
「いいわよ。どこでもついていくわ。」
「僕も。」
俺は源光庵を模された場所に向かっていた。
「源光庵」の見どころは、仏教の概念が込められた「迷いの窓」と「悟りの窓」。四角い形の「迷いの窓」は人間の生涯を象徴しており、生を受けた時から逃れることのできない様々な苦悩「釈迦の四苦」を表しているといわれている。それに対し、大宇宙を表現した丸い形の「悟りの窓」は「禅と円通」の心を表しているそうだ。
まず「迷いの窓」を見て自問自答したら、「悟りの窓」の前に座って自分自身を見つめ直すことで本来の自分に変わることができるといわれている。窓から見える風景は季節によって異なり、春夏は緑、秋は紅葉、冬は雪と変わっていくのが魅力だ。
俺はまずは「迷いの窓」に向かい自問自答した。
キョートにきてからの自分。ロビンとアカネを見てもやもやした気持ちで戦いに及んだ自分。そして負けた自分・・
「なぁアカネ。」
「何?」
「俺はヤキモチをやいていたんだ。」
「はぁ?何言ってるの?」
「アカネとロビンの事だ。親し気にしている二人を見て、心のもやもやが晴れなかった。」
「馬鹿ね・・」
「アカネの肩に手を触れたり、腰に手を回したりしているのを偶然見た。それで一層自分を失ってしまったんだ。」
「・・ホント変なところだけ見てたのね。あれは肩にゴミがついてたのを払ってくれたのと、慣れない道で転びそうになってたのを支えてくれたのよ。」
「そうだったのか?」
「そうよ。」
アイズもいるし、俺達はそのまま無言で窓を見つめていた。
俺は次に「悟りの窓」に向かってみた。
丸い窓、自分自身を見つめ直すことで本来の自分に変わることができる・・俺はホーンテッドを握りしめた。
(ホーンテッド・・今一度お前の力を貸してくれ・・)
少しホーンテッドが光った気がした。
「アイズ、少しアカネと二人にしてくれるか?」
「うーん、心配だけど。わかった。僕あっちを見てくる。」
アイズが去った後、俺はアカネに言った。
「アカネ、俺はアカネが大事だ。」
「!」
「今回の事でよくわかった。俺はアカネをとても大切に思っている。」
「ホント馬鹿ね・・いまさらって感じよ。私のユージへの想いは伝えたでしょう?」
「それが信じられなくなっていたんだ。今回は戦いの相性もさることながら俺の心の迷いも出ていたように思う。」
「心配しなくても私は誰のもとにもいかないわ。」
「それを聞いて安心した。次は迷いなく戦いに臨めそうだ。」
「男の子ってそんなことで迷いが出るの?」
「本気で大切な人ができるとそうなるんだと思う。俺は中身はいい年したおっさんだけど・・年齢は関係ないってわかったよ。」
「それだけ私を想ってくれてるってことね。なんだか嬉しいわ。」
アカネは晴れやかな顔で笑った。
しばらくしてアイズが戻ってきた。
「話は終わった?」
「ああ、もう言いたいことは伝えた。迷いがなくなったよ。」
「そう。ならいい。」
俺達は次に清水寺を模した場所に向かった。
ここもオリジナルの清水寺と同じく高い舞台が作られていた。
「俺の国では何かを決心してやるときに、『清水の舞台から飛び降りる気持ちで』と言うんだ。」
「へぇ・・?なるほどね・・こんな高い場所から飛び降りるほど必死な気持ちってわけね。」
「僕なら飛べるけど。」
俺達はそんなことを話しあっていると向こうからロビンがやってくるのが見えた。
「やぁアカネ君。それにユージ君、アイズ君だったかな?」
「初めまして、かな。ユージだ。」
「どうしたの?ロビン君。」
「アイズ君、ちょっと外してくれるかな?」
「ええ~また?」
「アイズ、俺からも頼む。」
「仕方ない。じゃあ僕はこの先に行ってる。」
アイズが先に歩いていく。
「この美しい景観で君らに伝えておきたかったんだ。僕はアカネ君を愛している。」
「!」
アカネが目を見開いて驚いている。まさかこんな場所で告白されるとは思っていなかったのだろう。
しかし、俺は比較的冷静だった。
「そして簡単に諦めるつもりもない。今日はそれを君らに言っておきたかった。」
「ロビン君、私は好きな人がいるの。」
「わかってる。そこのユージ君だろう?でも僕は諦めない。振り向いてもらうまで何度でもアタックするつもりだ。」
それだけ言うとロビンは去っていった。
「アカネ・・どうするんだ?」
「どうもこうもないわよ。どうしようもないでしょう?」
「ああ、そうだな。アカネははっきり断ってくれたのに、諦めない、と言ったのは奴だ。」
「はぁ・・なんでこんなことになっちゃったのかしら。」
「モテる女の宿命だな。」
「もうユージ!からかってるでしょう?」
「いや、からかっていない。よくよく考えたらアカネほどの女性だ。アカネを本気で想う奴の一人や二人いても不思議じゃないとようやくわかったのさ。」
「そうかしら・・」
アカネは今一つ自分の魅力がわかってない部分があるな。
そして・・俺は次の戦いへと頭を切り替えていた。
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女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
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なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
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31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
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===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
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フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
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