騎士になりたい貧乏庶民の少年が、付呪された鎧で成り上がる話

杏たくのしん

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一章

(4)まなごの行方

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 子供のワイバーン"ティックス"は動物保護施設に預けられた。
 レクセルとアリスは毎日、動物保護施設に様子を見に来ていた。
 職員さんの許可を得て檻の中で餌の生肉を直接手から口に渡すということもさせてもらえた。

「この子、どんどん大きくなってる。その内飛べるようになるわね。きっと」
「あぁ、もうすぐだ」

 ティックスを見守るアリスの目は優しげだった。
 ティックスも二人から餌をもらい、嬉しそうにピィピィ鳴いていた。

 もうこうして1ヶ月になる。レクセルはいつまでもこうしていられればいいのに、と心のどこかで思っていた。



 そんなある日のことであるティックスの様子を二人で見ていた時のこと。

「ごめんください」

 一人の紫色の甲冑を着た男が動物保護施設を尋ねに来た。

 男は、ワイバーンの子供が居るのはここか? と訪ねてきた。
 職員はティックスの元に案内した。

 レクセルとアリスはティックスに餌やりをしているところだった。

「おぉ、あなた達がワイバーンを討伐し、竜種の子供を連れ帰ったという冒険者ですな!」

「えぇっと、貴方は」

「申し遅れました。私はジェラルドと申すもの。郊外の貴族のご子息であるリシャール・ヴァリエ様に仕える騎士です」

「騎士……!」

 レクセルは自分の目指す騎士が目の前に現れたことに興奮を隠せないでいた。

「そんな騎士様がこの施設に何の用ですか?」

 アリスが聞いた。

「我が領主リシャール・ヴァリエ様がワイバーンの子供を欲しておられるのです」

「それはそれは。でも何故です?」

 アリスは畏まって言った。


「主のコレクションに加えたいのだとか」

 そこでアリスは疑念のこもった目でジェラルドを見た。

「この子はまだ子供です。どんな飼育環境で育てるかも分からないのに簡単に渡すわけには行きません」

「勿論ただとは言いません。ワイバーンの子供と引き換えに10ゴールド支払います。」

「まぁお金はこのワイバーンの所有権を持つ施設に払うことになりますがね」

「お金の問題ではありません!」

 アリスは顔を赤くして怒った。


「とにかく、リシャールさん?が直接来てくださいよ!どんな人かも分からないのにティックスは渡せません!」

「お嬢さん、それを決めるのは職員、ひいてはこの施設の所長になりますな」

「それに、主は、言い方が悪くて申し訳ないがこんなところへは来ない」

 ジェラルドは悪びれることもなく言った。

「こんなところですって!」


「まぁまぁ、アリスさん落ち着いて」
 奥の戸口から声がした。

 この動物保護施設の所長である。髭を蓄えた恰幅のいいおじいさんで、動物好きなのが人相から伝わってくる。
 レクセルとアリスにティックスの餌やりを許可していたのもこの所長だった。

「お話は聞いていました。確かにこのワイバーンを保護しているのはこの施設になりますが、それもこれも命からがら連れてきたアリスさんとレクセル君のおかげ。私一人の一存では決められませんなぁ」

「レクセル君はどう思いますかな?」

 騎士に見入っていたレクセルは急に話を振られて動転したが、落ち着きを取り戻すとこう言った。

「やっぱり飼いたいって人が直接見に来るのが正しい道じゃないかと思う」

 所長はそれに頷いてこう言った。

「子供達もそういっています。今日のところはお引き取りを」

 ジェラルドはたじろぎながらもこう言った。

「いいでしょう。今日は帰ります。二日後、できれば主を連れて参ります。しかし、所長よ。分かっておりますな?
ヴァリエ家の影響力を……!」

 ジェラルドは神妙な面持ちで帰っていった。その時、かすかに怒気を発していたようにレクセルは感じた。



 その後、動物保護施設の待合室にて。

 所長はオロオロしていた。

「強がってみたものの、ヴァリエ家の影響力は凄まじい……。二日後、ご子息本人が来て言い寄られたら断れないよ」

 所長は本音を言った。

「あの場だけでも強気に出てくれてありがとう」

 アリスは言った。

「でも、どうすればいいんだろう……」

「実際にリシャールって人がどんな人なのか見てみるしかないと思う」

 レクセルが言った。

「しかしだね、大金を持ってリシャール様がここに来られたら断るのは難しいと思うよ」

「だから、俺、見てきます。リシャールって人がどんな人かを!」

 レクセルはそう言うとアリスは不思議そうな顔をした。

「どうやって?」

「直接、リシャールさんの家に行って訪ねてくるよ」

「彼は応対してくれるだろうか」

 所長は言った。

「顔だけでも見てきますよ」

「待って。ならあたしも行く」

 アリスは意を決したようだ。

「ティックスの里親がどんな人かこの目で確かめなくちゃ」


 こうしてレクセルとアリスはリシャールという人物を見に行くことになった。
 その日の夕方、二人は馬を借りて郊外に向かった。
 そして郊外にある大きな屋敷にたどり着いた。
 門番らしき男が二人居たが、アリスが事情を話すとあっさりと通してくれた。

