騎士になりたい貧乏庶民の少年が、付呪された鎧で成り上がる話

杏たくのしん

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一章

(2)付呪の身体への影響

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 アネモネの実験室にはレクセルの他に4人の人が居た。
 赤髪眼鏡の女の子。歳はレクセルと同じくらい。マッチョな初老の男。銀髪の少女。黒髪でレクセルより少し年上の男。

 彼らは喋っている者も黙って居るものも居た。 
 各々机の周りの椅子に座っていたが、
レクセルは彼らに挨拶するでもなく、かといってちらちらと彼らの様子を見ているあたり、どう接すればいいか分からないでいた。

 実験室は色とりどりの液体が入ったビーカーやフラスコが机の上に並んでおり、床には本がいくつも無造作に散らばっていた。

「やぁやぁ諸君よく集まってくれた」 
部屋の隅の扉からアネモネがセピア色の髪をなびかせて入ってきた。

「新入りの自己紹介が最初だろうね。ホラ、挨拶したまえ」

 アネモネに目配せされ、レクセルはおずおずと挨拶した。

「レクセル・バッツと言います。今後ともよろしくお願いします。」

「ふーん。パッと見普通の子ね。まぁ用ナシだったらすぐ突っ返されるだけだからそんなに緊張しないでいいと思うよ」

 赤髪眼鏡の女の子が言った。
「私はアリス。アリス・エインヘルヤルよ。よろしく」
 アリスと名乗った少女は自分の髪の毛をくるくるしながら答えた。

「わしはゴードンだ。この実験ネズミどもの中じゃ一番の古株になるな。何か困ったことがあったら何でも相談してくれい!」
 筋肉ムキムキの初老であるゴードンが言った。

「俺はジャック。ジャック・スレイヤーだ。」
 ジャックと名乗る青年は黒髪であった。青年はニカっと笑いかけてきた。 
「短い間だが俺はお前の兄貴分になるってことだな」


「最後に私ですね。私はロゼッタといいます。これからよろしくお願いします」
銀髪の少女は礼儀正しく頭を下げた。

「さて、全員の紹介が終わったところで早速本題に入ろうかね」
アネモネが口を開いた。

「知ってると思うが新入りも居るので改めて説明する。『付呪による使用者へ影響』がこのアネモネ研究所での直近のテーマだ。」

「このレクセルの持つ木刀に対して、『上質の剣』なみの強度・切れ味にするという付呪を行ったところ、それを持ったレクセルは折れた肋骨が再生した」

「治癒魔法は一切掛けてないのだがね」

「つまりこの付呪によってレクセル君の体は強化されたことになる。そこでその強化の度合いを詳しく調べたいんだ」
「強化具合を調べる方法とは?」
レクセルが質問をした。
「それはだねぇ……」
アネモネはニヤリとした。
「実際に戦ってもらってもいいんだけど、それじゃ大味な結果しか得られないからねぇ」
「精密試験をやるよ。衝突試験、圧縮試験。いろいろあるけど、全部やろうか」

「ちょっと待ってくれ!俺の体をどうするつもりだ!?」
突然の提案にレクセルは焦り出した。
「心配しなくてもいい。血が出るようならすぐに止めるよ。ただ、少し痛いかもしれないけどね」
「そういう問題じゃない!!」
「安心しろ。私はこれでも医学免許も持っているからな。体に傷一つ残さず治してやれるぞ」
 
 アネモネが言う。

「ご愁傷さま~」
 アリスが言った。
「ここに居る奴らは皆似たような経験してるから」
 それに対しコクリコクリと頷くロゼッタ。
 アネモネはレクセルを金属試験室に引っ張っていった。
「頑張れよ。すぐ終わるからよ」
 ジャックが手をひらひらさせてそれを見送った。

 レクセルは今、自分の体の強化具合を確かめるための試験を受けている。状況を昨日と同じくするため木刀に付呪を施し、それを握った状態で行われた。
 先ほどから何度か衝撃を受け続けているが、痛みは全く無い。
 しかし、自分がどこまで耐えられるか不安になった。
「よし、もういいだろう。次が最後だよ」
 凄まじい衝撃とともに金属片が背中に叩きつけられた。
 流石に少し痛い。
 背中には軽く痣ができていた。
「はい。おしまい」
 レクセルは金属試験室からでてきた。