「一般人でも敷地の中までは入れる。リシャール様が会ってくれるかどうかは別だがな」

 レクセルは少し緊張していたが、ここまで来た以上引き返すつもりはなかった。

「大丈夫。きっと話を聞いてくれるわ」
 アリスは言った。

 二人が屋敷の玄関に着くと執事が出迎えてくれた。

「業者の方ですな。リシャール様はあいにく来賓対応中で応対できませんが、私でよければなんなりと」

 白髪の執事は丁寧にそう言った。

「業者?(あーまぁそういうことにしとくか)今度納品するワイバーンの雛なんですけど、納品後の保証の関係で下見に参りました」

 レクセルは口から出まかせを言った。
 アリスもドキリとしている。

 すると執事は

「そういうことでしたか。それではどうぞこちらへ」

 執事に案内されるままについていく二人。


「こちらがリシャール様のコレクションルームになります」

 執事はそう言って屋敷の一室に案内した。

 その中をレクセルとアリスが見たとき二人は衝撃を受けた。

 ウサギ、鹿、蛇、狼、あらゆる種類の動物の、剥製。

 そして部屋の隅には小さい檻が積み重ねられ、中には動物たちが所せましと押し込められていた。

「いやあ、坊ちゃまもついに竜種の剥製が手に入ると喜んでいましてなぁ」

「本来そこのケージで大きくなってから剥製にするのですが、今度のワイバーンはもうすぐ飛べるようになるとか。
だとしたらすぐコレクション入りでしょうなぁ。坊ちゃまは一刻も早くワイバーンの剥製が欲しいと言ってましたからなぁ」

 「…………」
 レクセルは絶句していた。
 アリスは口を手で覆っていた。

 二人は動揺で動くこともできないくらいだったが、しばらくしてアリスはようやく口を開くと
「ありがとうございます。もう十分でございますわ。それでは、私達はこれで失礼します」
と言ってレクセルの手を引くと早急に立ち去った。


 屋敷の外にて。
「どうしよう。あの子が、ティックスが殺されちゃう……!」

 アリスは言った。

「なんとかならないのか!」

 レクセルは拳を壁に叩きつけた。

「わたし、最近あの子が元気に飛び立つのが楽しみで仕方なかったのに……」

 アリスの目から涙がこぼれていた。

「なんとかしよう。俺たちでティックスを逃がそう」

 レクセルは静かに、意を決したようにそう言った。


 後日、動物保護施設にて。
 
 いつものように所長からティックスの檻のカギが渡されて、餌をやる時間になった。

「ああ、私は急用を思い出した。ここを頼むよ。ティックスが逃げないように檻の戸締りには気を付けて」

 所長はそう言うと外へ出てしまった。施設の中には職員も丁度いない。

「いまだ」

 レクセルとアリスは檻の中に入るとティックスを袋の中に入れた。

 ピィピィと鳴くティックス。

「少し狭いけど我慢してね」

 二人は施設を出て人気のない郊外の森へとやってきた。

 袋の中からティックスを出してやる。

 バサバサと翼を広げるティックス。

「お前はもう飛べる。これからは一人で生きていくんだ」

 首を傾げるティックス。

「まだ上手に餌を取れないかもしれないから、時々様子を見に来るね」

 アリスはそう言うと石のついた紐をティックスの首に結んだ。


 石は青く光っており、これは「共鳴石」とよばれるものだった。

 コンパスと対になっており、コンパスが共鳴石の方を指し示すのだった。

「私たちが会いに来るまでは自分で餌をとるのよ」

 相変わらずティックスは何が起きているか分からないという顔をしていた。

「さぁ行け!飛んでいくんだ!」

 レクセルは空を指さし、手を叩いた。

 ティックスは空をじっと見つめていたが、やがて翼を羽ばたかせると宙へ飛んだ。

 初めての飛行だったので高度はそんなに高くないが、近くの木の枝にとまった。

 そして今度は大きく翼を羽ばたかせて、大空へと飛んでいった。

 レクセルとアリスはその様子を見守っていた。

「これで良かったんだ」
とレクセルは呟いた。


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