「すごい結果だよ!もはや君の身体は金属でできていると言っても過言では無いほど強化されていた!木刀でこれなら全身甲冑に付呪したらどうなってしまうのだろうねぇ!ワクワクがとまらないよ!」

「素晴らしい結果がとれた。次はロゼッタ君の番だね」

「はい」

 ロゼッタは付呪された木刀を持った。
 そしてアネモネはロゼッタの腕を軽くつねった。
「い、痛い、です」
「やはり、そうか」
 アネモネは神妙な顔つきで言った。

「何がわかったんです?」
 レクセルは聞いた。
「人体の付呪はレクセル君にしか効果がない」

「これを人体の付呪と言っていいかは分からない。付呪したのはあくまでも木刀だからね」

「しかしレクセル君の身体は木刀への付呪の影響を受けた。木刀への付呪が身体へと浸透したのだ」

「結果として肉体が一時的に強化された」

「これは体質によるものだということは分かっている。ロゼッタにはなんの影響もない」

「ロゼッタ。その木刀で木の板を切ってみろ」

 ロゼッタは言われるままに片手で木の板を持ち、付呪された木刀で切った。
 力のない一振りであったが木の板は切り落とされた。

「ご覧の通り、木刀への付呪は成功している」

「強くなった武器で戦える。それができれば付呪師としては本望だ。だが、人体へ付呪することができれば?より強力な戦力を得るだろう」

「しかし人体への付呪はリスクが高い。下手すれば死に至る可能性もある。私はそれを試す気はない」

「しかし君のように付呪の影響を身体に受けやすい人もいる。ロゼッタのように全く影響を受けない人もいる」

「君のように付呪の影響を受けやすい身体を持つ者ならば、より強力な付呪ができるかもしれない」

「だから付呪の影響を受けやすい人4人を集めて私の研究に付き合ってもらっている。あっ、ロゼッタちゃんは一般人サンプルとして必要なの」
「この研究が完成すれば究極の戦士ができるかもしれない」

「究極の戦士……」

それはレクセルの目指す騎士の像から離れたものだろうか。

「まぁ今日はこんなところかな」

「レクセル君。帰っていいよ。2回の私の部屋に寄っていきな。妹さんが待ってるから」
「ありがとうございます」
レクセルは礼を言い、部屋を出た。

「うーん、なんか変だねぇ」
アネモネは腕を組みながら呟いた。
「どうしました?」
ロゼッタが聞く。

「いや、なんというか、彼の身体は付呪の影響を受け入れすぎている。まるで早く身体そのものに付呪してくれと言わんばかりだった」

 レクセルは2階にあるアネモネの私室に行った。
 中にはベルディが目を輝かせてレクセルを迎えてくれた。
傍らには銀髪のメイドが佇んでいた。
「お兄ちゃん!もうお仕事終わったの!?」
「あぁ、いい子にしてたか」
「いい子にしてたよ。このメイドのお姉さんがずっと遊んでくれてたの」
銀髪のメイドは
「かわいい妹さんですね」とほほ笑んだ。
このメイドは名を『メリッサ』と言い、アネモネの専属メイドらしい。年齢は20代後半といったところで落ち着いた雰囲気の女性だった。
「あの、メリッサさん。妹の相手をしていただいていたようですみません」
「いえ、大丈夫ですよ。私が勝手にやっていたことですから」

「えっと、じゃあそろそろ俺は帰りますね」

「夕ご飯食べていったらどうでしょう」
「い、いえ!腐りそうな食材が家にあるんで!」
「そうですか。ならばせめてお送りします」
「い、いや、大丈夫です」

 レクセルはベルディを連れてそそくさと家に帰った。
「見送ってもらえばよかったのに」
 ベルディは言った。
「お兄ちゃんあのメイドさん好きなんでしょ」
「べ、別に好きじゃないぞ」
「嘘だ~。だっていつもより帰るの早いじゃん!」
「そんなことないだろ」
「でも、あの人美人さんだよねぇ」

そんなことをいいながら帰路を急いだ。
食事を済ませ、風呂の中でレクセルは天井を見て呟いた。

――最強の戦士、か

――俺がなりたいのは最高の騎士なんだよ
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